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河岸忘日抄 新潮文庫
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河岸忘日抄 新潮文庫

堀江敏幸【著】

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河岸忘日抄 新潮文庫

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 新潮社
発売年月日 2008/04/25
JAN 9784101294735

河岸忘日抄

¥220

商品レビュー

4.3

36件のお客様レビュー

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2025/01/27

河川に碇泊している船を仮住まいとし、日々の生活をつらつらと綴り続ける長編作品。 作者の魅力でもあるアートへの蘊蓄や、文学作品への所見は影を潜め、よりとりとめのない随想のようなモノが作品を占める。 この内容で、ある程度作品として“長さ”が必要な事は理解できるが、個人的には少し冗長...

河川に碇泊している船を仮住まいとし、日々の生活をつらつらと綴り続ける長編作品。 作者の魅力でもあるアートへの蘊蓄や、文学作品への所見は影を潜め、よりとりとめのない随想のようなモノが作品を占める。 この内容で、ある程度作品として“長さ”が必要な事は理解できるが、個人的には少し冗長に感じた。

Posted by ブクログ

2021/12/01

ふとしたきっかけから、ある老人と知り合った主人公は、再び舞い戻った異国で老人が所有する船を借りる。 その船は、河を上って大海に漕ぎ出す船ではなく、セーヌらしき川の支流で繋がれ停泊している。 その船には、生活に不自由しない品々と、レコードや本などもあり、主人公の河岸での生活がは...

ふとしたきっかけから、ある老人と知り合った主人公は、再び舞い戻った異国で老人が所有する船を借りる。 その船は、河を上って大海に漕ぎ出す船ではなく、セーヌらしき川の支流で繋がれ停泊している。 その船には、生活に不自由しない品々と、レコードや本などもあり、主人公の河岸での生活がはじまる。 大家(老人)には持病があり、主人公は大家を見舞いに行く。 船にはたまに、郵便配達員や、同じように停泊船で生活しているらしき少女が訪れるくらいで訪問者はいない。 枕木さんという人から時々FAXが届く。 主人公は、時を静かに受容的に過ごしていく。 その静謐の贅沢。 堀江さんの本には独特の静けさがあり、その静けさを壊すことなく布石になるような小さな話題をさりげなくふってくる。 河岸で生活する主人公に最初に思い出させるのは、ブッツァーティの短編小説であり、 その後も、タルコフスキーの言葉やアフリカの太鼓、ショスタコーヴィッチのLP、ワインの樽、クロフツ、チェーホフ、オムレツ、ジャム、パウル・ツェランなどなど、それらの布石小道具のチョイスの趣味がよく主人公は無欲であるにもかかわらず、極上の贅沢を味わっているような気分になる。 実際、セーヌの河岸には、多くの船が停泊している。 それは、船上レストランの船もあり、日中、セーヌを往来している船もある。 この小説の主人公と同じように、河岸の停泊船で生活している方のインタヴューを見たことがある。 船内は、広く赤るく、オリジナリティにとんでいて、羨ましくなるような居宅だった。 住んでらっしゃる方は、建築家で、海底住居の設計もしているとのこと。 現実、川に浮かんだ船での生活とはどんなものだろうか。 など、思いを馳せつつ、ブッツァーティの短編のなかのKのことを考えてみたりする。

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2020/12/18

職を辞して日本を離れ、ぼんやりと日を忘れて過ごすためにフランスへ渡った「彼」は、旧知の老人が所有する居住用の船に暮らし始める。「可動式河岸」でありながら移動できない繋留された船の上で、ふとした言葉や何かのサインのように目の前に現れるキーワードに導かれ、綴られる思考の航跡。もはや青...

職を辞して日本を離れ、ぼんやりと日を忘れて過ごすためにフランスへ渡った「彼」は、旧知の老人が所有する居住用の船に暮らし始める。「可動式河岸」でありながら移動できない繋留された船の上で、ふとした言葉や何かのサインのように目の前に現れるキーワードに導かれ、綴られる思考の航跡。もはや青年ではなさそうな独り身の男性の、食事を作り、珈琲を淹れ、市場へ買い出しに行き、郵便配達夫や大家たる老人たちと言葉を交わし、本を読んで音楽を聴き、水に揺られながら眠る、そんな日々が、綴られる思考の背景として季節のめぐりをぼんやりと写し込みながら描かれる本作は、まさに流れゆく時間の河岸から届けられる手紙のよう。 異国での船で淡々と反復される日々の営為――堀江氏の端正な文章には生々しさがなく、日常感のある非日常とも、あるいは非日常感のある日常とも言える不思議な確かさと遠さが感じられて、読んでいるこちらも動かない船に揺られながら音楽を聴いているような心地になる。きっぱりとした宣言や明確な主張を切れ味よく語ることは、実は簡単で。そうではなく、ぼんやりと視界を横切っていくもの、心にふとよぎる思い、そうしたものの曖昧さを曖昧にしたまま、端正な言葉で精緻に表現していく堀江氏の筆力には感動さえ覚える。 断章形式で綴られ、思考が呼び起こす連想のままにトピックが動いていくこの作品は、季節の流れに沿って描かれている出来事に焦点を当てれば一つの大きなストーリーもあることはあるが、物語の前から重ねられている日々と物語の後も続いていく日々の、ほんの合間の「忘日抄」として、あえて区切りをつけない一束の言葉たちとして読むとき、一層の豊かさが輝く。何かが終わるわけでも、始まるわけでもない、けれど少し新しい景色が顔を覗かせるラストが、嵐も過去も別れも飲み込んで流れていく時の川の河岸に立つ「彼」の、「動かずに移動する」新たな一歩を予感させてなんとも充足した読後感。 決める、断じる、物事の輪郭を見極め、価値や意味を見出しながら進む。そんな生き方が是とされがちな現代、自分が暮らす船の対岸側からの見た目すら確かめないまま贅沢にためらい続け、受け身ではない待機としての現状維持の日々を送る「彼」の在り方に、なぜかとても憧憬を呼び起こされる作品でもある。

Posted by ブクログ