通称は芥川賞。各新聞・雑誌に発表された純文学短編作品中、最も優秀なるものに呈する賞です。
通称は直木賞。単行本、各新聞・雑誌として発表された大衆文芸作品中、最も優秀なるものに呈する賞です。
第171回2024年上半期
一見一人の女性に見えるも、実は身体や意識が半分ずつ結合して生まれてきた「結合双生児」の姉妹二人の物語。著者の朝比奈さんは現役の医師であり、医師ならではの説得力のある描写も本作の魅力の一つです。「生きるとは」「自我とは」など、人間を人間たらしめる定義を今一度考えさせてくれる作品です。
カジュアルな山登りから始まるも、正規のルートから外れ、道なき道を行く「バリ山行」と呼ばれる登山をすることになった波多。危険な山道をどんどん進んでいく先輩の背中を見て、自身の生き方を問いただしていく。行き先の見えない「人生」と、非日常の「山」を見事にリンクさせた登山小説です。
『スモールワールズ』『光のとこにいてね』に続く3度目の直木賞ノミネートで、ついに受賞を果たしました。コロナ禍を生きる人々を描く、6つの物語からなる短編集です。パンデミックによって奪われた「あたりまえの日常」の大きさを、改めて読み手に痛感させてくれる作品となっています。
直木賞候補作
第170回2023年下半期
第166回芥川賞ノミネートの『Schoolgirl』に続き、2回目の候補での受賞。2030年、犯罪者を収容する施設「シンパシータワートーキョー」の設計を担った建築家・牧名(まきな)の心の葛藤を言葉巧みに描く。本作は、執筆時に生成AIが一部で使用され、選考委員の一人から「エンターテインメント性の高い作品で、芥川賞の中でも希有な作品」と講評されるなど、今までの芥川賞とはどこか一線を画した作品。「芥川賞って何か難しそう」と思っている方に特に手に取ってほしい本である。
明治時代の北海道で、犬を相棒にひとり猟を営む猟師・熊爪の物語。北海道の厳しい自然、動物を解体するシーンなど、リアリティあふれる描写に読み手は常に圧倒される。そして物語は熊との対峙で最高潮を迎えるもそこから一転、男が辿る末路とは……。『絞め殺しの樹』につづき、2回目のノミネートにして直木賞を受賞。
表題作「八月の御所グラウンド」は、夏の京都が舞台。大学生の朽木は草野球大会に参加するも、チームの人数が足りず困っていた。偶然居合わせた助っ人に入ってもらうも、彼らは……。爽やかな青春スポーツ小説かつ「万城目ワールド」に浸れる全2篇を収録。さらに味わいたい方は、『鴨川ホルモー』『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』をぜひどうぞ。
直木賞候補作
第169回 2023年上半期
重度障害者の女性・釈華が主人公の純文学小説。病のため背骨が曲がった自身を「ハンチバック(せむし)の怪物」と揶揄する釈華は、同じ難病を抱える作者自らを投影した姿であり、作品の中で釈華を通して語られるメッセージは、軽快な語り口だが痛烈だ。普段何気なく生活している読み手にとって、心に重く突き刺さる作品かもしれない。
室町幕府を開いた足利尊氏を題材にした歴史小説。作者いわく「歴史上の人物の中では群を抜いた駄目人間」であった尊氏は、足利家を継ぐことを嫌がり、出兵することにも尻込みする「ボンクラ」であった。しかしいざ戦になると連勝で、周囲にも慕われる。そんな尊氏の不思議な魅力があふれる極厚な一冊。過去『室町無頼』『信長の原理』が直木賞候補にあがるも、惜しくも受賞を逃してきた垣根涼介さんが、3回目にして満を持しての受賞となりました。
拍手の準備をしてから読んでください。冒頭、若き侍の菊之助が父の仇討ちを成しとげる。その場所は当時「悪所」と呼ばれていた芝居小屋の傍だ。その2年後、菊之助を知る侍が事件のことを探りにくる。芝居小屋の職人たちは自らの身の上話とともに、目撃証言を語ってゆく。あなたは彼らの話を前のめりになって聞き、終幕の心地よさに感激の言葉を送るでしょう。山本周五郎賞も受賞した軽快な人情噺。
直木賞候補作
第168回 2022年下半期
