灰の劇場 の商品レビュー
どこか足元がおぼつかない感覚にさせられる、フィクションと現実の境目がきわめて曖昧な、それこそ劇場での芝居をテレビ画面を通してみているような、不思議な距離感のある小説でした。 面白い、つまらないではなく、すべてがなにかのフィルターにかけられたまま進んだような、私的な作品に感じまし...
どこか足元がおぼつかない感覚にさせられる、フィクションと現実の境目がきわめて曖昧な、それこそ劇場での芝居をテレビ画面を通してみているような、不思議な距離感のある小説でした。 面白い、つまらないではなく、すべてがなにかのフィルターにかけられたまま進んだような、私的な作品に感じました。 そう感じた理由としては、フィクションである本作品そのものと、フィクションの中で筆者自身にきわめて近い「小説家」の視点、そして本作品の中で「リアルに起こった事件」の当事者、と現実/非現実/事実/空想の境目を曖昧に、多層的な構造を取っていた上に、さらに内省的な独白も多い視点で物語がつづられたからかもしれません。 すべてがどこか曖昧に、やがてゆるやかに「どうして二人は死んだのか」へと向かって物語は収束していきます(ように思いました)。 その死への絶望を得た「気づき」が、自分にはほぼ同世代なせいか、妙に生々しく感覚としてわかってしまったので、そこでぐっとフィクションが鋭く輪郭を持ち、こちらの感覚を突き刺してきました。その部分だけが血肉と感情を伴って、こちらに訴えかけてきたのでした。 その瞬間があったから、私には、この物語は棘が刺さって抜けないような感覚を後に残していくものとなりました。
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絶望が死を呼ぶ 物語そのものは、はっきり言って面白くなかった。でも、普通のひとが死を決意するきっかけって意外と普通の絶望によるものなんだなぁと変に納得してしまった。つまり、気持ちがわかるということか。このテーマが少しトゲになってノドに刺さってるな。
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面白かった。どんな本かじゃすごい説明しにくいけど。自伝でもなしエッセイでもなし、作中作品はあるけど純然たる小説でもなし。きっと作家さんって、新しいスタイルを模索する時期があるものなんでしょうね。 「こんなの書いてないで、あのシリーズの新作を」なんて思ってたけど、作家も1人の人間...
面白かった。どんな本かじゃすごい説明しにくいけど。自伝でもなしエッセイでもなし、作中作品はあるけど純然たる小説でもなし。きっと作家さんって、新しいスタイルを模索する時期があるものなんでしょうね。 「こんなの書いてないで、あのシリーズの新作を」なんて思ってたけど、作家も1人の人間であって、決して「小説製造機」ではないのだ、ということを改めて肝に命じた次第。 『風と木の詩』で、傍若無人のジルベールは「あいつ、自分以外の人間は(痛みを感じない)デクノボウだと思ってやがる」みたいに言われてたっけな–––変わんないじゃん、自分。反省反省。 作家の常識が世間の非常識、みたいなギャップについても赤裸々だったのが印象的。フィクションどっぷりの日常を送る身にとって、現実の人生では稀な「事件」でも、ともすれば手垢塗れで消費されるコンテンツに感じられてしまうのは、一種の「職業病」なのかもしれない。 1つ、個人的に引っかかったのは、主人公2人に与えられたイニシャル「T」と「M」。私の感覚だと反対で、後半までどっちがどっちかすぐ混乱しちゃって困った。だって、小柄でスマート過ぎず男好きのするラブリーな印象の女性の方が「M」っぽくない?
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残念ながら読了できず。文章は非常に読みやすく表現も好きなのだけど、この世界観ついていけない。1と0が行ったりきたりで頭の中が混乱してどこに向かおうとしているのかさっぱり理解できず。非常に残念。
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作者さん自身の、虚構への距離感だとか、一般的な自殺に対するというよりは新聞の切り抜きで見つけた(これがリアルなのかは分からないけど)女個人への想い、自分の人生と重ねたりもして、みたいな、そういう刺さってる「棘」をずーっと考えて煮詰めたらこんな本ができました、という印象を受けた。 ...
