プロトコル・オブ・ヒューマニティ の商品レビュー
右脚を失ったダンサーがハイテクの義足を通じてダンスを取り戻していく序盤は、スピード感と迫力があり、物語に引き込まれた。 一方で、中盤に描かれる主人公が父親の介護に苦しむエピソードは、自分自身も似た経験を持つだけに感情移入してしまい、読んでいて胸が締め付けられるようだった。 全...
右脚を失ったダンサーがハイテクの義足を通じてダンスを取り戻していく序盤は、スピード感と迫力があり、物語に引き込まれた。 一方で、中盤に描かれる主人公が父親の介護に苦しむエピソードは、自分自身も似た経験を持つだけに感情移入してしまい、読んでいて胸が締め付けられるようだった。 全体を通して、AIと人間性、AIと身体性という現代的かつ深遠なテーマに迫った非常に考えさせられるSF作品だった。 特に、AIは個性を持つことが可能なのか、AIが真の芸術を創造できるのかといった問いへの深い考察が印象的で、読後も心に残る作品だった。
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アンディー・ウィアーに触発され、日本のSFを読む。タイトルにある「プロトコル」は「通信の約束」のこと。人と人、人とコンピューターが通信する、つまり意思疎通を図る際には共通のお約束が必要で、それが崩れるとコミュニケーションできなくなる。本書では、近未来を舞台に、足を失ったダンサーと...
アンディー・ウィアーに触発され、日本のSFを読む。タイトルにある「プロトコル」は「通信の約束」のこと。人と人、人とコンピューターが通信する、つまり意思疎通を図る際には共通のお約束が必要で、それが崩れるとコミュニケーションできなくなる。本書では、近未来を舞台に、足を失ったダンサーとAI義足、ロボットダンサーによる公演が行われる。AI義足がダンサーの意図を読み取り、それを周囲のロボットに共有し、かつてないステージが繰り広げられる。ダンサーは直感で、ロボットはセンサーで観客の様子を把握し、それをダンスに反映させる。プロトコルが正常でコミュニケーションが取れている証。一方、ダンサーの父は、車の運転を誤り、妻(ダンサーの母)を死なせ、自らも認知症を発症する。ダンサーには兄がいるが、遠く離れた場所で働いており、家族には関心がない。父とは、ダンスを通じて理解し合う瞬間があるが、徐々に意思疎通ができなくなる。プロトコルが機能しなくなっているということ。ステージは大成功するが、そこには危うさもある。現実を振り返ると、スマホやPC、SNSでの会話等は得意でも、人間同士の通信(会話)が苦手という人が増えている。人間同士のコミュニケーションのプロトコルが崩れているのかと思うと、ちょっと怖い。
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途中で読むのをやめてしまいたいと思うほど苦しくなった。人間とAIのダンスを作っていくなかで、介護をするなかで変わっていく主人公の考えを最後まで追えてよかった。 映像ではなく文章でのダンスの描写だったが、自分の中に臨場感が生まれて新鮮な体験だった。
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SL 2024.5.17-2024.5.20 2050年が舞台なので技術的進化が少しはあるけど、SFらしさはあまりない。 ダンスもAIも詳しくないのでわかりにくいことばかりだけど、なぜか心に迫る。
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時代設定が2050年代でAI技術が発達していることを除くと、SF要素はあまりない。 事故で右足を失った若いコンテンポラリーダンサーが主人公。彼はAI制御の義足を身につけることになる。彼の父は高名はダンサーであり、彼も父を追って身体表現の高みを目指していた。 その父親が...
時代設定が2050年代でAI技術が発達していることを除くと、SF要素はあまりない。 事故で右足を失った若いコンテンポラリーダンサーが主人公。彼はAI制御の義足を身につけることになる。彼の父は高名はダンサーであり、彼も父を追って身体表現の高みを目指していた。 その父親が交通事故を起こし頚椎を痛め、同乗していた母は亡くなってしまう。さらに父親は認知症が出始め、一人で介護せざるを得なくなる。なにやら重苦しい展開になり、読み続つけるのがしんどくなった。自分も親の介護の経験があるので、主人公の気持ちが痛いほどわかるのだ。あとがきを読むと、作者も親の介護を経験したとのこと。 主人公は親の介護に苦悩すると同時に、人のダンスとロボットのダンスを隔てる「人間性の手続き/プロトコル」を表現しようと苦悩する。SFというよりは、純文学の香りがする。 ☆はあくまでSFとして読んだ評価です。第54回星雲賞、第44回SF大賞受賞作。
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一番好きな作家というのはいないけど 一番好きな本はあって それ書いた人なので 見つけて嬉しがって買ったはいいけど なかなかに手強かった SFの定義をいまいちわかってないので 期待してたSFではなかった なんかもっと未来感が満々なのかと そういうんじゃなかったけど とても、とって...