「あなた」が昔、娘たちと過ごしたショッピングセンター。そこで「あなた」はひとりの少女に出会う。しかし「あなた」は何故か、その少女と思うように関われない。ゆったりと過ぎていく時間の中、「あなた」が思いだしていくものは……。詩人でもある作者の、美しい言葉が溢れた作品集。
植木職人の坂井祐治は2011年、その「災厄」に見舞われる。それは彼が独立した直後のことだった。戸惑いながらも生活を立てなおそうとしていたとき、今度は妻を病気で亡くしてしまう。多くを失った彼は今もその地で暮らし、生きていく。
地図は多大な物語の上で出来ている……。この作品で描かれるのは日露戦争直前から第二次世界大戦終結後の半世紀。満洲の都市・仙桃城を舞台に、人々の野心が交錯していく。「どういう状況だと人々は大きな争いに行きつくのか?」人類の普遍的な疑問を巡る、重厚な群像劇。
現在、世界遺産となっている石見銀山。その裏にある悲しい物語とは。――銀掘は過酷な仕事だ。男たちは銀の毒で肺を患い、早死にしてしまう。それゆえ銀山の女は生涯3人の夫を持つと言われる。主人公のウメは、とある山師に拾われたことがきっかけで、銀堀たちの世界に関わっていくのだが……? 苛烈な運命に身を置くウメの、強くたくましく生きる姿をご覧あれ!
直木賞候補作
第167回 2022年上半期
自分とは異なる正しさを持った人間に、いじわるをする話。主な登場人物は、凝った手作りお菓子で上手く立ち回る芦川と、「美味しい」の共感を求められることに違和感がある二谷と、がんばりが空回りする押尾だ。3人のモヤモヤする関係性の結末は……。周りの人との接し方を見直したくなる一冊。
星をモチーフにした全5編から成る短編集。コロナ禍で恋人との関係が上手くいかない『真夜中のアボカド』など、今だからこそ読みたい話ばかりだ。大事な人間関係を喪失してしまい、途方に暮れる主人公たち。彼らは再び誰かと打ちとけることができるのか?
直木賞候補作
第166回 2021年下半期
30歳も目前、職を転々とし、不安を抱えながら自転車便メッセンジャーとして働く主人公。「ちゃんとしなきゃ」――そう思いつつも、怒りを抑えられず事件を起こしてしまう。普通に生きられない、逃げ続けてきた自分自身の闇と向き合う姿を描く。
石工・穴太衆による「絶対に破られない石垣」と鉄砲職人・国友衆による「どんな城でも落とす砲」、果たして戦いを制するのはどちらなのか? 職人たちの信念を懸けた、手に汗握る”矛盾”の対決が繰り広げられるエンターテインメント戦国小説。
信長に反旗を翻し有岡城に籠城した荒木村重は、戦の最中ながら城内で起こる難事件に翻弄されることに。荒木は土牢の囚人で”敵方”の将である黒田官兵衛に事件解決を求めるが……。同作で第12回山田風太郎賞を受賞しています。
直木賞候補作
第165回 2021年上半期
かつて東日本大震災を経験し、9年後の今はドイツの大学に通っている「私」。ある日、震災で行方不明となったはずの友人「野宮」が目の前に現れ、失いつつある記憶が呼び起こされる。夢の中のような情景を精緻な文章で紡いでいく重厚な作品です。
男女が違う言葉を話す島に、記憶を失った少女は流れ着く。「ノロ」と呼ばれ、歴史を担う女性の指導者たちが統治するその島では、「ニホン語」と「女語」が使われていた。少女は島で暮らすため、ノロを目指すことに。
麻薬ビジネスが横行するメキシコのある町から始まる物語。抗争で生き残ったバルミロは逃走先で臓器ブローカーと出会い臓器売買に手を染める。暴力的で冷酷。登場人物が次々と犯罪に巻き込まれる展開に息を呑む長編小説。
天才を家族に持った者の数奇な人生とは? 天才絵師・河鍋暁斎の娘である「とよ」は、父と同じく絵師の道を行く。しかし絵にも家族にも振り回されるばかり――。運命に翻弄されながらも生き抜いた女絵師の物語。
直木賞候補作
第164回 2020年下半期
学校とも家族ともうまくいかない高校生のあかりは、アイドルグループの上野真幸を推している。推しはあかりにとって〈背骨〉であり、生きる手立てだった。けれどある日、推しがファンを殴ったとSNSで炎上し……。
江戸の塵芥をため込んだような心町(うらまち)。そこに建つ貧乏長屋の住人達が、辛い過去や切ない思いを抱えながらも懸命に生きていく姿を描いた連作短編集。読み終わった後に心が温まる作品です。
