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幽玄F の商品レビュー

4

87件のお客様レビュー

  1. 5つ

    18

  2. 4つ

    43

  3. 3つ

    14

  4. 2つ

    3

  5. 1つ

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2024/11/12
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

アナーキー! 佐藤究さんの作品の割には、暴力が暴力を呼ぶような描写は出てこないな……と思いましたが、やってることはどこまでも純粋なのに、本当に周囲も世界も自身の願い以外どうなってもよい、という突き抜け方は半端なかったです。 漫画とかではありそうな話ですが、それらより世界観がリアルなので、余計に戦争とか貧困とか、ピリついた国同士の事情など影の部分が見えてきて、主人公の行動がどんな結果を招くかということが、否応にも意識させられます。 だけど、本当に自由に空を駆けていくときの瑞々しく澄み切った描写、果ては撃ち落とされた時の神々しさすら感じられる描写によって、一種の爽やかさすら感じました。

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2024/11/11
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

小さな頃から飛行機に憧れて、ついには戦闘機のパイロットとなった易永透(やすながとおる)は、しかし、訓練中に超音速で呼吸困難を起こして、戦闘機パイロットから外された。透は自衛隊を辞めた。自分が乗れない戦闘機を見たくなかった。 透はタイへ行く、さらにはバングラデシュへ。 バングラデシュの貧しい孤児ショフィクルに懐かれ、やがて打ち明けられた彼の友だちのメルドンドの話に、透は衝撃を受ける。 間に挟まれた伏線が回収されるにつれ、どんどん引き込まれて行く。 賢いショフィクルらしいエピローグに救われた。 精神的な事や仏教の教えが僧侶である透の祖父を通して描かれる。 孔雀のお経が蛇から身を守るものとして授けられるのが興味深かった。 蛇とは何を表すのか、最初は悪いものとして出てくるが、聖蛇ナーガは崇める対象、最後は透自身が蛇の化身のようになる。 結果はどうであれ、夢中になれるものがある人は羨ましいと思う。

Posted byブクログ

2024/09/20

飛行機、特に音速を超える戦闘機に取り憑かれた男の話。前半は透の幼少期から、航空自衛隊のパイロットになる話。後半からは、自衛隊を辞めて、タイ、バングラデシュでの生活を描く。 一度は諦めた音速の世界を、透はやはり諦めきれず、取り憑かれたのか引き寄せられたのか、戦闘機へと導かれ、幽玄...

飛行機、特に音速を超える戦闘機に取り憑かれた男の話。前半は透の幼少期から、航空自衛隊のパイロットになる話。後半からは、自衛隊を辞めて、タイ、バングラデシュでの生活を描く。 一度は諦めた音速の世界を、透はやはり諦めきれず、取り憑かれたのか引き寄せられたのか、戦闘機へと導かれ、幽玄の空へと飛び立つ。

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2024/07/28

最初は飛行機が好きでパイロットに憧れる主人公の青春物語かと思った だから半分もいかないうちの怒涛の展開であまりのスピード感に 主人公の透のマッハな生き方を感じた。

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2024/07/05

うーーん? 三島由紀夫読んでないと駄目なんかな? 何処が山場なのかよくわからなかった… うーーーん…

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2024/06/16
  • ネタバレ

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近未来の戦闘機乗りの物語。 物語自体は難しくないのだが、登場人物の心情を読み解くのが難しかったです。 文学的には仏教や護国思想が単純に戦闘機で空を飛びたいという主人公の心理と絡まっているように描かれています。 重要なアイテムとなる蛇は仏教や護国といった思想で、戦闘機(F-35B)は思想からの開放アイテムではないかと感じました。 三島由紀夫の「豊饒の海」がモチーフとのことですが、読んでいないのでわかりませんでした。

Posted byブクログ

2024/06/13

戦闘機というモチーフと、仏教というモチーフが使われており、ふたつの要素は透の人生に深くかかわってくる。ときに救いとして。ときに呪いとして。空に、戦闘機に、速さに憧れた透はパイロットを目指し、とんとん拍子で航空宇宙自衛隊の戦闘機(ファイター)パイロットとなるのだが、第1章にあたるこ...

