本売る日々 の商品レビュー
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感想 作者の古書に対する知識がすごい。当時、どのような本が出回っていたのか?本屋がどのように生計を立てていたのか?を見てきたかのように書いている。 しかも、それを物語風にして平易に記している。内容としては小説というか、当時のことを記した文献に近いように感じた。村の名主や篤志家が書にしたため、保管したからこそ昔の歴史が分かるのだなぁ、などと感じた。 あらすじ 江戸時代の物の本屋の話。主人公は松月堂という本屋を営んでおり、村の名主に本を売り生計を立てている。当時の本は、金持ちしか手に入れることが出来ないものだった。 本屋が名主とどのように接し、当時の人がどのようなことに興味を持っていたのかが記されている。 主なお題は、画集、和歌、医集。
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江戸時代の書物を行商する男と、地方の篤書家の交流。地についた生活のさまが描かれる。小路幸也の東京バンドワゴンシリーズにも通じる、本が人を結びつける。 3編目。今みたいに印刷機がないから皆、書き写した。医学は皆で書き足していくもので、秘伝として独占しない。秘訣と思って盗んだ若者の後...
江戸時代の書物を行商する男と、地方の篤書家の交流。地についた生活のさまが描かれる。小路幸也の東京バンドワゴンシリーズにも通じる、本が人を結びつける。 3編目。今みたいに印刷機がないから皆、書き写した。医学は皆で書き足していくもので、秘伝として独占しない。秘訣と思って盗んだ若者の後悔の日々。師と弟子のその心構えの違い。
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一話目の惣兵衛とのくだりは、鳥肌がたつ思いだった。 二話目は、こちらの目に期待がはいってしまったか、ものたりなさを感じた。 三話目は、志もやりたいこともない私には、眩しく、うらやましかった。 せめて 西島晴順の『さかしら』を排し、『まこと』の心を失わずに『すなお』に従ったような身の処し方、 沮一先生の爽快なまでの高く広い視野、 心に留めたいと思う。いつか、すこしでもあやかれるように。
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一行目:「貝原益軒の『楽訓』ですけどね」と、小右衛門は言った。 著者の既読2冊に強い印象がなかったので、期待せずに。書名で、本の話だから一応読んでおくか、くらいの。 そしたらもう、とんでもなく面白かった。自分でもなぜだかさっぱりわからないが、久しぶりに本の中に入り込んで、空気...
一行目:「貝原益軒の『楽訓』ですけどね」と、小右衛門は言った。 著者の既読2冊に強い印象がなかったので、期待せずに。書名で、本の話だから一応読んでおくか、くらいの。 そしたらもう、とんでもなく面白かった。自分でもなぜだかさっぱりわからないが、久しぶりに本の中に入り込んで、空気や間合いも感じ取って没頭した。 表題作「本売る日々」もいいが、最後の「初めての開板」が完成度が高く、読了感もたまらなかった。 とはいえ、私のようにどハマリする人は多くないだろうから、勢いでオススメするのもためらわれる… お金をためて少しずつ本を買い足す客。注文通りの本を売らず、今その人に合う本をすすめる本屋。昔も今も変わらない大事な光景… 最終話で、苦心を重ねて辿り着いた成果を誰にでも広めて良い、とあっさり村医者に言われた主人公は。 以下引用。 「私は唖然としていた。世の中に、こんな人物が存在さているのが信じられなくて、穴の開くほど先生の横顔を見つめた。そして、俗人丸出しの、問いを投げかけた。 「しかし、先生」 こういうことは、丸ごとわかるか、まるでわからないか、だ。半端はいけない。わかったような気でいてはならない。」 この、わかったような気でいてはならない、が人として最大級に大切なことだ、とガツーンとやられた。
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本の雑誌8月号ベスト4位に選ばれていたので気になって購入。 やはり印象に残ったのは最終話。 なぞの医者がなぜ名医として生まれ変わったのか、それを紐解いていく本屋さん。 本屋さんの葛藤にこちらも心を揺さぶられながら読み進めていくと、最後は心暖まるお話。良かったね!本屋さん。
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筆者モノ2作目(既読は「妻をめとらば)」) 子育て期は時代小説ばかり手に取って、嵌まり過ぎるほどだったので 何やら 懐かしい思いで時代小説の空気感~文字を辿る。 小さな島国、そこで繰り広げられるちまちました世界観にうんざりして離れただけに、貝原益軒・荻生徂徠・塙保己一から始まっ...
