詳しくなるほど味わい深いジャンル、『プログレッシブ・ロック』の主要アーティスト・名盤を厳選してみました。

プログレッシブ・ロックとは?
「プログレ」の略称で親しまれる、ロックのカテゴリーの一つ。
『プログレッシブ=進歩的』を意味する言葉を冠する通り、それまでのロックの範疇を超えた
- アルバム全体を通した作品の芸術性が重視されている
- クラシックやジャズからの要素や変拍子・転調などを積極的に活用した壮大で複雑な楽曲構成
- 他ジャンルのロックと比べて曲が長尺である事が多い
- 演奏者に高度なテクニックが要求されることが多い
- シンセサイザーなど常に最新のテクノロジーや機材を導入
といった特徴を持つアーティストを指す場合が多い。
代表的バンドを聴く
プログレの代表的UK5大バンドをご紹介。
King Crimson キング・クリムゾン
緻密かつ狂暴、存在そのものがプログレッシブ
演奏中椅子に座ったまま表情一つ変えない鬼才ギタリスト、ロバート・フリップ率いるプログレッシブ・ロックの代表的存在。
比較的メンバーの入れ替えが激しいこのジャンルの中でも、フリップの持つヴィジョン(虫の居所?)次第で作品・時期ごとに編成が異なるという事が他のバンドよりも顕著(その際、一般に第○期という区別がされる)。
変拍子すら必然であるかのようにサラリと聴かせる緻密で正確無比な構成力、神懸かったインプロヴィゼーション(即興演奏)の素晴らしさは世代を超えて評価が高い。
代表作を聴く
クリムゾン・キングの宮殿
衝撃のデビュー盤
「ビートルズの『アビイ・ロード』をチャート1位から蹴落としたアルバム」として衝撃を持って現れたデビュー作。その話題性以上に、ジャズやクラシックの要素をロックというフォーマットに落とし込んだ、まったく新しい音楽性に『プログレの扉を開いた作品』として後世に語り継がれる歴史的名盤。
太陽と戦慄
戦慄のインプロ
ジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォードら個性の強い凄腕達と共に再結成されたスタジオ盤第5作目。即興性をフィーチャーしたその音は、荒々しく凶暴。しかし、その中に見える知性と静寂との黄金律もまた彼らにしか辿り着けない奥深さを感じる超傑作。
Pink Floyd ピンク・フロイド
圧倒的に深いテーマが込められた作品群
デビュー当初はカリスマ、シド・バレッドを中心にサイケ・ロックの有望バンドとして人気を博す。
しかし、彼の当然の失踪~脱退がバンドの大きな転機となる。
その後は作品ごとに確かなコンセプトを持ち、現代社会が抱える疎外・政治問題・人間心理を、文学的・哲学的な表現で抉り出す歌詞と、1音1音を丁寧に研ぎ澄まし、『間』をも奏でるような音楽性で世界的な地位を確立。
キング・クリムゾンと双璧をなすプログレッシブ・ロックの代表的存在に。
代表作を聴く
狂気
静と動の叙情的なコントラスト=狂気
とにかく音。そして詩。ロックが芸術になっていく過程を体現するような、単に演奏技術では語り切れない、音楽の『表現』という魔力の側面が如実に現れた名盤。原題「The Dark Side of the Moon」=「狂気」という邦題も凄い。
炎~あなたがここにいてほしい~
「沁みる」という彼らの魅力が発揮された傑作
彼らの音楽は「沁みる」という表現がされることも多い。彼らが持つメロディの良さ、雰囲気の良さが最も色濃く出ているであろう代表作としてこちらをピックアップ。全英・全米第1位という大ヒットを記録しており、プログレが苦手な人でも、何か入り込んでくる普遍性があるはず。
Yes イエス
ハイトーンヴォイスと変幻自在の天上音楽
「ロック+クラシック」という場所からスタートし、多彩な演奏を可能にするメンバーの確かな演奏とアイデア、ヴォーカル&中心人物であるジョン・アンダーソンの世界観とハイトーン・ヴォイスによるアンサンブルは、美しいコーラス・ワークも加わり、とても色彩豊かに響く。
心の何かが浄化されるような、『陽』の印象を受ける奔放で繊細なサウンドのせいか、ネット上では「イエスのファンは善人が多い」という記述も。
