レストラン「ドイツ亭」 の商品レビュー
3月に入って「アイヒマンを追え」をアマプラで見た頃に地上波で流れていた「顔のないヒトラーたち」を見る事が出来たのは偶然とはいえ、厳然たる事実を踏まえ、当時の、今の、これからの人間が考えるべき宿題を出された気持ちがした。 正直、最高傑作という気持ちはなかったが、秀作であることは否...
3月に入って「アイヒマンを追え」をアマプラで見た頃に地上波で流れていた「顔のないヒトラーたち」を見る事が出来たのは偶然とはいえ、厳然たる事実を踏まえ、当時の、今の、これからの人間が考えるべき宿題を出された気持ちがした。 正直、最高傑作という気持ちはなかったが、秀作であることは否めない。 個人的力量の限界からか、多様な人間を描いているその奥を読み取れなかった。 例えば姉のアネグレットと勤務先のキャスナー医師との不倫、乳児への処置、それを無い物として先に歩を進める彼らの人間性‥でそれがどう関わってくるか、行くか? 「不思議の国のアリス」をモチーフにした比喩が多用されていて 白ウサギへの蔑称とも感じる呼び名が何を意味するのかついに掴めず終い。同じく、城ブロンドという呼称が持つニュアンスも、意が掴めず。 ダーヴィッド~カナダ系ユダヤ人の懊悩が一番分かり易かったかな・・自分を消し去ることによって贖罪とすることの是非の良しあしは別として。 対するユルゲンの父の立ち位置も、これまた分かり易い。元共産党で、戦時中拷問を受けた彼の今の心境・・「人間であることは辛いものだ」が一番すっと入って来た。 今のウクライナの現況を見ると「スラブ民族が流してきた血の洗礼、粛清の歴史」それを「彼らは慣れている」と安易に行っていいとは思えない・・彼らは「辛いけれど、歩いて行くしかない」という厳然たる思いが心の底に在るのだと思う。
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フィクションでありながらも、アウシュビッツを書いた小説のなかではこれまで読んだ中でも最高傑作である。残虐さを抑えた表現で書きながらも、過去に向き合う主人公の葛藤が上手く書かれている。 久しぶりに傑作を読んだ。
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律法とは乳のようなものだから。イスラエルの民は無垢な幼子が乳をのむように貪欲に律法を求めている。 アウシュビッツの保管物件の防腐処理と保存は大変。髪の毛はダニに食われ、メガネのフレームはサビにやられてしまう。靴はカビや人間の汗に含まれていた塩分によって陳腐しいてしまう。
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「何もしなかった」罪。 その時代の空気、流れに個々人が抗うのは本当に難しいことなんだと、このコロナ禍を経て思う。抗うのは難しいけれど、難しいから何もしなくていいわけではない。 そして、あの戦禍から逃れたことへの罪悪感から逃れられない人も多くいたのだろう。大きなものの中で、個とし...
「何もしなかった」罪。 その時代の空気、流れに個々人が抗うのは本当に難しいことなんだと、このコロナ禍を経て思う。抗うのは難しいけれど、難しいから何もしなくていいわけではない。 そして、あの戦禍から逃れたことへの罪悪感から逃れられない人も多くいたのだろう。大きなものの中で、個としてどう生きていくかが問われる。 あの時代に生きたドイツの人で、どれだけ自分は無関係と言い切れるのだろうか。アウシュビッツに直接関わったかどうかの線引きってどこでできるのだろう。 とは言え、あの時代に生きた人すべてに責任があると言ってしまっていいものか。責任の所在を明確にすることが、同じことを繰り返さないようにするためにはやはり必要なのではないか、でも…ということをぐるぐる考えさせられた。 ひとりひとりがずっとモヤモヤを抱えて、それに辛抱しながら考え続けて生きていくことに尽きるのかな。
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アウシュビッツ裁判を題材にした作品。重い題材なのに読み進めるのに難しくない。 この裁判を通して主人公と家族や恋人との関係性が微妙に変化する。身近な誰かが戦争犯罪に、直接的にも間接的にも関わっているのではないかという疑いや真実を知った心情の変化とともに。 過去の犯罪の過ちに、若い世...
