ばにらさま の商品レビュー
山本文緒さんの作品はいつも期待して読んでしまう。 現実的でありなから、ぞくっとするような要素が差し込まれ、それがまた非現実が現実に近づいてくるようでもある。 今回は『菓子苑』のあの一行に驚いた。 えっ!となって、それまでの胡桃と舞子のやりとりを頭で振り返った。 当たり前だけど、...
山本文緒さんの作品はいつも期待して読んでしまう。 現実的でありなから、ぞくっとするような要素が差し込まれ、それがまた非現実が現実に近づいてくるようでもある。 今回は『菓子苑』のあの一行に驚いた。 えっ!となって、それまでの胡桃と舞子のやりとりを頭で振り返った。 当たり前だけど、知ってしまうと知る前のように読めない! それと『バヨリン心中』。 東日本大震災や世界的パンデミックという言葉が出てきたので最近の作品かと思ったら、2013年の作品だった。 世界的パンデミックで経済がなかなか立ち直れず、治安も悪化するというくだり。 今と重なるところが出てきて驚いた。 山本文緒さんの作品もっと読みたかったなぁ。
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p74「陳腐な考えだ。恋愛も出産も、人間が己を陳腐な存在であることに気づかせるためにあるのだろうか」 p97「運命。運命。運命。男と寝ると胡桃はすぐ運命と口にした... 好きになれる相手はいくらでも存在する。問題は親密さを保つ努力や、相手のことを慮る想像力だ。それに加えてひと匙...
p74「陳腐な考えだ。恋愛も出産も、人間が己を陳腐な存在であることに気づかせるためにあるのだろうか」 p97「運命。運命。運命。男と寝ると胡桃はすぐ運命と口にした... 好きになれる相手はいくらでも存在する。問題は親密さを保つ努力や、相手のことを慮る想像力だ。それに加えてひと匙の縁」
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人間の建前と本音が入り乱れていて、後ろめたい部分も共感できたりして、チリチリした気分で読んだ。『ばにらさま』と『菓子苑』は結末のどんでん返しに驚いた。辛いことや寂しいことがあっても、日常の楽しみは変わらずあるし、それを楽しみにしている自分が薄情であるような気分にもなる。50代女性...
人間の建前と本音が入り乱れていて、後ろめたい部分も共感できたりして、チリチリした気分で読んだ。『ばにらさま』と『菓子苑』は結末のどんでん返しに驚いた。辛いことや寂しいことがあっても、日常の楽しみは変わらずあるし、それを楽しみにしている自分が薄情であるような気分にもなる。50代女性の心情が書かれているお話が多いけれど、私ももう少ししたらこんな心境になるのかしら、と思ったりして。 山本文緒さんの最後の作品となった本著、存分に楽しませていただきました。他の未読の作品も読んでいきたい。
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表題作のばにらさまは面白かった。 また、ふわっとして、色白な女性を ばにらさまって、いいネーミングですね。 他の作品はあまり、入ってこなかった。
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ばにらさま 恋愛が全てではない。恋人がいてもそこに愛情がなければ虚しいだけ。家族、友人、恋人どんな関係であっても、人と人が思い合っていれば愛が生まれるのだと思いました。 バヨリン心中 ポーランド人の旦那さんは、決めつけるタイプの人でなくていい人だと思った。子供ができて、慣れない...
ばにらさま 恋愛が全てではない。恋人がいてもそこに愛情がなければ虚しいだけ。家族、友人、恋人どんな関係であっても、人と人が思い合っていれば愛が生まれるのだと思いました。 バヨリン心中 ポーランド人の旦那さんは、決めつけるタイプの人でなくていい人だと思った。子供ができて、慣れない土地で暮らし、最終的にポーランドに帰ってしまうけれど、奥さんをポーランドに一緒に行こうって誘ってたし。けど、結局限界はあるのかなー。 でも死ぬ前とかって、こういう儚い恋愛を思い出したりするもんなのかね。
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▼体を鍛えて、能力を磨いて、社会の中で価値ある人間として生きてゆく。そのためには睡眠時間などいくらでも削るというのだろうか。そうして何を獲得してゆくのか。生きている実感なのか、他人からの賛辞なのか、家族との豊かな生活なのか、はたまた享楽と言われるもの全てなのか。(「菓子苑」p.8...
