紙の梟 ハーシュソサエティ の商品レビュー
Amazonの紹介より ここは、人を一人殺したら死刑になる世界――。 私たちは厳しい社会(harsh society)に生きているのではないか?そんな思いに駆られたことはないだろうか。一度道を踏み外したら、二度と普通の生活を送ることができないのではないかという緊張感。過剰なまでの...
Amazonの紹介より ここは、人を一人殺したら死刑になる世界――。 私たちは厳しい社会(harsh society)に生きているのではないか?そんな思いに駆られたことはないだろうか。一度道を踏み外したら、二度と普通の生活を送ることができないのではないかという緊張感。過剰なまでの「正しさ」を要求される社会。人間の無意識を抑圧し、心の自由を奪う社会のいびつさを拡大し、白日の下にさらすのがこの小説である。 恐ろしくて歪んだ世界に五つの物語が私たちを導く。 被害者のデザイナーは目と指と舌を失っていた。彼はなぜこんな酷い目に遭ったのか?――「見ざる、書かざる、言わざる」 孤絶した山間の別荘で起こった殺人。しかし、論理的に考えると犯人はこの中にいないことになる――「籠の中の鳥たち」 頻発するいじめ。だが、ある日いじめの首謀者の中学生が殺害される。驚くべき犯人の動機は?――「レミングの群れ」 俺はあいつを許さない。姉を殺した犯人は死をもって裁かれるべきだからだ――「猫は忘れない」 ある日恋人が殺害されたことを知る。しかし、その恋人は存在しない人間だった――「紙の梟」 一人でも殺したら、死刑という架空の設定ではありましたが、リアルすぎだなと思いました。近い将来、もしかしたらあってもおかしくないと思うくらい、昨今の実情を交えつつ、人間の心理を深く抉っていて、他人事ではないとも思ってしまいました。 人を殺したら死刑ということで、死ななければ良いという意味合いから瀕死の状態でも死刑にならないのか? いじめによる自殺は、加害者は罰せられるのか? など死刑をめぐる拡大解釈がえげつないなと思いました。よくそんな解釈ができるなと恐怖すら感じてしまいました。 物語の構成は二部に分かれています。第一部では、全4編の短編集、第二部では中編が1編書かれています。 第一部では、死刑を肯定する側としての心理描写が描かれています。 怨恨やいじめ、復讐など相手を殺したい人達の心情が、ミステリー仕立てで楽しめるのですが、どの作品もあっと驚かせるような展開になっています。 特にいじめをテーマにした「レミングの群れ」が衝撃過ぎました。合間に殺人者の視点が登場するのですが、メインとどう融合していくのか。後半はどんでん返しが待ち受けていて、ラストの展開に戦慄が走りました。 どの話も色んな方向から死刑に対する問題提起がされていて、考えさせられました。特にここでもそうですが、「レミングの群れ」が印象的でした。いじめによる自殺から始まる殺意の連鎖反応に究極のいじめ撲滅にはなる一方で、人間の倫理観が問われるなと思いました。 果たして、死刑で全てが終わるのか?十人十色、様々な人達の心情を知ることができました。 第二部では、第一部とは違い、死刑を否定する人側を中心に描かれています。殺された恋人は一体誰なのか? 調査をしていくうちに驚きの展開だけでなく、感動要素もあって、第一部で味わったギスギスした雰囲気とは違った空気感を味わいました。表題作の「紙の梟」が、どう作品に関わっていくのか。わかった瞬間は、切なさや感動が込み上げてきてグッとくるものがありました。 また、罪を償うためにも、生きて償っていく姿勢で立ち向かう姿が印象的でした。その裏側では、数えきれないネットからの誹謗中傷など今でも通ずる要素が多くあり、一瞬架空ではなく、現代だと思ってしまいました。 単なるミステリー小説ではなく、読み終えてもずっと考えさせられる作品になっていて、ある意味答えに困る作品でもありました。
Posted by
現在の日本では、1人を殺しても死刑にはならない。だが、本書で描かれるのは、「いかなる理由があっても人を殺したら死刑」という世界だ。4篇の短篇と、ちょっと長めの表題作で構成されている。 死刑がテーマだからあまり楽しい作品ではないが、それぞれに趣向を凝らした実験的な作品が多かった。だ...
