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帰郷者 新潮クレスト・ブックス
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 新潮社 |
発売年月日 | 2008/11/30 |
JAN | 9784105900724 |
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商品レビュー
3.9
8件のお客様レビュー
150926読了。 シュリンクは今回が3作目。また長編小説が読める!!と期待があったにもかかわらず、評価は迷わず☆5つです。 5月にスイスとドイツに自分が行ったからなのか、主人公の少年時代にスイスの湖畔の祖父母の家で過ごした夏の話や、ドイツの町の情景がとてもいきいきと思い描くこと...
150926読了。 シュリンクは今回が3作目。また長編小説が読める!!と期待があったにもかかわらず、評価は迷わず☆5つです。 5月にスイスとドイツに自分が行ったからなのか、主人公の少年時代にスイスの湖畔の祖父母の家で過ごした夏の話や、ドイツの町の情景がとてもいきいきと思い描くことができました。 シュリンクの作品に出てくる父親(今回は祖父)は、とても教訓的で、真面目で、しかし多様性のよちのある、なんとも聡明な人々です。 その人たちの発する厳しく愛に溢れた美しいことばはいつも読むとぐっと涙が湧きます。 歴史や戦争に詳しい祖父、たくさんの詩を暗唱する祖母のいる主人公はなんて恵まれているんでしょう!ヨーロッパ圏の文化教養というのはかくも素晴らしいものです。 さて、本作は「オデュッセイア」をもとにした帰郷の話です。少年時代、祖父母が編集していた娯楽小説に掲載されていたある帰郷小説を、見本刷りを裏紙としてもらっていた主人公が、時を経てそれを偶然目にし、作品の結末や作者を追っていく話です。 話のなかで、大小様々なものが去り、また帰郷する話が繰り返されます。 最後は主人公が愛する人のもとを離れ、また帰郷してくるのですが… 主人公のルーツ、つまりこれまで触れられなかった“死んだ父”のことが明らかになっていくと、物語は加速していきます。 話の結末を知ってからも、あの時の描写はどうだっただろう?神話の解釈は?どんな家具を買ったっけ?偶然の再会はどんな一言だった?と、所々を飽きずに振り返られる素敵な作品でした。 図書館で借りて読みましたが、文庫本が出たら買って家に置いておきたいです。
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朗読者と同じく、戦後、ナチスに関わった人間とどうかかわっていくか、その事件をどう見ていくかを問う作品。日本人にはただの文学作品としかとらえられないだろうが、ドイツ人には重いものがあるのではと思う。
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ベルンハルト・シュリンクの年齢は、本書を書いている時点で、62歳。円熟というべき作家年齢である。43歳『ゼルプの裁き』で作家デビュー、51歳『朗読者』で世界的名声をものにした。遅咲きの作家であればこそ、戦争の影を引きずる。 この作家が純文学であろうが、ハードボイルド作家で...
ベルンハルト・シュリンクの年齢は、本書を書いている時点で、62歳。円熟というべき作家年齢である。43歳『ゼルプの裁き』で作家デビュー、51歳『朗読者』で世界的名声をものにした。遅咲きの作家であればこそ、戦争の影を引きずる。 この作家が純文学であろうが、ハードボイルド作家であろうが、実のところそれは小説スタイルの問題であって、この作家を読もうとする場合、ある意味あまり重要ではない。書かれようとしている主題は、ホロコーストの罪悪を引きずる戦後ドイツ、世界の中心となってぐらりと動いた東西統合時のドイツなのだから。すべてが大戦の落とした影であり、その影の中を光を目指して生き抜こうとする個人たちの命の物語であるのだ。 というパラグラフは、『逃げてゆく愛』という短編集の感想でのことである。その後、本書を読む限り、ベルンハルト・シュリンクという人が、作家として課せられた使命として追いかけるテーマを少しも変えていないことが明確である。 本書では、青年が、書きかけの小説の結末を知りたくて奔走を始めるところからストーリーが始まる。小さなきっかけだが、実は、この衝動はこの青年の生涯に運命づけられるほどに、強烈につきまとい、青年はこのことのために生きている、かに見えるようになる。 壮大な時間を要しながら、世界を旅し、彼は、小説がホメロスの『オデッセイ』に似た構造を持つことに気づく。そして戦後死んだとされ、しかりその実失踪した父が、この小説の書き手ではないかとの疑いを持ち始める。 書きかけの小説は、ロシア人に捕獲されたドイツ人捕虜たちが森に逃げ込むところから始まる。仲間たちは試練に遭遇して一人一人命を落としてゆき、独りの兵士だけが故郷に帰りつくが、妻は見知らぬ男と新しい生活を営んでいる。 その先に、兵士はどうしたのか。兵士と妻の間に生まれたのは誰なのか。父を探す旅は自分探しの旅でもあり、その道程は屈曲し、遠回りし、あてどもなく思える。 ヨーロッパ的作風とはこういうことを言うのだろう。謎に満ちた大戦の記憶のなかから人を探す情念の強さという意味では、映画『ロング・エンゲージメント』の原作ともなったセヴァスチャン・ジャプリゾの『長い日曜日』を想起させるものがある。 それにしても渾身の作品しか書かない彼の作風には圧倒される。時代や空間を持って行かれる。現代日本人としては、このような精神性を戦争の記憶にまさぐることのできる高貴な魂の作家の存在が欲しいように思うのだが、今のところ、ぼくは残念ながら一人としてそうした検証者や帰郷者には未だ出くわしていない。
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