黄色い家 の商品レビュー
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主人公の名前から『置かれた場所で咲きなさい』というタイトルの本が思い浮かんだ。実際読んだことはないのだが、置かれた場所というキーワードを切実さを孕んだものに感じながらこの物語を読み進めた。 花は高校生のとき、自分では選択できない場所で黄美子さんと出会い、救われる。黄美子さんと黄色が満ちているところで生きるために懸命に咲こうと頑張り続けるのだが、この先どうなっていくのか忍び寄ってくる不穏な気配に続きが気になり600ページを2日で読了。 生真面目で人のために汗を流せる花は、生きていく術でありまた仲間との場所でもあるスナックレモンを再開するためにいくつかの選択を重ねていくのだが、そもそもまともな社会を知らない。というか触れ合うことも難しい環境に置かれている。そこて盗難や火災といった事件に遭う度に水が下流に流れるようにナチュラルに闇の世界に足を踏み入れていく。現実も犯罪に手を染めてしまう人はこんなケースが多いのかもと思った。犯罪を犯すラインがその人的にはっきりとあったわけではなく、環境や縁、運とかによって戻れないところまできてしまったことにある時気づくのではなかろうかと。 或る女の子の堕ち方をまざまざと見せつけてくれた小説だった。彼女をまともな世界に踏みとどまらせたのは何だったのだろうか?花にとってある瞬間はまぎれもなく救いであった黄美子さん。ニュースで黄美子さんの記事を見た20年後に、当時のことを思い出し放って置けずに会いにいく。切ないがあたたかい。この最後のシーンのおかげで読後感は悪くなかった。
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家出した花の15歳から20歳までの記録。裏社会の中で生きてきた黄美子さんと琴美さん、映水さんの中でスナック「れもん」は花の全てになった。金があるところにあり、ないところにはにはない不条理。生真面目な花の側面と犯罪が結びついた時の展開にドキドキする。 キラキラした10代と対象的に闇...
家出した花の15歳から20歳までの記録。裏社会の中で生きてきた黄美子さんと琴美さん、映水さんの中でスナック「れもん」は花の全てになった。金があるところにあり、ないところにはにはない不条理。生真面目な花の側面と犯罪が結びついた時の展開にドキドキする。 キラキラした10代と対象的に闇の中でひっそり咲く線香花火のような花と黄美子さんが愛おしい。
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読み始めと後で、黄美子さんへの見方が全く変わった。黄色い色の結末がどうなるのかは最初に明らかにされて分かっているのに、どうしてそこに至るのかは全く予想もつかず、続きが気になり読む手を止められなかった。 弱きものたちのやるせなさ、切なさが苦しい。 どうか花には幸せになってほしい。
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やってることは違法行為(カード詐欺)だけど、花が朝ドラ主人公かのように真っ直ぐで一生懸命なもんで、つい応援してしまう。 親も友人も頼りにならない、縋れるのは「黄色」だけ。 ひとり覚悟を決めて大爆走する花のエネルギーが凄まじく、引っ掴まれて一緒に走らされてるような気分になった。 ...
やってることは違法行為(カード詐欺)だけど、花が朝ドラ主人公かのように真っ直ぐで一生懸命なもんで、つい応援してしまう。 親も友人も頼りにならない、縋れるのは「黄色」だけ。 ひとり覚悟を決めて大爆走する花のエネルギーが凄まじく、引っ掴まれて一緒に走らされてるような気分になった。 川上さん初のクライムサスペンスということで、確かに終始ハイテンションではじめての読み心地。 けれど花と黄美子さんが近所のお祭りに出かけたときの夏の風景のきらめきや、母親が白いハイヒールを買って嬉しくて部屋で穿いたままでいる場面の切なさは、今までのどの作品にも通底してるまなざしだ。 私はそれに触れたくて川上作品を読み続けているのだと思う。 思い出しては嬉しいような切ないような気持ちになるささやかな記憶、それらをお守りにして胸に忍ばせていたい。
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主人公の花を取り巻くやるせない環境に徐々に追い詰められ、笑顔を失い暗く金に染まってゆく花の結末をページをめくる手を止められずに最後まで一気に読み切ってしまった。 長編でここまで最初から最後まで没頭して読める本は滅多にないと思います。
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客観的に見ると酷い話が、無知な花の主観で語られて、その温度差によって悲しさがくっきりと際立ってたように思う。 全体の流れというか運びがキレイで、ストレスなく一気読みできました。 白昼夢みたいな黄美子との出会いから、どことなくおままごとみたいなスナック開業編の充実感があり、 だんだんと暗い坂道を下っていく後半、蘭と桃子に苛立つ花の心理描写とか、黄美子が生気を失っていく様相にじっとり焦りと不安を膨らませられて、 最終的な狂気と破綻までを、花の若い心を通して丁寧に引っ張っていってもらえた。 その道中の、個人的に印象的に残ったシーンがいくつもあったのでメモしておく。 ・食べ物がいっぱい入ってる冷蔵庫の奥の光 ・琴美登場 withごんちゃま ・店長は花とやりたかったはず、と言われてすごく嫌な気持ちになったこと ・200万円を持ってファミレスに戻って母がまだ居た ・「お腹空いてるのかなとか、そういうことしか私は分からない」と伝える黄美子 ・映水「もう気にすんな、全部終わったことだよ」 描かれている風物や犯罪の姿は90年代のものだけど、こうして全力で必死で生きている人たちの存在というか、 彼らを再生産し続ける社会の本質は厳然とあるね。 すごいパワーのある小説だった。
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感想のみ書きます。 善と悪の境界に肉薄する、今世紀最大の問題作ーと帯にありますが、黄美子は善だったのか、それとも悪だったのか…。 行き場のなかった高校中退の花は黄美子がいなければもっと酷い目に遭っていたかもしれないと思います。 十七歳はまだ子どもです。 ひとりでは生きられませ...