戦闘機というモチーフと、仏教というモチーフが使われており、ふたつの要素は透の人生に深くかかわってくる。ときに救いとして。ときに呪いとして。空に、戦闘機に、速さに憧れた透はパイロットを目指し、とんとん拍子で航空宇宙自衛隊の戦闘機(ファイター)パイロットとなるのだが、第1章にあたるこの部分はまわりと馴染むことができない透の人間性と、しかしパイロットとしての異常な適正・才能を見せていくという話になっていて、ある意味『スラムダンク』的な成長と栄光に満ちた物語とも言えるだろう。しかし主人公の性格は寡黙かつ人付き合いも悪いという『戦闘妖精・雪風』の深井零みたいな奴なので、自衛隊内では浮いた存在となる。それが直接的な原因となるわけではないものの、音の壁を越えると「蛇」に身体を捉えられたような窒息感を覚えるようになった透は自衛隊を辞め、舞台は海外へ移り、冒険小説の色合いを帯びていくこととなる。 おそらくこれは社会性と純粋性についての話であり、透が感じた窒息感とは戦闘機に乗ってマッハのスピードを出しながら空を飛んでいてさえ自由にはなれない社会的制約からくるものなのだろう。透が望む速度とは、何者にも縛られず、ひたすら解放された状態で空を飛び回ることを指すのだ。 話は2030年代という近未来に移行し、やがてジャングルの奥地に墜落した戦闘機を発見するという『闇の奥』や『地獄の黙示録』の様相を呈していく。それは本作を単なるミリタリー小説ではなく、エンタメ小説であり、純文学であり、ややSFであるという宣言にも感じられた。 戦闘機に乗って空を飛ぶことは透にとって手段のひとつであって、必ずしもパイロットである必要は無かったのだろう。なぜなら透が求めているのは一定の速度を超えたスピードを「自由」に感じることであり、後半からはそれが話の主軸となるのだから。そしてその目的を達成することは、イコール仲間を裏切り、世界を裏切る行為でもある。それでもなお、透は「速さ」を求め空へ旅立つこととなり、幽玄なる空の色を知るのだった。 本作はまさにこの場面のためにある。 音の壁を越えるという物理的な解放の瞬間と、俗世間の束縛から解脱するという宗教的な体験を重ね合わせ、身体と精神が圧倒的な自由を得る瞬間。それは本来、言葉に置き換えることが不可能な出来事であり、しかしエンタメとして、そして純文学として、物語としてそのことを語ることによって、私たちもまた読書という行為を通して、その出来事を追体験するのだ。 戦闘機と自身の身体を融合させる感覚を会得している透はそこで遂に真の青空と出会い、その青さは血〈赤〉の補色なのだということを思い出す。透の純粋性が音の壁を超えるとき、それは透にとっての死を意味してもいて、呪いの象徴である蛇は透自身に、そして救いの象徴である孔雀明王もまた透自身となり、「ウロボロスの蛇」のような円環を描きながら幽玄の彼方に透(=戦闘機)は消える。 これは救いと呪いを表裏一体のものとし、それでもなお、解放の瞬間を求め続けた者の物語だ。 やがて空への渇望はバングラデシュの少年へと引き継がれ、話自体が円環のような構成となって幕を閉じる。 身体的な解放と、宗教的な解脱を、同時に、言葉として置き換え、読者に体感させる。それは小説という媒体ならではの幽玄な体験だ。

Posted byブクログ

2024/05/30
  • ネタバレ

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感想 主人公は求道者のように見える。その行く末は。作者が書きたかった三島由紀夫の世界観や仏教の世界観、音速を追い求める主人公。三島由紀夫に関する知識がないのでそこまで理解はできなかったが、ある道を追い求めての死という点では共通するのかもしれない。 あらすじ 易永透は、子供の頃から飛行機が大好きだった。高校までは旅客機のパイロットになるために勉強を頑張っていた。高校で溝口という航空機マニアに出会い、三沢基地で戦闘機を見てから、戦闘機のパイロットになりたいと願い、航空学校へ入学する。 航空学校を修了し、実機訓練でトップの成績を収め、F35乗りとなった。アメリカでの訓練で酸素不足になった経験から、透は超音速の領域で呼吸困難を起こすようになり、それが原因で空自を辞める。 空自を辞めた後は、タイ、バングラデシュと渡り、観光機のパイロットを務める。バングラデシュで出会った少年からジャングルにUFOがあると聞き、調べにいくとそれは昔、オーストラリア空軍から亡命しようとして行方不明になったF35-B機だった。仲間の助けとゲリラから資金を得て、透はもう一度音速の世界を体験する。

Posted byブクログ

2024/05/30
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

佐藤究さん『幽玄F』読了しました〜!  『そこでだ、俺は4年待ったんだ。自衛隊が立ち上がる日を。…4年待ったんだ、…最後の30分に…待っているんだよ。諸君は武士だろう。武士ならば自分を否定する憲法をどうして守るんだ。どうして自分を否定する憲法のために、自分らを否定する憲法にぺこぺこするんだ。これがある限り、諸君たちは永久に救われんのだぞ。』  あの日、三島は叫んでいた。自身の持っている精神性に少しでも近づくために、マイクや拡声器は使わなかったという。そんな三島の叫びは無常にも空に浮かぶヘリコプターの騒音にかき消されて、人々の耳には届かなかった。 自衛隊という国を護る立場にいながら、透は『護国』とは何なのかと思案していた。 そんな中、透はキドという人物に出会う。『義の行動ってのは水平的じゃなくて、垂直的なんだ。護国は水平的であり、独立は垂直的——』  透がやりたかったことは何だったのか。私は透が言っていたように『ただ戦闘機に乗って空を飛びたい』この一心であったと思う。それでいいのだと思う。人は何かをする上でもっともらしい理由を求めたがる。“社会のため”だとか、“国を護るため”だとか。自分が何かをしたいから、それだけのために人生をかける。それの何が悪いのだ。短い人生の中で本当に何かを成し遂げるためには、超音速でまっすぐに目的地に向かうしかないのだ。今すぐにでも戦闘機に乘らなければならないのだ。 『幽玄F』の最も素晴らしい点は、終わり方にあると思う。透の成功談で終わるのではなく、三島と同じように自分の考えを世界に主張したことによって、最後はミサイルに落とされる。圧倒的なバットエンドにも関わらず、どこか清々しいような。そんな透の最期を空に浮かんだ環状の飛行機雲とともに見送った気がした。 空の青とは、すなわち死の補色だった。

Posted byブクログ

2024/05/19

音速に取り憑かれた男がたどる数奇な人生。 護国、青、蛇、空などのワードとともに、仏教感を漂わせる物語になっている。 男の運命は、果たして輪廻から解脱するのか。そんなことを考えてしまう内容だった。 映画でのエンドロールに入るようなエピローグは、この物語の磁場から開放される爽やかさと...

音速に取り憑かれた男がたどる数奇な人生。 護国、青、蛇、空などのワードとともに、仏教感を漂わせる物語になっている。 男の運命は、果たして輪廻から解脱するのか。そんなことを考えてしまう内容だった。 映画でのエンドロールに入るようなエピローグは、この物語の磁場から開放される爽やかさと哀愁とを持ち合わせた、いい結末だった。 モチーフとなった「豊饒の海」も読んでみねばなるまい。

Posted byブクログ