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五重塔 の商品レビュー

3.9

71件のお客様レビュー

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    18

  2. 4つ

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  3. 3つ

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2012/12/11

わたしは、こういう双方丸く収める話が好きだ。 義理と人情に厚い江戸っ子気質って、めんどくさいなぁ……。 自分の中で筋を通すには、人の目に自分がどう映るかってとこが重要なのね。 なりふり構わず意志を貫き通すのは、十兵衛みたいなわからずや、ってこと。 けど、自分は恵まれていない、不運...

わたしは、こういう双方丸く収める話が好きだ。 義理と人情に厚い江戸っ子気質って、めんどくさいなぁ……。 自分の中で筋を通すには、人の目に自分がどう映るかってとこが重要なのね。 なりふり構わず意志を貫き通すのは、十兵衛みたいなわからずや、ってこと。 けど、自分は恵まれていない、不運だ不幸だつまらん人生だ、と腐って諦めるくらいなら、命を賭けてもこれだけはやり遂げて見せる、って自信や信念があるなら行動に移しなさいって教えられたような。 歴史的仮名遣いに抵抗がある人でも、すらっと読めてしまう傑作。

Posted byブクログ

2012/10/17

著名作家による著名なタイトルに、なんだか読んだ気になっていましたが、初めての物語でした。 技術は持っていながらも、融通のきかない性格が災いして、大口の仕事に巡り合えず、不遇をかこつ大工十兵衛。 ところが、谷中感応寺の五重塔建築の話を聞きつけるやいなや、世話になっている親方を出し抜...

著名作家による著名なタイトルに、なんだか読んだ気になっていましたが、初めての物語でした。 技術は持っていながらも、融通のきかない性格が災いして、大口の仕事に巡り合えず、不遇をかこつ大工十兵衛。 ところが、谷中感応寺の五重塔建築の話を聞きつけるやいなや、世話になっている親方を出し抜いてまでもその仕事をもらおうと寺に嘆願するという、周りが驚くほどの変わりぶりを見せます。 仕事をする上で江戸っ子が何よりも重んじる義理人情、そして先達者への敬意。 そういったものをすべて踏みにじって、五重塔建築へとその身を捧げる彼の様子は、失礼や非道といった感想を越える、すさまじい妄執を感じさせます。 なにかに憑かれた人の圧倒的不可思議な力と、世の摂理をなぎ倒していく底知れぬ迫力。 これは、芸術や自分の生きる道に向かい続ける人々の胸に響く話でしょう。 主人公の度を過ぎた情熱を支えるのが、鳶の親方。 隠れた主人公と言ってもよい、できた人物です。 彼が自制のもとに十兵衛に職を譲り、手助け用に自分の子分や塔の下絵を提供するなどの美しい破格の譲歩を見せますが、そういった親方の好意をにべもなく断り続ける十兵衛。 武骨さもここまで来ると癇に障りますが、彼をそうさせるのは、悪しき性格というわけではなく、ただ単に彼を捉えて離さない五重塔建築に向ける一念だということが、伝わってきます。 古典風文章の上に、流れるような読みやすさではなく、息を詰めるような切迫感のある書き方のため、慣れていない身にはかなり読みづらさを感じます。 ふりがなの多さに驚きました。 いよいよ塔も完成を迎えるという最終段階で、全てをなぎ倒すような大嵐が町を襲います。 さらに、十兵衛の態度に憤怒した親方の子分に襲われ、彼は片耳を失います。 現実離れした完璧な芸術は、なにかの犠牲なくしては成り立たないということでしょうか。 人をある意味狂わせ、その結果血を流させるようなどろどろとした背景を背負いながら、凛と美しく完成した五重塔。 まるで呪われているかのように、芸術への憧れを抱きながら、地を這ってもがき続ける人々の幸せと苦しみが見事に表された作品となっています。 美と芸術に焦がれるあまりに自己破滅へと向かう構図に、『春琴抄』や『金閣寺』を連想しました。 歴史に残る芸術品は、確かに冷静なデッサンだけでは成り立たず、そこに狂おしい激情と捨て身の犠牲が加わらないと、命が入らないのかもしれないとも考えます。 解説者が「彼はこの仕事の後、名声を手にしてその道の大家になれたとは思えない」と書いていました。 確かに私も、そう思います。五重塔に情熱の炎を上げすぎて、燃え尽きてしまったのではないかと思いますし、鳶の大工にとって片耳を失うということは、大きなバランスを崩すことだととれます。 さらに、弟子を育てる器量はない、孤独な職人であるため、おそらく彼の名前が残るのは、この五重塔のみでしょう。 だからこそ、彼の情熱をふんだんに注がれた塔は、彼の死後も魅力を失わずに存在し続けるのだと思います。 美しさとはかなさを併せ持つ日本建築ならではの作品。 最後まで読みづらさを感じさせる文ながら、最後まで著者の筆力に圧倒され、引きずられるように一気に読み通した、牽引力のある短編です。

