五重塔 の商品レビュー
出色はリズム感のある美しい文体である。文語文特有の読みにくさは感じられず、人物や情景が生き生きと眼前に現れるようだった。 巧みな心理描写で登場人物の性格が鮮やかに浮かび上がり、それぞれに感情移入しながら読んだ。 源太と十兵衛のすれ違いの要因は、五重塔を工業生産物ととらえるか芸術...
出色はリズム感のある美しい文体である。文語文特有の読みにくさは感じられず、人物や情景が生き生きと眼前に現れるようだった。 巧みな心理描写で登場人物の性格が鮮やかに浮かび上がり、それぞれに感情移入しながら読んだ。 源太と十兵衛のすれ違いの要因は、五重塔を工業生産物ととらえるか芸術作品ととらえるかの違いではないだろうか。 工業生産物は分業が可能だが、芸術作品はそうはいかない。「五重塔を汝(きさま)作れ今直つくれと怖しい人に吩咐(いひつ)けられ」たと言うがごとく、天啓のような強いインスピレーションに突き動かされ創作する。その違いに思い至らない源太は、自分の絵図の「仕様を一所(ひととこ)二所(ふたとこ)は用ひ」よと言うのだ。 五重塔に一身を捧げる十兵衛の姿勢は、彼の下で働く職人たちをも感化する。独善と紙一重ではあっても、芸に命を捧げる真摯さは尊いのだ。 「源太が烈しい意趣返報は、為る時為さで置くべき歟」という源太の激昂を体現したような暴風雨の場面は、職人二人の凄まじい気迫がぶつかり合う名場面である。
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江戸を舞台とした、五重塔普請をめぐる二人の職人の葛藤を描いた小説。 主人公の十兵衛の職人気質には鬼気迫るものがある。職人としての生き様、体の張り方など、ものづくりの鑑だ。それに伴って、この小説はおそらく背後に、職人と企業との間でコピーライトを誰にするかという対立が描かれていると思...
江戸を舞台とした、五重塔普請をめぐる二人の職人の葛藤を描いた小説。 主人公の十兵衛の職人気質には鬼気迫るものがある。職人としての生き様、体の張り方など、ものづくりの鑑だ。それに伴って、この小説はおそらく背後に、職人と企業との間でコピーライトを誰にするかという対立が描かれていると思った。 それは塔を建てたとき、建てた銘版に「誰」の名前を刻むかと言う事だ。最終的な意思決定をした者/企業の名前が未来永劫歴史として銘版に記録されることの名誉を、誰とするかの問題である。そして、小説ではこのコピーライトを誰にするかが、紆余曲折はあるがはっきりと結末づけられているのが印象的だった。 十兵衛の職人としての「個」と、源太の部下を束ねる棟梁としての「企業」が、二人の背負うものの違いとして現れている。そしてこれは、時代が江戸から明治になるにつれ、ますます個を薄めた全体主義、大量生産を主体とする政策に抵抗した背景も、この小説に含まれていると感じた。
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演劇倶楽部『座』の講演で見た「五重塔」が読みたくなって、本屋にいっても置いていなかったのですが、ジュンク堂にあったので購入しました。ルビがあるので何とか読める感じです。
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最初この文体(文語?)に字を追いかけるだけで場面がまったく 浮ばなかった! ネットであらすじを先に頭に入れてから読み直すとなんとなく 場面が浮びだし途中からは楽しく読めた。 言い回しや行間に作者の伝えたい事等の読書の楽しみは 堪能出来てはないが、人間ドラマの部分は充分理解でき...
最初この文体(文語?)に字を追いかけるだけで場面がまったく 浮ばなかった! ネットであらすじを先に頭に入れてから読み直すとなんとなく 場面が浮びだし途中からは楽しく読めた。 言い回しや行間に作者の伝えたい事等の読書の楽しみは 堪能出来てはないが、人間ドラマの部分は充分理解できた 気がする。 登場人物の行動は分るのだが、なぜそのような行動をしたかが きっと表現されてるのだろうけど、そういう部分がこの文章からは 私には読み取れないので勿体無く思う。 読むという行為と活字をイメージにする行為は似ているようだが 異なる行為というのを改めて考えさせられた。 本の内容は主人公が不器用だけど、その不器用さゆえに 認められて五重塔を建てていく話である。 そこに色々な人間模様が絡みあい人生と向き合っていく それぞれの夫婦の形や憎悪や奥深さが展開していく。
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圧倒的な文体。 露伴の中では、もっとも読みやすい上に、心理描写や情景描写の美しさが出ている作品。 名著といえば間違いなくこれを挙げる。
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最初は読みにくかったが、読み進むにつれぐいぐい世界に引き込まれた。最後の展開と描写は圧巻でした。他の露伴作品も読みたくなりました。
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岩波文庫の人気作の中から選ぶ。 五重塔を建造する過程が主なテーマかと思ったが、塔を誰が建てるのかといった人と人との関係、建てる想いが強い職人気質を描いている。 封建制とエゴイズムの対比という解説があったが、嵐が起きても倒れない傑作を 造れるほどの技能ならエゴでもいいのではな...