直木賞候補作
第163回 2020年上半期
有名大学に通う陽介は、充実したキャンパスライフを謳歌していた。政治家志望の恋人、そして自分に好意を示す新入生。彼はふたりの女を行き来し……。順風満帆に見える陽介の姿を、奇妙な語り口で描く。
直木賞候補作
第162回 2019年下半期
「私」は母方の実家である長崎の島に建つ納屋の片づけと草刈りに駆り出された。そのなかで浮かび上がる古い家に残されたものの記憶をたどる。島と家、人と歴史、過去と現在の時間をめぐる物語。
日本政府によってアイヌとしての故郷と文化を奪われたヤヨマネクフと、ロシア政府にポーランド人としての言葉を奪われたプロニスワフ。二人を中心に文化と文明、民族のアイデンティティを問う史実を基にした歴史小説。
直木賞候補作
第161回 2019年上半期
人づきあいが苦手で孤独な「わたし」は、近所で見かける「むらさきのスカートの女」が気になって仕方がない。彼女と友達になるために「わたし」は異常なほど観察し、近づいていく。度を過ぎた執着心が滑稽に見える作品です。
幼い頃に浄瑠璃に魅せられた半二は浄瑠璃作者への道に進むも芽が出ず苦しい日々が続く。それでも書かずにはいられなかった半二はやがて数々の名作を生み出していく。江戸時代に活躍した人形浄瑠璃作者、近松半二の生涯を描いた傑作です。
直木賞候補作
第160回 2018年下半期
仮想通貨の採掘担当者が主人公。中絶などのトラウマを抱える恋人や、小説家への夢に挫折した同僚との日々が描かれます。現代人が抱える悩み、現代への疑問が投げかけられた新時代の小説です。
自分の弱さに焦燥感を覚えていた新米プロボクサーが、変り者のトレーナーと出会ったことで成長していく物語。町屋さんは2016年に『青が破れる』で文藝賞を受賞してデビューし、話題を集めました。
舞台は戦後から本土返還までの沖縄。幼馴染の3人の奮闘を描いた作品です。ホラーやSFなどさまざまなジャンルの作品を世に輩出している真藤さん。今回直木賞は初ノミネートでの受賞となりました。
直木賞候補作
第159回 2018年上半期
中学3年の歩は、東京から青森の山間部にある町に越してきた。平穏な日々を送っていた歩だったが、あの日、河へ火を流した日からその生活は一変する。芥川賞候補4回目にして、待望の受賞となった。
ある夏の日、女子大生・聖山環菜が自分の父親を刃物で刺し殺害した。この事件についてのノンフィクション本を依頼された臨床心理士の真壁由紀が環菜の周囲について調べていくうちに見えてきた真実とは――? 過去計5回受賞候補にあがった島本さんの納得の受賞作です。
直木賞候補作
第158回 2017年下半期
インドのチェンナイで日本語教師をしている女性がある日、百年に一度の大洪水に見舞われる。洪水の後、押し流されて堆積した泥から現れた品々。それらにまつわる出来事を彼女は追体験する。同作で新潮新人賞を受賞しました。著者のデビュー作です。
桃子さんは74歳。子どもたちは独立、主人にも先立たれてついにおひとりさまになった。そんな桃子さんの頭の中に、出身地である東北弁で語るたくさんの声が聞こえるようになる……。著者のデビュー作。史上2番目の年長受賞です。
銀河鉄道の夜の著者、宮沢賢治の生涯を、父、政次郎の視点から描いた小説。政次郎の希望とは違う生き方をしようとする息子賢治を、父として葛藤しながら見守っていく。子どもを深く愛している理想的な父親像があります。
直木賞候補作
第157回 2017年上半期
岩手県の医薬品会社に勤める「わたし」は、元同僚の日浅と親しくなるが、日浅の転職を機に疎遠になる。東日本大震災後、行方不明の日浅を捜すことをきっかけに、「わたし」は彼に裏の顔があることを知る……。文學界新人賞を受賞した、沼田さんのデビュー作です。
青森に住む小山内堅は、7歳の少女と会うために上京する。少女は自分を、小山内の亡き娘「瑠璃」の生まれ変わりだというが……。愛する人にもう一度会いたいと願う女性の、究極の愛を描いた「生まれ変わり」がテーマの作品です。
直木賞候補作
第156回 2016年下半期
