ミラーニューロン 新装版

ジャコモ・リゾラッティ(著者), コラド・シニガリア(著者), 柴田裕之(訳者), 茂木健一郎(監修)

• 販売会社／発売会社: 紀伊國屋書店
• 発売年月日: 2023/05/16
• JAN: 9784314011990

商品レビュー

2025/11/05

人が動作を行っているところを見るだけで、自分が動作を行うときと同じ脳の部位が活性化する現象をミラー・ニューロンと名付け、その具体的な状況下の実験結果を様々載せているもの。カップに入れたコーヒーを飲むところを見ることから始まり、サルとヒトの違い、他動的と自動的での違いはあるのか、情動との関係、などなど。

専門用語が勿論多いので、じっくり学ぼうと思うと素人には結構大変だが、仮定、実験内容、結果を読んでいくだけでも興味深い。
人の動作を見ていると自分もそうしている気がする現象だけを見れば、多分心当たりがある人もいるだろうし、観劇の世界ではわりと常識的な現象とも言われている。私は楽器の音を聞くと脳内で自分で演奏するという謎のシミュレーション機能があるが、これもミラーニューロン的な働きかもしれない。しかしそれを科学的に証明したという点で非常に画期的とのこと。
ミラーニューロンは共感ニューロン的な呼ばれ方をされる向きもあるが、この本では実験結果を続々とカラー画像も使いながら記載しているので、スピ的な話よりも学術書を望む人に向いていると思う。

内容もそうだが、素人には解説やあとがきがいい補足となった。サルの実験の休憩中に人がジェラート食べてたら、サルの脳が活性化したという偶然から研究が始まったというくだりがなんだか研究っぽくていいなと思った。
この世に無駄なことなんてないんだなホント…

2023/09/29

先ず思いつくのが、痛みや悲しみの共感。スプラッター映画を見れば、まるで自らが切り刻まれるような嫌悪感に襲われる。このように目の前の行動だけがミラーリングされるのではなく、映像、更には、小説のような文字媒体であっても人は動作や感情を共有する事ができる。

この共感、あるいは模倣や学習も同義に言えそうだが、つまりは行為や感性の複製こそが、人間が共通の音の振動に意味を共有するに至る能力の一つであり次には振動の意味を記号や傷の象形として用い、言葉が生まれていく。身振り手振りに意味付けしてコミュニケーションしていたものが、振動から音、音から傷へとデジタル化された。意味を仮託されたそうした記号に比べれば、目の前の人の動作に反応するなど、造作もない事に思える。

ミラーニューロンとは、霊長類などの高等動物の脳内で、自ら行動する時と、他の個体が行動するのを見ている状態の、両方で活動電位を発生させる神経細胞の事。自分事として捉える事が種全体のツール活用を促したのだろう。学術的にも面白い本だった。