蛍川・泥の河 の商品レビュー
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「蛍川」は、黄土色に流れる安治河のほとりにあるうどん屋の少年・信雄と、廓舟に住む喜一、銀子姉弟の話。「生きる場所を求めて心ならずもそこに仮の暮らしを営むことを強いられた人びとの哀しみを宿している」という解説の言葉がぴったりでした。 「泥の河」は、神通川のほとりに住む少年・竜夫の話。豪胆だった父・重竜や親友・関根の死。英子への想い。哀しいばかりに蒼く瞬く蛍火。 淡く切なく哀しくて、涙が出るようでした。
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宮本輝さんの初期の作品2編。 初めから、こんな話を書く人だったのかと、驚いた。 解説にあった「生きることの哀しさ」という言葉。 「流転の海」シリーズの中にも流れている、人の「生」の無常さとかはかなさとか、そういうなんて言っていいのか分からないけど切ないような気持ちになる空気感はつまり、「生きることの哀しさ」なのかと、スッと染み入った。 生きることは、哀しいことなのか。 そこにあるのは「生きる」ことに必死な人間の姿。 『泥の河』は、高度成長期前夜の大阪が舞台。大阪の川べりの町の泥臭さ。 泥臭さや汚さは、でも、嫌悪されるものであるのと同時に、これでもかってくらいの生命力を感じさせる。 子どもの目から見た「生命力」は、力強さを通り越して不気味に映る。得体のしれない、大きな力。 でも同時に、そこに強く惹きつけられていく。 『螢川』の舞台は富山。 富山弁が割と好きなので、登場人物たちに愛着を感じた。 主人公は、大人と子どもの間で揺れる中学3年生の男の子。 螢が飛び交う川を観に行く計画がベースにあるので、きれいだろうなぁって期待しながら読むわけだけど、螢川に着いた時の描写は、想像を超えていて、圧倒されてしまった。 きれいってもんじゃなく、恐怖感すら煽る、螢の群れ。 若い2人はその中に、大人の母とおじいさんはその外で、それぞれ光以上の何かを見出していた。 生きることは、時に、どうしようもなく哀しい。 その哀しさが、こんなにも美しく描かれている作品を読むことができてよかった。
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初めて読んでみました。とてもジーンときます。心に響く本です。悲しいけれど、すごくよかった。 古きよき昭和の美が読んでいて頭に浮かびます。 文章が美しい。おすすめ。 泥の河は、太宰治賞受賞したらしい。
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『泥の河』は太宰治賞受賞。『螢川』は芥川賞を受賞。 『泥の河』はよくできた、完成度の高い作品。 現代人にはない感覚(ないというより失ったという方が適切か?)を見事に描いている。 純粋な行雄の視点から書かれるこの作品にはとても不思議な感じを受ける。事実、謎の多い作品である。 例え...
『泥の河』は太宰治賞受賞。『螢川』は芥川賞を受賞。 『泥の河』はよくできた、完成度の高い作品。 現代人にはない感覚(ないというより失ったという方が適切か?)を見事に描いている。 純粋な行雄の視点から書かれるこの作品にはとても不思議な感じを受ける。事実、謎の多い作品である。 例えば、『泥の河』というタイトルと、喜一らの住む船の暗示するもの、老人の行方、お化けゴイ…。 生命の儚さというのを念頭に据えてもう一度読んでみたい作品。一生懸命生きていても、死ぬときは死ぬ。 『螢川』も生命を描いた作品である。生命とは一体いかなるものなのだろうか。 この作品の情景描写は川端文学とまでは行かないが、ほかの現代作家とは比べものにならないくらい緻密。
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・10/23 今朝から読み始める.いきなりの死亡事故には正直面食らった.どうやら主人公は智君と同じ歳らしい.舞台は大阪なんだ ・10/24 また一人死んでしまったようだ.半分は読み終えてしまった.結構短いな. ・10/24 読み終えた.なんだか切ない気持ちで終わった.あっという間...
・10/23 今朝から読み始める.いきなりの死亡事故には正直面食らった.どうやら主人公は智君と同じ歳らしい.舞台は大阪なんだ ・10/24 また一人死んでしまったようだ.半分は読み終えてしまった.結構短いな. ・10/24 読み終えた.なんだか切ない気持ちで終わった.あっという間だった.
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初・宮本輝作品! 現国の受験問題とかに使われていそう。すごく正統派な感じがした。 描写がとても丁寧。
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p10 イチゴ色の冷たさがきりきりと脳味噌に突きあがってくる p70 これまでのことがすべて嘘ではなかった、その時その時、何もかも嘘ではなかったと思いなされてくるのである。 p88 西の空がかすかに赤かったが、それは町並みに落ちるには至らなかった。光は、暗澹と横たわる大気を射抜く...
p10 イチゴ色の冷たさがきりきりと脳味噌に突きあがってくる p70 これまでのことがすべて嘘ではなかった、その時その時、何もかも嘘ではなかったと思いなされてくるのである。 p88 西の空がかすかに赤かったが、それは町並みに落ちるには至らなかった。光は、暗澹と横たわる大気を射抜く力も失せ、逆にすべての光沢を覆うかのように忍び降りては死んでゆく。 p90 父の匂いが落ちてきた。 p102 それは、重竜の子を宿したその夜の寒々とした暗闇に繋がっていく光なのであった。 p110 七輪から弾け散る炭の火花が、無数の蛍となって竜夫の前で飛んでいた。 p170 蛍の大群は、滝壺の底に寂莫と舞う微生物の屍のように、はかりしれない沈黙と死臭を孕んで光の澱と化し、天空へ天空へと交際をぼかしながら冷たい火の粉状になってまいあがっていた。 宮本先生のはなしは、重いグレイ。 言葉が美しすぎて、それだけで感動してしまう。 川の話2話、ふたつとも好きだなぁ~ じっくり読みたいと思ったときに、手に取りたい。
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僕が結婚して住んだ町にも川が流れていた。「昔は月に何度か川が真っ赤に染まっていたわ」と彼女が言っていた。
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宮本輝さんの描く少年を通して、久しく忘れていた五感に関する懐かしさを味わえました。 「泥の河」は小学校のときにきっと誰しもうすうすわかってくる差異の気付きを描いていて、ラストは少し切なくなった。
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「泥の川」 戦後復興の間もない頃の、大阪の川べりに住む家族と、水上生活 を営む家族の子どもを通して描かれる情景は深く心に残る。 「太宰治賞」を取った作品だが しかし、今の世代にこの作品が賞を取るかは疑問だ。奇をてらわず 地味なごく普通のことを描いた作品、それだからこそ、私はこの作...
「泥の川」 戦後復興の間もない頃の、大阪の川べりに住む家族と、水上生活 を営む家族の子どもを通して描かれる情景は深く心に残る。 「太宰治賞」を取った作品だが しかし、今の世代にこの作品が賞を取るかは疑問だ。奇をてらわず 地味なごく普通のことを描いた作品、それだからこそ、私はこの作品が心に滲みたが、今の小説界において評価されるかは分からない。 深く心に残る作品だった。 「蛍川」 芥川賞作品。 とてもていねいに書かれており、勉強させられると共に感銘を受けたが、私は「泥の川」の方が深く心に残った。 この作品の中で、視点が複数にわたり変わるのだが、それが気になるも名作ならば、どんなことでもアリになるのだな..と思う。 宮本輝さんの作品はこの他に「錦繍」を読んだが、私には響いてこない作品だった。しかし、この2作品は深く感銘を受けました。
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