つまらない住宅地のすべての家 の商品レビュー
『つまらない住宅地』とあるが、『つまらない』どころか個性だらけの家庭ばかり。 妻が出ていったことを隠している丸川家、母親も祖母も幼い姉妹を育児放棄している矢島家、暴れたり放浪癖があったりする息子を閉じ込める計画を夫婦で進めている三橋家に、間取りも家族関係もちぐはぐな長谷川家、極...
『つまらない住宅地』とあるが、『つまらない』どころか個性だらけの家庭ばかり。 妻が出ていったことを隠している丸川家、母親も祖母も幼い姉妹を育児放棄している矢島家、暴れたり放浪癖があったりする息子を閉じ込める計画を夫婦で進めている三橋家に、間取りも家族関係もちぐはぐな長谷川家、極め付きは矢島家の少女を拐かそうと企む独り暮らしの大柳。他にもごみ屋敷あり、目を掛けて世話した学生に振り回される大学講師夫妻など十軒の事情が入れ替わり描かれる。 どんな家庭にも中に入れば何らかの問題を抱えているものとは言え、問題ありすぎだろうと戸惑いながら読み進めていくと、更に女性の脱獄犯がこの住宅地方面に向かっているニュースの話が出てきてカオスな予感。 自治会長の丸川家父は、この逃亡犯がこちらに来ないか見張りをすることを提案する。さらに住宅地の面々に見張りの当番を割り振り、住宅地の入り口である老夫婦の笠原家の二階を見張りの場所として借りることを承諾を得るなど、やけに張り切っている。 各家庭の事情は不穏なのに、津村さんらしく呑気でとぼけた雰囲気だ。 物語の方は、逃亡犯の見張りというご近所同士の共同作業がご近所同士の距離も変えていく。 互いに何となくあの家は問題を抱えていそうだと感じつつも突っ込まないでいたところを、例え距離感が変わっても突っ込むことはないのだが、気の持ちようが変わっていく。 逃亡犯とこの住宅地の人々との関係も絡み合っていて面白い。逃亡犯が元々犯罪を犯した原因にも、逃亡の理由にしろ大いに関わっていた。 逃亡犯の犯罪が軽くはないが残酷なものではないものだったこともあり、関係する人たちが逃亡犯を否定的に見ないところが長閑な雰囲気なまま展開していったように思う。 逃亡犯という不穏な出来事が住宅地の人びとの不穏な問題をそれとなく解決するという面白さ。 家にひっそりと仕舞われていた問題をこの機に明るみに引き摺り出すのではなく、何となくそうではないかと察し、或いは自分で何となく立ち止まり、気付いたら上手いこと収まっていたという感じが良い。逃亡犯の結末も上手く着地した。 中でも丸川家の亮太くんとその友人・恵一の活躍は良かったし、矢島家のみづきちゃんの頑張りとそれを察し対等な目で力を貸す山崎家の独り暮らしの女性も良かった。 そんな中で長谷川家の祖母が一人異質な感じを貫いていて印象的だった。 ただ皆さんのレビューにもあるように登場人物が多過ぎて、特に序盤は混乱した。半分くらいの人数にしてそれぞれの物語を掘り下げた方が読みやすかったように思う。
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21/05/05読了 車窓から住宅街を眺めると、あの一軒一軒で誰かが生活しているんだなとその日々に思いを巡らすことがある。津村記久子の小説は、想像する誰かの暮らしを共有してもらっている感覚。 途中少しだれてしまったけど、終盤の展開がよかった。そして熱量低く、いいセリフだなぁというのをくれる。 あんたが罪を重ねるたびに、あんたの人生が浪費される、横領をした時点でもう一生普通の幸せなんてないかもしれないけれども、その中でいちばんましな人生を生きてほしいと思ってたのに。
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つまらない住宅地に住む10世帯の人たち。 一見どこにでもあるような住宅地の平凡な家族のようだけれど、ある家の両親は子どもを庭の倉庫に閉じ込める計画を進めているし、その近所のシングルマザーは小学生の子どもを放置して彼氏にうつつをぬかしているし、そこんちの子どもを誘拐しようとしている...
