オリーブオイルと作り手たち

山田美知世(著者)

• 販売会社／発売会社: KuLaScip/トランスビュー
• 発売年月日: 2025/03/10
• JAN: 9784911322024

商品レビュー

2025/04/20

本書は、イタリア・シチリア島出身の著者（ピーノ氏と推測）が、自身のオリーブオイルブランド「アグレスティス」の設立・運営経験を軸に、世界各地の情熱的なオリーブオイル生産者たちとの交流を通して、高品質なオリーブオイルが生まれる背景にある自然、文化、そして人々の物語を深く掘り下げた一冊です。「ひとしずくのオイルから広がる世界」を読者と共に旅します。

原点とアグレスティスの物語:
著者のオリーブとの関わりは、幼少期のシチリア・プッケアでの体験に遡ります。当時はテーブルオリーブ中心で、手間のかかる伝統的な栽培・収穫が行われていました。しかし、安価な輸入品の増加などにより、オリーブ栽培だけでは生計が成り立たない時代も経験します。
オリーブオイル販売会社「アグレスティス」の設立は、著者一人ではなく、若くして亡くなった親友ピッポとの二人三脚で成し遂げられました。ピッポはラベルデザインなども手掛け、完璧なパートナーでした。
販路開拓、特に当初オリーブオイル文化が根付いていなかったドイツ市場での苦労や、事業拡大に伴うボトリング設備の導入など、ブランド立ち上げ期の奮闘が語られます。
高品質への情熱とこだわり:
畑仕事: 高品質なオイルは健康な実から生まれるという信念のもと、木の周りの除草や土壌の耕うんなど、年間を通じた丁寧な畑の手入れを重視。プッケア特有の火山岩を用いた石垣は、寒暖差から木を守る知恵です。これは重労働であり、情熱なしには続けられません。
収穫と搾油: オリーブの実は木から離れた瞬間から品質が劣化するため、収穫後は迅速な処理が不可欠。アグレスティスでは手摘み収穫後、通常3時間以内、最長でも6時間以内に搾油することを徹底しています。ピーク時には夜通し作業が続くこともあります。
品質管理と評価: 国際的なコンペティションに積極的に出品し、プロの鑑定士から学び、品質向上に努めてきました。受賞歴が信頼の証となります。一方で、搾りたてのオイル（ノヴェッロ）の強烈な個性や、官能評価の重要性も説きます。著者は自ら国際コンペの審査員も務めます。
製造工程: 衛生管理を徹底した搾油所、酸化を防ぐための濾過、風味を引き出すための丁寧な撹拌、トレーサビリティ確保のためのタンク管理、添加物不使用のフレイバーオイル製造など、細部にまでこだわりが見られます。
世界の作り手たちとの交流:
ギリシャ・クレタ島: オリーブオイル鑑定士エレフテリアが、島の生産者を支援し、「クレタ島＝エキストラバージンオイルの島」というブランドイメージ確立に貢献した情熱的な活動を紹介。
トルコ: 元医療機器販売業者メメットが、病気予防の観点からオリーブオイル事業に転身。トルコの原品種にこだわり、SNSを活用したオンライン販売で独自の道を切り拓く姿を描きます。
イタリア・バリンャーナ: 子供の頃の味を求め、絶滅しかけた原品種「プリジゲッラ」を復活させた女性たちの物語。ゼロからの畑再生、専門家チーム結成、最新設備への投資など、徹底した品質追求で多くの賞を獲得。キーパーソンが全て女性である点も特徴的です。
オリーブオイルの知識と未来:
DOP（原産地呼称保護）や地中海式食事（ユネスコ無形文化遺産）、官能評価基準（IOC、マリオ・ソリナス教授）、品質保持の敵（光、温度、酸化など）といった専門知識を解説。
生産者に対し、古い常識にとらわれず、科学的な知見や最新技術を学び続ける必要性を説き、「オリーブオイルを作る10の大切なこと」を提唱します。
オリーブオイルは人類最古のオイルの一つであり、平和の象徴でもある一方、近代的な品質基準の歴史はまだ浅いことを指摘。気候変動という課題に直面しながらも、バリンャーナのような次世代の作り手によって、品質はさらに向上していくと期待を寄せます。
本書は、オリーブオイルの生産現場のリアルな姿、作り手たちの熱い想い、そして一滴のオイルに込められた豊かな物語を伝えます。読者は、オリーブオイルへの理解を深めると共に、自然の恵みと人間の営みが織りなす文化の奥深さを再認識することでしょう。