海

小川洋子(著者)

• 内容紹介: 海を渡る全ての風は目印を見つけたかのように、彼の掌の温もりを求めて吸い寄せられる――不思議な楽器を演奏する恋人の弟との出会いを暖かな筆致で描く「海」、奇妙な老人から思いがけない人生の秘訣を授かる少年を描く「ガイド」など、『博士の愛した数式』の前後に書いた7つの短編をまとめた玉手箱のような小説集。
• 販売会社／発売会社: 新潮社
• 発売年月日: 2006/10/30
• JAN: 9784104013043

商品レビュー

2025/12/13

わたしは小川洋子さんを読むと心がざわざわする。
登場人物にみんな奥行きがある、つまり、こういう人ですっていう分かりやすい単純な設定みたいなものがなくって、なんとなく多面性を感じさせる描写になっていて、それゆえに次に何が起きるか分からなくて、不安になって心がざわざわする。
この表現力がすごいよなぁ。

2025/12/09

静謐さや奥深さ、謎めいた感じを受ける。あえて開示する感じを受ける。私の思う普通とは離れた世界。今まで読んできた小川洋子さんの小説はそんな感じがして、そのことになんとも言えない魅力を感じています。

この短編集は読みやすかったです。そしてやはり、それぞれの作品に様々な静けさや奥深さを感じることができました。

【海】
鳴鱗琴という架空の楽器の奏でる音が聴きたくなりました。彼女が家族のことを多くは語らなかった理由が、ほんの少しわかる気がしました。

【風薫るウィーンの旅6日間】
じっと見守る静かな時間のあとの勘違いに驚きましたが、なぜだか充足感を感じました。

【バタフライ和文タイプ事務所】
医学部の大学院生から預かった原稿をタイプて仕上げる事務所でのこと。あるタイピストが欠けた活字を活字管理人のところへ持っていきます。読んでいるうちに、思わぬ方向へ導かれてしまいました。

【銀色のかぎ針】
たった4ページの中に、海に反射するかぎ針への思いが込められていました。切り取られた一瞬の情景を思い浮かべられました。この短さですごいと思いました。

【缶入りドロップ】
これも短いページの中に「バスのおじちゃん」の気配りが書かれていました。短いからこそ、子どもとのやり取りの大変さが伝わってきました。

【ひよこトラック】
ホテルのドアマンとしゃべらない女の子。女の子の関心ごとに付き合ってきたことが、本当のプレゼントをもたらしたように思いました。

【ガイド】
この本の4分の1くらいの長さのお話。ガイドの母を持つ僕と杖をついた男とのつかのまの旅。付けられた題名が、僕へのいい思い出になったと思いました。

2025/10/10

https://opac.lib.hiroshima-u.ac.jp/iwjs0027opc/BB01867881