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行為する意識 エナクティヴィズム入門
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行為する意識 エナクティヴィズム入門

吉田正俊(著者), 田口茂(著者)

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行為する意識 エナクティヴィズム入門

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 青土社
発売年月日 2025/05/26
JAN 9784791777150

行為する意識

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2025/11/26

デカルト的劇場からの脱却の本書は、認知科学および神経科学において長らくドミナントなパラダイムであった「表象主義(Representationalism)」に対し、エナクティヴィズム(身体化された認知)の立場から極めて鋭利なメスを入れる意欲作である。 従来の「脳は外界の情報を処理し...

デカルト的劇場からの脱却の本書は、認知科学および神経科学において長らくドミナントなパラダイムであった「表象主義(Representationalism)」に対し、エナクティヴィズム(身体化された認知)の立場から極めて鋭利なメスを入れる意欲作である。 従来の「脳は外界の情報を処理し、内的なモデル(コピー)を構築するコンピュータである」という計算主義的な意識観は、クオリアや志向性の問題を前にしばしば「ハード・プロブレム」の壁に突き当たってきた。本書が提示する「意識は世界のコピーではない」という命題は、意識を静的な「状態」ではなく、環境との動的な「プロセス」として再定義することで、この壁を迂回するのではなく、乗り越えようとする試みとして高く評価できる。 「閉鎖性」と「開放性」の弁証法:自律性の再定義について、私が特に興味を惹かれたのは、著者が生命システムの「自律性」を、「環境からの孤立」ではなく「開きつつ閉じている」系として定義した点だ。 これはヴァレラらが提唱したオートポイエーシス(自己制作)の概念を、熱力学的な開放系としての現実的な生命活動へと拡張させる議論である。「切ることによってつなぐ」という逆説的な表現は、膜(境界)を作ることで初めて外部環境との相互作用(代謝)が可能になるという、生物学的実存の根本条件を見事に言い当てている。ここにおいて、意識とは脳の中に閉じ込められた幽霊ではなく、境界維持のために環境と格闘する「行為そのもの」として立ち現れる。 予測的処理の動的解釈:「誤差最小化」から「差異の消費」について、本書の白眉は、近年神経科学を席巻している「予測的処理(Predictive Processing)」やフリストンの「自由エネルギー原理」に対する独自解釈にある。 通常、この理論は「予測誤差(サプライズ)を最小化し、平衡状態を目指すシステム」として語られがちである。しかし著者は、生命が決して完全な平衡(死)には至らない点に着目し、これを「消しきれない差異を食い続けるネットワーク」として再解釈した。 「差異を消費する(consuming difference)」というフレーズは、生命の本質がネガティブ・フィードバックによる恒常性維持にとどまらず、非平衡状態における「揺らぎ」そのものを駆動力としていることを示唆しており、複雑系科学の知見とも強く共鳴する。これは、適応とは単なる受動的な調整ではなく、能動的な世界生成であることを裏付ける強力な理論的枠組みだ。 「脳過程」と「意識過程」の絡み合い 脳活動と意識の関係性を、因果的な一方向性(脳→意識)ではなく、相互決定的な「絡み合い(Entanglement)」として描く図式は、心脳問題における還元主義の限界を指摘している。数式化できない「物質性」や「オープンエンド性」を重視する著者の姿勢は、計算不可能な領域を排除しがちな現代AI研究への批判的提言としても読める。 「知覚=行為」という定式化は、ギブソンのアフォーダンス理論を神経レベルで裏付けるものであり、主観的体験がニューロンの発火パターンに還元できないのは、それが身体と環境のループの中にしか存在しないからだ、という論旨には強い説得力がある。 AI研究と人間機械論への示唆 最後に、本書がAI(人工知能)の設計に対して投げかける問いは重い。現在の大規模言語モデル(LLM)は膨大なデータを「コピー」し処理する能力には長けているが、本書の定義に従えば、そこには「意識」も「意味」も存在しない。なぜなら、AIには維持すべき「自律的な境界」がなく、環境との代謝も、死への抵抗としての「差異の消費」もないからだ。 「自分で自分の価値を作る」自律的エージェントの概念は、真の人工意識(Artificial Consciousness)を目指す上で避けて通れないマイルストーンとなるだろう。 本書は、エナクティヴィズムを単なる哲学的な思弁から、実証科学と接続可能なメインストリームの理論へと昇華させる重要な仕事である。意識を「名詞」ではなく「動詞」として、あるいは「計算」ではなく「生命活動」として捉え直そうとするすべての研究者にとって、本書は新たな視座を提供する必読の良書と言えるだろう。 この視点に基づくと、次はカール・フリストンの『Active Inference(能動的推論)』の原著論文と本書の記述を照らし合わせ、具体的にどの数理モデルの解釈において著者が「差異の消費」という動的な読み替えを行っているのか、詳細な比較検討を行う必要があると感じた。

Posted by ブクログ