1,800円以上の注文で送料無料

骨灰 の商品レビュー

3.9

29件のお客様レビュー

  1. 5つ

    7

  2. 4つ

    13

  3. 3つ

    8

  4. 2つ

    1

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2025/11/08

【短評】 第169回直木賞候補に選出された冲方丁(うぶかたとう)による長編ホラー。 なかなかにチューニングが合わず、物語に没入する迄に相応の時間を要した。しかしながら、一旦物語に入り込んでしまえば、精神を蝕まれるが如き濃密な読書を堪能することが出来た。 大手ディベロッパーのIR...

【短評】 第169回直木賞候補に選出された冲方丁(うぶかたとう)による長編ホラー。 なかなかにチューニングが合わず、物語に没入する迄に相応の時間を要した。しかしながら、一旦物語に入り込んでしまえば、精神を蝕まれるが如き濃密な読書を堪能することが出来た。 大手ディベロッパーのIR部に籍を置く松永光弘(まつながみつひろ)は、渋谷再開発地区の地下深くで祭祀場めいた「穴」を発見する。這々の体で「穴」から帰還した光弘だが、その日を境に彼の日常が歪み始める。謎の渇き。骨を焼くような嫌な匂い。聴こえる筈の無い声。「穴」から這い出た何かが現実が侵食する。 「そう来たか」という着想がお見事。本著のタイトルでもある「骨灰」が示す忌まわしさに思わず身震いする。地面が気味悪く感じるというのは稀有な体験だ。 主人公が正気を失っていく様が緻密に描写されるため、中てられる類の作品だ。正気と狂気の変わり目が掴めない程、静かに巧みに「あちら側」に連れて行かれる感覚は凄いと思った。 他方、段々と迫ってくる類の怪異かつ光弘が割と理知的な人間であるため、序盤になかなかのめり込めず、正直に言えばやや退屈だった。「堕ちて」からはぐいと惹き込まれ、ラストシークエンス等は眼が離せなかったので、そこだけが惜しまれる。 【気に入った点】 ●「渇き」の描写が見事。「骨を焼く」というのは凡そ想像しうる乾燥の最上位だと思う。主人公に移入する類の作品につき、不思議と喉が渇く作品である。 ●終始全てが信頼できない不安定な感覚が付き纏う。アイツもコイツも何か怪しいのである。それでいて「主人公が何かを間違っている」ことが確かに感じられるため、どうにも腰の座りが悪いのだ。気持ちが悪いのだ。 【気になった点】 ●感情移入に時間を要した。正直に言えば、理由は定かではない。上手く言語化が出来ない。序盤に限った話ではあるが、ここ最近の読書で最も眼が滑ったように感じた。他に類を見ない怪異であるため、どういう立場で臨めば良いか、測りかねていたというところか。 現実が凌辱されていく様を緻密な筆致で描く一冊。得体の知れない恐怖を感じているのも一興だろう。

Posted byブクログ

2025/10/25

めっっちゃ怖かったーーーー ホラーの長編は初読でしたがこんなにじっくりと丁寧に風景や心情、登場人物の機微が分かって本当にゾクゾクした。 寝る前に読んでたらめちゃくちゃ悪夢を見ました。 それ程こわかった...。でも面白かったー!

Posted byブクログ

2025/10/04

2023年第169回直木賞候補作。 渋谷を巡る再開発に関わる大手ゼネコンが呪術的祭祀に巻き込まれる——この導入にとても期待しました。 最先端の土木建築と、平安期まで遡れる陰陽五行説。江戸は平安京を模倣し四神相応の地相を施した街だとも言われます。しかも渋谷は、京都と地形・街並みの...

2023年第169回直木賞候補作。 渋谷を巡る再開発に関わる大手ゼネコンが呪術的祭祀に巻き込まれる——この導入にとても期待しました。 最先端の土木建築と、平安期まで遡れる陰陽五行説。江戸は平安京を模倣し四神相応の地相を施した街だとも言われます。しかも渋谷は、京都と地形・街並みの類似を指摘する人もいて、四神が揃う土地だともされる。まさに素晴らしい設定でした。 しかし 物語は、「こじんまりとした恐怖」に収束してしまった印象があります。 とはいえ、冲方さんらしく儀礼や骨・灰をめぐる描写には独特の表現があり、異界に引き込む迫力がありました。暦学や方位術を深堀りしなかった分、都市そのもの、路上生活者や行方不明者を描く視点はユニークです。渋谷再開発というリアルな題材に古代の呪術を重ね合わせる設定は、社会小説的な読み方も楽しめました。 できればもう一歩踏み込んで、都市型ホラーとしてのスケールでまた書いて欲しいです。

Posted byブクログ

2025/09/24
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

工事が終わらない渋谷の地下を巡るホラー。 絶対ないとは言いきれない感じがさらに怖い。 光弘の周囲で起こる怪異、怪異に巻き込まれ変化していく感じ、周囲が蝕まれることへの恐怖…どれも絶妙でとてもおもしろかった!