作者さん自身の、虚構への距離感だとか、一般的な自殺に対するというよりは新聞の切り抜きで見つけた(これがリアルなのかは分からないけど)女個人への想い、自分の人生と重ねたりもして、みたいな、そういう刺さってる「棘」をずーっと考えて煮詰めたらこんな本ができました、という印象を受けた。 人はなんとなく、理由もなく死ぬことがある的な文章もあったが、気分で自死できるということはもうそれは心か身体に大きな虚無がぽっかりと空いてる状態でいつでもその穴に飛び込める準備ができてる訳だから正常ではなく、やっぱり健康な人間はなかなか自らは死ねないと思う。ただ、それほどの絶望とか悲しさとか虚しさが生まれるのは、たいへんな悲劇がなくても、日常が積み重なるうちに育っていくことがあるんだろうと感じた。というか、分かる。だって生活って、面倒で複雑で、頑張らないとやっていけないし。それについて大袈裟に考え始めちゃうと駄目なんだろうな。相手がいれば決断のハードルは下がるのかもしれない。終わるならもう考えなくていい、決めなくていい、楽さ。 最後にTが学生時代に戻ってふわりと笑うシーンで切なくなっちゃった。虚構なんだけど。過去は綺麗で、過ぎた時間を意識してしまう。そんなことしなくていいのにね。
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- ネタバレ
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読書備忘録658号。 ★★★☆。 図書館の予約本が手に入らない時に借りるカート本。 品川区ゆたか図書館にあったので借りました。 結果、今イチでした。笑 物語は、基本的に0と1と(1)で構成される。 最後に、0~1という章があるが、この章はカオス。 0は、脱サラして小説家になった主人公(名前は出てこない)の視点。小説のネタは、実際に起きた事件や事故などだ、という件で淡々と語られる。 そして、どうやら、女性2人が橋から飛び降り自殺した事件で小説を書こう思い立ったみたい。 1は、とある大学の同級生女子2人の視点。MとT。なんとなくMは自立した女性。Tは男に好かれるタイプで、とっとと寿退職して専業主婦になった。 ただ、Tは離婚して、Mとルームシェアして生活する。 (1)は0の書いた小説が舞台化される件。どうやら、ちゃんと女性2人の自殺をテーマにした小説として完成している模様。 そうです。自殺したのは1の2人。2人の同居生活。どちらかが「家を出る」ということの恐れ。Tの再婚?Mの恋愛?それをお互いに恐れるあまり、幸せなうちに2人で死のうよ、という感じですかね。よくわかりません。 そして0~1。0の世界と1世界がなんか次(時)元を超えて交差する世界。ほんとによく分かりません。 名前の一切出てこない、登場人物の誰にも感情移入できなかったので、楽しめなさ感100%でした。笑 恩田さんの作品は選ばないとね。笑
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作者自身ぽい作家が自作の舞台化のオーディションに参加する話と、その作品の登場人物2人の話が交互に進む。 作家はその作品が実際の事件を元にしたものだった故に、登場人物に具体的な顔を与えてしまう事に悩む。
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自殺した女と作者?の心情が交互に重なり交わり、結果混沌としてよくわからない。着地地点がイマイチ掴めない、不完全燃焼。あと10年もしたら理解できるのだろうか。
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この事件が本当にあった話なのかどうか、不思議な感じだった。 視点が変わるからか、つかめず、サラサラと流されるままに読み終えてしまった。 現実と想像の境界線があいまいなまま読み進めてしまい、消化不良な感じになった。
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1994年4月。 奥多摩の橋の上から、2人の女性が投身自殺を図った。 約半年後、二人の身元が判明。45歳と44歳。同居をしていた関係だと言う。 その小さな記事が気にかかり、亡くなった二人の人生を小説にしようと悩む小説家と、自殺した2人の女性の人生を交錯させて描く、かなり複雑な構成...
1994年4月。 奥多摩の橋の上から、2人の女性が投身自殺を図った。 約半年後、二人の身元が判明。45歳と44歳。同居をしていた関係だと言う。 その小さな記事が気にかかり、亡くなった二人の人生を小説にしようと悩む小説家と、自殺した2人の女性の人生を交錯させて描く、かなり複雑な構成で、特に内容にも盛り上がりがないので、他の方と同様に何とも微妙な印象が終始付きまとう。 同性同士の同居など、今では当たり前になっているので、余計に女性二人で投身自殺をした背景を知りたがる主人公の心中は理解し難いが、バブルが弾けた直後の時代背景をしっかりイメージすると、亡くなった二人に共感出来る部分がやっと浮かび上がってくる。 舞台化されるパートはさらに意味が分からないままだったが、折しもバブル並みに物価が高騰を続ける現在。しかし、一般人の給料は上がる気配がない。それを考えると、自殺をしたMとTの気持ちが痛いほど分かり、読み終わった時にはとてもぞっとした。 もう少し前に読んでいたら、きっとこんな気持ちにならなかったのだろうけど・・・ でも、恩田作品としてはイマイチだったかなぁ。
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