未明の砦 の商品レビュー
『天上の葦』で報道の危機を描き、本書では労働者の危機を描きつつ、与えられた民主主義国家の日本が民主主義を咀嚼できない空気感を非常に丁寧かつリアルに描いた大書の大傑作。流石大藪春彦賞受賞作らしい著者のこれまでのベスト本。グローバル自動車企業ユシマの工場で働く期間工・派遣工の4人が、...
『天上の葦』で報道の危機を描き、本書では労働者の危機を描きつつ、与えられた民主主義国家の日本が民主主義を咀嚼できない空気感を非常に丁寧かつリアルに描いた大書の大傑作。流石大藪春彦賞受賞作らしい著者のこれまでのベスト本。グローバル自動車企業ユシマの工場で働く期間工・派遣工の4人が、ともに働く班長とのひと夏の経験から蒙を啓かされ、自分たちで労働組合を結成するまでの過程を丹念においつつ、労働問題の歴史から日本の為政者の洗脳ぶりを看破する。納得感が高く、随所に金言が織り込まれている文章は、時間をかけてじっくり読み込みたくなる。もっともっと話題になって広く読まれることを期待したい。
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これはすごかった。 最後までずっとすごい。とても面白かった。 どうにかこうにか映像化してほしい。 国家権力、大企業の圧力、一国民の小ささ。 派遣社員、期間工、正社員…いろんなくくりがあるけれど、そもそも法律の定義する社員と従業員、労働者との違いについては初めて知り、驚いてしまっ...
これはすごかった。 最後までずっとすごい。とても面白かった。 どうにかこうにか映像化してほしい。 国家権力、大企業の圧力、一国民の小ささ。 派遣社員、期間工、正社員…いろんなくくりがあるけれど、そもそも法律の定義する社員と従業員、労働者との違いについては初めて知り、驚いてしまった。 大手自動車会社ユシマの工場労働者の悲惨な労働体制を改善すべくどうにかこうにか奮闘する派遣、期間工の4人。 構造的なしんどさが続く中、最後までどうなるんだと、気になってしょうがなかった。自分の知識の無さも実感できたし、社会派小説としても、ただの小説としても万人におすすめ。 登場人物は多いが頑張って読んでほしい。 今年のベスト3に入るかもと思ってしまった。 太田愛さん、初読みの作家さん他のも読んでみよう。 〝みんながそう考えていると思えば、なんとなく自分もそう考える。そう考えるのが正しいような気になる。それが今ある世間だ。〟 本文より 自分で知識を得に行くこと、学ぶこと、知ること。それができてようやく自分の考えを持てる。 自分の考えを持つために学ぶ。その大切さを感じた。
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文章量が多く、登場人物も多いため読破するのに時間がかかってしまった。 どなたかの本棚で見かけて評価も高かったため、読んでみました。 特に何も考えず言われるままに仕事している私にとっては、とても刺さる話でした。
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かつて、「原発ジプシー」とか「自動車絶望工場」とかが、きちんと出版されていた。 もうずいぶん前だ。 その頃から、志は、劣化し続けていたことを、不都合なこととしてではなく、現実として受けとめなければならないことを。
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面白かった!みんなに読んでもらいたい。特に政治家やえらい社長さん達にも。 太田愛さん、圧巻です。 ユシマの自動車工場で働く非正規工員たちの奮闘物語。その中に大企業のトップ、政治家、警察、マスコミなどが絡まっていて奥行きが深くてどんどん引き込まれていくお話です。とにかく4人が生き生...
面白かった!みんなに読んでもらいたい。特に政治家やえらい社長さん達にも。 太田愛さん、圧巻です。 ユシマの自動車工場で働く非正規工員たちの奮闘物語。その中に大企業のトップ、政治家、警察、マスコミなどが絡まっていて奥行きが深くてどんどん引き込まれていくお話です。とにかく4人が生き生きしていて頑張れと応援したくなる。 いろんな事が学べるけど押し付けがましくなくて、生きる勇気がもらえて、登場人物たちがみんな魅力的。文庫のおねえさん、かっこいい! 未読の方は犯罪者、幻夏、天上の葦、オススメです。そして最後のページの参考文献の多さにもびっくり。さすがです。
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太田愛さんの著書は、いつもグイグイと読者を引っ張って無地な私に喝を入れてくれる。 その中で、特攻隊の文献で「覚醒剤入りのチョコレート」の事は知らなかった。震える程悲しい実話でした。 そして、ラストに向けて読者を見離さず、優しく包んでくれる。
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教わったつもりはないけど不思議と波風立てずに生きていくのが大切だという考え方が身についてしまっている。 誰も何も言わなければそれが正解みたいな世の中がいつの間にか作り上げれている。 大手企業や政治家が作り上げてきた日本に完全に飲み込まれているような心境になり、そんな事に気づきもせ...
教わったつもりはないけど不思議と波風立てずに生きていくのが大切だという考え方が身についてしまっている。 誰も何も言わなければそれが正解みたいな世の中がいつの間にか作り上げれている。 大手企業や政治家が作り上げてきた日本に完全に飲み込まれているような心境になり、そんな事に気づきもせずに生きてきたと思うと恐ろしく思いました。 民主主義になれなかったという言葉が強烈に印象に残りました。 日本という社会が今後もずっと抱えていくだろう問題に迫った作品だと思います。 参考資料を見るともちろんあの大企業でしたね笑
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さすが、刑事ドラマなどの脚本を手掛けていた太田愛さん。場面の切り替わりや話の持っていき方が見事で、どんどん前のめりになっている自分に気付きます。 非正規職員として自動車工場で働く4人の若者が労働組合を作って、自分たちの権利、人間としての尊厳を勝ち取ろうと、組織そして国家に立ち向か...