19歳の山下スミトは、“谷”と呼ばれる演劇塾を目指し船に乗った。その谷で待っていたのは、過酷な肉体労働や先生との確執などの問題がある、自給自足の共同生活だった。山下さんの若かりし頃の痛切な記憶が入り交じったかのようなストーリーと展開に最後までハラハラドキドキさせられます。
ピアノコンクールを舞台に、優勝を目指す将来のピアニスト達の白熱した戦いを描いた青春群像小説。それぞれ経歴を持った天才たちの中で、予選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか――?ピアノの描写が見事で、めくるページが止まりません。
直木賞候補作
第155回 2016年上半期
36歳、古倉恵子。「普通じゃない子」と言われ生きてきた恵子は、これまでに恋愛経験はなく、コンビニでのバイト生活は18年にもなっていた。コンビニの“完璧なマニュアル”の中で生きがいを感じている彼女の前に、ある日婚活目的の新入り男性がやってきて……。
大物政治家や有名芸能人が足しげく通ったと言われる凄腕店主の営む理髪店があった。そこにある事情で最初で最後の予約を入れた「僕」。海の見える理髪店で店主と過ごす特別な時間とは――? 他、大人のための“泣ける”家族小説を収録した6つの短編集。
直木賞候補作
第154回 2015年下半期
大往生を遂げた男の通夜に子ども、孫、ひ孫たち30人あまりの親類たちが集った。皆それぞれが死に思いを巡らせる奇跡の一夜。2度目の芥川候補で受賞した滝口さんの本作は、故人の通夜により集まった三世代に渡る身内たちの行動や記憶を描いた物語。
結婚4年目の主婦はある日気づく……。“自分の顔が旦那の顔とそっくりになっている”ということに。他人同士が他人ではなくなる「夫婦」の形の違和感をユーモラスに描く。平成25年に結婚した自身の結婚生活で感じたことも作品に影響しているようです。
ときは江戸後期。女のように身ひとつで生きることができず、太平の世に行き場なく、人生に惑う武家の男たち。女たちの生き方を男目線で綴った物語。綺麗に並べられた文章がさらりと読みやすい時代小説です。異性の不可解さが共感できるかもしれません。
直木賞候補作
第153回 2015年上半期
人気お笑い芸人の作品とあって、ノミネートの時点で注目を集めていた本作。「笑い」に塗した「人間味」が、時に無骨な筆致とも呼応し、まさしく“ウケた”結果が受賞へと至りました。売れない芸人徳永。師として仰ぐ先輩神谷。笑いについてアツく議論する、そんな登場人物たちの想いと運命が描かれます。
3年前に会社を辞めた主人公の健斗は、司法書士の資格を得るため、独力で日夜勉学に励みつつ、その傍らで、苦労しながら転職活動を続けていました。そんななか、彼の隣には、毎日のように「死にたい」と漏らす祖父の存在が……。本作は「看護」を軸とした家族の物語が描かれます。テーマがテーマなだけに色々と考えさせられますが、シリアス一辺倒に堕さないユーモラスなやり取りもまた肝となっています。
直木賞候補作
第152回 2014年下半期
シングルマザーの“母と子”の物語。三十五になるさなえはカナダ人の男に捨てられ、男との子供である幼い息子希敏を連れ、海辺の小さな集落へ帰ってきた。スイッチが入ると手が付けられない不安定な息子を持て余しながら、九年前の「ある言葉」を思い出す……。表題作他、四作を収録。
主人公・圷歩の半生を描いた作品。一家の離散を皮切りに、親友の意外な行動、恋人の裏切り、自我の完全崩壊。絶望の渦にいた歩が最後に向かったのは、彼の人生に大きな影響を与えたエジプトの地だった……。
直木賞候補作
第151回 2014年上半期
舞台は東京都内にある古いアパートと、その隣に塀を挟んで建つ美しい洋館。そのアパートで一人暮らしをする、離婚したばかりの元美容師・太郎と、同じアパートに住む女性らとの日常を通して、何気ない「時間の流れ」や「暮らし」を表現しています。
建設コンサルタントの二宮とヤクザの桑原を主人公にした、「疫病神」から始まるハードボイルドシリーズの5作目。腐れ縁の主人公2人が、映画製作への出資金を持ち逃げした男を追い、関西とマカオを奔走! 巨額の資金をめぐる争いの行く末は!?
