つまらない住宅地のすべての家 の商品レビュー
いわゆる「市井の人々」、普通に日常生活を送っているひとりひとりの日常のドラマがめちゃくちゃに巧い津村さんの新しい群像劇。やっぱり、じわりじわりと面白い。 噛めば噛むほど、というか、読んでいけばいくほど、普通の人々が、実はそれなりに色々とあること、ちょっとタガを外しかけていること...
いわゆる「市井の人々」、普通に日常生活を送っているひとりひとりの日常のドラマがめちゃくちゃに巧い津村さんの新しい群像劇。やっぱり、じわりじわりと面白い。 噛めば噛むほど、というか、読んでいけばいくほど、普通の人々が、実はそれなりに色々とあること、ちょっとタガを外しかけていることが浮かび上がってきます。 けれどもそこでタガを外させる、事件を起こさせるのではなく、そっとそのトゲを引っ込めさせて、また日常へ戻らせる。事件を起こすのではなく、起こさないままでも、確実に変化が起こったことを、細やかな人々との交流でもって説得力を持たせて描いている。そして、面白く読ませる。それが、ほんとうに絶妙な加減なので、結果として「上手すぎる…」としか、言えなくなるのです。 今回の物語では、「脱獄」なんていうわりと派手めな事象が起こりはするのですが、その事件性すらもなんだか悪い意味でなく「たいしたことのないこと」、日常のほんの少しずれたところにあるだけの、だれしも明日起こるかもしれないもののような普遍性があり、「この人は異常だ」「こんな裏があった」と区別しないフラットな描写が、心地よく感じられました。 人は些細なきっかけでおおごとを起こしてしまうけれど、その人は朝挨拶を交わした人かもしれないし、落とし物を拾い上げてくれた人かもしれない。善性と悪性は裏表、というより、ちょっとしたきっかけで、ボタンの掛け違いひとつで、大きく道行きが変わってしまうことがあるだけのこと。そんなふうな、実は危ういバランスに成り立っている「普通」のおかしみ、人の機微が描かれているように思いました。
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現在形を多用した乾いた文体で“つまらない住宅地”の各家庭の様子が描かれる前半は、不気味なまでにリアル。その中で筆者は丹念に点を打ち、後半にかけて徐々に点と点を結び始め、ラストにかけて一気にその線で大きな絵を描き上げる。津村さんならではのこの手腕はお見事としか言いようがない。“つま...
現在形を多用した乾いた文体で“つまらない住宅地”の各家庭の様子が描かれる前半は、不気味なまでにリアル。その中で筆者は丹念に点を打ち、後半にかけて徐々に点と点を結び始め、ラストにかけて一気にその線で大きな絵を描き上げる。津村さんならではのこの手腕はお見事としか言いようがない。“つまらない”と銘打ったタイトルだが、読後感はじんわりと気持ちいい。傑作だな。
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同じ路地に暮らす10件の家。 それぞれに事情と屈託を抱えながら、表面的に付き合う住民たちだが、一連の出来事を通じてばらまかれた伏線が綺麗に回収される中で、裏のテーマも明かされ、互いの理解やつながりを深めていきつつ、家族関係も変わっていく。 読みづらさを感じつつ淡々と読み進めて...
同じ路地に暮らす10件の家。 それぞれに事情と屈託を抱えながら、表面的に付き合う住民たちだが、一連の出来事を通じてばらまかれた伏線が綺麗に回収される中で、裏のテーマも明かされ、互いの理解やつながりを深めていきつつ、家族関係も変わっていく。 読みづらさを感じつつ淡々と読み進めていくと、ばらばらだったエピソードが終盤に一気に一点に集約され、完結する。作者の構成の狙いは当たっている。
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とある町の住宅地を舞台にした津村記久子さんによるミステリー小説(そして絶妙なタイトル)。女性受刑者が刑務所から脱走したところからはじまり、住宅地の住民が協力して交代で見張りを始めることになる。10軒の家族が登場するので登場人物が多く若干混乱(中には不穏な動きをする若者もいる…)す...
とある町の住宅地を舞台にした津村記久子さんによるミステリー小説(そして絶妙なタイトル)。女性受刑者が刑務所から脱走したところからはじまり、住宅地の住民が協力して交代で見張りを始めることになる。10軒の家族が登場するので登場人物が多く若干混乱(中には不穏な動きをする若者もいる…)する。物語が進むごとに、だんだんと住民と住民の関係性が変化していくのが面白い。
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都市近郊の住宅街の隣近所の話。 隣町出身の女性の囚人が逃亡して、逃げ込んでくるという噂が広がる。近所問題と家族の問題、それぞれの家の問題が描かれる。視点が変わっていくので状況を楽しむタイプの物語。 強引さが気になり楽しめなかった。、
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住宅地っていかにも「狭い世界の中」である。 私も実家が住宅地にあるからよくわかる。 周りの家の人たちはみんな同じ小中学校を卒業してるし、長い付き合いになるし、それぞれどんな家族構成なのか、どんな職業なのか、どんな性格の人が住んでいるのか知っている。 もちろん「いい人」だと思う人も...
