西洋哲学史 古代・中世

松本正夫(著者)

• 販売会社／発売会社: 慶応通信
• 発売年月日: 1990/04/15
• JAN: 9784766404500

商品レビュー

2013/04/11

タレスからトマスまでの西洋哲学史．序章で宣言される通り，本書は学説史が標榜されており，他書では必ず取り上げられるとも言える歴史的・文化的背景にほとんど言及されない．中央公論社の『哲学の歴史』を基準にすれば，その範囲はシリーズ第１巻から第３巻までの凡そ2000頁に相当する．単純にページ数だけで言えば，本書は300頁ほどである．

本書はマーカーで埋め尽くされたが，振り返って思うに，一行たりとも疎かにすることが出来ない内容である．あまりに集約されていて理解し難かったところは他書を参照しながら読み進めたが，まさにそうした使い方が本書の正当な使用法であると思われる．つまりは，古代・中世哲学史理解の主軸とし得る稀な一冊である．

本書は上梓されたのが1948年であり，その40年後の1988年に大幅に改定されたとはいえ，訳語が今の慣用と違っていることもままあり，参考文献に関しては当然ながらこの25年の間に出された翻訳や論文等には言及されていないので，もっとすぐれた参考文献表を探す必要がある．これは先に挙げた『哲学の歴史』が提供してくれるだろう．また，原語のギリシャ語・ラテン語が数多く併記されているのも本書の特徴であるが，ギリシャ語に関してはアクセント記号や気息記号の誤植が多々見受けられる．しかし初級文法程度の知識があればそれらの間違いに気付くことができるので大した問題ではない．訳語は時代によって変わろうとも，原語が移ろうことはない．

中世（スコラ）哲学に関しては，大筋を掴めるよう配慮されているが，あとがきでも断られているように，かなりの部分が省略されている．50頁しか割かれていないのであれば当然であるが，内容はぎゅうぎゅうに濃縮されている．これらに水を注いで復元するのに，私としては現在刊行中の『キリスト教思想史』（新教出版社）を参照するのが最適であると思う．