五重塔 の商品レビュー
日本文学史に燦然と輝く名作。 反面、文語文が難しすぎるとの前評判からやや身構えてましたが、鴎外の「舞姫」や「うたかたの記」などで慣れていたためかさほど難しさは感じず。 ただただ露伴の凄み圧倒されるばかりでした。
Posted by
何度読んでも完璧な幸田露伴の五重塔書き出し。日本語の結晶。 “木理美しき槻胴、縁にはわざと赤樫を用いたる岩畳作りの長火鉢に対いて話し敵もなくただ一人、少しは淋しそうに坐り居る三十前後の女、男のように立派な眉をいつ掃いしか剃ったる痕の青々と、見る眼も覚むべき雨後の山の色をとどめて...
何度読んでも完璧な幸田露伴の五重塔書き出し。日本語の結晶。 “木理美しき槻胴、縁にはわざと赤樫を用いたる岩畳作りの長火鉢に対いて話し敵もなくただ一人、少しは淋しそうに坐り居る三十前後の女、男のように立派な眉をいつ掃いしか剃ったる痕の青々と、見る眼も覚むべき雨後の山の色をとどめて翠の匂いひとしお床しく、鼻筋つんと通り眼尻キリリと上り、洗い髪をぐるぐると酷く丸めて引裂紙をあしらいに一本簪でぐいと留めを刺した色気なしの様はつくれど、憎いほど烏黒にて艶ある髪の毛の一ト綜二綜後れ乱れて、浅黒いながら渋気の抜けたる顔にかかれる趣きは、年増嫌いでも褒めずにはおかれまじき風体、わがものならば着せてやりたい好みのあるにと好色漢が随分頼まれもせぬ詮議を蔭ではすべきに、さりとは外見を捨てて堅義を自慢にした身の装り方、柄の選択こそ野暮ならね高が二子の綿入れに繻子襟かけたを着てどこに紅くさいところもなく、引っ掛けたねんねこばかりは往時何なりしやら疎い縞の糸織なれど、これとて幾たびか水を潜って来た奴なるべし。”
Posted by
読んでシマッタと思ったのは、これは文語文? 読みにくい。というより、ワカラン。 出だしはこんな文章です。 「木理美しき槻胴、縁にはわざと赤樫を用いたる岩畳作りの長火鉢に対いて話し敵もなくただ一人、少しは淋しそうに坐り居る三十前後の女、男のように立派な眉をいつ掃いしか剃ったる痕...
読んでシマッタと思ったのは、これは文語文? 読みにくい。というより、ワカラン。 出だしはこんな文章です。 「木理美しき槻胴、縁にはわざと赤樫を用いたる岩畳作りの長火鉢に対いて話し敵もなくただ一人、少しは淋しそうに坐り居る三十前後の女、男のように立派な眉をいつ掃いしか剃ったる痕の青々と、見る眼も覚むべき雨後の山の色をとどめて翠の匂いひとしお床しく……引っ掛けたねんねこばかりは往時何なりしやら疎い縞の糸織なれど、これとて幾たびか水を潜って来た奴なるべし。」(p3) ふりがなを省いたので、さらに分かりくいですが、ふりがながあっても一度読んだだけではなんのことかワカラン。 繰り返し読むと、どうやら女性の描写であるらしい。 先が思いやられるなあ。 でもまあ100ページ足らずだし、英語で読むわけでもないんだし、なんとか意味は通じるからと思って少しずつ先に進むと、あらら不思議、そのうち慣れて読みやすくなってきた。 話の展開もかなり面白い。 作者25-26歳の頃の作品ということで、露伴はデビュー当時から天才といわれたらしいけど、それはそうでしょうねえ。 坪内逍遙が「文章として絶観なり」と讃えた其三十二の嵐の夜の描写は、それはもう、なんなんだこれはというぐらいに凄い。 また結構笑えるところもあって、なかなか楽しい。 これは新聞小説ということだけど、毎日この濃度というのは、読む方も書く方も凄い。 明治24年(1891年)の作品だから、テレビもラジオもなく、活字だけが娯楽であり情報伝達の手段だったろうから、ある意味当然なんでしょう。何度も何度も読み返され、それに耐えられる文章でなければならなかったはずだ。 いまは新聞小説を読む人なんて少ないだろう。そのうち新聞もなくなるのかもしれない。少なくとも私は家では読まなくなった。職場では情報収集用に読むけど。 ということで、文学史に必ず出てくる有名な作品「五重塔」を読むことができて、よかったと思いました。
Posted by
寡黙で芸術家肌の十兵衛と、義理堅く面倒見がいい源太、2人の大工の五重塔の建立をめぐる物語です。 谷中の寺にて五重塔が建立されることが予定されていた。 世間に鈍と揶揄されるが、丁寧な仕事と高い技術力を持つ大工の十兵衛は、その仕事をやり遂げたいという強い思いに苦しめられることになる...
