すみれ荘ファミリア の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
富士見L文庫版の表紙も良かったけど今回の装丁も良いですね。 読み比べなどはしていないですが、全体的により鋭くシャープに、オリジナルよりもさらに研ぎ澄まされた印象。この容赦なさが凪良さんだなと改めて思い知らされる。 賄い付きの昔ながらの下宿、すみれ荘の管理人を務める一悟は生まれ持っての虚弱体質に悩まされながらも慎ましやかに日々を送っている。 そんな中で、小説家の芥と名乗る男に半ば強引に引っ越してこられたことで日々は一転、どうやら生き別れた弟らしいが、なぜか身元を名乗らない彼のまっすぐであけすけな言葉や態度は仮面の下で取り繕った住人たちの秘密をどんどん露わにしていく。 物語の顛末を知っていると優しくて頼れるみんなのお姉さん、な青子さんがひたすらに怖い……。 彼女なりに自分の居場所を作るために理想の姿を演じ続けていたのだろうか、とも。 善意のふりをした余計なお世話のオンパレードは凪良節全開でうわあああとなるわけですが、気遣いや遠慮のない芥の振る舞いはみなの向き合いたくなかった本音をどんどんあけすけにしていく。 母親のやけに強ばった態度の理由、芥の人格形成の素となった複雑な生い立ち、綿密に計画された青子の企みーー終盤の畳み掛けに、これはミステリだなと。 芥の「青子さんは一悟を見下しているだけ」はあまりに芯をついていて緊張感に突き刺されるような心地に。 ただ憎むことは出来ない、苦しみと戸惑いに引き裂かれる一悟の心理がひたすらにつらい。 どうしようもなく歪な形で愛を抱き、自らの愛を貫くためになら犠牲を問わなかったーー身勝手な振る舞いはみるみるうちに渦を巻き、中心に据えられた一悟から次々に大切なものを奪い、もうひとりの犠牲者だった芥=央ニによって解体と再構築の道を辿る。 『血の繋がりもなければ社会にも認められない者同士の愛による救済』を描くことがお約束のBL界で活躍してきた作家は『愛』は綺麗でも優しくもなく、身勝手で狂気的なものだということをここまで鋭く抉り出していく。 それでも人は愛なしには生きていけず、愛に救われ、愛に傷つけられながら人生は続く。 新装版のボーナストラックは小説現代に収録されたと言う「その後」 思惑は複雑に絡み合いながら数奇な運命を描いていくーーいや、この凄みはほんとうにすごい。 読んでいてゾッとするのに目が離せない。 しかし、一般レーベル一作目の「神様のビオトープ」はほば一切プロモーションもされておらず埋もれたままだったし、すみれ荘も富士見版の際にはさほど話題にならず…だったのにここにきて(本屋大賞2年連続ノミネートの追い風ありきとはいえ)講談社は凪良さんと一穂さんをゴリゴリに売りだす気満々ですね。 ライト文芸向けの作家ではないことにようやく気づいたのか、はたまた…一気に潮目が変わったものだなぁ。
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