鍵のかかった部屋 の商品レビュー
何をしてもかなわなかった幼馴染というのは、誰にでもいる存在かもしれない。敬服と信頼と少しだけ嫉妬も感じながら、いつも近くにいた。成人して長い間の交流中断の後、その友人が失踪した、との連絡が彼の妻から入る。語り手の「僕」はそれから彼のそれまでの人生に深く関わっていくことになる。彼の...
何をしてもかなわなかった幼馴染というのは、誰にでもいる存在かもしれない。敬服と信頼と少しだけ嫉妬も感じながら、いつも近くにいた。成人して長い間の交流中断の後、その友人が失踪した、との連絡が彼の妻から入る。語り手の「僕」はそれから彼のそれまでの人生に深く関わっていくことになる。彼の妻と結婚し、彼が残した小説の出版と伝記の執筆をしながら、「僕」は彼から解放されることがない。言わば精神的奴隷だ。 自分という存在は何なのか、と問い続ける「僕」。失踪した彼の行動も同じく自分探しの旅なのだろう。その希求が家族への愛も超越している点が、深い孤独を感じさせる。 ストーリ展開の面白さも、人間観察の筆致も、オースターの「NY三部作」の中で一番、と思う。
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今までの二作とはひと味違う、ニューヨーク三部作の最後に相応しいラストだった。ほんの少しだけ希望の光が遠くに見えるみたいな。 過去作のキャラクター名が(別人だけど)結構出てくるのも面白い。 「冬の日誌/内面からの報告書」を先に読んでいたので「僕」とファンショー両方の描写に筆者や筆者...
今までの二作とはひと味違う、ニューヨーク三部作の最後に相応しいラストだった。ほんの少しだけ希望の光が遠くに見えるみたいな。 過去作のキャラクター名が(別人だけど)結構出てくるのも面白い。 「冬の日誌/内面からの報告書」を先に読んでいたので「僕」とファンショー両方の描写に筆者や筆者の周りの人たちの実体験が盛り込まれてることが分かったから尚更2人の境界が曖昧になっていくように感じてとても楽しめた。
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『幽霊たち』を読み、ニューヨーク三部作が気になって手に取った。作中で述べられている通りこの2作は同じテーマで書かれているので構成はそっくりだが、『鍵のかかった部屋』の方がかなり具体的だ。 自分と向き合う度「お前は今まで何してたんだ?」と問いかけてくる幽霊。そいつを取り殺すことはで...
『幽霊たち』を読み、ニューヨーク三部作が気になって手に取った。作中で述べられている通りこの2作は同じテーマで書かれているので構成はそっくりだが、『鍵のかかった部屋』の方がかなり具体的だ。 自分と向き合う度「お前は今まで何してたんだ?」と問いかけてくる幽霊。そいつを取り殺すことはできないが、そいつに取り殺されるのはたやすい。ぎりぎりのところで踏みとどまり、現実に帰ってきた主人公はすごい。
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良かったわぁ。引き返せない孤独に入り込んでしまうような読み心地。この世界にずっといたいのにニューヨーク三部作全部読んじゃってさみしい。
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ニューヨーク3部作のストーリーは全部独立してるのでどれから読んでも良いと思うけれど、この作品を最後に読んだのは正解だった。例えばマルチエンディングのロールプレイングゲームをやっていて、バッドエンドとか歯切れの悪いエンディングを繰り返して、鍵のかかった部屋ルートでやっと希望を感じさ...
ニューヨーク3部作のストーリーは全部独立してるのでどれから読んでも良いと思うけれど、この作品を最後に読んだのは正解だった。例えばマルチエンディングのロールプレイングゲームをやっていて、バッドエンドとか歯切れの悪いエンディングを繰り返して、鍵のかかった部屋ルートでやっと希望を感じさせるエンディングを見れた、みたいな感覚。 この作品がモヤッとエンドだったらきっと私は翌日の仕事に引きずる程度には落ち込んでいたと思う。決別と新たなスタートを予感させて締めてくれたオースターさんに感謝。この作品だけ一人称視点で書かれてるのも面白いところ。
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奥付は1989年の単行本を再読。 いわゆる「ニューヨーク3部作」を続けて読んだのは初めてなのであって、前作、前々作で登場した名前が再登場してもまだ覚えており(名前だけ同じ役柄は違うが)、間を置くとおそらく忘れていたであろうから「3作通読してよかったな」というのはこうした点であろう...