寡黙で芸術家肌の十兵衛と、義理堅く面倒見がいい源太、2人の大工の五重塔の建立をめぐる物語です。 谷中の寺にて五重塔が建立されることが予定されていた。 世間に鈍と揶揄されるが、丁寧な仕事と高い技術力を持つ大工の十兵衛は、その仕事をやり遂げたいという強い思いに苦しめられることになる。 本来なら、その施工は源太が請け負う予定だった、また、十兵衛は源太に日頃お世話になっていたが、十兵衛は上人に熱意を伝える。 源太は十兵衛に一緒に作ることを提案するが、十兵衛は一人でやり遂げたいと頑として聞かない。 当時の日本はまだノベルの黎明期だったにもかかわらず、戯作文学の名残を感じさせない、現代の小説に近い内容を感じました。 「、」や「。」の使い方が今とは違い、また、文体も難しく、読みづらいと感じるところもありますが、戯作文学のような韻やリズムを持った文章ともなっておらず、著者の意見を全面に出さないため、比較的読みやすい作品でした。 筆者の意見や戯曲のように会話だけですすめる部分も少なく、写実主義作品であることを改めて感じることができました。 また、実直に仕事に打ち込めば素晴らしいものができ、その結果はいがみ合っていたすべてを丸く収める力があるという点、理想主義を理念として掲げた幸田露伴らしさも感じる作品です。 それほど長くなく話もわかりやすい、読みやすい作品だと思いました。
Posted by
筋はあっさり、五重塔を源太が建てるかのっそり十兵衛が建てるか、に半分以上ページを費やす。文体が素晴らしくテンポよく読める。はじめの1ページお吉の描写があまりにも色っぽくて買った。なれないうちは読みにくいが、テンポをつかめば読みやすい。暴風雨を夜叉に例えた描写はしょうしょうやりすぎ...
筋はあっさり、五重塔を源太が建てるかのっそり十兵衛が建てるか、に半分以上ページを費やす。文体が素晴らしくテンポよく読める。はじめの1ページお吉の描写があまりにも色っぽくて買った。なれないうちは読みにくいが、テンポをつかめば読みやすい。暴風雨を夜叉に例えた描写はしょうしょうやりすぎではないか。浮いている気がする。 とにかく文章がキレイで読んでいて心地よい。
Posted by
思わず音読してしまう流れるような語り口。人物もくっきりと描かれていて映像をみるようだ。飽きさせない澱みない展開。それぞれの心情に納得がいく。
Posted by
実際呼んだのは「岩波版ほるぷ図書館文庫」だけどアイテムがなかったので同じ岩波で。 大学生の時に一度読んだ本。 芸術とはなにか、分別とはなにかを考える。 お互いの価値観がぶつかって、だからこそ読んでいてハラハラする。 最後がすごい。
Posted by
建築の職人魂が生々しく描かれた小説。その性格から「のっそり」と呼ばれる職人が、命をかけて五重塔建築という百年に一度の仕事に取り組む。2時間ほどで読めてしまう。
Posted by
ページが少ないので短時間で読み終わります。 主人公ののっそり大工の十兵衛。谷中感応寺に五重塔が建立されることを聞いたときから、一生に一度あるかないかの、その仕事をやり遂げたいという熱望し、上人様に聞いてもらいたい一心で会いに行く。 本来ならば、感応寺の御用を務める川越の源太が請け...
ページが少ないので短時間で読み終わります。 主人公ののっそり大工の十兵衛。谷中感応寺に五重塔が建立されることを聞いたときから、一生に一度あるかないかの、その仕事をやり遂げたいという熱望し、上人様に聞いてもらいたい一心で会いに行く。 本来ならば、感応寺の御用を務める川越の源太が請け負うことになっていた。が、いろいろあったが十兵衛が行うことになる。 落成式前夜、江戸は暴風に襲われたが、十兵衛は自信をもって動かない。最後は「塔の倒れるときが自分の死ぬとき」と心に決めて、塔に上っていた。一夜明けると、江戸中は大きな被害を受けていたが、十兵衛の建てた五重塔は無傷でそびえ建っていた。
Posted by
エゴを超えた職人の鬼気迫る姿が圧巻の作品。 特に「五重塔を汝作れ今直ぐ作れと恐ろしい人に言いつけられ」の部分は一種悪魔の存在を感じずにはいられない。悪魔や悪を美しいとする作品は他にもあるので、それらと比較して人間の自然に対する超人的な所業と悪魔の存在の関係性を今後考察していきたい...
エゴを超えた職人の鬼気迫る姿が圧巻の作品。 特に「五重塔を汝作れ今直ぐ作れと恐ろしい人に言いつけられ」の部分は一種悪魔の存在を感じずにはいられない。悪魔や悪を美しいとする作品は他にもあるので、それらと比較して人間の自然に対する超人的な所業と悪魔の存在の関係性を今後考察していきたい。
Posted by