直木賞候補作
第150回 2013年下半期
仕事をやめて夫の田舎に移り住んだ「私」が体験する出来事の物語。田舎での平凡な日常の中で、見たこともない奇妙な獣を見つけた私は、この獣を追いかけていくうちに得体のしれない穴に落ちる。異界と田舎の日常のはざまを描く作品。芥川賞を受賞した表題作ほか二篇を収録。
幕末の動乱期、のちに樋口一葉の歌の師匠として知られる中島歌子は、水戸藩尊王攘夷派の急先鋒・天狗党の林忠左衛門に嫁いでいた。天狗党の暴走によって過酷な運命に翻弄されることになる彼女の一生を描く。
柏木イク。昭和33年滋賀県生まれ。不幸な家庭環境にあっても、それを口にだすことなく成長していくイク。そんなイクのそばにはいつも犬や猫がいた……。イクの半生を8章立てで切り取って描かれる連作長編小説。
直木賞候補作
第149回 2013年上半期
妻を亡くした男性の子供、3歳の幼い「わたし」の視点で、父の恋人の「あなた」を語る。「あなた」の子供の頃の日常と今の日常、父の表情や想い。全て娘の「わたし」が語り手となり、目と爪をモチーフに、日常に潜む男女のゆがんだ感情を描く実験的な作品。
今は廃虚となった北海道釧路市のホテルを舞台に、男女の人間模様を描いた7篇から成る連作短編集。恋人から投稿ヌード写真撮影に誘われた女性店員、妻の浮気に耐える高校教師、働かない年下の夫を持つホテルの清掃係。それぞれに問題を抱える人たちの「生」をリアルに描いた物語。
直木賞候補作
第148回 2012年下半期
全編横書きで書かれ、固有名詞とカタカナを排し、ひらがなを多用した独特の文体で描かれている『abさんご』。「昭和」の知的な家庭に生まれたひとりの幼子が成長し、両親を見送るまでの美しくしなやかな物語が隠されています。
大学生ならば、ほとんどの人が経験する就職活動。自分を生き抜くために必要なことは何か。影を宿しながら光を探る就活大学生の切実な歩みを描いた長編小説。就活に励む学生、就職活動をしてきた社会人にもおすすめの作品です。
直木賞候補作
第147回 2012年上半期
裕福だった過去に執着し、借金を重ねる母と弟。彼らから逃れたはずの奈津子だが、ある日、夫が不治の病にかかってしまう。介護に明け暮れる奈津子。老朽化したホテルを夫婦で訪れる旅の中で、奈津子は目をそらしていた過去と向き合っていく。
泥棒、放火、誘拐――と、5つの各編ごとに「犯罪」をテーマにしてまとめた短編集。結婚したい、ママになりたい、普通に幸せになりたい。現代の地方の閉塞感を背景に、ささやかな夢を叶える鍵を求めて5人の女性は岐路に立たされる……。
直木賞候補作
第146回 2011年下半期
『これはペンです』などで知られる作家。帽子をすりぬける蝶が飛行機の中を舞うとき、「言葉」の網が振りかざされる。希代の多言語作家「友幸友幸」と、資産家A・A・エイブラムスの、言語をめぐって連環してゆく物語。
17歳の遠馬は、愛する女性にさえ手をかける父を憎んでいた。嫌悪感を募らせながらも、自分にも父の血が流れていることを感じている。自分も父と同じなのか? 暴力的な父と、自分を描く壮絶な物語。
直木賞候補作
第145回 2011年上半期
研究者の道を辞し、男が築き上げた佃製作所。資金繰りに苦しみながらも大企業と張り合い、自社製品が採用された小型ロケットを飛ばそうと奮闘する。かつてロケットエンジンに夢を馳せた佃の、そして男たちの意地とプライドを賭した戦いが今、ここに!