岩波文庫の人気作の中から選ぶ。 五重塔を建造する過程が主なテーマかと思ったが、塔を誰が建てるのかといった人と人との関係、建てる想いが強い職人気質を描いている。 封建制とエゴイズムの対比という解説があったが、嵐が起きても倒れない傑作を 造れるほどの技能ならエゴでもいいのではないかと思う。 実際、主人公ののっそり(十兵衛)は、義理、家庭、命よりも五重塔を建てることに執着している。 建築でなくても仕事や一つのことにこれほど執念を燃やしている人は今でも少ないだろう。 怪我をした翌日に、のっそりが現場に出ると職人に気合が入り、仕事が進んだというくだりは想像に難くない。
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内容は100ページ未満。「のっそり」と小ばかにされる大工十兵衛と江戸っ子棟梁源太との意地と意地のぶつかり合い。明治24年から連載された新聞小説で、大衆に向けて描かれた作品。当時の“プロジェクトX””プロフェッショナル”的な存在?岩波文庫は注解が無いので古い言葉に詰まったりしてちょ...
内容は100ページ未満。「のっそり」と小ばかにされる大工十兵衛と江戸っ子棟梁源太との意地と意地のぶつかり合い。明治24年から連載された新聞小説で、大衆に向けて描かれた作品。当時の“プロジェクトX””プロフェッショナル”的な存在?岩波文庫は注解が無いので古い言葉に詰まったりしてちょっと読みにくいかも。とはいえもとは大衆小説、中身は意地と義理と人情。おもしろおかしく読めます。終盤の描写は圧巻!【追記】荒俣宏の『帝都物語』読んだので、露伴先生の他作品もっと読みたくなりました。
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北海道から単身帰京し、店番を務めていたころの、心中に鬱々たるものを抱えながら成熟の機会を遅らせている未成年から、一気に作家としての成功を約束されることになった露伴自身のイニシエーションを劇化した物語。<生雲塔>と命名されることになる五十塔は、1890年に建てられた十二階建ての凌雲...
北海道から単身帰京し、店番を務めていたころの、心中に鬱々たるものを抱えながら成熟の機会を遅らせている未成年から、一気に作家としての成功を約束されることになった露伴自身のイニシエーションを劇化した物語。<生雲塔>と命名されることになる五十塔は、1890年に建てられた十二階建ての凌雲閣が意識されている。できあがった五重塔を暴風雨が襲うところの描写がすぐれているという評判がある。劇団前進座が、この作品を劇化し、2008年の段階でも、レパートリーにしている。
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古文に近いような文章で最初は読みづらかったけど、読んでいくうちにどんどん世界に引き込まれていった。 読んでいるとすごくリズムの良い文章で、どんどん読めてしまう。 途中正直意味のつかめない部分もあったが、それすらあまり気にならない。 のっそりが大工として、生涯一度でいいから後の世に...
古文に近いような文章で最初は読みづらかったけど、読んでいくうちにどんどん世界に引き込まれていった。 読んでいるとすごくリズムの良い文章で、どんどん読めてしまう。 途中正直意味のつかめない部分もあったが、それすらあまり気にならない。 のっそりが大工として、生涯一度でいいから後の世にまで残るような仕事をしたい、あの五重塔を建てたいと思う気持ちは、共感出来る部分もありすごく伝わるものがあった。 私も、まだ卵にもならない分際ではあるけれどものづくりに関わるものとして、その思いはやはり持っている。 のっそりのように腕があるというわけでもないけど、いつかは一つでいいから、これに人生を賭けるというようなものを創ってみたいと思っている。 それがどのようなものになるのかは全然わからないが。 そんなことを考えさせられるような内容と、とにかく文章がいい!
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