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夏物語 の商品レビュー

4.1

270件のお客様レビュー

  1. 5つ

    84

  2. 4つ

    98

  3. 3つ

    45

  4. 2つ

    7

  5. 1つ

    3

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2024/06/30

《子どもを生む人はさ、みんなほんとに自分のことしか考えないの。》 と登場人物のひとり、善百合子は言う。子どもを生むことは《暴力的》で《賭け》だと。確かにそうかもしれない。私にも子どもがいる、それも4人も。「産みたい」と望んだのは私(と夫)で、それは100%利己的な願望。でも4人出...

《子どもを生む人はさ、みんなほんとに自分のことしか考えないの。》 と登場人物のひとり、善百合子は言う。子どもを生むことは《暴力的》で《賭け》だと。確かにそうかもしれない。私にも子どもがいる、それも4人も。「産みたい」と望んだのは私(と夫)で、それは100%利己的な願望。でも4人出産し、そのうちのひとりは入院したりそれでも幸運なことに今は全員健康に育ったりしていて思うのは、子どもはまさに「生まれる」(受動)ものだということ。お定まりの表現だけど「授かる」と言ってもいいかもしれない。自分の体は単なる媒介で、人類の生命をつなぐために使われているという感覚がある。だって子ども(というか人間)のいのちってほんとに尊くて、動いているだけで奇跡で、そんな生命体を私(と夫)個人の手で100%作り出したなんて、かえっておこがましく感じる。誰かに作らされた、作ってもらった、というほうがしっくりくる。 『夏物語』の登場人物たちはみんな、「自分」に重きを置きすぎているように見える。自分が選んで産む、あるいは産まない。出産は自分のエゴで、自分はもしかしたら間違いを冒しているのかもしれないと。でも本来人間が100%行えるのは「望む」ことだけで、命を100%選び取ることはできない。だから愛し合っている夫婦も不妊に悩むし、一夜限りのセックスで妊娠したりもする。「自分」が肥大化しているから、みんなこれだけ苦しくなるんじゃないか、なにかに生まされる・生まされない(受動)と考えると、ちょっと気持ちが楽になるんではないか、と考え込んでしまった。 それは子どもがいる人のポジショントークですよと言われればそれまでかもしれないけど。 そして善百合子のようないのち、彼女が挙げたような痛みだけ感じるために生まれてきたいのちのことをどう考えたらいいかは、まだ私の中で答えは出ないのだけれど。 これからも読み返したいし、何度も問を立て、考え続けたい。私にとってとても大切な本になる予感。

Posted byブクログ

2024/06/26

初めての作者の方です。 今まで何故読んでなかったのか とても良かったです。とにかく表現力がすごいです。作者があらゆる言葉を尽くして、なんとか表現しようとしているのが伝わってきます。 わたしは当然、主人公と違う境遇で暮らしていたけれど、何故か、わたしの中にも夏子の幼い記憶があるよう...

初めての作者の方です。 今まで何故読んでなかったのか とても良かったです。とにかく表現力がすごいです。作者があらゆる言葉を尽くして、なんとか表現しようとしているのが伝わってきます。 わたしは当然、主人公と違う境遇で暮らしていたけれど、何故か、わたしの中にも夏子の幼い記憶があるような、そんな気持ちになってくる。これをエモいと言うのだろうか。 長い物語なのでエイっと気合を入れて読み始めたがあっという間に終わってしまった。 第一部と第二部があり、第一部はそれこそ、エモいです。わたしは第一部の方が好きです。 第二部は本題、精子提供に関しての内容で、主人公の葛藤や焦燥感が痛いくらいです。精子提供者の所は気持ち悪くて少し飛ばし読みしました。 最後の方はもう終焉に向けて、読む必要がないくらいに綺麗な終わり方でした。 一つ、なるほどなと思った所。第一部で、なぜお酒を飲むのか、に関して、主人公が姪に説明した言葉「酔ってる間は自分が自分じゃなくなるような感じがするのかもしれない。ひとは生まれてからずーっと自分。それがしんどくなって、みんな酔うのかもしれない」 これは結構響きました