つまらない住宅地に住む10世帯の人たち。 一見どこにでもあるような住宅地の平凡な家族のようだけれど、ある家の両親は子どもを庭の倉庫に閉じ込める計画を進めているし、その近所のシングルマザーは小学生の子どもを放置して彼氏にうつつをぬかしているし、そこんちの子どもを誘拐しようとしている独身男はいるし。 まったくどいつもこいつもろくでもない!(もちろんそうでない人もいるけれど) そんな中、刑務所を脱走した犯人が近くにいるらしいというニュースを受けて、妙に張り切る自治会長が夜中に交替で近所の見張りをしようと言い出します。 困るわ〜、こういう人、って私が住民なら思うけど、普段からそれほど交流のなさそうな近隣住民は意外に協力的で、大人が協力的でない世帯からはなんと子どもが自主的に参加したりして、老若男女、住民たちが交わり始めて… 犯罪すれすれな件の住民の大人たち、そして大人の身勝手を受け止めながらもがいている子どもたち。 淡々とした筆致で描かれる閉塞的な日常がリアルで、そこに非日常である『脱走犯』が絶妙の距離感で絡んで、物語は転がっていきます。 登場人物が多くて、慣れるまで読むのがちょっと大変ですが、でもとても面白かったです。 人との関わり合いの中で、ちょっと視点がずれたり気づいたり、そんな事が実は結構大事なんだよねえとしみじみしたけど、頑迷なまでに変わらない人は変わらなくて、それもまたリアル。
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まさにそこらへんの住宅地のすべての家の話が出てきた。逃亡犯、という軸はあるんだけど、ちょーっと今の気分として様々な多くの人が入れ替わり立ち替わり登場するような作品を求めておらず、まったくといっていいほど頭に入りませんでした。津村氏の作品は好きなはずなのに、なんでこんなまどろっこし...
まさにそこらへんの住宅地のすべての家の話が出てきた。逃亡犯、という軸はあるんだけど、ちょーっと今の気分として様々な多くの人が入れ替わり立ち替わり登場するような作品を求めておらず、まったくといっていいほど頭に入りませんでした。津村氏の作品は好きなはずなのに、なんでこんなまどろっこしいことになってたのか、そうとしか読めなかったのか残念です。
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逃亡犯が出てくる不穏な話と思いきや、とある住宅地でのそれぞれの家族の内側や日常を淡々と描きます。夫婦二人の家、祖父母や孫のいる家庭、単身者と様々いて、それぞれの事情を抱えていますが、ちょっとしたきっかけで言葉を交わしたり、同じ事象を別の人の視点で見て意見を聞いたり、そんなささいな...
逃亡犯が出てくる不穏な話と思いきや、とある住宅地でのそれぞれの家族の内側や日常を淡々と描きます。夫婦二人の家、祖父母や孫のいる家庭、単身者と様々いて、それぞれの事情を抱えていますが、ちょっとしたきっかけで言葉を交わしたり、同じ事象を別の人の視点で見て意見を聞いたり、そんなささいな事で誰の人生も変わる可能性を秘めているし、好転しうるのだと感じました。 そして、普通でまっとうと思われる人生を歩んでいる人も、その線の上を非常に危うい綱渡りのような歩き方をしているのであって、いつ普通じゃない人生の側に行ってもおかしくないのだとも思いました。 事件が起こってから人は色々非難したり意見しますが、発覚未然の出来事がそれぞれの家の中で無数にあり、私たちにできることは、目の前にいる人にどんな背景があるのかなと想像してみること、憤りたい出来事があっても、ジャッジして切り捨てるのでなく、どうしてなのかな?と思いを馳せてみることではないかと考えさせられました。 読後感は、静かな感動というか、勇気が湧きます。そんなお話を書けるというのは、すごい才能だなと素直に思います。
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班会議とか回覧板を回すとか、祭りとか、今は無いの? うちはあるので、近所の人を知っているが、 そういう交流がない近所の人たちが、逃亡犯のことがきっかけで会話をするようになるほのぼのストーリー。 脱走犯の女性も、凶悪なわけではなく、同情したくなるような、励ましたくなるような、そんな...
班会議とか回覧板を回すとか、祭りとか、今は無いの? うちはあるので、近所の人を知っているが、 そういう交流がない近所の人たちが、逃亡犯のことがきっかけで会話をするようになるほのぼのストーリー。 脱走犯の女性も、凶悪なわけではなく、同情したくなるような、励ましたくなるような、そんな人だった。
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大きな通りから一本脇に入った、行き止まりの路地を囲む10軒の家。住人同士が互いに深い関心も関わりも持たず、静かに日々を暮らしていた住宅地にある騒動が起きる。 妻が家を出て行った丸川家、息子を物置に閉じ込めようと画策する三橋家、ヤングケアラーの小学生がいる矢島家、夜になっても外灯...