感想のみ書きます。 善と悪の境界に肉薄する、今世紀最大の問題作ーと帯にありますが、黄美子は善だったのか、それとも悪だったのか…。 行き場のなかった高校中退の花は黄美子がいなければもっと酷い目に遭っていたかもしれないと思います。 十七歳はまだ子どもです。 ひとりでは生きられません。 P429より まともな仕事についてまともな金を稼ぐことの大事さ。でもわたしがわからなかったのは、その人たちがいったいどうやって、そのまともな世界をまともに生きていく資格のようなものを手にいれたのかということだった。どうやってそっちの世界の人間になれたのかということだった。わたしは誰かに教えてほしかった。 花の気持ちは痛いくらいわかりました。 私だっていつ花のような境遇になってもおかしくなかったです。 けれど、周りがちゃんとやってくれたから今はこうしていられます。 人なんていつどうなるのかわかりません。 花には頼ることのできない(200万円も子供から平気で奪っていく)母親しかいなかったのです。 黄美子さんと、黄色い家は一時、花の幸福の象徴でした。だからそれを守るために犯罪にも手を染めました。 蘭や桃子は「わたしたちは黄美子さんに連れていかれたのだ」と言いましたが、花にとって黄美子さんとの関係はラストシーンが物語っている通りだったのだと思います。
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黄色は幸せの色だ。 冬が終わり、春を連れてくる幸せの色だ。そんな黄色に守られていたはずの家の、苦しみに震える。 ただただ、幸せになりたかっただけなのに。ただただ大好きな人たちと一緒に暮らしたかっただけなのに。 15歳で家を出た花。毒母のもと、絶望の中で生きていた自分に優しさをくれた黄美子と、初めて友だちになった蘭と桃子。四人で毎日一生懸命お金を稼いで暮らしていたはずなのに。 どうしていつもうまく行かないのだろう。 持つ者と持たざる者、騙す者と騙される者、そして、逃げ出せる者と逃げ出せない者。 花がすがった一本の細い糸。自分を掬い上げてくれた黄色い糸。その糸の先にはいつも黄美子がいた。いや、いると思い続けていた花の、その必死の思いが切ない。 生きるために犯罪に手を染める。いけないことだとわかっていても現実味のない、その犯罪に麻痺していく花の心。人はこうも軽々と悪の坂を転げ落ちていくものなのかと思う一方で、「悪」の意味を深く考える。 誰のための悪。何のための悪。 大好きな人を、仲間を必死に守ろうとしたが故の「悪」。 花はどこで間違えたのだろうか。どこからやり直せば幸せになれたのだろうか。 誰の子どもとして生まれたのか、誰に育てられたのか、によって人の運命が決まる残酷さ。 黄色は幸せの色。そう思っていたけれど、この小説を読んでから、どうしても黄色の後ろにある影を思わずにはいられない。 花の人生を変えた黄美子とは、いったいどういう人だったのだろう。とらえどころのない黄美子のカケラが読み終わってからも自分の中に澱の様に残っている。
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2023/02/21リクエスト 5 花は、黄美子に年をとること、年をとるにもお金がないと困ること、など不安と恐怖について話を聞いてほしかったとき面倒臭い態度をとられたことに傷つく。 私が言い出さなければ、いつまでも問題はないままだった。他の三人は、この状況が自分の生活と直結していると思えないようだった。 金はいろんな猶予をくれる。考えるため、眠るため、何かを待つ、病気になる… 主人公の花が20年前に母の知り合いの黄美子と出会い、一緒に暮らし、スナック「れもん」を始める。キャバクラ嬢の蘭、店に来た客の桃子と4人で家族のように暮らした日々の話。東村山で花が母と住んでいた文化住宅は風呂なし共同トイレ。家出して黄美子とスナックを始めたが火事で店を失う。 母親からはお金の無心に来られ、黄美子は知的障害すれすれ。 黄美子の母親は服役中。蘭の家族も貧困世帯、桃子の家はお金持ちだが家族崩壊。 困ったとき、正しい助け先を選ばないと、「金のなる木」と裏社会で利用され尽くし捨てられる。もしくは殺される。 すべての選択が、選んではいけない方へ、いけない方へ、と続いていく。 残念だったのは、花がお金を置いて黄美子だけを残して家を出たとき、そんなにうまく抜けられるのか、蘭、桃子は口を閉ざしたのか。そのあたりをもう少しきちんと書いてほしかった。
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●なぜ気になったか 川上未映子さんの作品、第138回芥川賞作「乳と卵」しか読んだことないけど、あまり楽しめなかったような記憶が…。はたして今は楽しめるのかを、この作品で確認してみたい ●読了感想 とてもとても楽しめた。600ページの長編を飽きさせずひきつけ続ける筆力はすばらしい...
●なぜ気になったか 川上未映子さんの作品、第138回芥川賞作「乳と卵」しか読んだことないけど、あまり楽しめなかったような記憶が…。はたして今は楽しめるのかを、この作品で確認してみたい ●読了感想 とてもとても楽しめた。600ページの長編を飽きさせずひきつけ続ける筆力はすばらしい。テーマ、登場人物、感情、ストーリー進行などの絡まり具合は著者ならではで稀有。今更だが他の作品も読んでみよう #黄色い家 #川上未映子 23/2/20出版 #読書好きな人と繋がりたい #読書 #本好き https://amzn.to/3k4f4Qt
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