さすが、刑事ドラマなどの脚本を手掛けていた太田愛さん。場面の切り替わりや話の持っていき方が見事で、どんどん前のめりになっている自分に気付きます。 非正規職員として自動車工場で働く4人の若者が労働組合を作って、自分たちの権利、人間としての尊厳を勝ち取ろうと、組織そして国家に立ち向かっていく物語。 まず、非正規雇用の4人の若者たちが想像以上に貧しいというところに驚きました。そして、こんなものだと達観しています。でもこれは皆それぞれ、そうならざるを得ない理由があって、ただの無気力ではないのです。 ある年の夏、4人は自分たちを導いてくれる年長者に出会い急速に変わっていく。学ぶことで、自分達がどれだけ権利を奪われていたのかを知る。 たびたび議論になる何のために勉強するのか?という問いにスパーンと答えを投げてもらったような気がします。 地位やお金がなくても知識があれば闘える。逆に知識がなければ自分達が奪われていることにも気付かない。知識は武器になる。 そして、闘っても勝てる見込みがないからと初めから闘うことを放棄してはダメだということをこの作品から教えられました。勝ちたいならば、まずは土俵に立つこと。全てはそこから始まる。 波風を立てずに謙虚に生きることが美徳とされている日本人には、ガツンとくるテーマでした。 まずは選挙に行こう!そう思います。
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圧巻。食事を取るのも邪魔くさく感じられるほどこの物語の濁流に巻き込まれるようにページをめくりました。まさに今、問題になっている日産の下請法違反とシンクロするような自動車会社の労働問題が主題として貫かれています。が、思い出すのは2008年秋葉原事件において当初、犯人がトヨタの期間工...
圧巻。食事を取るのも邪魔くさく感じられるほどこの物語の濁流に巻き込まれるようにページをめくりました。まさに今、問題になっている日産の下請法違反とシンクロするような自動車会社の労働問題が主題として貫かれています。が、思い出すのは2008年秋葉原事件において当初、犯人がトヨタの期間工であることが取り上げられていたこと。登場するのが創業家社長の苗字と同じ社名の自動車会社だからかな?失われた30年と言われる期間に労働者派遣法の改正も何度か行われていて、また2019年には働き方改革関連法案も施行され「働く」ということの意味が21世紀になって激しく揺れ動いていることをよくエンターティメントに昇華させていることに驚きました。さらに2017年に成立したテロ等準備罪の初適用というストーリーを取り込んでいるのにも驚愕です。ちなみにその法律が国会を通った翌朝の新聞の見出しが「テロ等準備罪」と「共謀罪」で真っ二つ割れていたことが記憶にあるのですが、その政権と社会の揺れみたいなものも活かされています。産業界と政権党と警察官僚の密接な関係とか、とにかく現在の日本を取り巻く見えないヤバい状況をモチーフとして取り込んでいます。パーティ券という政治と金の問題もしっかり入っています。そして何よりも、こういう胸苦しい?胸糞悪い?要素を陰々滅々に仕上げるのではなくて希望の物語にしている作者の力にただただびっくりしました。これミステリーでもあるし、アドベンチャー小説でもあるけど、読み終わってすぐの印象は4人の主人公のビルドゥングスロマンなのじゃないかな?ということ。4人の夏の〈文庫のねえさん〉の書庫での読書体験は、自分にとっても「失われた30年」を理解するガイドでもありました。(ちょっと説明過剰かもしれないけど…)最後の最後に判りましたがこれが新聞の連載小説だったとは!新聞、小説に負けずに社会の裏にもっと光を!
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
多額の政治献金によって政治家を動かし、政治家を通して警察という国家権力まで自分たちの味方につけた巨大企業は、労働者をいくらでも代わりのきくコマとして使い捨てていく。そんな巨大自動車製造企業の工場の過酷なラインで、非正規の工員として働く4人の若者たち。 何かを考える余裕すらなく生きてきた4人が、ともに過ごした一夏の経験をきっかけに、自分たちの置かれている状況を自覚し、日本で非正規労働が拡大してきた歴史的経緯について知ったことで、労働者を人間扱いしない巨大企業に対して、戦いを挑むことを決め、動き始める。 物語の3分の2ぐらいまでは、彼らの置かれている状況、つまりは現在の日本の状況(非正規雇用の拡大、従順であることを是とする学校教育、政治と金の問題、いつの間にか成立してしまった共謀罪などなど)がどうしようもなさ過ぎて、先が気になりつつも、読むのがしんどかった。 自分の頭で考え行動する複数の人たちの動きがつながっていくことで、希望が持てる形でおわったので、最後まで読んでよかった。 結局は、一人一人が自分で考えて行動しなくては、何も変わらないんだよね。「一人後からでは何もできないから」と言っているだけでは、何も変わらないんだよね。 日本の労働運動の歴史や、諸外国との権利意識の違いなどについても、物語の中にうまく収められていて、勉強になった。
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