夏日狂想 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
著者直木賞受賞直前に雑誌連載されていた長編。長谷川泰子をモデルにした小説で、主人公と関わる男たちにも中原中也をはじめそれぞれにモデルがいるので、史実を調べながら読むと興味深い。但し泰子の晩年は大きく異なるフィクションになっていて、ひとりの女の書き手としてこんなふうに終わりたいという著者自身の思いが垣間見えた気がする。
Posted by
物語中盤までネタバレで書いていますので、これから読まれる方はお気をつけください。 愛するものは、死んだのですから、 たしかにそれは、死んだのですから、 もはやどうにも、ならぬのですから、 そのもののために、そのもののために、 中原中也「春日狂想」 明治37年広島県中...
物語中盤までネタバレで書いていますので、これから読まれる方はお気をつけください。 愛するものは、死んだのですから、 たしかにそれは、死んだのですから、 もはやどうにも、ならぬのですから、 そのもののために、そのもののために、 中原中也「春日狂想」 明治37年広島県中島本町生まれの野中礼子は女学校へ人力車で通うお嬢様。 『少女画報』に作文を投稿したり、2歳上のお姉さまの寿美子との友情を育んでいます。 礼子の夢は松井須磨子のような女優になること。 礼子の父は脳溢血で亡くなり、母も後を追おうとして首を吊りますが助かります。 寿美子は医者になるという夢をあきらめて九州へお嫁に行くことが決まります。 寿美子に言われます。 「東京に行きなさい。新しい時代の新しい女におなりなさい」。 礼子は教会で知り合った川島悟のつてで東京に行きます。東京では小山内薫への紹介状は何の役にもたたず、大正12年9月1日、関東大震災で、礼子と川島は京都へ逃れ、礼子はマキノ映画製作所の大部屋女優となります。 そこに現れた3歳年下の中学生で詩を書いている水本正太郎と礼子は恋に落ちます。 「初めて好きになった人なのよ」 「あの人の詩が好きなの」 礼子は水本とともに上京し、日活に移ります。 礼子は水本の友人で帝大仏文科に通う片岡武雄と知り合います。 片岡に「僕と暮らさないか」と言われ、礼子はついていってしまいます。 水本が礼子を何度も迎えにやってくる場面では純真な水本が可哀想で涙が出ました。 写真(映画界)は男の世界で後ろ盾のない礼子はやっていけませんでした。 銀座のバーで働き始め、美術評論家の新田三郎に「あなたは確かに物書きの目と顔をしている」といわれます。 礼子は店のお客の子どもを身ごもりますが礼子の出産を喜んでくれたのは水本だけでした。 水本が滋雄と名付けた男の子はすぐに亡くなり礼子のかわりに水本が泣いてくれました。 礼子は文筆活動を始めます。 水本は他の女性と結婚し、第一詩集のみを遺して享年30歳で亡くなります。 戦争が始まります。 「千人針などで兵士の体が守られるものか」と礼子は書き、それも書き直しの指示が出されます。 そして、広島への原爆投下。礼子の本格的な文筆活動、と盛りだくさんの内容ですが、この作品は礼子が本当はたった一人の男性のみを愛していたのに、毒婦とよばれながら激しく生きた女の一生でした。
Posted by