住宅地っていかにも「狭い世界の中」である。 私も実家が住宅地にあるからよくわかる。 周りの家の人たちはみんな同じ小中学校を卒業してるし、長い付き合いになるし、それぞれどんな家族構成なのか、どんな職業なのか、どんな性格の人が住んでいるのか知っている。 もちろん「いい人」だと思う人もいれば、「ちょっと変だな」と思う人もいる。 この本ではある住宅地の、いろんな住人が出てくる。 なかなか苗字が出てこないけれど、冒頭に「地図」が書いてあって、家族構成や近所の人とのやりとりで、「これはここの家の人か」とパズルみたいに当て嵌めながら読み進めることができた。 狭い住宅地だけど、それぞれさまざまな問題を抱えていて。確かに、「普通の、ありふれた」家庭なんてほとんど皆無だと思う。人にはいろいろ、言えない事情というものがある。 なんとなくお互い知ってるけど、付かず離れずの関係性が一番いい。 (といっても、さすがに近所の子の誘拐を計画している人が同じ町内にいるのは嫌だな…笑) そんな「付かず離れず」の住民らが、ある逃亡犯が近くに来ているというニュースを機に、ちょっとだけ団結する話。 住宅地なのでほんとに世間は狭いなあと思った。 逃亡犯の理由まで、この住宅地に関係している。 逃亡犯のニュースをきっかけに、それぞれの家の問題も少しだけいい方向に進んでいく。 それぞれの住人について「そんなに深掘りされてない」というのも、「付かず離れず」でありかな、と思った。 (だけど面白さも「付かず離れず」、かな…笑)
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テレビ番組でも取り上げられ、多くの方々が絶賛しているようでしたが、自分の好みには合わなかったかな。 登場人物が多いのに、それぞれの個性や魅力があまり見えてこなかったように思う。 説明的な文に少しくどい感じがあるのか、なぜか読みにくくてなかなか進まない…。 後半から少しずつ繋がりが...
テレビ番組でも取り上げられ、多くの方々が絶賛しているようでしたが、自分の好みには合わなかったかな。 登場人物が多いのに、それぞれの個性や魅力があまり見えてこなかったように思う。 説明的な文に少しくどい感じがあるのか、なぜか読みにくくてなかなか進まない…。 後半から少しずつ繋がりが出てきて、後ろ暗いところがある各々も良い方向に向かえたのはよかったし(そうでないと困るけど)、確かに色々と斬新な構成なのかもしれない。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
多少難を抱えた「つまらない」人たちに対する眼差しがとてもやさしい。いろいろあっても人間社会に対する信頼が根っこにあるので、読了感の爽やかさは文句なく★5つ。 今だから求められる小説。これからもこういった作品を生み続けてほしい。
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似たような地形の住宅地に暮らしたことがある。 会えばにこやかに挨拶しあう。 ゴミの捨て方や夜中の騒音などもたまであればお互いに我慢している。家族構成などもさまざまで実際の所は不明。 そうした10家族の事情に飛び込んできた脱獄した女囚がこの住宅地に向かっているというのが縦線という構...
似たような地形の住宅地に暮らしたことがある。 会えばにこやかに挨拶しあう。 ゴミの捨て方や夜中の騒音などもたまであればお互いに我慢している。家族構成などもさまざまで実際の所は不明。 そうした10家族の事情に飛び込んできた脱獄した女囚がこの住宅地に向かっているというのが縦線という構成。 初めのうちは10家族の人物たちを把握するために地図を書いて名前を書き込んだ。 著者の意図かもしれないがストレートにどの家の誰でどんな家族構成なのかも一読では分からない書き方なのだ。 まあ、そこが新鮮で読み始めたのだけど現代の不安と焦燥と不気味さを描いていてパンチがきいていた。そして読後にかすかな希望が見えたような気がしたのが救いとなった。
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脱走犯とこの住宅地の家々の繋がり、見事にリンクして完璧な仕上がりといった感じです。 上から目線ですみません(笑) 夜になると真っ暗な家、確かにあるある。 その他にも確かにこんな家もあるあるが溢れています。 ご近所って見えてるようで実は勝手に想像してるだけの身近な現実的なミステ...
脱走犯とこの住宅地の家々の繋がり、見事にリンクして完璧な仕上がりといった感じです。 上から目線ですみません(笑) 夜になると真っ暗な家、確かにあるある。 その他にも確かにこんな家もあるあるが溢れています。 ご近所って見えてるようで実は勝手に想像してるだけの身近な現実的なミステリーですよね。 とはいえ、確かにつまらない住宅地なんですけど。
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