一番好きな作家というのはいないけど 一番好きな本はあって それ書いた人なので 見つけて嬉しがって買ったはいいけど なかなかに手強かった SFの定義をいまいちわかってないので 期待してたSFではなかった なんかもっと未来感が満々なのかと そういうんじゃなかったけど とても、とっても胸にくるお話だった 技術的な説明が苦手な人は そもそも読まないとは思うけど その部分がちょっと多めかなと感じる ただ個人的にわからないからこその やみくもな憧れがあるので そういう部分については 必死で読んだ 物語としては 激アツで、ここに自分もいたい! って思えたので がんばって読んでよかったなぁと思う 憧れ補正が多少ありつつ 星は4つ
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読み終わった日の午後は本の父との踊りから舞台からの最後を思い出しては涙を我慢するという壮絶な午後だった。職場でずっと目を潤ませていた。作者の『人間性とは何か』という問いに対するひたすら真摯な姿勢と、それが現れている護堂森と恒明というキャラクターの生き方在り方に泣けて泣けて仕方がない。作者の方のダンス舞台の表現がすばらしく、音楽や絵画やそれこそダンスなど、視覚聴覚などで楽しむ芸術をあえて文章で表現しなおすことに挑戦している小説が大好きで、鳥肌が立った。 あとこれは本の外側の話だが、あとがきを読んで、カバーに使われている絵がラファエル前派に近い画家による「ペテロの足を洗うキリスト」だったことにまたしても涙腺を刺激された。 19世紀イギリスラファエル前派の絵が好きなのだが、歴史や宗教に出てくる人物を歴史として遠くから描くのではなく、近くから生きた人間として描いている時代の絵をこの本の表紙デザインに持ってきた装丁デザイナーさんのセンスが凄すぎて泣きで脱帽。ペテロの足を洗うキリスト、素直に主題を受け取るとしたらこれは『献身と愛』だから、この表紙の足を掴む手は、恒明の母であり、恒明であり、永遠子であり、恒明が最後に感じた父であり、恒明や森や谷口や、あの舞台に関わった人間が舞台へ持っていた感情であり、色々な意味が込められていると私は受けとって涙涙。 人間が他人へ人間性を伝えるための手続きが「距離」と「速度」というのがすごくすとんと納得があった。わたしも恥ずかしながら趣味で文字を書いたりするのだけど、人と人が親密になっていく様を描く時にぎゅっと濃縮された無言の応酬を書く時は、意識していなかったけれどその人物たちの手の動きや体温の遠近を書いていた。人間が他人からその人間性を受け取るときに、確かに距離と速度はそこを言葉無くして伝えてくるものだ。解体するとそこに行き着くのか…!なるほど…!と納得感が本当にすごい。 そしてそれがまた舞台という広い空間と、永遠子と恒明がテーブル越しに交わすものや森と恒明がリビングでのダンスを通じて交わす無言の言葉という非常に狭い空間の両方に、破綻なく存在している説得力が強くて強くて…。そしてそこに介護が加わることで、さらに人間の外側と内側の「距離」と「速度」が見えてくるのがもうそれこそ脳が気持ちがいい。あまりにも生々しい介護と、人間の認知が失われていく過程が描かれているからこそ、余計に「では人間性とはどこから来てどうして我々はそれを受け取ることができるのか、人間性とはなんぞや…」という問いに答えられたのじゃないかと思う。「人間性」を破壊することで見えてくる何かはある…あの介護には深い意義があったし、それを入れようと思った作者の思考の深さがただただ心地よかった。介護は生々しいでが、だからこそ光る最後があった。
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人間性を表すプロトコルとは何か。AIとのダンスを通して描かれる。人と人の繋がり、その先にある生と死を感じさせながらその大きな疑問に迫っていく。
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恐ろしくも真面目な愛の物語。AIとの共生と理解を謳いながら、真実は理解されない人と人とのプロトコルである。父の介護の場面は涙した。
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事故で右足を失ったコンテンポラリーダンサーの護堂恒明はAIを載せたロボット義足で再起を図る。 更にダンスロボットとの共演によってダンスが伝える人間性に迫っていくが...。 伏せられていたもう一つのテーマが顕れたとき、その唐突さまで含めた強すぎる現実感にやられてしまった。 たった...
事故で右足を失ったコンテンポラリーダンサーの護堂恒明はAIを載せたロボット義足で再起を図る。 更にダンスロボットとの共演によってダンスが伝える人間性に迫っていくが...。 伏せられていたもう一つのテーマが顕れたとき、その唐突さまで含めた強すぎる現実感にやられてしまった。 たった10ページすら読めないような日が続いたけど、そんな日々も作中の現実感とちょっとだけリンクして、いや同列のように語ることはできんけども。 人生のために本当にやるべきこと、やりたいことと別にある生活上の義務。 どれだけ社会が発展しても恩恵を受けられない層の存在。 刺さったまま薄れないでほしい。 護堂に無性に愛着が湧いてしまって、すぐ次の小説にいくのがちょっと名残惜しい。 『身体の疲労、あるいは、神経がそれほど長く集中していられないこと。人体には限界がいくつもあって、人間が制御を手放さずにいられる時間は、本来、貴重なのだ』
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