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ある男 の商品レビュー

3.8

525件のお客様レビュー

  1. 5つ

    108

  2. 4つ

    205

  3. 3つ

    152

  4. 2つ

    24

  5. 1つ

    8

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2024/03/23

主人公が絶えず、色んなことを自分に返って考えていて、私もこの本を通じて、木戸さんの人生を考え方を教えてもらった。震災後の木憂鬱な社会が、震災の色々な長い影響を思い出した。だんだんと真相に迫ってくるのも面白く、あっという間に読めた。

Posted byブクログ

2024/03/08

海外旅行に行った際、誰しも思うのではないだろうか。『ここには〝自分〟を知ってる人は誰1人いないのだ』と。そしてなんとなく心の皮が一枚向けたような、そんな解放感を味わったことはないだろうか。読後、ふとその感覚が心をよぎった。 何を持って「自分だ」とするのか。そう聞かれたときに、一...

海外旅行に行った際、誰しも思うのではないだろうか。『ここには〝自分〟を知ってる人は誰1人いないのだ』と。そしてなんとなく心の皮が一枚向けたような、そんな解放感を味わったことはないだろうか。読後、ふとその感覚が心をよぎった。 何を持って「自分だ」とするのか。そう聞かれたときに、一番自分を自分たらしめるもの、その軸になるのは「生きてきた過去」ではないだろうか。現在の判断や評価も、未来における可能性も、その人が今まで歩んできた「過去」を足場としている。では、その足場がなかったとしたら、もしくはその足場を変えることができたとしたら・・・。 本書は弁護士・城戸に舞い込んできた『愛した夫の正体が分からない』という謎を、彼と一緒に解き明かしてゆくミステリーである。なぜ、彼は他人の過去を背負い、今を生きる事になったのか。そのことにより、彼の自我・存在はどうなるのか。事件を追うことで、そして根無草のように漂う『存在X』を通すことで、これが特殊な事例ではなく私たち全員に当てはまる『自分とは何か』という哲学・テーマへと視線の内面化が引き起こされてゆく。 作者平野啓一郎氏による『分人主義』のエッセンスを作品の隅々から読み取ることができた。『統一した自我ではなく、その時・その場に応じた様々な自分を人は使い分けている、そしてその全てを総合したものを〝私〟と呼ぶ』。分人主義について自分はこう理解している。谷口にとっては辛い過去を背負う自分も〝私〟であり、愛する妻と子と過ごした短い日々も〝私〟なのだろう。本書後半の林業に関する部分(木としての50年、木材としての50年)も、谷口の人生を象徴しているようで考えさせられてしまった。今の自分を証明・支えてくれている物の揺らぎに不安を覚えると同時に、Xのようにそれらを薙ぎ払い、新しい自分の人生を歩むことにもそこはかとない魅力を感じた。 とはいえ平野氏の表現についてはまだまだ味わえていない部分が多い。Xの謎を追うことばかりに興味を惹かれ、神話についての引用などをじっくり読み味わうことができなかった。本書は映画化もされているため、そちらを鑑賞してからもう一度読み直したい。