Posted byブクログ

2025/09/17

まさかこんなに面白くなるとは思いもしませんでした。めっちゃ面白かった〜 最初は建築現場で起きた異常に対応する可哀想な社員の話なのかな?と気が載らなかったけど、原さんが出てきて、謎の空間とは?となった瞬間に一気に面白くなりました!そこからノンストップで祟りについて描かれていき、全体...

まさかこんなに面白くなるとは思いもしませんでした。めっちゃ面白かった〜 最初は建築現場で起きた異常に対応する可哀想な社員の話なのかな?と気が載らなかったけど、原さんが出てきて、謎の空間とは?となった瞬間に一気に面白くなりました!そこからノンストップで祟りについて描かれていき、全体像がわかる頃には物語は終盤に…でも全然飽きなくて、主人公の光弘を応援しながら読み切りました。 お化けっていうよりは祟り的な怖さ。ホラー好きにはおすすめです!

Posted byブクログ

2025/09/13

渋谷再開発と言えば東急。主人公の勤務先は東急をイメージしたのかなあなんて、ストーリーと関係ないところで、まず思いました。序盤は得体の知れない怖さからくる居心地の悪さを感じました。こういうよくわからないものが、自分の家に入ってきたらと思うと、読んでいても人ごとではない気がします。途...

渋谷再開発と言えば東急。主人公の勤務先は東急をイメージしたのかなあなんて、ストーリーと関係ないところで、まず思いました。序盤は得体の知れない怖さからくる居心地の悪さを感じました。こういうよくわからないものが、自分の家に入ってきたらと思うと、読んでいても人ごとではない気がします。途中からは、家だけでなく、家族、本人にまで影響を及ぼしと、先が気になる展開に!だんだんと生活が壊されていく様子が怖いなあと思いました。

Posted byブクログ

2025/09/11
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

建物にまつわるホラー小説。面白かった 主人公は建築関係者 施工中のビルの地下に謎のスペースを発見 その中には人が鎖で繋がられており助けてしまう ただそれは触れてはならない"贄"であった 土地の呪いに触れどんどんおかしくなる主人公に、リアリティがあって恐ろしかった 明らかにおかしいことをどんどん受け入れていく姿や贄の由来など、自分たちの生活でも起こりえそうな設定や状況に引き込まれた 最後の展開だけ、強引にハッピーエンドに持っていったように感じてしまい、個人的には不満だったので星4にしましたが、他人に勧められる本です

Posted byブクログ

2025/08/28

なかなか面白かった。東棟、どう見てもスクランブルスクエアやん。 ホラーの醍醐味というか、それを文学たらしめている所以として、名もなき弱者の声を可視化するという点がある。近頃は田舎ホラーや実話怪談にたびたび他者への差別的なまなざしが見られることについて盛んに指摘がされており、わた...

なかなか面白かった。東棟、どう見てもスクランブルスクエアやん。 ホラーの醍醐味というか、それを文学たらしめている所以として、名もなき弱者の声を可視化するという点がある。近頃は田舎ホラーや実話怪談にたびたび他者への差別的なまなざしが見られることについて盛んに指摘がされており、わたしもその点は多くのホラー好きが認識すべきだと思うが、一方、おおっぴらに声を上げることがかなわない存在の苦しみや悲しみを掬い上げることができるのもまたホラーなんだよな。 本書はこうした名もなき弱者の犠牲を描き出しているわけだが、建物の建設にともなう祭祀というモチーフを使いながら、再開発に浮かれる都会の大企業とその陰でひっそりと暮らすホームレスたちを対比させていてじつに巧いなァ。最後のところで、主人公の松永が日常の平和な暮らしを続けるためには、犠牲となった人々を見ないようにするしかないというのも、皮肉が効いている。

Posted byブクログ

2025/08/23

序盤の状況説明がくどく感じて残念感ありましたがホラー要素というかとんでも理論が段々おもしろく感じ、終盤笑ってました。 読み応えがありなんだかんだ面白かったなという作品。

Posted byブクログ

2025/08/18
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

怖いというよりどんどん取り返しのつかない状況に落ちていくのをただ見てるしかない焦燥感が強い。松永の父の過去の因縁が何なのかをもう少し明かして欲しかった。 悪神に使役され、特に理由も考えずに指令に従う主人公の姿は、細分化された仕事をその社会的影響を考えず盲目的にこなす現代人を象徴しているように思える。 また松永は操られていたとはいえ14人の人間を殺し、原と荒木が生贄となることも黙っていたのに幸せな生活を続けている。ホームレスの犠牲をある種仕方のないこととして処理しているのだ。 誰かの犠牲の上にピカピカの建物が建つという構造や再開発により居場所を奪われるホームレスなど社会批判的な面も多い。実際作中で触れられているオリンピックでも、会場の建設のために立ち退きを迫られた人々がいる。都市という空間や自分が立っている場所は今の状態で突然現れたわけではない。どんな場所にも積み重ねられた時間があり、生活がある。特に東京という常に開発が行われ、人間の熱気がたちこめているような土地ではその総量は自然多くなる。渋谷などの町は確かに活気にあふれているが、その行き過ぎたエネルギーのなかには今作のように得体の知れない物が混ざり込んでいるかもしれない。

Posted byブクログ