アウシュビッツ裁判を題材にした作品。重い題材なのに読み進めるのに難しくない。 この裁判を通して主人公と家族や恋人との関係性が微妙に変化する。身近な誰かが戦争犯罪に、直接的にも間接的にも関わっているのではないかという疑いや真実を知った心情の変化とともに。 過去の犯罪の過ちに、若い世代は何ができるのか?それは目をそらさずに直視すること。このことをこの小説は教えくれる。
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日曜の夕刻に読み始めてページを繰る手を止められず読了して時計を見たら深夜の1時だった。フランクフルトにあるレストラン「ドイツ亭」の次女エーファがアウシュビッツ裁判に関わり、強制収容所への連行や収容所での実態を知っていく。それと並行し、恋人ユルゲンとの関係と彼の秘密、両親の秘密、姉の秘密が明らかになっていく。各々が抱える過去とその葛藤、一般の人々の裁判への態度や関心、裁判で明らかにされる事実に基づいた強制収容所での殺害や拷問のシーンなどどれも真に迫ってくるが、特に第3部で裁判関係者一行がアウシュビッツを訪問するシーンは圧巻。息苦しく、哀しく、涙ぐみながら読み進めた。本書に描かれた過程を読めば21世紀の今も裁判が続き高齢で身体不自由となっている関係者でさえ訴追されていることも宜なるかなと思われよう。家族と一緒に暮らしたいと希望した父親の選択が結局家族を壊してしまった。これもまたナチスによって生じた悲劇だろう。レストランの名前が「ドイツ亭」であることにも作者のメッセージを感じる。映画「アイヒマンを追え!ナチスが最も恐れた男」をもう一度見たくなった。そして未見の「顔のないヒトラーたち」を見なければ。
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アウシュビッツ裁判のポーランド語通訳としてのバイトに関わった女性が主人公である。最後に自分の母親が裁判の証人として登場し、家族がアウシュビッツで料理人として働いていたことを本人も思い出すという話である。 日本でも中国の満州に移民としていった人々にとっては、同じような状況があるが...
アウシュビッツ裁判のポーランド語通訳としてのバイトに関わった女性が主人公である。最後に自分の母親が裁判の証人として登場し、家族がアウシュビッツで料理人として働いていたことを本人も思い出すという話である。 日本でも中国の満州に移民としていった人々にとっては、同じような状況があるが、小説にもできないであろう。
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ナチスに加担した親衛隊を裁判にかけるその証人の通訳(ポーランド語をドイツ語に)の仕事をすることになった主人公であるエーファ。 裁判で通訳をするうちに思い出されてきた記憶。 父と母がゲットーでコックとして働いていた事実。 恋人ユンゲルとの考え方の相違。 (一度は婚約破棄したけどワルシャワで再会してヨリを戻しそうなところでジ・エンド) いろいろな事が明らかになっていくさまはスリリング。 でも、あの当時ああしなければ。生きていけなかった両親の気持ちもわからないではない。 それを人殺しに加担したと糾弾し、家を出てひとり暮らしを始めるエーファはあまりにも狭量ではないか。 あの看護師の姉のエピソードも(赤子に毒を飲ませて自分が看護して親から感謝されるのを繰り返してる) それを知った医師と結婚することによって闇に葬り去られたし。 あとがきを読んで驚いたのは、このドイツ人がドイツ人を裁くアウシュヴィッツ裁判が1963年に始まったこと。 そして今現在もすごい高齢になった元親衛隊が裁判にかけられ裁きを受けていること。(名も変え整形までして国外に逃げてるらしい(この情報はマリコ書房より)) ナチスの犯罪追求を続けていた検事長のフリッツ・バウアー 氏に関する本も読んでみたくなった。 出版されてるか否かも不明だけど。
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ポーランド語の通訳として働いている若くて美人のエーファはひょんかことからアスシュビッツでの戦争犯罪をあつかう裁判で通訳を務めることとなる。家族はその仕事をやるべkでないという。しかし理由は語らない。アウシュビッツで何があったのかとうことはこの小説の主題ではない。過去の行為とどのように向き合い、どのように処すべきかについて個人が格闘する話である。エーファはそのような非人道的なことはするべきでなかったと思う。しかし両親はしかたなかったという立場です。この小説に厚みをもたせているのはエーファの恋人とエーファの姉およびカナダ系ユダヤ人の三人である。 姉は自分の存在意義のために、非人道的な行いを繰り返している。ユダヤ人は過去を精算するために裁判に関わっている。そして恋人は神学と親の仕事の継承の間でゆれている。 誰しもいきるためによすがが必要なのである。 その縁(よすが)を否定されても困るのである。こうやってドイツは第二次大戦とむきあっているんだなというのが印象的な小説でした。
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深い本だった。ナチスがやったことが明らかになる過程で大変な思いをすることになった人がいるであろうことは、かんがえて見れば当たり前だけど、これまで考えたことがなかった。そのことを知れて良かった。 一つの家族の物語として描く手法は有用と思うけど、姉のエピソードは要らなくないか?と思う。映像化向きかな。
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