帰郷者 の商品レビュー
150926読了。 シュリンクは今回が3作目。また長編小説が読める!!と期待があったにもかかわらず、評価は迷わず☆5つです。 5月にスイスとドイツに自分が行ったからなのか、主人公の少年時代にスイスの湖畔の祖父母の家で過ごした夏の話や、ドイツの町の情景がとてもいきいきと思い描くこと...
150926読了。 シュリンクは今回が3作目。また長編小説が読める!!と期待があったにもかかわらず、評価は迷わず☆5つです。 5月にスイスとドイツに自分が行ったからなのか、主人公の少年時代にスイスの湖畔の祖父母の家で過ごした夏の話や、ドイツの町の情景がとてもいきいきと思い描くことができました。 シュリンクの作品に出てくる父親(今回は祖父)は、とても教訓的で、真面目で、しかし多様性のよちのある、なんとも聡明な人々です。 その人たちの発する厳しく愛に溢れた美しいことばはいつも読むとぐっと涙が湧きます。 歴史や戦争に詳しい祖父、たくさんの詩を暗唱する祖母のいる主人公はなんて恵まれているんでしょう!ヨーロッパ圏の文化教養というのはかくも素晴らしいものです。 さて、本作は「オデュッセイア」をもとにした帰郷の話です。少年時代、祖父母が編集していた娯楽小説に掲載されていたある帰郷小説を、見本刷りを裏紙としてもらっていた主人公が、時を経てそれを偶然目にし、作品の結末や作者を追っていく話です。 話のなかで、大小様々なものが去り、また帰郷する話が繰り返されます。 最後は主人公が愛する人のもとを離れ、また帰郷してくるのですが… 主人公のルーツ、つまりこれまで触れられなかった“死んだ父”のことが明らかになっていくと、物語は加速していきます。 話の結末を知ってからも、あの時の描写はどうだっただろう?神話の解釈は?どんな家具を買ったっけ?偶然の再会はどんな一言だった?と、所々を飽きずに振り返られる素敵な作品でした。 図書館で借りて読みましたが、文庫本が出たら買って家に置いておきたいです。
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朗読者と同じく、戦後、ナチスに関わった人間とどうかかわっていくか、その事件をどう見ていくかを問う作品。日本人にはただの文学作品としかとらえられないだろうが、ドイツ人には重いものがあるのではと思う。
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ベルンハルト・シュリンクの年齢は、本書を書いている時点で、62歳。円熟というべき作家年齢である。43歳『ゼルプの裁き』で作家デビュー、51歳『朗読者』で世界的名声をものにした。遅咲きの作家であればこそ、戦争の影を引きずる。 この作家が純文学であろうが、ハードボイルド作家で...
ベルンハルト・シュリンクの年齢は、本書を書いている時点で、62歳。円熟というべき作家年齢である。43歳『ゼルプの裁き』で作家デビュー、51歳『朗読者』で世界的名声をものにした。遅咲きの作家であればこそ、戦争の影を引きずる。 この作家が純文学であろうが、ハードボイルド作家であろうが、実のところそれは小説スタイルの問題であって、この作家を読もうとする場合、ある意味あまり重要ではない。書かれようとしている主題は、ホロコーストの罪悪を引きずる戦後ドイツ、世界の中心となってぐらりと動いた東西統合時のドイツなのだから。すべてが大戦の落とした影であり、その影の中を光を目指して生き抜こうとする個人たちの命の物語であるのだ。 というパラグラフは、『逃げてゆく愛』という短編集の感想でのことである。その後、本書を読む限り、ベルンハルト・シュリンクという人が、作家として課せられた使命として追いかけるテーマを少しも変えていないことが明確である。 本書では、青年が、書きかけの小説の結末を知りたくて奔走を始めるところからストーリーが始まる。小さなきっかけだが、実は、この衝動はこの青年の生涯に運命づけられるほどに、強烈につきまとい、青年はこのことのために生きている、かに見えるようになる。 壮大な時間を要しながら、世界を旅し、彼は、小説がホメロスの『オデッセイ』に似た構造を持つことに気づく。そして戦後死んだとされ、しかりその実失踪した父が、この小説の書き手ではないかとの疑いを持ち始める。 書きかけの小説は、ロシア人に捕獲されたドイツ人捕虜たちが森に逃げ込むところから始まる。仲間たちは試練に遭遇して一人一人命を落としてゆき、独りの兵士だけが故郷に帰りつくが、妻は見知らぬ男と新しい生活を営んでいる。 その先に、兵士はどうしたのか。兵士と妻の間に生まれたのは誰なのか。父を探す旅は自分探しの旅でもあり、その道程は屈曲し、遠回りし、あてどもなく思える。 ヨーロッパ的作風とはこういうことを言うのだろう。謎に満ちた大戦の記憶のなかから人を探す情念の強さという意味では、映画『ロング・エンゲージメント』の原作ともなったセヴァスチャン・ジャプリゾの『長い日曜日』を想起させるものがある。 それにしても渾身の作品しか書かない彼の作風には圧倒される。時代や空間を持って行かれる。現代日本人としては、このような精神性を戦争の記憶にまさぐることのできる高貴な魂の作家の存在が欲しいように思うのだが、今のところ、ぼくは残念ながら一人としてそうした検証者や帰郷者には未だ出くわしていない。
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芸術のテーマとして“自分探し”は古今東西普遍のものだが、 第二次大戦後のドイツが背負うものをこのように提示された時、 日本人である私はどうしても負い目を感じてしまう。 どんなに歳を重ねても、社会的地位があっても“大人”に なりきれない主人公。 周囲を傷つけながらも自分探しを続け...
