アニルの亡霊

マイケル・オンダーチェ(著者), 小川高義(訳者)

• 販売会社／発売会社: 新潮社
• 発売年月日: 2001/10/30
• JAN: 9784105328030

商品レビュー

2024/10/28

読み始めから、実に1週間要した「仕事の合間でという事もあるが）
原文テクストがあって、それらが微妙に関連しあい、闇の詩情を醸す・・・遠近的に、立体的に距離感を作りつつ次々とスライドを見せられるかのように浮かんでは消え、又浮かぶ。
読み手は理詰めで読んでお行くといつの間にか迷路に入ったかの様と化し・言葉、映像は全て輪郭のない情景にあることだと・・分かる（私的に、ラスト６０頁で初めてここだと悟れた）

説明調とは程遠いこういった手法‥そうだ！「イングリッシュ・ペイシェント」を読んだ時に同じ感覚に彷徨った記憶がある。
映画は画像で説明されずとも状況について行けるが、原作との乖離は当然あることを理解する必要はある。

女性考古学者アニル・・兄のセカンドネームを身にまとい弟ガミニと３者の一体感がそこにあると思った。に流れる地に
オンダ―チェに流れる血「欧州渡来人と現地　シニハラ人との混血、上流家庭」の家系は濃く作品に反映されている（ここもイングリッシュ・・と同様）

内戦で、大統領暗殺で、中世期の様な病院や粗末な診療所等のスリランカの現状にあっても想いは「愛する家都都故国」サラスの恩師バリバナが奇異というか・・「修行の森」、隠遁していた「アヌラータプラ」「アラン・カレーの森」は引き込まれる風景だ～ラストにきて・・

”森の暮らしをする内に歴史の隅々まで陽光が当たり、何処の窪みにも雨水が溜まる”…♪

水墓、摩崖仏、仏像修復・・地平線からせりあがって森の上に出ようとする朝日・・世界からのこの優しい感触・・最後で結ばれたこの一文がオンダ―チェの作品の見えない闇の詩情に幕を閉ざした。

2020/10/03

雑草を抜くように簡単に人が殺される。そんな日常が当たり前の世界で暮らすというのはどういう感覚なのだろう？戦争は私たちが想像し得ないような価値観を生み出し、それがまかり通ってしまう。この物語はスリランカ内戦の悲惨さを国際協力(検死)という形を通して語りかけてくる。国内(スリランカ)の情勢を国外(西欧諸国)の感覚で判断すると必ず歪が生まれる。国際的判断というものは万国に通じるわけではない。たとえ不正な事だとしても、真実の追及が必ずしも道を正すとは限らない。オンダーチェは凄く悲惨な事柄を詩的な美しい文章で綴る。だから目を覆う様な悲愴な場面もすぅっと入ってくる。人間の儚さ、不条理にも嘆くわけでもなく、淡々と生活をする強さ。それらが、本当に美しく綴られる。なんでこんな文章が書けるのだろう。この作家は怪物である。とにかく、良書。

2020/06/18

マイケルオンダーチェ「アニルの亡霊」https://books.google.co.jp/books/about/%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%AB%E3%81%AE%E4%BA%A1%E9%9C%8A.html?id=89SYPQAACAAJ 読んだ。よかった。よかったけど辛い。法医学者がジェノサイド調査でスリランカへ派遣される話が幹。いろんな人物が入れ替わり登場しては消えその全員が傷ついている。ずっと暗闇の中で断片的に話は進み、描写は映像的で美しい（おわり