奥付は1989年の単行本を再読。 いわゆる「ニューヨーク3部作」を続けて読んだのは初めてなのであって、前作、前々作で登場した名前が再登場してもまだ覚えており(名前だけ同じ役柄は違うが)、間を置くとおそらく忘れていたであろうから「3作通読してよかったな」というのはこうした点であろう。 で。 通読してよかったのは以上の点で、通読して悪かった点は、3作同じスタイルなので飽きてしまうということ。登場人物の名前が変わるだけでストーリーやテーマの枠組みはほぼ同じなんだもん。 というわけで『幽霊たち』の感想同様、同じ対象物を角度を変えて描いた素描的小説が3作、という感想で身も蓋もないが、ただ、作者がこなれてきたせいか、本作がいちばん小説っぽい。 結局、当時の自分がこの作家の作品を何冊も読んでいるのだから、気に入っていたのだろう。 「若い頃に読んだ本を年とってから読むとまた違った感想を抱く」ということは訳知り顔でよく言われることだが、それはそのとおりで、20代だった自分がハマったオースターも、50代の自分にはあまりインパクトがなかったということを考えると、彼の作品は若いうちに読んだほうがいんだろうなぁ。 それなりに社会にもまれたおっさんが読むと、ファンタジー臭が鼻についてしまうのだろう(個人の感想です)。 これは逆もあって、若いとき読んで印象が薄い、ピンとこなかった作品をおっさんになって読んでみると心が超震えるちう作品もある。 ということで自分の年齢を考えると、この3冊の次の再読はたぶんもうない。ただ、北欧あたりで映画化されたら(ハリウッドじゃいや)見ちゃうかもだ。
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あまり呼んだことのないカテゴリーの本だったかど、なんか気持ちがわかるような、わからないような、そんな面白さがあった。
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ポール・オースターのニューヨーク3部作(というらしい)最終作。 前2作に比べてハーッピーエンド風になっています。3部作に共通するのはこの世から逃げ出したい・存在を消してしまいたいという欲求を実行に移していく男たちが主人公であることです。「鍵のかかった部屋」では主人公が行方不明に...
ポール・オースターのニューヨーク3部作(というらしい)最終作。 前2作に比べてハーッピーエンド風になっています。3部作に共通するのはこの世から逃げ出したい・存在を消してしまいたいという欲求を実行に移していく男たちが主人公であることです。「鍵のかかった部屋」では主人公が行方不明になった幼なじみファンショーを探すという口実で自分も逃げ出してしまおうとします、最終的には思いとどまり普通の生活に戻ってきます。物語はなんとなく幸せになった感じで終わるのですが、逃げ押せたファンショーと平凡な生活を送ることになった主人公のどちらが幸せかは他人にはわかりません。 ポール・オースターはアメリカ人もダサイ青春をおくるんだと言うことを教えてくれた初めての小説家です。
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読み始めてすぐに物語の中に惹きこまれます。 やっぱりクセになる作家ですネ。 テンポの良いストーリー展開。 文章にもリズムを感じます。 世のほとんどの人は、 自らを騙しながら、 あるいは心に蓋をして 生きているのではないでしょうか? 書くという行為は、 どのような内容のものにせよ...
読み始めてすぐに物語の中に惹きこまれます。 やっぱりクセになる作家ですネ。 テンポの良いストーリー展開。 文章にもリズムを感じます。 世のほとんどの人は、 自らを騙しながら、 あるいは心に蓋をして 生きているのではないでしょうか? 書くという行為は、 どのような内容のものにせよ、 自身の内面を掘り下げ、 ときには気づきたくないことまで、 気づかされてしまいます。 作家の苦悩を描く、 残酷な物語でした。 べそかきアルルカンの詩的日常 http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/ べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え” http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ” http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2
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文学という営みが、生という意味の体系の深淵を開いてしまうことを明るみにした、3部作の最後の作品。 メタ小説の傑作。 通常、物語は、点と点がつながり線になり、その線が面になり、集結する。伏線回収というのが醍醐味だ。しかし、この3部作は、面が解体して、線になり、さらに遠く隔たった...
文学という営みが、生という意味の体系の深淵を開いてしまうことを明るみにした、3部作の最後の作品。 メタ小説の傑作。 通常、物語は、点と点がつながり線になり、その線が面になり、集結する。伏線回収というのが醍醐味だ。しかし、この3部作は、面が解体して、線になり、さらに遠く隔たった点になり果ててしまう。宇宙の最後のように。私とは何か、という問いは、私の解体の過程にしかない。
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