それは誠 の商品レビュー
主人公・佐田誠君のちょっとした振る舞いに身に覚えがあり過ぎて、高校時代のあれやこれやを想起してたまらなくなる。現代日本における『ブレックファスト・クラブ』的人間関係はもちろん、「修学旅行の自由行動の一日」っていう設定が余りにも青春で、読了後は確かな余韻。
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すごく優しい高校生たちの話だった。 両親のいない僕は、かつて自分を引き取ろうとしていた叔父に会うため、修学旅行の班別行動で一人抜け出して日野へ向かうことを画策する。同じ班の男子たちが行動を共にし、女子たちの協力も得て、先生にバレずに叔父との再会を果たす。というのが筋だけれど、社会的には弱者と呼ばれる人々に、過度な気遣いをせずに接することのできるこの高校生たちはすばらしい。この、というより、一般に大人よりも、弱い人々の友であるのは子どもたちだと思った。吃音の松や叔父を労わりつつ差別せずに扱ったり、孤児である僕を変に哀れまずにフラットに接したり。自分の特待が解除されないかばかり気にしているような蔵並も、知恵を駆使して僕が叔父を待つ時間を捻り出す。そのチームプレイの積み重ねが胸熱だし、この旅行中できるだけたくさん僕の笑顔の写真を撮った方が勝ち、というこの三班の隠れたゲームも、優しさあふれたものじゃなかろうか。吃音で結婚できないから誠を引き取ろうとしてると邪推されて家を出た叔父にも彼女がいてよかった。その叔父が、来てくれてありがとうと言っていたというのは本当なのか、三班メンバーの優しいフォローなような気もする。 高村先生と話した、もし子どもが溺れたら助けてやることはできないけど一緒に溺れる、っていう宮沢賢治の話は象徴的で、溺れている僕に同行して叔父に会いについてきてくれる男子たちは一緒に溺れているのだし、そして一緒に集合時間に遅れて一芝居打つ三班メンバーも一緒に溺れているのだし、それによって誠は助けられているのだ。とにかく優しい話。 「本物の読書家」や「未熟な同感者」でも、書くということの形而上的意味を考察していた感じがしたけれど、今回も易しい形で所々触れられていた。
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修学旅行を機に上京する男子高校生が1日だけの自由行動の日を使って離れて暮らす叔父に一目会おうと行動を起こす。 最初はバラバラだったクラスメイトが少しずつ友達になっていく。 身の回りにあってでも勝手に距離をとって寂しさを感じていたりすることはたくさんある。 改めて、周りを大切にしよ...
修学旅行を機に上京する男子高校生が1日だけの自由行動の日を使って離れて暮らす叔父に一目会おうと行動を起こす。 最初はバラバラだったクラスメイトが少しずつ友達になっていく。 身の回りにあってでも勝手に距離をとって寂しさを感じていたりすることはたくさんある。 改めて、周りを大切にしようと思える。
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高校生の青春小説と一言でいってしまうとそれまでだけれど、読了後も心に余韻を残す秀作だ。 タイトル名、装丁の夕日の色と4人の姿も。 芥川賞には毒が足りないのかもしれないが、候補作になり、読む機会を与えてくれたことに感謝。
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物語としては読みやすい。修学旅行の自由行動日に佐田のおじさんに同じ班の男子が会いに行くという、まだ時間が無限にある若者の時間の無駄遣い行動が瑞々しい。若者の間だけにあるコミュニケーションは自由であり、どんな境遇でもお互いを尊重できる。引率の先生を騙そうとする悪のりも若者の特権だ。...
物語としては読みやすい。修学旅行の自由行動日に佐田のおじさんに同じ班の男子が会いに行くという、まだ時間が無限にある若者の時間の無駄遣い行動が瑞々しい。若者の間だけにあるコミュニケーションは自由であり、どんな境遇でもお互いを尊重できる。引率の先生を騙そうとする悪のりも若者の特権だ。そんな清々しい物語のように思ったが、作品自体は技巧を試して失敗した感じもする。分かりやすそうで、きちんと読み解けたか心配になった。
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乗代雄介さん、とても良い。「皆のあらばしり」がとても好き。 青春だと思う。高校生のリアルな感情がよく書けていて、共感できる。 おじさんがよく歌っていた曲に出てくる歌詞。ギターを弾きながら歌う。「それは誠」タイトルの意味を知る。 学校にバレたら特進解除。ハラハラする。 大冒険で、先...
乗代雄介さん、とても良い。「皆のあらばしり」がとても好き。 青春だと思う。高校生のリアルな感情がよく書けていて、共感できる。 おじさんがよく歌っていた曲に出てくる歌詞。ギターを弾きながら歌う。「それは誠」タイトルの意味を知る。 学校にバレたら特進解除。ハラハラする。 大冒険で、先生にバレないように、作戦を練って? 修学旅行の班行動を抜け出す男子4人。 はじめは、全く仲良しとはいえない雰囲気だったのに。 でも女子を含め、班の連携が良かった。 警察と話したときもドキドキした。 こんな修学旅行は、絶対に忘れないよね。 松くんのお母さんも素敵。 じわじわくる(泣) 背伸びして成長するのだと思った。 いい話だった。 芥川賞は残念だったけど、これからの乗代さんの話も楽しみに待ちたい。
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学校をサボりがちで友だちのいない高二の僕は「東京修学旅行の思い出を忘れないうちに書き留めておこう」とパソコンに向かった。佐田誠の語り文は荒くザラついている。『旅する練習』と同じ著者なのか?と初めは違和感を覚えたが、(p.38)で一気に物語に引き込まれた。 自由行動の希望地を「佐田...
