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夏の葬列 の商品レビュー

3.8

58件のお客様レビュー

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2022/09/21

山川方夫(1930~65年)氏は、慶大文学部仏文科卒の小説家。大学卒業と同時に「三田文学」に参加して編集長を務め、江藤淳、坂上弘などを世に送り出し、「三田文学」の黄金時代を築いた。その後、作家活動に専念し、1958~64年に4回に亘り芥川賞候補になるとともに、「ヒッチコック・マガ...

山川方夫(1930~65年)氏は、慶大文学部仏文科卒の小説家。大学卒業と同時に「三田文学」に参加して編集長を務め、江藤淳、坂上弘などを世に送り出し、「三田文学」の黄金時代を築いた。その後、作家活動に専念し、1958~64年に4回に亘り芥川賞候補になるとともに、「ヒッチコック・マガジン」誌に多数のショート・ショートを発表したが、交通事故により34歳で死去。 本書は、「夏の葬列」(国語教科書での採用多数)、「待っている女」、「お守り」(英訳が米「LIFE」誌に掲載)等の、代表的なショート・ショート7篇と、芥川賞候補にもなった「海岸公園」、及び「煙突」を収録し、1991年に出版されたものである。 私は、本を読む際に「あとがき」や「解説」から読むことが多く、また、それらを流し読みした後に、買うか(読むか)を決めることさえしばしばなのだが、本書の山崎行太郎(評論家)による「解説—陽気な絶望者」と川本三郎(評論家)による「鑑賞—一瞬の日のかげり」、特に後者は出色である。 川本氏のそれを抜粋すると(長くなるが)以下である。「夏の暑い日盛りに突然日の光がかげることがある。太陽に雲がかかり日の光がさえぎられるのだがそれまで明るかった周囲が不意に暗くなるとわれわれはどこか不安になる。・・・それまで意識していなかった自分の心のなかの暗がりが急に意識されていく。しかしその日のかげりは長くは続かない。雲が去ってまた日の光が強く照りつけてくる。ただそのときわれわれが日の光を見る目は前とは少しだけ違っている。明るい日の光もまたかげる瞬間があることをわれわれは考えるようになっている。・・・山川方夫の描く人間たちは都市に生きる平均的な中産階級である。若い夫婦であり、学生であり、サラリーマンである。彼らが生きる場所もどこか特別なところではない。団地であり小さなアパートであり海辺の町である・・・しかし彼らの日常は決して平穏というものではない。遠くから見ていると幸福で静かに見える彼らの生活が、ある瞬間に日がかげるように急にそれまでとは違った暗がりを見せる。ある人間は他人には決していえない心の秘密をかかえている。別な人間は社会に対して虚無的な気持ちを抱いている。心のなかの冷え冷えとした孤独感にさいなまれている者もいる。親子や夫婦といえども完全に相手のことを理解し合っていないことがわかってくる。それまで平穏に見えた人たちの心のなかに言葉でうまく説明し得ない漠然とした不安や疎外感が沈んでいるのが見えてくる。しかしそれはあくまでも一瞬のことで、やがて再び日の光が射してくるように彼らはまたもとの日常生活に戻っていく。不安や疎外感に静かに耐えながらまたもとの平穏の生活が続けられていく。山川方夫はこういう日のかげる一瞬を大事にする。彼は暗がりをふっと読者の前に見せる。おそらくは誰もが心のなかに持っているだろう心のなかの不安、生きる怖れ、孤立感を日常のありふれた光景のなかにふっとさし込んでいく。」 誰もが持っている「一瞬の日のかげり」を描いた珠玉のショート・ショートを収めた作品集である。 (2022年9月了)

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2022/07/20

シチュエーションを丁寧に読み解くと… 艦載機が2機 白い服を標的 つまり、これは作戦遂行ではなく 民間人を狙った遊び半分の攻撃で 軍法的にアウトな犯罪行為 弱虫の3年生だった彼、まだ若いサラリーマンの彼が、一生2つの死を背負っていく理不尽に気づくべきだろう 真新しいアーケ...

シチュエーションを丁寧に読み解くと… 艦載機が2機 白い服を標的 つまり、これは作戦遂行ではなく 民間人を狙った遊び半分の攻撃で 軍法的にアウトな犯罪行為 弱虫の3年生だった彼、まだ若いサラリーマンの彼が、一生2つの死を背負っていく理不尽に気づくべきだろう 真新しいアーケード街←この部分が今やすでにノスタルジック 昔のままの踏切 真夏の芋畑 土着信仰めいた葬列 ここまで情景を揃えられたら脳裏に映像が鮮明に浮かんでくる

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2021/07/10

英語 だと、Funeral Procession in the Summer by Yamakawa Masao でしょうか。 再び手にとって  『夏の葬列』 はもちろんですが、 『待っている女』 『十三年』 の世界観も好き。

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2021/06/30

本書はショートショート。 タイトルから惹かれ『夏の葬列』のみ青空文庫にて読了。 何か心響くものではなかった。 自分のことで精一杯で、罪の意識すら美化する始末か。 それも仕方ない。 以下ネタバレ有り。(備忘録) 戦時中のある夏の日、少年と少女が遊んでいると、誰かの葬式に出くわ...