Posted byブクログ

2024/03/17
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

名前は生を受けて初めに授かるもの。でもそれは極論ただのラベルにすぎない。“人”を”その人“たらしめるものとは何か、を考えさせる作品だった。 ーーー この作品は、ある男を中心に描かれる。彼は林業に携わりながら素朴な絵を描く男で、文房具店の娘里枝と結婚し、花という娘と連れ子の悠人と4人で暮らす、よくいる幸せな家庭を築いた男だった。 だが事故で亡くなったことをきっかけに、名乗っていた「谷口大祐」が本当の名前ではなかったことが発覚する。 里枝から依頼を受けた弁護士城戸が、「谷口大祐」を名乗る”X“の正体を辿っていく。 序盤ではミステリー要素にかなり引き込まれ、この男は誰なのか、ということが知りたくなり読み進めていた。 しかし読み進めていくうちに、これはただのミステリーではないと感じた。 Xの正体という点では、何度か戸籍を交換することで「谷口大祐」となった殺人犯の息子「原誠」であったが、そこは物語の本質ではないように思う。 Xが里枝と会って過ごした時間は間違いなく(何が本来かはわからないが)本来の彼だった。だが彼が原誠だったら里枝と出会っていたのか、彼の語る過去が谷口のものでなく誠のものだったらどうなっていたのか。彼は原誠、谷口大祐、簡単に割り切れる存在ではなく、原誠と谷口大祐、二人の人間が混じり合った人物だったのだと思う。 自分と違う人生、自分以外の人間が混じり合った人生を生きるのはどういう感覚なのだろうか。 違う人生を生きてみたい、というのはたまに思うが、どこか非現実的で、ありえないと思っている。でもそれが叶った時、そしてそれを心から望んでいた時、自分はどういう気持ちになるのだろうか。 私自身、”名前”について考えたことがなかった。親から与えられたもので、それに対して違和感や疑問を持つことなく、当然のものとして過ごしてきた。 だが、名前というものは唯一のものである一方で親や子など他者との繋がりを持ち、そして戸籍がなくなってしまえば案外脆いものなのだと思った。 本書の冒頭では、小説家である”私”が出てくる。 彼は、「他の登場人物(おそらくXなど)を主人公にしなかったことを疑問に思うだろうが、城戸さんにこそ見るべきものを感じた」と言っている。 おそらくは「谷口大祐」を名乗る”X“と、在日3世の弁護士城戸がどこか自身の存在に不安を持つという共通点を持ち、のめり込んでいく城戸にこそ魅力を感じたということなのだろう。 アイデンティティの不安定さに共通点を見出す著者がすごいと思った。 ーーー 内容として素晴らしいのはもちろん、本書の構成も練られたものだった。 最後にまた序章を読み直すことで、”私”から見た城戸を改めて見ることができる。 それにより、今まで読んできた”城戸章良”という人間は実在する人物だったのか、を疑わせる構成となっている点に、さらに感動。

Posted byブクログ

2024/03/06
  • ネタバレ

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犯罪者の息子は何もしてないけど、被害者側からしたら、犯罪者の息子もきっと許せないだろうな。もし私がそうならば、できれば幸せになって欲しくないし、辛くて惨めに底辺で生きていてほしい。でも、犯罪者の息子からしたら?自分は何もしてないのに、何故日陰で生きねばならないのか。ふついに生きていたいだけなのに。 戸籍を交換したあと、Xは幸せだったのかな。そうだといいな。里枝はXの本当の過去を知って、Xへの愛は変化したのかな。私もそうやって人を愛し続けることができればいいな。 とても辛い話だけど、とても愛に溢れた話だった。

Posted byブクログ

2024/03/04

登場人物の心理的な揺れ動きが丁寧に描かれて楽しんで読めた。 あまり気にしてこなかった在日という背景がぼんやりとした不安に変わる。社会の風潮が変わると危うい立場に転落してしまうという不安。 なるほどという感想。

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2024/03/03
  • ネタバレ

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夫が亡くなり、夫のものだと信じてた名前、生い立ち、過去全てが別人のものと分かる。自分は誰を愛していたのか。奥さんの立場になるともう何も信じられなくなるだろうけど、残された血の繋がりのない子供の心情まで描かれていて胸が苦しいと同時にその描写が素晴らしいと思いました。 『わかったってところから、また愛し直すんじゃないですか?一回、愛したら終わりじゃなくて、長い時間の間に、何度も愛し直すでしょう?色んなことが起きるから。』 解決はしないけど温かな気持ちになれたフレーズでした。

Posted byブクログ

2024/03/03

純文学、訳わかんない表現とかありそう…すごい偏見で読み始めたけど、どんどんストーリーに引き込まれて集中。 ボランティア活動して、他人の為に動きたい主人公。それを偽善と呼び、家族や身内とそれ以外の人たちをきっぱり分ける奥さん。 完全に私と夫の関係と同じだなぁと共感。私も夫にそれは偽...

