蛍川・泥の河 の商品レビュー
蛍川、昨日1日読んでいた。宮本輝の芥川賞受賞作。鮮やかな人物描写と細やかな自然描写。この後に錦繍が発表されたが、その萌芽を感じられる。
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宮本輝さんと言う作家はなぜこうも人間の生きていく悲しみを描いていくのだろう。 その文章が胸に沁み、浮かび上がる人間の優しさを感じながらもやっぱり読後感は淋しい。 泥の河 原作よりも映画を先に観ており、底辺に暮らす人とその底辺よりも少し上という感じの人々の思いやり優しさに感動した...
宮本輝さんと言う作家はなぜこうも人間の生きていく悲しみを描いていくのだろう。 その文章が胸に沁み、浮かび上がる人間の優しさを感じながらもやっぱり読後感は淋しい。 泥の河 原作よりも映画を先に観ており、底辺に暮らす人とその底辺よりも少し上という感じの人々の思いやり優しさに感動したものだった。 原作を読んで映画の方は少し表現の仕方に違いがあると感じたが両者が私に与える心の震えは同じようなものだった。 水上生活者の喜一が信雄の家に招かれた時に誇らしげに軍歌「戦友」を歌う。 聞いた信男の父晋平が「うまい、ほんまにうまいなあ」と褒める。 なぜだろう、この文章を読んで私は涙が溢れ出た。 喜一の父親は戦争で受けた傷が元で死んでいる。 晋平は戦地でたくさんの戦友を失っている。 晋平が信雄に 「戦争はまだ終わってないでェ、なあ、のぶちゃん」 と語りかける場面がある。 そして 「一所懸命生きて来て、 人間死ぬ言うたら、ほんまにすかみたいな死に方するもんや。」 とも語る。 「泥の河」「螢川」、2作品とも人間の生と死に特別の感慨を持ち、逆らえない運命の中で必死に生きていかねばならない覚悟と、その中でも優しさがなければならないと訴えているのかもしれないと感じた。
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■泥の河 情景がしっかり浮かぶ、まるで映像で見たか自分の記憶のよう 少年目線のおもいにどうにもならない切なさがあったり 燃える蜘蛛のくだりの表現、残酷美しく悲しいせつない‥
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作家・宮本輝の初期の代表作2編が収録されています。 本作収録の2編の短編により、宮本輝は作家としての地位を確立しました。 宮本輝は教科書では村上春樹や吉本ばなななどと並んで文学作家として紹介されることが多いです。 ただ、大体"第三の新人"あたりからの文学作品...
作家・宮本輝の初期の代表作2編が収録されています。 本作収録の2編の短編により、宮本輝は作家としての地位を確立しました。 宮本輝は教科書では村上春樹や吉本ばなななどと並んで文学作家として紹介されることが多いです。 ただ、大体"第三の新人"あたりからの文学作品は大衆文学との境が薄れていて、宮本輝作品も文学といわれると違和感を感じます。 この頃に登場した作家達は、共通した思想や定義などはなく、各作家が作品毎に思想を込めている部分があります。 また、2022年8月現在も活動中である作家も少なくなく、本作は純文学と大衆文学の境目がなくなってきた時期の文学作品と言えるかと思います。 各作品の感想は以下の通りです。 ・泥の河... 宮本輝氏の作家デビュー作品。太宰治賞受賞作。 戦後の傷跡が残る大阪で、安治川の畔に住む少年「信雄」と、船に住む姉弟との交友を描いた作品です。 姉弟の母はその船で体を売って糊口を凌いでいます。 信雄は、船に住む「喜一」と友達になるのですが、喜一の母が客を取っている様子を垣間見てしまう。 周囲の大人に下劣な冗談を言われ、それでも喜一と友人でいようとする信雄の心理描写に長けた作品だと思います。 信雄が育ちの異なる喜一の"楽しいと言っていること"を理解できず、ラストは切なさがありました。 本作は宮本輝氏の幼少期をモチーフとしているようで、少年ゆえに処理できない自分の中の感情が書かれた名作です。 ・螢川... 芥川賞受賞作です。 富山県を舞台にした作品で、こちらも重要な舞台として"川"が登場します。 もう一編『道頓堀川』という作品があり、こちらを併せて「川三部作」をなすそうです。 中学二年生の「竜夫」を中心として書かれています。 かつては戦後復興時にタイヤ販売で成功し、北陸有数の商人にのし上がった父でしたが、行き詰まり、家には借財のみが残ってしまった。 老いた父は病に倒れ、母も看病のためにろくな仕事につけずにいる。 竜夫には関根という親友がおり、関根は同級生の英子と同じ高校へ進学するために猛勉強をしています。 実は竜夫も英子に憧れをもっているのですが、それを隠しています。 テーマとして、少年が直面する2つの死を描き、生命が対比されて浮かび上がってくるように思いました。 交尾に勤しむ蛍の、恐ろしいまでに幻想的な光によって浮かび上がる英子の姿は、竜夫にとっては正しく生命の輝きそのものであったのであろうと思います。 本作も、登場人物の心理描写や情景描写が巧みで、ノスタルジーを呼び起こします。 また、シンプルに読み物としておもしろい作品でした。
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幼いときの記憶ってなかなか消えない。 知らない町なのに、肌にまとわりつくジメジメした感じ、磯の香り、船の油のにおい、足元がグラグラする。ほんとに体験したかのように迫ってくる。 忘れたいよいな、申し訳ないような、気持ちになった。
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「泥の河」は後の「流転の海」にオーバーラップする原点の様な、ひいては著者の原点となる作品。唐突な死としぶとい生の印象が心に泥の様に溜まる。 昭和30年の大阪市福島の光景が目の前に現れる様だった。 「蛍川」はやや趣が変わった青春小説の感じ。父や友の死と自分のこれからの生き方、やは...
