日没 の商品レビュー
読むと気分が落ち込みそうで、避けていた小説。読むべき本なので、思い切って読む。 桐野夏生さんなので、エンタメとしても読めるが、それにしても現代と地続きなディストピアであるため、気が滅入る。 ロシアや中国はまさしくこの状態であるし、日本だって扉一枚隔てているだけ。その扉もいつ開...
読むと気分が落ち込みそうで、避けていた小説。読むべき本なので、思い切って読む。 桐野夏生さんなので、エンタメとしても読めるが、それにしても現代と地続きなディストピアであるため、気が滅入る。 ロシアや中国はまさしくこの状態であるし、日本だって扉一枚隔てているだけ。その扉もいつ開くかわからない。 今、街の空き店舗が次々に筋トレのためのトレーニング室になっている。まさに日本は筋トレブーム。 西森や東森の筋肉自慢が小説に描かれるたびに、現代日本のこの筋トレブームが不気味な予兆のように思い起こされた。 いや、身体も大事なんですけどね…。 脳よりも筋肉っていう今の状況、どうなんでしょうか。 病院で家族の付き添いをしている時に読んだので、病院の無機質で使い勝手の悪い部屋で工夫していることや、コンビニの弁当をさもしく選んでいる自分が、主人公と重なってしまい、弁当がちっともおいしく食べられなくなるというオマケ付きでした。 でも、それでも読む価値のある小説です。 桐野夏生さん、流石です。
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主人公を軟禁する組織の人々の言動に違和感を覚えた。もちろん娯楽作品なので多少のデフォルメはありなんだけど、あまりにも分かりやすすぎる悪人っぷりはちょっと引いてしまい、読んでいてあまり怖さを感じなかった。『1984』のように近未来を舞台にしていれば少し印象は変わったかもしれない。 ...
主人公を軟禁する組織の人々の言動に違和感を覚えた。もちろん娯楽作品なので多少のデフォルメはありなんだけど、あまりにも分かりやすすぎる悪人っぷりはちょっと引いてしまい、読んでいてあまり怖さを感じなかった。『1984』のように近未来を舞台にしていれば少し印象は変わったかもしれない。 ただ気になった点はそのくらいで、全体としては良い作品を読めたという満足感のほうが大きい。 ディストピア化した日本を舞台にしている時点である程度の面白さは保証されているようなものだけど、何より良かったのは主人公の行動が予測不能で、こちらがまったく思いもよらない方向に進んでいく点。作者が敷いた伏線の誘導に乗らずに、まるで主人公自らが意思を持って抗った行動をしているように読めて面白かった。もしかすると管理社会への抗いという本作のテーマに、作者と主人公を重ねているのかもしれないけど、個人的にはこのあたりが小説における「人間を描く」なんだよなあと感じ入った。まあ桐野作品の登場人物って、割と昔からこういう傾向があったような気もするけど。
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登場する言葉の言い回し、語彙に慣れないことで1章をちびちび読んでいったが、2章目以降は一気に読めた。混乱のあたり、薬飲んだらこんな感じになるんじゃないかと没入した。ディストピアの要素たくさん入ってて面白い
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桐野夏生が文学や小説の在り方を問う警醒の物語であり、小説が芸術かエンターテイメントか、表現の自由と倫理観についても考させる作品である。 ヘイトスピーチ法の成立と同時に小説もその内容を検閲し規制をすることになるという設定で始まる。 主人公の小説作品が不適とされ呼び出し状がくる。 文...