▼体を鍛えて、能力を磨いて、社会の中で価値ある人間として生きてゆく。そのためには睡眠時間などいくらでも削るというのだろうか。そうして何を獲得してゆくのか。生きている実感なのか、他人からの賛辞なのか、家族との豊かな生活なのか、はたまた享楽と言われるもの全てなのか。(「菓子苑」p.88) この本が出て1ヶ月して、著者が亡くなった。その頃、まだ前の『自転しながら公転する』を積んでいた。長編を読む体力がなく、読めるようになるのを待っていた。 『ばにらさま』は、"日常の風景が一転する"との触れ込みだった。著者は版元のサイトで「どの作品にも「え?!」と驚いて頂けるような仕掛けを用意しました」と書いている。 どの短編も、思わぬ展開だった。ページを戻って、2度、3度と読みなおした。 「菓子苑」の舞子と胡桃のことも、さいごのほうになるまで、気付かなかった。上に引いたのは、舞子が早出の仕事先で、朝活に通ってくる人びとを見ながら考えたこと。舞子は、この人たちに心の底から感心して「何のために」と思うのだ。 ▼まだ朝の七時だというのに、ビジネススーツを着こんだ男女が颯爽と受付を済ませて教室に入ってゆく。そんなにまでして英会話だの余がだの習うのはいったい何のためなのだろう。馬鹿にしているわけではまったくなくて、私は心から感心してしまうのだ。一度か二度で来なくなってしまう人もいるけれど、一度も休まず長い期間続けている人も多い。そういう人はどんなに早朝でもきちんと身繕いをしている。女性は隙なくメイクをし、男性は丁寧に髭を剃って石鹸の匂いを漂わせている。(「菓子苑」p.88) 書き手が亡くなると、新しい作品が読めなくなる。干刈あがたが亡くなったときにも、そのことが残念でならなかった。 (2022年5月17日了)
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いわゆる"痛い"女たちの短編集です。 特に何かドラマがあるでもなく、感動するでもないのですが、なんとなく心がザワめくのは何故か。 淡々と、俯瞰した目で紡ぐ文章が、小説全体に氷のようなキリッとした印象となり、とても好きです。 あっという間に読了でした。
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人物造形の深さが魅力的な山本文緒さんの短編集。 どこかにありそうなお話を作るのが上手い。 お話の型ではなく、一人一人がドラマを作っていく感じ。 それでいて先が全く読めない。 大体の話が、ラストに驚きがあったように思う。 さらっとこういうお話を書けてしまうのが流石です。 いい人も悪...