筆者モノ2作目(既読は「妻をめとらば)」) 子育て期は時代小説ばかり手に取って、嵌まり過ぎるほどだったので 何やら 懐かしい思いで時代小説の空気感~文字を辿る。 小さな島国、そこで繰り広げられるちまちました世界観にうんざりして離れただけに、貝原益軒・荻生徂徠・塙保己一から始まって行く国学論は正直、お~と思うほど。 主人公の盛業が「本を売る人」とはいうものの その背景や仕事ぶりを描いている青山氏の博学ぶりに、仰天。 当時の山野を歩く周囲に出たであろう狼、名主や旦那衆、豪農の主人らを相手に語りだけでなく、様々な引出しを用意して綱を引いたり 押したり 心休まる時間がないような平助の日々の心情。 彼の人となりに徐々に引き込まれて行く。 1,2編は男女問題を核に、3編は医学に携わる者の在り様を趣向凝らした観点から綴っている。 江戸期というが中期過ぎの時代だろうか。日本、江戸幕府は中盤。文化文政でも見えるように この時期 爛熟期独特の豊穣たる文化が花開いて行く半面、ともすると視野狭窄臭が顕著になっていった時間。 国民のごく限られたもののみが文字を読め、「本の世界を泳ぐ」ことができた この時代。 地位があり、金が潤沢で生活にゆとりがあった人の間だけを歩いていた平助の商売。 限られた空間とはいえ、かなり文化水準の高い空気を吸っていた感がある。 紙屋から端を発し、「本」に魂を込め、「本を渡す」、「本によって新たな一面が、時代が開いていくことに、一見なよやかな風を持ちつつ、信念はゆるぎない一人の男」のとある断面を描いているこの作品。 W受賞は当然といえる。こういった形で日本の中世期が眼前に再現され、私の読書が 「一見静謐ながら熟した世界」に浸れたのは拾いものだった。
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江戸時代の本屋さんが主人公。意表を突く設定に引き込まれる。その博学ぶりにも。庶民の暮らしぶりが鮮やかに目に浮かぶ。「立ち位置を踏み外さない事が肝要」「医は一人では前へ進めません。みんなが技を高めて、全体の水準が上がって、初めてその先ヘ踏み出す者が出る。一人で成果を抱え込むのではな...
江戸時代の本屋さんが主人公。意表を突く設定に引き込まれる。その博学ぶりにも。庶民の暮らしぶりが鮮やかに目に浮かぶ。「立ち位置を踏み外さない事が肝要」「医は一人では前へ進めません。みんなが技を高めて、全体の水準が上がって、初めてその先ヘ踏み出す者が出る。一人で成果を抱え込むのではなく、みんなで自慢し合わなければダメ」
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最初の一編はひとつひとつ言葉の意味を調べながら読んだので読みにくいなという印象でしたが、二編目以降は難しい言葉も多くなくスルスルと読めました。二編目がお気に入りです。時代小説ははじめてでしたが、とても面白く同作者の本をまた読んでみたいなと思いました。
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江戸時代後期と思われる時代のとある地方藩の本屋店主が本を通じた縁から、隠れた事情を持った人々と関わり、もつれた糸を解きほぐしていくことに繋がっていく物事が三編つづられている。 本好きが高じて、紙屋から本屋に転身した店主の本マニアぶりが身近に感じられることもあり、微笑ましく読んだ。...
江戸時代後期と思われる時代のとある地方藩の本屋店主が本を通じた縁から、隠れた事情を持った人々と関わり、もつれた糸を解きほぐしていくことに繋がっていく物事が三編つづられている。 本好きが高じて、紙屋から本屋に転身した店主の本マニアぶりが身近に感じられることもあり、微笑ましく読んだ。なかなか独特な間合いの部分もあり、しっとりなだけじゃなく、新しさも感じられた。一泊二日の出張のお供に持ち出したが、飛行機の中でさくりと読むのにちょうどよかった。
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焦りから少なくない借金を背負うことになり、稼ぎを増やすため本を売る行商として様々な地をまわっている平助 本当に本が好きで好きで、どうしたって雑には扱えずごまかして接することもできない、商売人としては真面目過ぎるのでは?と思うほど その誠実さが、同じく本の愛好家に好かれ信用されるところなのだろう その繋がりのおかげで夢の版行まで辿り着けた最後は良かった
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