現在の日本では、1人を殺しても死刑にはならない。だが、本書で描かれるのは、「いかなる理由があっても人を殺したら死刑」という世界だ。4篇の短篇と、ちょっと長めの表題作で構成されている。 死刑がテーマだからあまり楽しい作品ではないが、それぞれに趣向を凝らした実験的な作品が多かった。だが、お薦めはやはり表題作だ。 殺された恋人が名前を偽り過去を隠して生きていた事実に、彼はどう向き合うのか。逮捕された犯人の弁護士に「死刑回避」の証言を求められた彼は……。 与えられたルールの中でいかに立ち回るかを描いた前4作に対し、正面から死刑の意味を問いかける重厚な作品だった。
Posted by
架空の世界とは思えないほど生々しい。 人の罪を許すことは難しく、寛容さを失くした世界は息苦しい。 思わず身震いしてしまう。 人ひとりの命を重く受け止めた結果の厳罰化が、人の命や尊厳を軽くしてしまう矛盾。 簡単に片付く方に流れてしまう思考も理解できるからこそ怖い。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
死刑制度をテーマにした作品は他にも読んだことがあるが、それらと比較しても本作は前代未聞ではないか。貫井徳郎さんの新刊は、現実の日本よりも死刑制度がはるかに厳格化された、架空の日本を舞台にした作品集である。 本作に描かれた日本では、1人を殺せば死刑になる。現実の日本でも、いわゆる「永山基準」は形骸化しており、1人を殺して死刑になった例もあるが、ここまでハードルが低くはない。しかし、国民感情としては大差がないのではないか。 最初の「見ざる、書かざる、言わざる」からなかなかきつい。厳しい死刑制度を逆手にとった残虐事件。社会はさらなる厳罰を望む。「籠の中の鳥たち」。こんな社会で、ある意味筋を通した男。一瞬でも、本末転倒とは考えなかったのか。 「レミングの群れ」。いじめが発覚すると、正義感が暴走し、ネットには首謀者や教員らの個人情報が溢れる。現実社会でも同様だが、この社会での顛末とは? 「猫は忘れない」。オチが容易に読めてしまうだけに、何とも救いがなく空しい1編。 現実の日本でも、死刑制度の支持率は高く、反対派は劣勢である。しかし、本作の日本で死刑反対を叫ぶのは極めて危険だ。人でなし扱い、非国民扱いされ、社会的に抹殺される。最も長い表題作「紙の梟」では、数少ない「良識派」を描いている。 恋人が殺害されたと連絡を受けた、作曲家の男性。犯人はほどなく逮捕され、死刑は確実。しかし、亡き恋人について調べていくうちに、漠然と死刑支持だった彼の考えが変わってくる。重大決断を下した彼のSNSは、罵詈雑言で埋め尽くされる。 最初の4編は死刑制度への問題提起という側面があったが、最後の1編は「彼女」の壮絶な半生がメインになっている印象を受ける。それでも、終盤には意外な展開もあり、殺伐とした本作中で唯一、救いを感じる1編と言えるだろう。 インタビューによれば、最後の1編「紙の梟」は、最初の4編から7年を経て書かれたという。自分自身は、死刑反対派を目の敵とは思っていない。しかし、所詮他人事だから反対と言えるのだろう、というのが偽らざる気持ちである。
Posted by
貫井氏待望の新刊を拝読。ハーシュソサエティ(厳しい不寛容な社会)となり「一人殺したら死刑」になった日本(架空であってほしいが)を舞台にした連作集。といってもそれぞれの話に関連はない。どの作品も不寛容さを考える深い内容になりえているのは、勿論貫井氏の人物描写が秀逸だから。どれも甲乙...
貫井氏待望の新刊を拝読。ハーシュソサエティ(厳しい不寛容な社会)となり「一人殺したら死刑」になった日本(架空であってほしいが)を舞台にした連作集。といってもそれぞれの話に関連はない。どの作品も不寛容さを考える深い内容になりえているのは、勿論貫井氏の人物描写が秀逸だから。どれも甲乙つけがたい作品だが、やはり表題作は頭一つ抜けている。いつも思うのだが、貫井氏のこの語り口の素晴らしさはまさにワンアンドオンリーで、どんなストーリでも無条件に読みたくなる稀有な存在。今後も拝読していきたい。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
★3.5 レミングの群れが面白かった。かなりやりすぎているけれど、この仕組みならいじめは確実に減ると思う。そして、最後のオチが… レミングの群れ いじめっこを自殺志願者が殺す世界か、斬新。いじめられたら、ネットで晒すってのは良い解決方法かも。撲滅につながりそうだ。そして、まさかの自殺志願者にかわって、殺人を行っていたのが、尊敬されている祖父だとは… 猫は忘れない 姉の復讐をしたら、冤罪だとは…確かに殺人犯が猫飼わないかもね にしても、猫にひっかかれて、その血が爪研ぎじゃなくて、壁?についてたとは…
Posted by
ざっくりしたお話でした! 死刑×ミステリーって感じのお話です 私的には予想は全然できなかったですw 日常のなかをリアルにだしてる感じでしたね とにかく面白かったですあっという間に読んでしまいました(*^^*)
Posted by
人ひとりを殺したら死刑になる社会。殺意の有無も、自己防衛のためであっても関係なく死刑になる。そういう社会では人々がどんな思想を持ち、どんな行動に出るかの可能性の物語。5話ある中で、タイトルの「紙の梟」では、最近の問題であるネットでの誹謗中傷についても取り上げている。他人のことを責...
人ひとりを殺したら死刑になる社会。殺意の有無も、自己防衛のためであっても関係なく死刑になる。そういう社会では人々がどんな思想を持ち、どんな行動に出るかの可能性の物語。5話ある中で、タイトルの「紙の梟」では、最近の問題であるネットでの誹謗中傷についても取り上げている。他人のことを責める権利なんて誰にもない、当事者でもない人が関係ないことで責めるのはやめるべきだと訴えている。重いストーリーで社会派小説という印象。
Posted by
【人を一人殺したら死刑になる世界――】私たちは厳しすぎる社会に生きているのではないだろうか? 恐ろしくて歪んだ世界で人を殺すこととは――私たちを異世界に導く五編。
Posted by