人物造形の深さが魅力的な山本文緒さんの短編集。 どこかにありそうなお話を作るのが上手い。 お話の型ではなく、一人一人がドラマを作っていく感じ。 それでいて先が全く読めない。 大体の話が、ラストに驚きがあったように思う。 さらっとこういうお話を書けてしまうのが流石です。 いい人も悪い人もいない、どちらもあわせ持つ等身大の登場人物たち。 ばにらさま ふくよかな男性と、初めての恋人の話。遠い距離感と通わない心が切ない。一方的に相手の懐を知ってしまうのって辛いな。大切な人とか、絆のある関係とか、程遠い。相手の痛みがわかってても、気持ちを知りきれないのが切なかった。 わたしは大丈夫 こうきたかーという感覚になる話。なぜ倹約生活を送っているのか?交互に繰り返させるお話が一致したときにわかる仕掛けがうまい。恋愛で人生変えられてしまうって言い方はなまぬるい。 菓子苑 胡桃と舞子の関係性が、前半と後半で全く別物に見える。「わたしは大丈夫」もある意味叙述トリック的だったけれど、こちらもなかなか…。胡桃と舞子はある意味合わせ鏡的で、胡桃の将来と舞子の今が合わさっていく予感もさせる。小説の構成的な面で面白い。 バヨリン心中 恋は雷に打たれるようなもの…。恋愛している最中の夢心地は共感できた。そのあと結婚し、とある出来事がきっかけで…。女の激情って凄い。ラストのオチが好き。 20×20 1番お気に入りの作品。題名なんのことかと思ったら…これはオチがほんとに予想できなかった。エッセイなどを書いていた作家さん。平凡な日常を描くのにも絞り出さなきゃ書けなくて、同じマンションのお風呂で知り合った女性とのたわいないやりとりなどが描かれる。作家だからこそ味わえる感覚でした。 子供おばさん これは身につまされる話だったなぁ。何も背負わず生きている人間って、やっぱりなんか背負いたくなるんだろうか。題名のようなひとはたくさんいるだろうし、自分もこれかもって思う…。独身女性の足場の不安定感も、結婚女性の人間関係にきゅうきゅうにされる息苦しさも、どっちも描けるのは凄い。
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構成が凝っていて、どの作品もある一文を読むと景色が変わる。 景色が変わった状態です読み返すと、味がある。 どの作品も結末が書かれていないので、読者によって感じ方はさまざま。 私には素敵な余韻を残してくれた作品に感じた。 ハッピーエンドの捉え方は人それぞれ。 登場人物達の幸せを...
構成が凝っていて、どの作品もある一文を読むと景色が変わる。 景色が変わった状態です読み返すと、味がある。 どの作品も結末が書かれていないので、読者によって感じ方はさまざま。 私には素敵な余韻を残してくれた作品に感じた。 ハッピーエンドの捉え方は人それぞれ。 登場人物達の幸せを願わずにはいられない。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
これが山本文緒さんの作品が読める最後の書籍になるのかと思うと寂しさと自分の昔を色々思い出します。 学生の時にブルーもしくはブルーとか眠れるラプンツェルとか夜中から朝方にかけて夢中で読んだっけ。今より時間があったからそんな贅沢もできました。 自転しながら公転するを数ヶ月前にあぁそうそうこれが山本文緒さんの作品!と昔を懐かしみながら読みました。 今回のばにらさまは読んでいると分かりますがパケットとかいう用語が出てきてもしやと裏側をめくったら2008年から2016年位に執筆された短編集だったんですね。 ばにらさま 男性がちょっと難のある女の子に引っかかっておわりかなぁとか思いながら読んでたら最後の数行でちよっと暖かみのある終わり方になった。いますよね。んーとか言って困ってるようにみせて実は遠回しに嫌だって否定する人。 わたしは大丈夫 序盤読んでてなんでこんなに分かりづらい文章のまとめ方するんだろうと思ったらまさかの結末。思い込みを見事に裏切ってくれました。 菓子苑 こちらも読んでいて途中のある一言で思い込んでた事を見事に違うものにみせてくれました。 胡桃は数十年後舞子の様になるのかならないのか… バヨリン心中 これ素敵なお話ですね。前の3話とは雰囲気が違って。途中祖母の遠子さんがバスを車で止めようとして血を流すシーンがなんとも良い意味で唐突だけどこういう所が山本さんの作品らしいと…私は思いました。短編でも十分面白かったですが長編で読んでみたかったです。離れてしまった2人がお爺ちゃんお婆ちゃんになるまでの間どんな風に過ごしてきたか… 20×20 多分この短編集の中でも1番短いお話。最後の終わり方がピンとこなかったのは読解力不足ですね。 子供おばさん これも面白かったです。最後の2行に何も成し遂げた実感のないまま、何もかも中途半端のまま、大人になりきれず、幼稚さと身勝手さがぬけることのないまま。とありますが、正直主人公達の様な人は今の時代いっぱいいるし、これを子供おばさんと捉えるかどうかは…人それぞれな気もするんですよねぇ。 他の未読の山本文緒さんの作品が読みたくなりました。
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