芸術のテーマとして“自分探し”は古今東西普遍のものだが、 第二次大戦後のドイツが背負うものをこのように提示された時、 日本人である私はどうしても負い目を感じてしまう。 どんなに歳を重ねても、社会的地位があっても“大人”に なりきれない主人公。 周囲を傷つけながらも自分探しを続ける彼はまさしく“子供” なのだろう。 読み進める中で、何度も彼を止めようとする自分の“大人”ぶりに 嫌気がさした。
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「朗読者」の作者が描く、帰郷者へ思いを馳せる青年の心の物語。読み応え十分の一冊。私は読むのに一月以上掛けてしまった(もちろん他の本と並行してではあったけれど) 全編を通じてオデュッセウスの物語とリンクさせようと試みられている為、あらすじくらいは知っておいた上で読むと一層楽しめる...
「朗読者」の作者が描く、帰郷者へ思いを馳せる青年の心の物語。読み応え十分の一冊。私は読むのに一月以上掛けてしまった(もちろん他の本と並行してではあったけれど) 全編を通じてオデュッセウスの物語とリンクさせようと試みられている為、あらすじくらいは知っておいた上で読むと一層楽しめるかもしれない。 訳は簡素であり大胆であり、そして美しい。
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「『それはどういう教えなの?』祖父は笑った。『愚かなことでも全力でやらなくちゃいけないってことだよ。ときにはそれが正しいことだったりするのさ』」 「朗読者」における正義の問われ方の問題は、ある意味で非常に感傷的だったと今となっては思う。答えないことで問題を解決する、つまりは問題...
「『それはどういう教えなの?』祖父は笑った。『愚かなことでも全力でやらなくちゃいけないってことだよ。ときにはそれが正しいことだったりするのさ』」 「朗読者」における正義の問われ方の問題は、ある意味で非常に感傷的だったと今となっては思う。答えないことで問題を解決する、つまりは問題そのものを最初からなかったことにしてしまう態度を遅まきながら感じたのである。しかし語っていなかったことで読む者にはその是非を咀嚼する余地が残っていたのだと、以前は考えていたのだ。 一方「帰郷者」の中でベルンハルト・シュリンクは一つの問いを実に様々な面から提示してみせる。そして「ほら、答えなんてそう簡単には出ないものなんだよ」と言っているような気がしてならない。 確かに答えは常に単純ではない。ひょっとすると問うことに見合う結果はもたらされないことだってあるだろう。もしかするとシュリンク自身が好ましく思っていないのかも知れないが、小説の中でも引き合いに出されているハンナ・アーレントの言うような、純粋な一神教的価値観に見合う正義というものは、現実の人間のさがを見誤ったものなのかも知れないとも思う。 しかし、どうにも、この小説には不穏な雰囲気がある。ドイツの現代史に思いを寄せて常に告発される側に立ち続けることの心理というものに似たような立場に置かれた国のものとしてのシンパシーを持って臨んだとしても、不穏である。シュリンクの展開する、脱構築的な意味論が、である。 テキストは文脈の中でしか意味を持たないかも知れない。それは自分が一番問うことを恐れている命題でもある。時には、その通りだなと思い、そう思った瞬間に打ち消したくなる、というような類の命題だ。だから、本書で展開される極端に開かれた形式の問いの立て方には、優れた理論ができの悪い隠れ蓑に使われているのを眺めるような恐怖が先に襲ってくる。 もちろん、一つの出来事があり、そこに因果関係を見出して、行為の意図の善し悪しを見定める、というのは余りに単純化された正義のプロセスだとは思う。様々な要因が当事者間で絡み合い、行為に多層的な、あるいは多相的な意味を与える。しかし、その複雑さは時には罰を取り除くことを導いたりもするだろうが、罪を消し去ることは決してない。そのことに対する根源的な同意が、きっと多くの人にもある筈だ。だからこそ、アーレントの主張(http://booklog.jp/users/petrohiro/archives/448084273X)には見て見ぬふりはできないし、「霧と夜」のヴィクトール・フランクルの言葉(http://booklog.jp/users/petrohiro/archives/4393364201)に心を動かされるのだと思うのだ。 シュリンクの小説家としての才は非凡であると思うけれども、本書に漂う不穏な気配が、この本を手放しで楽しんでいいものか否かを問う。それもまた読む者の手に内にあるものなのだ、と脱構築論を展開する登場人物、ド・バウワーは言うかも知れないけれど。
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言いたいことがたくさんあるのはとても伝わるんだけど詰め込まれ過ぎて焦点が絞り込めてない気がします。第一部の祖父母との思い出あたりが一番すき。
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父と子の話。1人の妻と失踪した夫と再婚相手。いくつかの話がリフレーンする。戦争によって変えられた愛の形。
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