Posted byブクログ

2012/08/09

幸田露伴は大学に入って初めて読んだ作家で、基本的に漢文調なので最初とっつきにくかったが、慣れてくるとこのリズム感が非常に心地良い。

Posted byブクログ

2012/08/08
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

汝らが鋭き剣は飢えたり汝ら剣に食をあたへよ かっこイイな、この表現。ラストの暴風雨の描写の一部だが、擬人化しているのが生き生きしてて評判通りよい。 ただこれはどういう話なのだろう?主人公ののっそり十兵衛、腕はあるが処世術が全くない、こういうヤツが救われるべきだみたいな話か? あれだけの暴風雨でも塔が壊れずにいたことから、露伴は十兵衛に肩入れしてるんだろうけどどうにも受け入れられない。 たんに自分勝手なだけ、そりゃ名も挙がらないでしょう、自業自得の境遇じゃね?と思う。一方、川越の源太さんなんていい男じゃないか。 もしこれが十兵衛のような実直な男を賞賛する話だとしたら、建立にあたってのバックグラウンドを見落としてると思う。 とにもかくにも、源太さんが一番ステキ。

Posted byブクログ

2012/07/18

安藤忠雄 仕事をつくる からリファレンス。 のっそりなんて、呑臭いの嫌いだよ。そっからはじまる絶対コモディティしない侠の仕事。幸田露伴、否、蝸牛露伴先生著。 ”気持の好さそうな顔をして欣然と人を待つ男一人。唐桟揃いの淡泊住吉張りの銀煙管おとなしきは、職人らしい侠気の風の言語挙...

安藤忠雄 仕事をつくる からリファレンス。 のっそりなんて、呑臭いの嫌いだよ。そっからはじまる絶対コモディティしない侠の仕事。幸田露伴、否、蝸牛露伴先生著。 ”気持の好さそうな顔をして欣然と人を待つ男一人。唐桟揃いの淡泊住吉張りの銀煙管おとなしきは、職人らしい侠気の風の言語挙動に見えながらすこしも下卑ぬ上品質、いづれ親方親方と多くのものに立てられる棟梁株とは、予てから知り居る馴染みのお伝といふ女が、さぞお待ち遠でござりませう”か。 スタンダップ・ワーキンクラス・ヒーロ!そんな一冊。

Posted byブクログ

2012/06/15

いやあ、面白い。 キャラ立ちまくり。 会話の一つ一つに血が通っているようで、目が離せない。 解説にもあったが、超弩級の主人公気質な源太が脇役なのが興味深い。 全然意味が違うのだがのぼうの城を思い出した。 最後の十兵衛の落ち着き方のカッコよさといったら、ない。

Posted byブクログ

2012/01/18

旧仮名づかいの文章に接し、2ページ目でリタイアーしようかと思いもした。浪曲を謡うように読んでみるとずんずん読めて一気に読み終えた。 そして清々しい気分になった。これは任侠物である。団塊の世代の我々も十兵衛の様な気持ちで仕事をしてきたはずだ。 「私たちまるで母子家庭」と妻に言われな...

旧仮名づかいの文章に接し、2ページ目でリタイアーしようかと思いもした。浪曲を謡うように読んでみるとずんずん読めて一気に読み終えた。 そして清々しい気分になった。これは任侠物である。団塊の世代の我々も十兵衛の様な気持ちで仕事をしてきたはずだ。 「私たちまるで母子家庭」と妻に言われながら子供の駆けっこの一等賞を願いつつ仕事へ出かけたものだ。この物語、主たる登場人物もさることながら 脇で出てくる女房ども、婆さんが素晴らしい。こういう嫁が欲しかったも後の祭り。

Posted byブクログ

2011/12/07

均整の取れた筋書きに最高級に美しい文章。露伴初めて読んだけどかなりツボにはまる作家だな・・・。職人の霊感・魔性が一種のテーマなので仕事のモチベーションも上がるような気が。終盤の嵐の描写が特に良いね。

Posted byブクログ

2011/09/03

美しい日本語。 金色夜叉などと違い、読み上げてリズムを味わう物でなく、じっくり読んで言葉の深みを味わう物。 塔だけでなく、言葉も何層にもなってる´`* のっそり十兵衛だけではなく、源太と上人とそれぞれの人徳と信念があったからこそ、この物語は人々の心に届く名作になったのだと思う。

Posted byブクログ

2011/06/25

文体がすごく気に入った。 のっそりと源太親方の、「どうしても自分が塔を建てたい」というところから、上人様の言葉を受けて心変わりするまでの描写が一生忘れられないくらい巧みだと思う。

Posted byブクログ