本書はショートショート。 タイトルから惹かれ『夏の葬列』のみ青空文庫にて読了。 何か心響くものではなかった。 自分のことで精一杯で、罪の意識すら美化する始末か。 それも仕方ない。 以下ネタバレ有り。(備忘録) 戦時中のある夏の日、少年と少女が遊んでいると、誰かの葬式に出くわす。子供は葬式でお饅頭がもらえると少女は言う。二人は駆けっこで葬式会場に走る。その時、艦載機が現れる。白いワンピースを着た少女は、地面に伏せて怯える少年を起こし、一緒に防空壕へ逃げようと言う。しかし、白いワンピースが目立って、機銃の標的にされてしまうと、少年は少女を突き飛ばす。彼女は撃たれてしまった。大人に運ばれていった。それから少年と少女は顔を合わすことがなかった。 時を経て、久しぶりに街に帰ってきた青年は、葬列を目撃し、あの日を思い出す。棺の上にあった写真を目にする。それは彼女であった。彼は歓喜した。当時、自分は彼女を殺していなかった。不謹慎であるが、彼は救われた。自分が人殺しをしていなかったことに安堵した。 しかし、葬列に参加していた子供から真実を知らされる。この葬式は彼女の母親のものであった。少女が亡くなってから、気が違ってしまい、母親の若いころの写真しか残っていなかったそうだ。 青年は何を思うか。罪の意識から逃れる術は無くなった。 読了。

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2021/08/05

2021.6.9読了。 私にとって、横光利一の「蠅」、梅崎春生の「猫の話」と並んで、国語の教科書に掲載されていた小説の中で、初読の衝撃の強さから、年を経ても鮮明に記憶に残り続けている作品として「夏の葬列」があるのだが、本書はそのトラウマを植え付けた著者による作品集である。 山...

2021.6.9読了。 私にとって、横光利一の「蠅」、梅崎春生の「猫の話」と並んで、国語の教科書に掲載されていた小説の中で、初読の衝撃の強さから、年を経ても鮮明に記憶に残り続けている作品として「夏の葬列」があるのだが、本書はそのトラウマを植え付けた著者による作品集である。 山川氏のことは、この作品を除けば全く無知だった。授業では扱われたのだろうが全く記憶になかった。 だから、山川氏が第五次三田文学復刊に際し編集として辣腕を振るっていたことも、直木賞にも芥川賞にも候補として挙がったことも、そして受賞はしてないことも、結婚して1年と経たぬうちに交通事故で34歳にして急逝したことも、本書の解説で知った。 昔受けた衝撃を懐かしく思い出し、確かめてみたくて手に取った。話の筋はなんとなく覚えていたが、わかっていてもやはり衝撃だった。昔より歳をとった分、余程リアルに胃の辺りや背や肩に、ずんと重みを感じた。 その他含め、収録されている作品は全9作。 夏の葬列 待っている女 お守り 十三年 朝のヨット 他人の夏 一人ぼっちのプレゼント 煙突 海岸公園 「一人ぼっちの‥」まではショートショート、残り2作は中編。 作者自身の時代背景やテーマを含め、思いの外楽しめた。

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2021/05/14
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

教科書に載ってたのを改めて読んでみたくなった。 読んで良かった。 作品全体を通して感じる底暗さが非常に印象的だった。特に、ショートショートは話しの転換というか、どんでん返しが絶妙で、ゾッとする感じが心地よかった。 「夏の葬列」「お守り」「十三年」「朝のヨット」がお気に入り。

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2021/01/22

「夏の葬列」というタイトルが美しい。 短篇集「安南の王子」の巻末で、山川方夫は「青春という病」を強いられた作家であったと解説されていた。山川の作品は戦争、自分の父の死に大きく影響されており、「青春の文学」と呼ばれていながら、作品には常に死の影が覆っている。 乾いた風のように感じる...

「夏の葬列」というタイトルが美しい。 短篇集「安南の王子」の巻末で、山川方夫は「青春という病」を強いられた作家であったと解説されていた。山川の作品は戦争、自分の父の死に大きく影響されており、「青春の文学」と呼ばれていながら、作品には常に死の影が覆っている。 乾いた風のように感じる一冊。読後の喪失感が好きだ。

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2020/10/26

どんな人間にも、その人なりの苦労や、正義がある。その人だけの生き甲斐ってやつがある。そいつは、他の人間には、絶対にわかりっこないんだ

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2018/06/11

「夏の葬列」中学の頃教科書で読んで後味の悪さから強烈に覚えていた 大人になってから読んだら何か印象変わるかなと思って読んだら、やっぱり後味悪かった 自分が殺したわけではないがふたりも自分のせいで死んでいるという 後ろめたさから解放されたかったはずがさらに後ろめたさが増す 主人公自...

「夏の葬列」中学の頃教科書で読んで後味の悪さから強烈に覚えていた 大人になってから読んだら何か印象変わるかなと思って読んだら、やっぱり後味悪かった 自分が殺したわけではないがふたりも自分のせいで死んでいるという 後ろめたさから解放されたかったはずがさらに後ろめたさが増す 主人公自分勝手だよなと思うけれど、どうすれば良かったんだろうね

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2017/08/05

(2017.08.03読了)(2005.06.18購入)(1992.06.20・第4刷) 【目次】 夏の葬列 待っている女 お守り 十三年 朝のヨット 他人の夏 一人ぼっちのプレゼント 煙突 海岸公園 語注 解説 -陽気な絶望者  山崎行太郎 鑑賞 -一瞬の日のかげり  川本三...

(2017.08.03読了)(2005.06.18購入)(1992.06.20・第4刷) 【目次】 夏の葬列 待っている女 お守り 十三年 朝のヨット 他人の夏 一人ぼっちのプレゼント 煙突 海岸公園 語注 解説 -陽気な絶望者  山崎行太郎 鑑賞 -一瞬の日のかげり  川本三郎 年譜  山崎行太郎 (「BOOK」データベースより)amazon 太平洋戦争末期の夏の日、海岸の小さな町が空襲された。あわてて逃げる少年をかばった少女は、銃撃されてしまう。少年は成長し、再びその思い出の地を訪れるが…。人生の残酷さと悲しさを鋭く描いた表題作ほか、代表的ショート・ショートと中篇を収録。

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