大きな通りから一本脇に入った、行き止まりの路地を囲む10軒の家。住人同士が互いに深い関心も関わりも持たず、静かに日々を暮らしていた住宅地にある騒動が起きる。 妻が家を出て行った丸川家、息子を物置に閉じ込めようと画策する三橋家、ヤングケアラーの小学生がいる矢島家、夜になっても外灯をつけず雨戸を締め切り真っ暗になる長谷川家、ある犯罪を企てる独身男・大柳。。 それぞれの事情を抱えた家族が、その騒動をきっかけに協力し、交流が生まれる。人と人との関わりが住宅地の風通しを良くし、家の内に滞り、煮詰まっていた諸々が動き出す。 冒頭に描かれた住宅地の配置図と家族のプロフィールを見ただけでもうワクワクする。 この騒動の成り行きを縦糸に、それぞれの家族の問題を横糸にした構成は見事だし、他所の家を覗き見しているかのような背徳感と場面がテレビチャンネルのように切り替わるスピード感で飽きることなく読み進められた。 騒動が終わった頃には、家族の問題が解決したり、一歩踏み出す勇気を持った子供たちの姿があったりと清々しいラスト。人が人に与える影響の大きさや言葉を交わすことの力というものをしみじみ思う。 人に会えない今だからこそ、沢山の人に読んで欲しい作品です。
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近所付き合いについて考える一冊であった。物語りのような状況下でもそうだが、昨今、自然災害の多い日本列島、少なくとも近所の人とは良い関係でありたい。 登場人物が多くて、読み進めるのに時間がかかりました。 2021,4/18-4/20こ
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とある町にある住宅街。日常の日々を過ごしている時にある一報が。刑務所から脱走したという情報が入ってきた。しかもその人は、この近所にいた人で、こちらの方角に向かっているとのこと。そこで、ある人物が交代で見張りをしようと提案する。 10世帯の家族を舞台にした物語ですが、なかなか読...
とある町にある住宅街。日常の日々を過ごしている時にある一報が。刑務所から脱走したという情報が入ってきた。しかもその人は、この近所にいた人で、こちらの方角に向かっているとのこと。そこで、ある人物が交代で見張りをしようと提案する。 10世帯の家族を舞台にした物語ですが、なかなか読みづらかったなというのが印象的でした。 というのも〇〇さんの章というようなその人を主人公にがっつりと書いているのではなく、ちょこちょこ短いスパンで登場人物の視点が変わっていきます。 この人の視点では、名前表記だったのに別の人の視点になると、苗字表記となるため、なかなか同一人物だとは結び付かず、何度も見返していました。 一番最初では、〇〇家の家族構成はあるのですが、名前表記はされてないので、探すのに苦労しました。 それぞれの家族、それぞれの事情が浮き彫りになっていきますが、名前に苦労したため、個人的に作者が放つ作品の魅力の半分くらいしか感じられませんでした。 刑務所から脱走ということで、シリアスな雰囲気なのかなと思いましたが、ちょっとした恐怖はあるものの、ほっこりとした場面があって、どこか気軽な気持ちで読んでいました。 見張りのためにある家に集まって、揚げそばを食べる場面では、犯人がくるかもしれない恐怖はありますが、どこか温かい雰囲気を醸していて、束の間の安らぎを感じました。 最後の方では、住民との「繋がり」を感じ、絆がもたらす優しさがあって、こういったやりとりが羨ましいとも思ってしまいました。 様々な事情があろうとも、人と人との交流って、やっぱり大切だと感じました。 ただ、読みづらいかなと思ったことを考えると、星2つかなと思いました。
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最初はとにかく住宅地の人がそれぞれ語り手となるからどの人がどの家でどのエピソードだったかなっとなる。苗字だったり下の名前だったりするので余計誰がだれだ?っと何回か元に戻ったりする。 ただ話はちゃんと繋がっている。 どの家も問題を抱えているけど、最後はしっかり解決する方向でおわる。 読んだ後は優しい気持ちになる。 少年たちがひろきを外にちゃんと出れるようにするところの最後微笑ましかった。 住宅地の女の子を誘拐しようとおもっていた青年も逃亡犯を見張るという近所との交流ができて、ちゃんと変わっていける。やはり人は人に支えてもらえている。自分を悪いほうに変えてしまうのも人かもしれないけど、人によってちゃんと優しい気持ちに戻せる誰もが。 そう思わせる本だった。
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