桐野夏生が文学や小説の在り方を問う警醒の物語であり、小説が芸術かエンターテイメントか、表現の自由と倫理観についても考させる作品である。 ヘイトスピーチ法の成立と同時に小説もその内容を検閲し規制をすることになるという設定で始まる。 主人公の小説作品が不適とされ呼び出し状がくる。 文化文芸倫理向上委員会(ブンリン)という政府の機関が過激な性の表現や暴力的・反政府的かなど社会性・健全性に合わないことを書いた作家を召喚する。 僻村の海岸沿いの施設に隔離収容し矯正策を施す。 所長や看守がいて牢獄のように監視と世話をし、毎日作文を書かせ検閲する。不適なものは書き直させる。 抵抗する者は特別室に拘禁しそれでも従わない者は精神科女医の実験材料とされ断崖からの飛び降り自殺として処理される。 戯画化された重苦しい思想統制の話であり、北朝鮮やロシア・中国の専制国家などでは既にこの状況である。日本でも嘗てのトラウマが薄れ平和主義に浮かれる国民を欺いて巧妙に統制が始まっているという作者の危機意識に基づいている。 同世代の故か構想の陳腐や内容の粗雑さを感じてしまう。先の見えない恐怖に絶望する描写はリアルで戦慄を誘う。強圧に晒されながらも小説家としての在り方を思考する件は流石に作者の問題意識の深さが滲み共感できる。彼女の作品は始めて読むがこれを契機に他の作品も読んでみようと思う。 作者は今、女性初の日本ペンクラブ会長である。
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暗くて救いのない小説だった。しかし、解説に沼野充義が書いているように、さすが桐野夏生はページターナー(一気読みさせる作家)だった。 日本はこれほどではないと思うが、歴史教科書の検定の問題とかを考えると、圧力はあるのだろう。世界のどこかでは実際こんなことが起こっているんだろうな。
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久しぶりに桐野夏生の作品を読んだ。現代社会の問題ーー表現の自由ーーを小難しい作品ではなく、エンターテイメントとも言える作品に仕上げ、我々読者に突きつける。 作品の表現、内容に問題があると、拉致監禁され、自由を拘束された作家が主人公。閉塞された空間で次第に思考に変化が起きたり、精神...
久しぶりに桐野夏生の作品を読んだ。現代社会の問題ーー表現の自由ーーを小難しい作品ではなく、エンターテイメントとも言える作品に仕上げ、我々読者に突きつける。 作品の表現、内容に問題があると、拉致監禁され、自由を拘束された作家が主人公。閉塞された空間で次第に思考に変化が起きたり、精神的に揺れ動く主人公の姿が、読む者にとって息苦しいくらい伝わってくる。 作品として「面白かった」と思う一方で、著者は現代社会の「表現」に関する問題点を強く突きつけていると感じた。
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空恐ろしいのひと言に尽きる。 表現の自由って何だ?自由って何だ? もしかしたら、私が存在してるこの世の中も 自由なんて存在してないんじゃないのか? 社会に適応しようと勝手に矯正させられてるんじゃないか? 考えれば考えるほど空恐ろしい。 一気読みしてしまった。
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国家権力による表現の規制が、物語の軸になっていた。 確かに、近年、国による学術、文学、芸術への介入は激しい。 しかし、それを支持する国民もいることが事実であって。 さらに、わかりやすい勧善懲悪を求める人も増えてきている。共感できないから低評価つける人が多くなってきてる。わからない...
国家権力による表現の規制が、物語の軸になっていた。 確かに、近年、国による学術、文学、芸術への介入は激しい。 しかし、それを支持する国民もいることが事実であって。 さらに、わかりやすい勧善懲悪を求める人も増えてきている。共感できないから低評価つける人が多くなってきてる。わからないことを作品が悪いと論じている人もいる。 また、違法アップロードによる漫画の売り上げ減少もあった。 要は、文化(小説)を壊そうとしているのは、なにも国家権力だけでなくて、一般国民にもいるわけで。分かりやすさを求めて、自主規制をし始めているものすらあって。 国家権力対小説家という構図を超えた、我々も射程にいれた物語を書いて欲しかった。
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当たり前のように描かれたりする作品がいつか制限されるようになる日が来るのだろうか。本好きだからこそ、軽い絶望感がある。
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ディストピアの世界を描いたフィクション。でも読んでいるうちに現在の政治や社会は似たような反社会的な物事を進めているような不安があるように感じてしまう。 また、「砂の女」安部公房や「1984」ジョージオーウェルの類の小説が好きなので、この「日没」も読みながら身震いするようだった。 ...
ディストピアの世界を描いたフィクション。でも読んでいるうちに現在の政治や社会は似たような反社会的な物事を進めているような不安があるように感じてしまう。 また、「砂の女」安部公房や「1984」ジョージオーウェルの類の小説が好きなので、この「日没」も読みながら身震いするようだった。 さすが岩波書店から出版するくらいの作品である。
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