直木賞候補作
第144回 2010年下半期
夢を見ない貴子と夢を見る永遠子。葉山の高台にある別荘で、幼い日をともに過ごした二人。遠子が15歳、貴子が8歳を最後に逢っていなかったが、別荘を取り壊すことになり25年の時を経て再会する。そして二人の時間が再び流れはじめる……。
19歳の北町貴多は、雇い港湾人足仕事でその日暮らしの生計、お金に困ると母親から強奪するようにお金をむしり取る生活を送っていた。友達も彼女もいない貴多。ある日、そんな彼の生活に変化が訪れる。
直木賞候補作
第143回 2010年上半期
京都の外語大学でドイツ語を学ぶ女子大生のみか子。『アンネの日記』、「一九四四年四月九日、日曜日の夜」の暗唱を宿題に出され暗記に励んでいた。ところがある日、教授と女学生の間に黒い噂が流れる。その噂とは……。
直木賞候補作
第142回 2009年下半期
直木賞候補作
第141回 2009年上半期
30を過ぎて結婚した男と女。彼は、今まで妻以外の相手とも恋愛を経験していたが、やがて自らの居場所を悟る。妻との関係に違和感を覚えながら過ごしてきた数十年という長い年月の流れを凝縮して描いた作品、日本発の世界文学。
直木賞候補作
第140回 2008年下半期
非正規雇用者として3つの仕事を持つ長瀬由紀子。彼女の目標は、自分の年収と同じ世界一周旅行の費用を貯めること。その費用は163万円。目標に向かい、その日から節約を試みるが……。
直木賞候補作
第139回 2008年上半期
親友である梁浩遠と謝志強は、1988年に名門大学に入学する。多くの学生達と議論を重ねるうちに、「愛国」「民主化」「アメリカ」などについて考えるようになり民主化運動に参加する。しかし、運動を侮辱した労働者たちと口論のすえ乱闘を起こし……。
直木賞候補作
第138回 2007年下半期
豊胸手術を受けるため、姉の巻子とその娘・緑子が、主人公の住む東京にやって来た。豊胸手術しか眼中にない巻子と、反抗期の緑子のコミュニケーション手段は「筆談」だった……。3日間に痛快に展開される身体と言葉の交錯。
直木賞候補作
第137回 2007年上半期
叔父の荷物を引き取りにアパートに行った主人公は、そこで叔父の残した日記を見つける。伯父とその妻の朋子の草稿を小説として構成していき、考察を重ね物語を作り上げていく。現代において小説を書く試みとは何なのか?