Posted byブクログ

2024/06/05

初めての川上未映子本。そしてどっぷり浸かるきっかけになった本。姉妹達の会話はテンポが良く、時に笑えてしまうくらい軽やかなのに、漂っている“生”は人間の深淵で、突きつけられる。気付けば“私”がこの世にいた。生きるとは、私とは、何か。考えることをやめたくない。

Posted byブクログ

2024/05/26

『あこがれ』に続き、未映子作品六作目。こ、これは凄い……。うまく言えないけれど『乳と卵』は勿論のこと『ヘヴン』『すべまよ』・・など、作者のあらゆる要素(※本当はすべてといいたいところだが、まだ六作しか読んでいないので…泣) が凝縮した作品。最後のあのシーンは何処か海を思わせた。寄...

『あこがれ』に続き、未映子作品六作目。こ、これは凄い……。うまく言えないけれど『乳と卵』は勿論のこと『ヘヴン』『すべまよ』・・など、作者のあらゆる要素(※本当はすべてといいたいところだが、まだ六作しか読んでいないので…泣) が凝縮した作品。最後のあのシーンは何処か海を思わせた。寄せては返す波のような——。確かに、最高傑作でした!! ちょっと余談だけれど・・川上さんの文章で"初めて"村上春樹の影を見た。まあ彼女自身、ハルキストですから少しも可笑しくはないのですが…(^^;

Posted byブクログ

2024/05/11

40歳手前、自分と同年代の女性の物語。 私は男性で、子供、出産に関してこういう感覚を持ったことはないけど、今を逃してもっと年をとったら出来なくなることがあるだろうなっていう感覚はわかる気がする。 それが巻子の豊胸と夏子の出産だったのかなと思う。 川上未映子さんの昨日を何作か読ん...

40歳手前、自分と同年代の女性の物語。 私は男性で、子供、出産に関してこういう感覚を持ったことはないけど、今を逃してもっと年をとったら出来なくなることがあるだろうなっていう感覚はわかる気がする。 それが巻子の豊胸と夏子の出産だったのかなと思う。 川上未映子さんの昨日を何作か読んで、仲の良かった女性同士がせきを切ったように口喧嘩しだすシーンが出てくることがあるなと思った。ハラハラしながら読むが、むき出しの本音が面白い。

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2024/04/25
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子供を産む選択、産まない選択、女性には色んな選択ができる。一人で育てるという選択もある。今の時代は本当に多様性の時代になった。 自分の家族を振り返り、時には悲しい出来事を思い出し、時にはそんななかでも幸せだった瞬間を思い出しながら、前を向いて自分の子供に会いたいと、悩んだり行動する主人公の姿、今の時代あちこちそんな女性がいるのではないかな。 印象的だったのは、善百合子の「子供は生まれたいと思っていない」と言う考え方。たしかにね、なんて思ってしまった。結局親のエゴでしかないのかもしれない。子供のことなんて考えていないのかもしれない。それでも会いたいと思ってしまうのはなんでだろう?

Posted byブクログ

2024/04/24

読めて良かったと思った。 最初は何を見せられてるのか、よく分からなかったんだけど、話が進んでいくにつれてゆっくりと霧が晴れていく感じがした。特にラストの描写が凄く丁寧に細かく描かれてて、グッときた。泣きそうになった。 善さんの話も的確で共感できた。善さんには絶対幸せになって欲...

読めて良かったと思った。 最初は何を見せられてるのか、よく分からなかったんだけど、話が進んでいくにつれてゆっくりと霧が晴れていく感じがした。特にラストの描写が凄く丁寧に細かく描かれてて、グッときた。泣きそうになった。 善さんの話も的確で共感できた。善さんには絶対幸せになって欲しい。

