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人はみな妄想する ジャック・ラカンと鑑別診断の思想
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人はみな妄想する ジャック・ラカンと鑑別診断の思想

松本卓也(著者)

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人はみな妄想する ジャック・ラカンと鑑別診断の思想

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 青土社
発売年月日 2015/04/24
JAN 9784791768585

人はみな妄想する

¥3,520

商品レビュー

4.5

6件のお客様レビュー

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2024/11/27
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本書は、現代日本を代表する精神科医・精神分析家である松本卓也が、ラカン理論を現代社会の文脈で読み直した野心的な著作です。タイトルが示す「妄想」という切り口から、私たちの日常に潜むラカン的な真実を炙り出していく本書の構成と内容を、詳しく見ていきましょう。 まず本書の最大の特徴は、従来の精神分析書によく見られた「正常vs異常」という二項対立を超えて、むしろ「正常な妄想」とでも呼ぶべき現象に光を当てている点です。著者は冒頭で、スマートフォンの画面をついつい確認してしまう現代人の姿を例に挙げ、そこにある種の「妄想的構造」を見出します。具体的には、誰かからのメッセージを期待する心の動きが、実は「大文字の他者」への関係の現れであることが指摘されます。 第一章「精神分析の現在」では、フロイトからラカンへの理論的展開が、現代的な文脈で整理されています。特に興味深いのは、SNSにおける「いいね」行動を例に、現代人の承認欲求の構造が分析されている箇所です。著者は、「いいね」を求める行動の背後に、ラカンが言うところの「大文字の他者のまなざし」を見出し、デジタル時代における主体の在り方を鮮やかに描き出しています。 第二章「妄想という正常」では、日常的な妄想の諸相が検討されます。例えば、推し活における「お気に入りの推しは私のことを特別に見ている」という感覚や、陰謀論に惹かれてしまう心理が、ラカンの理論的枠組みの中で解き明かされていきます。著者は、これらの現象を単なる病理として退けるのではなく、むしろ人間の主体形成に不可欠な「正常な妄想」として位置づけ直します。 第三章「享楽の政治学」は本書の白眉と言えるでしょう。ここでは、現代社会における「過剰な享楽」の問題が、ラカンの後期理論を参照しながら分析されます。例えば、ワークライフバランスを追求すればするほど疲弊してしまうパラドックスや、SNSで見られる「幸せの強制」の問題が、「超自我の享楽」という観点から読み解かれていきます。 第四章「対象aの行方」では、現代社会における欲望の対象について詳細な分析が展開されます。著者は、スマートフォンという物体が単なる道具を超えて、ラカンの言う「対象a」として機能している様子を描き出します。特に印象的なのは、画面をスワイプする指の動きに見られる「自動運動性」と「享楽」の関係についての考察です。 第五章「現代の症状を読む」では、現代特有の精神症状が取り上げられます。例えば、「リストカット」という現象を、単なる自傷行為としてではなく、象徴化されない何かを「書き込む」試みとして理解する視点が提示されます。また、引きこもりについても、現代社会における「大文字の他者の衰退」との関連で新たな理解が示されています。 終章「精神分析の未来」では、テクノロジーの発展と精神分析の関係が論じられます。特にAIの発展がもたらす問題について、「大文字の他者」の変容という観点から興味深い考察が展開されています。 本書の特筆すべき点は、難解なラカン理論を、現代社会の具体的な現象と結びつけて説明する著者の手腕です。例えば、VTuberと視聴者の関係を「想像的関係」の典型として分析したり、ソーシャルメディアにおける炎上現象を「享楽」の観点から理解したりする試みは、理論の現代的な応用可能性を示す好例となっています。 また、本書は随所に興味深い臨床例を挿入しています。ただし、これらの症例は単なる例証としてではなく、理論的考察を深めるための足場として提示されています。例えば、スマートフォン依存の症例を通じて、現代における「対象a」の特殊な在り方が浮き彫りにされる場面は、臨床と理論の見事な統合を示しています。 結論として、本書はラカン理論の解説書であると同時に、現代社会の病理を読み解くための重要な視座を提供する書物として位置づけることができます。専門家はもちろん、現代社会の在り方に関心を持つ一般読者にとっても、示唆に富む一冊となっているでしょう。 特に、「妄想」という切り口を通じて、私たちの日常に潜む非合理性や病理性を、否定的なものとしてではなく、むしろ人間存在の本質的な側面として描き出した点に、本書の大きな意義を見出すことができます。これは、精神医学や精神分析の枠を超えて、現代を生きる私たちの自己理解にも大きく寄与する視点だと言えるでしょう。

Posted by ブクログ

2022/05/13

鑑別診断という一本の軸を据えることで、雑な簡略化のない、しかしめちゃくちゃわかりやすく整理されたものとして、ラカンの理論の変遷を提示してくれる。ほんとうにすごい。

Posted by ブクログ

2021/05/19

ラカン入門として最適な本だと思う。 ラカンの用いるわかりにくい概念が「鑑別診断」という切り口を与えることにより非常に整理された形で頭に入ってくる。 ラカンを学び始める人はまずここからという一冊。

Posted by ブクログ