純文学、訳わかんない表現とかありそう…すごい偏見で読み始めたけど、どんどんストーリーに引き込まれて集中。 ボランティア活動して、他人の為に動きたい主人公。それを偽善と呼び、家族や身内とそれ以外の人たちをきっぱり分ける奥さん。 完全に私と夫の関係と同じだなぁと共感。私も夫にそれは偽善だとよく言われます…でも、いつも思うのは、そんなふうに私が偽善者でいられるのは、現実的な夫が側にいて日々の暮らしをキープしてくれているから。哀しいけど、理想だけではメシは食えない。 あなたの隣にいる大切な人、本当は誰ですか?

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2024/02/28
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愛に過去はどう関係するのか。 この命題について、 はじめから最後まで一貫したストーリー。 この小説で気になるのは序盤の存在。 これは誰が書いたことになっているのか。 城戸さんと同じ1975年生まれ、小説家とあるから、著者の平野さんが城戸さんとあったというていで、この小説が始まっているのかな。 そのあたりからもう面白くて、引き込まれた。 城戸さんがある男のことをのめり込んで調べていくけれど、ある男のことを考えながら、実は自分のことを考えざるをえなくなっていく。自分の出生ルーツもある種あまり人に知られたくない過去であり、でも「気にしてないって感じが気にしているってことだ」みたいなことを人に言われてめちゃくちゃ腹たったりとか、ほとんど自分にも向き合う旅になってしまったのでは。 あとこの作者は、嫌な感じのする人物描写を、ほんとに嫌な感じに描くのがうまいと思った。 恭一郎の田舎のイタい経営者風情とか、ブローカーの会うだけで気が滅入りそうなゲスさとか、何より再会したダイスケの荒みっぷりがなんか読んでいて辛かった。美涼がまだかわいいですか?とかヤバいなとか、なんか生きていて欲しいってあれほど願っていたその人の痛みっぷりが…なんとも。 人は過去を取り替えても生きていけるけど、そこから良い現在を積み重ねていかなければ、結局幸せな人間にはなり得ないというか。健全さを少しずつ失ってしまうのかな。 文章中の言葉も独特というか…知らない言葉もあり、なんどか辞書を引いて調べた。勉強になりました。

Posted byブクログ

2024/02/27
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

2024.2.26 恭一を呼んでいなかったらこの事件に発展していなかったことを考えると嫌な奴だと思いながらもキーパーソンなんだよね、、と思いながら読んでた 戸籍を交換するとか自分には別世界のようで、身近に感じられなかったけどほんとにそういうケースも同じ世界であるんだよねと思った 誠は過去が辛かった分、戸籍交換して幸せを掴んでて良かったと思った この人に自分の人生歩んで欲しいとかこの人になら譲れると思ったと言った大祐も素敵だと思ったね

Posted byブクログ

2024/02/25

城戸さんと、里枝さんと心の描写が丁寧に描かれているなあも思いました。 城戸さんが周りから、「大丈夫?」と聞かれるのはいろいろ考えすぎる所があるからかしら? 具体的に何かあった訳ではないけど、相手との心の動きが描かれているのは流石です。細やかでした。 読み終わって、また最初を少し読...

城戸さんと、里枝さんと心の描写が丁寧に描かれているなあも思いました。 城戸さんが周りから、「大丈夫?」と聞かれるのはいろいろ考えすぎる所があるからかしら? 具体的に何かあった訳ではないけど、相手との心の動きが描かれているのは流石です。細やかでした。 読み終わって、また最初を少し読みました。 導入部分も改めて読むとまた最初とは違って読めました。

Posted byブクログ