1,800円以上の注文で送料無料

なめらかな世界と、その敵 の商品レビュー

4

52件のお客様レビュー

  1. 5つ

    20

  2. 4つ

    16

  3. 3つ

    10

  4. 2つ

    3

  5. 1つ

    1

レビューを投稿

2022/05/19

「人の心の隔たりと繋がりをめぐる奇跡の傑作集」という売り文句は伊達じゃない。この本の最終話に収録されている「ひかりより速く、ゆるやかに」を読み終えたとき、その奇跡のような美しい結末に心が熱くなりました。 あとがきからも伝わってくる著者の伴名練さんのSF愛。その思いが結実したのがこ...

「人の心の隔たりと繋がりをめぐる奇跡の傑作集」という売り文句は伊達じゃない。この本の最終話に収録されている「ひかりより速く、ゆるやかに」を読み終えたとき、その奇跡のような美しい結末に心が熱くなりました。 あとがきからも伝わってくる著者の伴名練さんのSF愛。その思いが結実したのがこの一冊なのだと思います。 収録作品は6編。いずれも密度の濃い作品が並びます。密度が濃すぎてすぐにはついていけない作品もあったけど、それでも作品の熱というものは伝わってくる。 表題作の「なめらかな世界と、その敵」は複数の並行世界を自由に行き来する少女たちの友情を描いた一編。書き出しこそは世界が飛び飛びになっていて、読んでいるこちら側もおおいに混乱しました。 こんな設定で物語が成立するのかとも思ったけど、この世界観だからこそ描かれる世界の危機と圧倒的なまでの孤独や疎外感に震え、それを一息で吹き飛ばす主人公の決断と、たった一つの世界の美しさに胸がすく思いになりました。 「美亜羽へ贈る拳銃」もまさしく人の心の隔たりと繋がりをめぐる作品。脳科学をテーマとしています。 科学で性格を変えられて生まれた人格は認められるのか。その人格から生まれた愛は本物なのか。 自己とは、愛とは、心とは。 SFで何度も描かれたテーマだけど、この作品もその問いを物語を通して、登場人物たちの葛藤を通して問いかけてきます。終盤の目まぐるしく変わる展開は「技術が進んだ世界でも人を愛する心の矛盾は変わらない」。そういったことを表すようで切なくもどこか美しい余韻を感じました。 「ひかりより速く、ゆるやかに」多くの乗客を乗せたまま時間が止まってしまった新幹線。本来なら修学旅行のためにその新幹線に乗るはずだった二人の生徒が、物語の中心となります。 新幹線の中と外でまったく違う時間が流れていく。そんな突飛な設定ながら事件に対する世間の反応を詳細に描くことで、話の強度は増していきます。コロナやSNSなど現代を象徴する話題を取り込みつつ、物語は徐々に核心に迫っていく。新幹線が止まった原因は? そして主人公が目を背けたかった真実とは? 卑しい真実の向こう側に待っているのは、奇跡の光にあふれたエンディングでした。 人の心の隔たり。それは圧倒的な時間の壁として、そして妬みや嫉みといった人間の持つ卑しい感情として現れるけど、それをすべて乗り越えて、人をこの世界へとつなぎとめるのは「人の心の繋がり」なのです。 突飛な設定をここまで温かい人の繋がりの物語に昇華した伴名練さんに、ただただ脱帽してしまいます。 収録されている作品はどれも設定としては一筋縄ではいかないというか、今まで自分が読んだSFをすこしひねったようなものを多く感じました。そういう点でも様々なSFを咀嚼してきた伴名さんの嗜好やこだわりが見えてくる気がします。 でも一方で、描かれるものの普遍性というものは変わらない気もします。SFというジャンルのこれまでをこれからにつなげていく。そんな作品のようにも感じました。

Posted byブクログ

2022/04/24

――  単行本で読んどきゃよかった。  瞬間最大風速的な、と表現されているけれど、「いま、ここ」のちからに支えられた作品というのは確かに、ある。  勿論文庫化したいま手に取って、その魅力が損なわれてるということではまるでないのだけれど、それでもこの1冊を読んだ自分と読んでい...

――  単行本で読んどきゃよかった。  瞬間最大風速的な、と表現されているけれど、「いま、ここ」のちからに支えられた作品というのは確かに、ある。  勿論文庫化したいま手に取って、その魅力が損なわれてるということではまるでないのだけれど、それでもこの1冊を読んだ自分と読んでいない自分の間に大きな差があるなと思うと、約2年文庫になるのを待ってしまったのを、凄く取り返しの付かないことのように感じてしまう。  その間いろいろ溜め込んできたものがあるからこれほど揺さぶられる、というのも、あるんだろうけど。  +αで云うと、その2年間の情勢変化でこの作品に加えられた変化修正を、いまから後追いでしか体験できないというのもなんだかくやしいなぁ。  それほどまでに、なんと云うか当事者でありたいなと思う名作たちでした。  全篇を通じてあるのは、断絶や隔絶、相互不理解に対するもどかしさ。面白いのはそれらが、いかにもSF的に、技術的に担保された不理解であるというところ。そのあたりを進歩した技術の功罪であるとか人類の自己責任だとか、それに対して愛はすべての障害を越えるとか、まぁそれはそれ、それならそれで良いのだけれど、そんなふうにフィクションとして切り離して楽しめない冷ややかさもある。  きっとこうなる、確かにこうなるかもしれない、と云う仮想に対して、それに取り残された側の姿を、まだ取り残されている側に居る自分たちはどう読むべきか。あまつさえその、自分たちの普通が一種の障害とまで表現された場合はどうか。  手を繋ごう、ひとつになろう、って、ほんとうにそうなったことを想像できているのか。そうならないことを想像している者は、その環の中でどうなるのか。  不確かな叡智の中で、自分たちの「確からしさ」を担保してくれるのは何なのか。  と、あらゆるSF的テーマと四つに組みながら、それでも突き抜けたエンタメ性を忘れないのが何よりたまらない。  最近☆5多いのは豊作の季節なんだということにして。狙って読んでるんだからいいよねー☆4.7

Posted byブクログ