学校をサボりがちで友だちのいない高二の僕は「東京修学旅行の思い出を忘れないうちに書き留めておこう」とパソコンに向かった。佐田誠の語り文は荒くザラついている。『旅する練習』と同じ著者なのか?と初めは違和感を覚えたが、(p.38)で一気に物語に引き込まれた。 自由行動の希望地を「佐田くんの行きたいところ」と書いた松くんの思いに心揺さぶられた。 三年前の代が勝ち取った「修学旅行二日目の全日自由行動」についてクラス担任が語り始める。生徒の権利を認める学校側。その裏に隠された"大人の事情"を生徒らはよく見ているなぁと感心した。 と同時に「まるまる一日が自由行動になったんだから別によくない?」と今どきの子らしいドライな面も垣間見れて微笑ましかった。そういえば、私の高校の修学旅行先も東京で、当時の自由行動が2時間だったことを思い出した。 一日目の夜、宮澤賢治の「イギリス海岸」の話をしてくれた美人教師、高村先生。「川で溺れてる時に、一緒に溺れてやろうって人と、助けてやろうって人がいたらきみならどちらに来てほしい?」かと聞かれた誠は「二人ともそこにいたら、溺れている人はきっと助かる」と答えた。 この言葉が特待生、蔵並くんの気持ちを動かす。「松はお前と一緒に溺れてやろうと思っている。それなら僕は・・」 生き別れたおじさんに会いに日野に行く誠、松と大日向と共に蔵並もついてきたのだから、言葉の力って凄い。 父もなく母もいない。物心ついた時からずっと泳ぎながら溺れていた誠の心にしっかり届いたのだから! 著者は風景描写も上手い。 低い宙を舞うケヤキの葉が、陽光を受けてきらきら光る。女の子はしゃがみこむと、両手に落ち葉を山と盛り投げ上げた。強い輝きが目の前で滝をつくる。 枝を離れた葉は誰にも踏まれないまま積み重なり、日の光を浴び、時々の雨に洗われ、また天日干しされを何度も繰り返して、豊かで清潔な厚みをつくった。ここでは人も風も水も、ただ通り過ぎるだけなんだ。 誠と3人の男の子たちが行動を共にした一日が見事に描かれている。 無機質なパソコンから打ち出された名前には表情がない。それぞれが書いた名前の残るしおりを手にした時、思い出が輝く光のように浮かび上がってくるのだと思う。表紙には浅黄色の夕日が広がり、坂道を歩く4人の後ろ姿を包み込んでいるようで温かい気持ちにさせられた。
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『旅する練習』以来、乗代雄介さん2作目でした。4度目の芥川賞ノミネートも、結果的に受賞に至らず残念でしたが、『旅する練習』の清々しさは好みで、本作は先入観なしに読みました。 物語の語り手は、高二の佐田誠。回想する形で綴られています。複雑な家庭環境の佐田こと〝僕〟は、修学旅行...
『旅する練習』以来、乗代雄介さん2作目でした。4度目の芥川賞ノミネートも、結果的に受賞に至らず残念でしたが、『旅する練習』の清々しさは好みで、本作は先入観なしに読みました。 物語の語り手は、高二の佐田誠。回想する形で綴られています。複雑な家庭環境の佐田こと〝僕〟は、修学旅行のグループ別自由行動から抜けて、生き別れの叔父に会う計画を立てます。 登場人物も、高二の同じ自由行動グループの男女が中心で、青春群像劇になっています。 元々仲がよかったメンバーではなかったのですが、佐田の生い立ちや過去を知り共有することで、心情が変化していきます。 結果的に男子3名が佐田の傍に寄り添い、女子も協力(口車を合わせ)し、読み手もスリルと背徳感を味わいながら、メンバーに不思議な友情が芽生えていく、その変容が読みどころと思います。 叔父さんの扱いやかなり大胆なことをしている割に軽い(青い)高校生に、少々響いてこない面もありましたが、若者の瑞々しい会話・心理描写は、改めて上手だなあという印象を強くしました。 まだ2作品しか読んでいませんが、乗代さんは登場人物(主人公)に「書かせる」ことにこだわりをもっているのでしょうか? 他作品も読みながら、今後も注目していきたいと思います。
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修学旅行で、ある冒険を実行する高校生メンバー達。会話が進むうちに、我が子の友人達との会話が思い起こされた。思春期の馬鹿馬鹿しい風景を切り取ったようでありながら、愛おしい時間を彼らと共に過ごし清々しい気持ちになった。 年齢的に青春ものを読むのはキツイなと思いつつも手に取ったが、読後...
修学旅行で、ある冒険を実行する高校生メンバー達。会話が進むうちに、我が子の友人達との会話が思い起こされた。思春期の馬鹿馬鹿しい風景を切り取ったようでありながら、愛おしい時間を彼らと共に過ごし清々しい気持ちになった。 年齢的に青春ものを読むのはキツイなと思いつつも手に取ったが、読後感はとても良い。
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芥川賞候補作。 読み終わって、なんかいいな〜この青春!って感じだった。 修学旅行の自由行動の一日で、同じ班の男女7人の距離が近づいて行く感じがとても良かった。 主人公は最初はめんどくさいやつだな…とあんまり好きじゃなかったけど、読み終わる頃には愛着が湧いていた。
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