Posted byブクログ

2024/07/30
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

生まれてくることを望んで生まれる子どもは誰ひとりとしていない。 生むことは賭けで親のエゴ。 シングルマザー、経済状況、善百合子の言葉。 全てを受け入れ、出産を選択した夏子。 物語の結末に戸惑う人もいると思うけど、私はこれは反出生主義について問われている作品だと考えているので、あの結末になったのは新しい選択肢を増やしたいという願いよりも、生むことにおける親のエゴだったり、賭けだったり、倫理的な問題をより強調させるためなのかな?とも考えました。 生むことに子どもの選択権なんてものは元からないのだから、どの出産も親のエゴであり、傲慢さであり、夏子の選択はそれが強調されているだけであって、他の人と根本は何ら変わりないんじゃないかな けど反出生主義について全人類が問いはじめたらほんとうに人類滅びそう。何故人間だけこうも答えのないところに閉じ込められる?知性があるから? だとしたら知性が高いほど滅亡への道へと進んでいくの種としては弱すぎる気がする

Posted byブクログ

2024/04/10

とにかく感動したのは、例えの表現力。肌から伝わる表現と巧みな言語で物語の、夏子の世界に、自分が当然のようにいる感覚を味わえました。とても、上手いなと思いました。 ただ1人の、割と平凡な人間の生涯を描いてる作品なのに、とんでもなく引き込まれました。

Posted byブクログ

2024/04/09
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

これは、売れない小説家の夏目夏子が、自分の子どもに会いたいと、精子提供により一人で子供を出産することの物語である。 が、私の心に刺さったのは、そのことではなかった。 二部に分かれたこの作品の第一部は2008年の夏が舞台。 第二部は2016~2019年の夏。 第二部では小説家になった夏子が、なんとか暮らしていけるようになり、作家仲間や編集者と付き合ううちに、急にわが子という存在が欲しくなり、悩み立ち止まりしながら出産を決意する。 作者が書きたかったのは、精子提供で生まれてきた子どもの存在なのだと思う。 父親と信じていた人が他人だったという衝撃。 デリケートな問題ゆえ、必要最低限の人にしか明かされることはなく、長じた子供が実の父を探そうとしても探すことのできないシステムの闇。 それも衝撃的な内容ではあった。 けれど私は、第一部の印象の方が圧倒的に強かった。 第一部では、父が出て行き、祖母や母が亡くなり、親代わりだった姉の巻子が小学生の娘の緑子と一緒に大阪から上京し、夏子のボロアパートに2泊した時の話だ。 家族の縁が薄かった姉妹は子どもの頃から働きづめで、なのに巻子はやっぱり娘を女手一つで育てていて、負の連鎖のような生活をしている。 夏子は小説家になりたくて上京し、バイトをしながら生活しているが、家賃を3ヶ月も滞納している。 だが、貧乏がデフォルトなので、巻子にも夏子にも悲壮感はない。 と言うよりも、大阪弁での二人の会話には、そこはかとないユーモアが漂っている。 そこに、緑子の存在。 彼女は、半年前から母と口をきかない。 理由には心あたりがない巻子。 必要なことは筆談で、必要のないことは一方的に大阪弁で語りかける巻子は、実にたくましい母である。 緑子が常に持ち歩いているノートに記された緑子の気持ち。 自分がいるばっかりにお母さんが苦労しているのはわかるので、早く大人になりたいと思っている。 けれども、気が緩むと言ってしまいそうになる「なんで私なんかを生んだのさ!」。 これを言ってしまったら、「生みたくて生んだわけじゃない」と言われてしまうかもしれない。 それが怖くて緑子は母親と会話ができなくなってしまったのだ。 この緑子の気持ちが、勝手に不安になって、勝手に悲しくなって、喋れなくなってしまった緑子の気持ちがとても丁寧に描かれていて、緑子の気持ちに包まれたまま窒息して死ぬんじゃないかと思うくらい、胸が苦しくなった。 第一部の最後に緑子の気持ちが解放され、第二部で緑子は女子大生として母と仲良く暮らしている。 第二部では、夏子も逢沢君も善百合子もそれぞれ重たいものを抱えているけれど、なんだかんだ言って彼らは大人なので、どうしても私は緑子の方に肩入れをしてしまう。 『ヘヴン』とこれしか読んでいないけど、この作者、青少年の不安や怒りや絶望を書くのが上手いと思った。

Posted byブクログ