直木賞候補作
第136回 2006年下半期
母の中国への転勤で親戚のおばさんと同居し始めた主人公。駅のホームが見える小さな平屋で暮らし始め、駅のキオスクと夜にはコンパニオンのバイトをする。恋をし、吟子さんとホースケさんの恋にあてられ、少しずつ成長していく。
直木賞候補作
第135回 2006年上半期
30歳の誕生日を機に離婚をしようとするフリーターの、夫婦破綻のてんまつが語られる暑い夏の一日。愛していながらなぜずれてしまったのか? 現代の夫婦と家庭のありようを、かたちづくる男女の葛藤を描く三編を収録。
直木賞候補作
第134回 2005年下半期
福岡支社に配属された同期の太っちゃんと私は、分かり合える間柄だった。どちらかが死んだら、お互いのHDDを壊して人に知られたくない秘密を守るという約束をする。ある日太っちゃんは不慮の事故で命を落とす。約束を果たすべく彼の部屋にしのびこみ……。
直木賞候補作
第133回 2005年上半期
幼いときに両親から捨てられて養父母のもとで虐待を受けていた。あまりにも長い期間の恐怖を受けつづけたことによって、自ら恐怖を求めてしまうかのよう。彼は恐怖を克服して生きてゆけるのだろうか。
直木賞候補作
第132回 2004年下半期
妻と離婚をし、職を失った男は故郷へ帰った。旧友に頼まれて子供たちの劇の演技指導をすることになる。そこで出会う二人の少女が、死を思っていることに気づくが傍観していた。劇は少女たちにとって最後の別れの儀式なのだろうか。終わり、それとも始まり……。神町を巡る物語。
直木賞候補作
第131回 2004年上半期
下半身不随となった祖母の自宅介護を日々続ける29歳、無職の「俺」。ヘルパー、親族に苛立ちながら大麻に耽る。それでも精一杯の愛情を、祖母に注ぐ……。饒舌な文体でリアルに介護と家族とを問う、衝撃のデビュー作。
直木賞候補作
第130回 2003年下半期
顔面にピアス、背中に龍の刺青を入れた男・アマと出会い付き合いはじめたルイ。シバという人物とも関係を持ち始め、自分の舌にもピアスを開け、痛みと快楽に身を委ね肉体改造におぼれる日々を送る。ある日事件が起き、3人の運命は思いもよらぬ結末へ……。
愛しいよりも、いじめたいよりももっと乱暴な、この気持ちは……。高校に入ったばかりの「にな川」と「ハツ」は同じくクラスの余り者。にな川はあるモデルに夢中で、そのモデルに初実が会ったことがあるという話に強い関心を寄せて……。
私はたぶん泣きだすべきだったのだ。身も心もみちたりていた恋が終わり、寂しさのあまりねじ切れてしまいそうだったのだから……。男との別離の哀しみ、絶望と同居する女性を描いた表題作の他、濃密な江國香織の世界に浸れる全12篇。
直木賞候補作
第129回 2003年上半期
慎一のアパートにソープ嬢サチコが入り浸る。昼間は遊び歩き、夜は情交と酒盛りの日々を送る。慎一はサチコを伴い車で四国に旅立つが、幼稚な言葉を使い、体を売るサチコへの欲情と嫌悪が入り交じった複雑な感情は、次第に暴力・殺人願望へと変容していく。
木造の長屋ともんじゃ焼きとスカイラインを切り取る超高層マンションが調和して共存する町・月島。ここで僕たちは恋をし、傷つき、死と出会い、大人になっていく。出会ったすべてを受けとめて成長してゆく14歳の少年達を描いた青春ストーリー。
直木賞候補作
第128回 2002年下半期
海沿いにある小さな町を舞台に、34歳の実穂と60代前半の男性九十九さんの微妙な恋愛関係を、語り手である実穂の視点から描いた物語。「しょっぱい」に込められた多重的な意味とは。
直木賞候補作
第127回 2002年上半期
直木賞候補作
第126回 2001年下半期
祖父母の家に向かう車中で母はこう言った。「私、結婚するかもしれないから」。外国帰りの慎一というその男は、今までに会ってきた母の彼氏達とはどこか違っていた。慎は気をゆるすが……。
直木賞候補作
第125回 2001年上半期
直木賞候補作
第124回 2000年下半期
仕事でパリを訪れ余裕ができた私は、旧友ヤンに会うことにした。田舎に訪ねた私が出会ったのは、友につらなるユダヤ人の歴史と経験、そして家主の女性と目の見えない幼い息子だった……。タイトル『熊の敷石』に注目!
直木賞候補作
第123回 2000年上半期
母親に小遣いをせびりながら無為の日々を送っていた「俺」。ある日、ともに芸術家を志し、その才能を軽視していた友人が画家として成功したことを知る。母親が亡くなり、金に困り、絵を描こうとするが、お金がないため友人に借金を申し込む。