ただ、このバンドもメンバーの入れ替わりが激しい。
代表作を聴く
Emerson, Lake & Palmer エマーソン、レイク&パーマー
屈指のスーパーグループ&キーボード・トリオ
通称ELPもしくはEL&P。
キース・エマーソン、グレッグ・レイク、カール・パーマーという既に一定の知名度を得ていた3人が結成したスーパー・グループとして鮮烈にデビュー。
クラシック音楽への傾倒と探求、いち早くシンセサイザーを全面的に導入するなどのユニークな姿勢と、3人の技術とアイデアに裏付けられた派手な演奏はまさにスペクタクル。
その作品群は、とても3人組とは思えない程の異次元のクオリティを持ちつつ、どこか人間臭い部分も併せ持つのが魅力。
代表作を聴く
恐怖の頭脳改革
もう「何無双」と言えば正しいのか分かりません。
バンドの最高傑作に推す声も多い傑作。とにかく3人の凄すぎる演奏の爆発に「鍵盤無双で、ベース無双で、ドラム無双なアルバムです」「聴けば分かる」としか言い様が無いかも。これだけ弾けたら、さぞかし楽しいでしょうよ。私の脳も改革されてれば幸いです。
タルカス
キーボード・トリオが示した可能性。
『恐怖の頭脳改革』『展覧会の絵』らと並ぶ代表作の一つ。シンセを駆使したエマーソンの多彩でテクニカルな鍵盤、レイクのメロディアスに唸るベースと美しい歌声、パーマーの手数の多いドラムと、3人の比類なき演奏が『たった3人のキーボード・トリオ』というロックでは弱点ともなりえる編成の可能性を大きく提示した。
Genesis ジェネシス
プログレッシブ~ポップへ。異なる音楽性で激動の時代を生き抜いた。
60年代末~80年代にかけて、長期間にわたって活躍したバンド。奇抜な衣装や演劇的なパフォーマンスの個性派ヴォーカリスト、ピーター・ゲイブリエルを擁した初期は独特な歌唱と複雑でシンフォニックなプログレ・スタイルで幾つかの傑作を生み出した。
70年代後半からのゲイブリエル脱退後はドラマーだったフィル・コリンズがヴォーカルへ転身し、徐々にポップでシンプルな方向へ音楽性をシフトし、大ヒットを飛ばすまでに変化。
そんなロックの激動の時代を生き抜いたバンドと同じ時代を生きた世代にとっては、非常に思い入れの深い存在でもある。
代表作を聴く
フォックストロット
黄金期の最高傑作
歴史が長い分、最高傑作を挙げるのが難しいバンドでもある彼ら。ゲイブリエルを擁した初期プログレ時代では『怪奇骨董音楽箱』『月影の騎士』『眩惑のブロードウェイ』と本作とで意見が分かれる。やや本作の支持が鼻差でリードしているかも。
インヴィジブル・タッチ
自身最大のヒット作
ソロでの活躍で「世界で一番忙しい男」と評されたフィル・コリンズが牽引したポップ路線の頂点を極めた作品。もはや同じバンドとは思えない程、プログレ時代の面影は薄くなっているが、純粋に80年代の空気感を切り取ったポップ・アルバムとしての『匠の妙』を存分に味わえる。
プログレ名盤を聴く
一生に一度は聴いておくべき名盤を地域別にご紹介。
これプログレか微妙?なラインもプログレ好きならおすすめということで。
UK イギリス
レッド
第3期クリムゾンのラスト作であり、これを最高傑作に推す声も少なくない。ヘヴィ・メタルの原型とも評される重い音像と、実験性、理論と感性、叙情性のバランスが最高レベルで調和する圧巻の一枚。
デイズ・オブ・フューチャー・パスト
60年代からプログレの草分け的アプローチを魅せたバンドの、交響楽団との共演による壮大な一大コンセプト・アルバム。ロックとクラシックの融合という点でも歴史的意義の高い作品。
オマドーン
独自の世界観を持つ鬼才。アイリッシュ・トラッドやアフリカン・パーカッションを鮮やかに取り入れ、繊細で感動的なシンフォニーを紡ぎだす傑作。アンビエント好きにもおすすめ。
青い影
R&Bとクラシックの要素を含む音楽性がプログレの先駆としても語られる。名曲「青い影」はあのジョン・レノンをして「今の音楽業界で、この曲以外は聴く価値がない」とまで言わしめた。
U.K.
ジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォード、エディ・ジョブソン、アラン・ホールズワース、テリー・ボジオら凄腕達が参加したことで知られるスーパーグループの1st。2ndと共に傑作として語り継がれる。
ポーン・ハーツ
狂気・高揚・難解などの言葉がピッタリの圧倒的な熱量を帯びた演奏が終始迫る怪作。聴き返すごとに現れる的確かつインテリジェンスに満ちた構築美にさらに圧倒される。
ハットフィールド・アンド・ザ・ノース
キャラヴァンやマッチング・モールなど、カンタベリー系のメンバーが結成したバンドの1st。けして激しくはないが、ジャズや変拍子の複雑さとウィットに富んだポップさが飽きさせない大人の一枚。
ヘンリー八世の六人の妻
イエスの活動でよく知られる当時の鍵盤奏者のカリスマによるソロ名義作。彼のクラシックの素養とまるで要塞の様な電子鍵盤楽器群を駆使した流麗な演奏は一聴の価値有り。
レッド・クィーン・トゥ・グリフォン・スリー
リコーダー、バスーンなど、古楽器とエレキ楽器を巧みに操り、中世音楽とロックが見事に融合した傑作。さらにアイリッシュ・トラッドの牧歌的なフォーキーさも併せ持つ所は彼らの唯一無二の魅力。
Germany ドイツ
インヴェンションズ・フォー・エレクトリック・ギター
ディレイ等エフェクト効果を駆使したギター&シンセが縦横無尽に駆け巡るアンビエント/トランス感は、後のシーンへの多大な影響を感じさせる。
France フランス
クリアライト・シンフォニー
フレンチ・シンフォニック・サイケデリアの名盤。ドラムレスでミニマル色が香るサウンドが独特の浮遊感を生む1曲目と、リズム重視のサイケなジャズ・ロックを展開する20分の組曲が2曲という大作。
新ノア記
農夫ゴドヴァンの時空を超えた旅の物語を、シンフォニックでミステリアスなサウンドと演劇的なヴォーカルがメランコリックに描くコンセプト・アルバム。『シアトリカル』という言葉がぴたりとはまる。
ビトウィーン・フレッシュ・アン
キャメルとも比較される叙情派フレンチ・シンフォニックの名盤。メンバーはトルコ出身とあって、フランス的流麗さに、メロディなど中東的エッセンスがほのかに香る甘美な一枚。
ハロウィーン
少女の無垢で悲しげな歌から幕を開け、ダイナミズムを活かした構成で幻想的な世界に誘われるフレンチ・プログレの傑作。エモーショナルとは異次元のどこか内省的な浮遊感が独特の深みを放つ。
ルートヴィヒⅡ世
「狂王」の異名で知られ、芸術や美のみを追求し破滅した人物をテーマにしたコンセプト・アルバム。テーマにふさわしくチェンバロなどクラシカルで優雅な響きが、幻想的なロマンを演出する。
ファズ・カトル(第四局面)
アヴァンギャルド/チェンバー・ロックの代表的バンドである彼ら。偶発性を織り交ぜたダークで迷宮的な音世界は聴くものを選ぶが、はまれば中毒性が高い。
一般機械学概論
カルト的人気を誇るチェンバー・ロックの名グループの、フランスらしいエレガントなアヴァンギャルドさに溢れた傑作。人によっては思わず手に取ってしまうような、反則的な謎の邦題も魅力的。
Italy イタリア
Other EU・アメリカ・日本
666
ヨハネの黙示録をテーマにしたバンドの代表作として挙げられる2枚組大作コンセプトアルバム。映画『ブレードランナー』の音楽などで知られるヴァンゲリスが率いたことで有名。ギリシャ出身。
パーマネント・ウェイヴス
『プログレ・ハード』と呼ばれるジャンルを確立した、カナダが誇る名バンド。「ザ・スピリット・オブ・レイディオ」などシングル・ヒットも収録したプログレの大作主義にとらわれない作品。
キャプテン・ビヨンド
元ディープ・パープルのロッド・エヴァンス、凄腕ドラマーのボビー・コールドウェルらを擁する米国L.A.結成のスーパー・グループ。70年代初頭のハード・ロックやファンクを内包する豪快なサウンド。
内に秘めた炎
ジョン・マクラフリンを筆頭に、ジャズ/フュージョン畑の凄腕達による、「恐怖」すら感じさせる超絶的技巧・即興的な緊張感と巧みなアンサンブルの応酬で、プログレファンからも熱い支持を得る一枚。
イメージズ・アンド・ワーズ
世界最高峰のプログレッシブ・メタル・バンドの2nd。プログレッシブ・ロックが持つ壮大さ・複雑さと、へヴィ・メタルが持つ重さ・激しさを、曲芸的演奏で見事に融合させた傑作。
ディラウズド・イン・ザ・コーマトリアム
21世紀屈指のプログレッシブ・ロック・バンドの1st。オルタナやパンクを飲み込んだ、狂気を感じさせる演奏とクレバーなアイデアの応酬は『危険』な魅力を放つ。
パララックス
「和製キング・クリムゾン」と評された日本のプログレッシブ・ロック・バンドの2nd。クリムゾンらしさはもちろん、散りばめられた和音階の旋律など独自の日本的な陰鬱さは高い評価を得ている。
これもいかが?
プログレ好きならピンとくる作曲家をピックアップ
アーティスト | アーティスト紹介 |
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バルトーク | ロバート・フリップらプログレ系アーティスト達に影響を与えたとされる作曲家。 |
ストラヴィンスキー | 『春の祭典』『火の鳥』など、20世紀屈指の作曲家と知られる。 |
シェーンベルク | 調の束縛を離れようとする「十二音技法」の創始者として知られる。 |
マーラー | 20世紀後半に一大ブームとなった交響曲の大家。陰鬱さなど好みが分かれる。 |
リゲティ | 映画『2001年宇宙の旅』や『シャイニング』などに音楽が使用された。 |
植松伸夫 | 『FFシリーズ』で知られるゲーム作曲家。「プログレ博士」と自称する。 |
平沢進 | 古くは「日本のプログレの秘宝」と呼ばれたマンドレイクというバンドを率いていた。その後の彼の音楽性は、ジャーマンプログレからの影響も強く感じさせる。 |