「あたりまえ」を疑う社会学 質的調査のセンス 光文社新書

好井裕明(著者)

• 販売会社／発売会社: 光文社
• 発売年月日: 2006/02/20
• JAN: 9784334033439

商品レビュー

2025/01/15

『社会学の方法論の本』だと思ったが違った。読んでいる最中も、インタビューの方法や相手の集団に入り込む手法の解説かとも思った。

しかし、私のこの捉え方は大幅に誤っていた。
もちろん“「あたりまえ」を疑う社会学“というタイトル、『質的調査のセンス』と謳っているのだから、それなりに「社会学の研究をする上での心構え」や「取り組み方」にも多くのページが割かれているが、全体を通して筆者が言いたいのは『当たり前』を疑い、『普通であること』に居直らず、更に進んで、調査をする自分自身が『当然』『普通』に絡め取られそうになる中で、自分をも変えて悩んで行く姿勢。
私自身は、これから社会学を学んだり、人に薦める立場にも無いが、この本で学んだ考え方を少しでも身に付けることが出来たらと思う。

これから社会学を志す方は是非お読み下さい。

2023/09/08

社会学のフィールドワークにおいて、研究者自身が自己自身の立場そのものを問いなおされるような経験をすることに目を向け、そうした経験から社会学者はいったいなにを学ぶことができるのかという問題について、著者自身のこれまでの体験を振り返りながら考察をおこなっている本です。

著者は、近年社会学という営みに注目が集まっているといい、社会調査士という資格制度が進められていることに触れたうえで、そこでは計量的な調査技法にかんしては充実しているものの、質的研究がやや置き去りにされているという問題点を指摘しています。調査をおこなうということは、人びとの生きている現場に踏み込んでいくことであり、調査をおこなう研究者自身が彼らとのかかわりを通じて自分自身が変わっていく過程をたどるとともに、そのような体験を通して研究者自身がこの社会を生きている人びとが生身で体験している真実に触れ、それをともに生きることになるのではないかと考えます。

本書では、このような経験をもとにしておこなわれた研究の実践例が紹介されています。佐藤郁也の『暴走族のエスノグラフィー』（1984年、新曜社）をはじめ、大衆演劇の世界に飛び込むことで書かれた鵜飼正樹の『大衆演劇への旅』（1994年、未来社）や蘭由岐子の『「病いの経験」を聞き取る―ハンセン病者のライフヒストリー』（2004年、皓星社）など、質的調査における経験そのもののもつ力を示すような例を通して、社会学という営みがもっている、客観的な調査とはべつの可能性が示されています。

著者の社会学にかける熱い思いがつたわってくる内容でした。

2023/06/09

カテゴリー化という呪い。どんどん分節化してなにを明らかにしているのだろう。と研究に対して釈然としない時がある。興醒めというのかな。でもそれは研究者の視点やアプローチの工夫次第なのかもしれない。「世の中を質的に調べる」センス、もっと磨いていきたいなぁ。