「泥の河」は後の「流転の海」にオーバーラップする原点の様な、ひいては著者の原点となる作品。唐突な死としぶとい生の印象が心に泥の様に溜まる。 昭和30年の大阪市福島の光景が目の前に現れる様だった。 「蛍川」はやや趣が変わった青春小説の感じ。父や友の死と自分のこれからの生き方、やはり生と死が作品の軸ではあるが、それに加えて幼なじみへの恋や家族の歴史等、読後感は一種の爽やかさがあった。 虎谷誠々堂書店ロサヴィア店にて購入。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
泥の河 大阪、堂島川と土佐堀川、安治川 水上生活者の消えゆく時代の話。今では消滅し、わずかにかき船などが残るのみ。格差是正が悪とは言わぬが過去の人間生活を忘れることは罪、記憶したい、記録したい。 螢川 常願寺川の支流、いたち川 白い街の底が汚れている 一年を終えると、あたかも冬こそすべてであったように思われる。土が残雪であり、水が残雪であり、草が残雪であり、さらには光までが残雪のよいyだった。春があっても、夏があっても、そこには絶えず冬の胞子がひそんでいて、この裏日本特有の香気を年中重く澱ませていた。 日本海側の陰鬱な様子を綺麗に描写している。
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どうしようもない、彼我の壁を他人と自分とに感じる事があると思う。言葉の壁、性別の壁、才覚の壁、文化、風俗の壁。 こどもが家庭、学校という社会を通じて次第に直面していくこれらの壁の一つを鋭く描いていると感じた。 取り分け、性差はこどもが直面する最初の壁。両岸に大きな隔たり...
どうしようもない、彼我の壁を他人と自分とに感じる事があると思う。言葉の壁、性別の壁、才覚の壁、文化、風俗の壁。 こどもが家庭、学校という社会を通じて次第に直面していくこれらの壁の一つを鋭く描いていると感じた。 取り分け、性差はこどもが直面する最初の壁。両岸に大きな隔たりのある、大河。飲食店の子どもと廓船(性風俗)の子どもとの間で、二つの相容れない日常が、はっきりと社会通念上の隔たりになって子どもの心を捉える筆致にぞくりとする。 宮本さんの、物語を暗示させるどうぶつたちの使い方に学びたい。 泥の河では、油に付けられた蟹を燃やすと、青白くぱちぱちと音を立てて燃え、燃えた蟹が廓船の娼婦(友達の母親)の姿を青白く闇夜に浮かびあがらせる。 蛍川でも、無数の蛍の交尾で、死んでいく蛍が、人の形を作る。 ここで終わらせる。説明的な文章はできるだけ省き、登場させる人物の無垢な視点が、描くストーリーは、真白なキャンバスを思わせる。 実在の動物や、虫が不自然でない形で作品に用いられているのも、現実のなかにあるファンタジーで、観念的でないのも勉強になる。
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太宰治賞受賞作「泥の河」、芥川賞受賞作「螢川」。名作である。 古典とも言われる名作は、何回読み返しても、また違う感動があります。 暗鬱な北陸の風土に、生き抜いていく人間の哀愁、命というものの叫びというものが、読み手に強烈に跳ね返ってくる。若い頃では感じ得ない感情を、感動がここには...
太宰治賞受賞作「泥の河」、芥川賞受賞作「螢川」。名作である。 古典とも言われる名作は、何回読み返しても、また違う感動があります。 暗鬱な北陸の風土に、生き抜いていく人間の哀愁、命というものの叫びというものが、読み手に強烈に跳ね返ってくる。若い頃では感じ得ない感情を、感動がここにはある。
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「泥の河」と「螢川」の二篇。前者は太宰治賞、後者は芥川賞を受賞しています。両作品ともに性の目覚めにある少年が主人公。その目に映る大人の弱さ、泥臭さ、悲しさと、自然の儚さ、雄大さ、不気味さ、厳しさ……色とりどりに目まぐるしく変わる描写が叙情たっぷりでした。 少年は身近な者の死によ...
「泥の河」と「螢川」の二篇。前者は太宰治賞、後者は芥川賞を受賞しています。両作品ともに性の目覚めにある少年が主人公。その目に映る大人の弱さ、泥臭さ、悲しさと、自然の儚さ、雄大さ、不気味さ、厳しさ……色とりどりに目まぐるしく変わる描写が叙情たっぷりでした。 少年は身近な者の死によって、常に死が意識下にあるような感じです。さらに二つの作品とも、怪しげな生物の動きが掉尾を飾っています。ラストはまさに衝撃的な一枚の絵となっています。余韻の中でなんとなく、生きることは刹那の繰り返しなんだろうなと思いつつ頁を閉じました。再読したい二作品です。
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