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『細雪』とその時代

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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 中央公論新社 |
発売年月日 | 2020/12/08 |
JAN | 9784120053504 |


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商品レビュー
4.6
10件のお客様レビュー
お春どんをコメディリリーフとして取り上げたり、細雪を病気小説として読んだりと、視点が多角的でなかなか面白かった。 関東出身の筆者ならではのやり方だと思うが、当時の阪神の事情について様々の文献を引用して考察しているのもよかった。 概して、細雪は単純なようでいて実は複雑な物語であるこ...
お春どんをコメディリリーフとして取り上げたり、細雪を病気小説として読んだりと、視点が多角的でなかなか面白かった。 関東出身の筆者ならではのやり方だと思うが、当時の阪神の事情について様々の文献を引用して考察しているのもよかった。 概して、細雪は単純なようでいて実は複雑な物語であることがよく分かる。 ただし筆者の妙子びいきと雪子嫌いがひどく、そのために取りこぼしている要素もある。 書評とは主観的なものだから致し方ないが。 一番興味深いのは、谷崎が社会情勢にある程度の関心を寄せつつ、日常を大切にする人だったという話で、これが許せない読者も多くいるのだろうが、私は大人になった今、この姿勢の立派さもよくわかる。 だからこそ細雪に惹かれるのであろう。 これが多感な学生時代に読んでいたら、憤慨していたかもしれない。
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「細雪」ファン (…という人数が、どのくらいいるか分かりませんが。東京ドームくらい埋まるのかしら…) にとっては、垂涎の一冊。 川本三郎さんらしい(あんまり読んだことないからこういう言い方は非常に失礼)、抽象的なゲージュツ論ではなく、「細雪」の具体を訪ね歩く定年間際の老刑事のよ...
「細雪」ファン (…という人数が、どのくらいいるか分かりませんが。東京ドームくらい埋まるのかしら…) にとっては、垂涎の一冊。 川本三郎さんらしい(あんまり読んだことないからこういう言い方は非常に失礼)、抽象的なゲージュツ論ではなく、「細雪」の具体を訪ね歩く定年間際の老刑事のようなまなざし。 「細雪」と「その時代」が、立体型クリスマスカードを開いたかのように三次元に立ち上がってくる、その興奮とわくわく感。読書の快楽。 やっぱり映画版では1983年版市川崑監督作がイチオシなんです。やっぱりアレは、映画の作り手(市川崑)が確実に「谷崎フェチ」なんですよね。ただ、そうなんだけど作家として決して負けてない、奇跡のような映画。是非あれを見てから読んでもらえれば、挫折しないかと。 高峰秀子主演の1950年版も悪くないんですが、「原作への身をよじるような愛情」は、感じられないんです。それがなければ、主役を四女の妙子に据えて、妙子の闘いの物語に改変してしまうなんて、確かに2時間で終わらなければならない映画としては頷ける改変である訳です。 それはさておき。細雪が(旧字で)再読したくなる。関西に行きたくなる。こんな一冊に新刊で巡り合うようなことは、人生もう無いのでは。多謝。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
「細雪」は昭和11年11月から昭和16年4月までの約5年間の物語である。当時既にモダンな都会であった神戸・芦屋等を舞台にした女たちの物語であり、戦争のことは避けて書いてあるが、背景には戦争が忍び寄ってくる気配が感じられ、そこには姉妹たちの本家がある船場の老舗・蒔岡家の没落と重複させている。 著者は「文芸評論の楽しさとは、大きな論を語るより、細かい註をつけてゆくことにある」と、本書の細かな時代背景の描写や注釈を見るにつけ、楽しく書きあげたようだ。 当時大阪は、大工業都市「東洋のマンチェスター」と呼ばれるようになったのに引き換え、空気が汚れ住環境に適さなくなってきた。それに合わせて職住分離が進み、蒔岡家の次女の幸子と貞之助夫妻も芦屋に住んでいる。そこに三女の雪子と四女の妙子が居候をし、女たちの園と化す。 そして彼女たちが出かけていく神戸の街が鮮やかに描かれている。注釈の中でも私事になるが神戸に縁がある関係、その記述に注意がひかれる。 国際的な港町神戸は、舶来品が入ってくるハイカラの街で、トアロードや南京町はエキゾチズムをかきたてる。 三女雪子の見合いの場所は、当時最モダンなオリエンタルホテルであり、そしてこの街にはドイツ人やロシア革命で亡命してきたロシア人等外国人が多く住み、芸術サロンや新しい店がオープンした。今も残っている「ユーハイム」「フロインド・リーブ」「ゴンチャロフ製菓」「モロゾフ」等々。また日本人経営だが谷崎が命名したステーキの「ハイウェイ」(この店は阪神淡路大震災で被災して廃業。ここのステーキは最高に美味であった) 「細雪」の第1回と2回は、昭和18年の中央公論に掲載されたが、その後は時局に相応しくないとして陸軍省から発表停止処分にされている。谷崎はその後も弾圧に屈することなく戦時下も密かに執筆を続けた。失われてゆく良き時代の白鳥の歌として書いておきたいとの谷崎の気迫が、この小説を美しく豊かなものにしていると著者はいう。 細雪は何度か映画化やTVドラマ化されているが、私は市川崑監督の「細雪」(出演:岸恵子・佐久間良子・吉永小百合・古手川祐子)がことのほか気に入っている。この映画を見ると、日本の美の極致が描かれていると感じる。
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