わたしたちが光の速さで進めないなら の商品レビュー
>人は誰しも、この世界の外のどこか別の場所、遠くて美しいもの、広大で圧倒的な何かを希求する心を、少なからず持っているのではないでしょうか。きっと、そうしたものに人一倍強く惹かれる人たちが、SFを読んだり書いたりするのだと思います。(中略)この本に収録されている作品には、そういった...
>人は誰しも、この世界の外のどこか別の場所、遠くて美しいもの、広大で圧倒的な何かを希求する心を、少なからず持っているのではないでしょうか。きっと、そうしたものに人一倍強く惹かれる人たちが、SFを読んだり書いたりするのだと思います。(中略)この本に収録されている作品には、そういった遠い場所や見知らぬ存在に長年抱いてきた愛情が込められています(日本語版への序文より) SF短編集です。韓国SFです。 タイトルが好きです。タイトル買いです、 SFはやっぱりタイトルです!と言いたいけど世界SF会議やらで色々評判を聞いておりました。 柔らかくてノスタルジックで、めちゃくちゃ面白かった。素晴らしいSF体験でした。 著者は1993年生まれの女性。若い! SF会議での発言も理性的で感傷的で好感でした。 日本の若手SF作家って、どのへん?狭い知ってる範囲で若そうなのって小川哲とか宮澤伊織とか草野原々あたり…でも30台かな。 韓国SF初体験でしたが、中国SFとはまた違う方向だなーと思いながら読みました。国で括ることに意味はないのですが。 「巡礼者たちはなぜ帰らない」 大人が少なく子供ばかりで平和な『村』。18歳になると『始まりの地』への巡礼がある。巡礼を控えたデイジーはある時、巡礼から帰らない大人が毎年何人かいることに気づく。始まりの地とは何か、なぜ帰らないのかという話。世界の謎!っていう導入で世界の成り立ちは主題じゃないぞ、と主張するのが現代的。 萩尾望都に描いてもらったら似合いそうな雰囲気がすごく良い。 「スペクトラム」 『それは素晴らしく、美しい生物だ』 人類初の地球外知的生命との接触者であると主張しながらも、決してその詳細を明かさなかった祖母の研究ノートを紐解く話。 奇妙だが優しい生き物たちの生活を読むのが楽しい。どこか牧歌的で絵本の世界のようでいて、理知的な魅力に溢れた異星の描写が素敵。 「共生仮説」 どこにも存在しない場所の絵を描き続けた画家がいた。彼女は生まれる前にそこにいた、と言うのだ。その風景は人類の誰もが見たことがないのに、誰もが懐かしく思う風景だった。という話。 なぜそう感じるのか、その場所はなんなのか。乳児の思考を読む機械の実験が事実を明らかにしていく。 「わたしたちが光の速さで進めないなら」 打ち捨てられた宇宙ステーションでもう来ることのない遠い星行きの宇宙船を待つ老婆に、彼女を立ち退かせたい男が話を聞く短編。 たどり着けない場所に別れてしまった家族の元へ行きたい、と願う話。 「感情の物性」 『キョウフ』『ユウウツ』『トキメキ』『オチツキ』『ゾウオ』…感情そのものを物質にした商品が流行っている。それを持ったり使ったりすると心がそのようになるという。プラセボ?本物?ネガティブな感情の商品もよく売れるのは何故か。 感情をモノとして手に持てるというのは面白そう。小川一水の短編「グラスハートが割れないように」を思い出した。 「館内紛失」 死後に自我をデータ化できるようになった世界。アップロードされた自己は、紙の無くなった図書館に収められる。その図書館でジミンは母のマインドが館内紛失したと告げられる。データは確かにあるがインデックスが削除されたのだという。 自身が母になることが分かり、毒親だった母のことを回想する話。母を理解しようとする話。 死後に死者のコピーと会話できるとしたら、どう思うだろうか。何を聞きたいと思うだろうか。 「わたしのスペースヒーローについて」 ワームホールを通過する人類初の宇宙飛行士に選ばれたガユン。失敗した前任の宇宙飛行士の1人、家族同然に暮らした、ガユンにとってのスーパーヒーロー、ジェギンおばさんが実は出発直前に逃げ出していたと聞かされる。彼女は何故宇宙へ行かなかったのか。 どんな過酷な場所でも生きていけるようになった人は何を望むだろうか。 後から振り返るお話が多いですね。 切ない感じが全編漂うのはそのせいでしょうか。 そういえばネタバレになるかも知れないのですが、「わたしのスペースヒーローについて」のジェギンは、 AIの遺電子10話(第1巻)に出て来る「海の住人」になったのでしょうかね…。
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「はちどり」のキム・ボラ監督が本作の収録作を映画化するということで即購入。 韓国人の女性作家が綴ったSF短編集です。 SFといえば壮大な冒険だったり夢のあるユートピアだったりとスケール感の大きい話を想像しがちですが本作では近未来を舞台にして人間の感情だったり、他者とのコミュニ...
「はちどり」のキム・ボラ監督が本作の収録作を映画化するということで即購入。 韓国人の女性作家が綴ったSF短編集です。 SFといえば壮大な冒険だったり夢のあるユートピアだったりとスケール感の大きい話を想像しがちですが本作では近未来を舞台にして人間の感情だったり、他者とのコミュニケーションにフォーカスを当てていました。 分かり合えない他者への感情を異星人や感情を物質化した商品などSFならではのモチーフで表現されています。 大きな舞台から小さな話を展開するアイディアがユニークでとても面白かったです。 韓国カルチャーは多岐に渡って本当に豊かだなと感じます。 今後も韓国映画はもちろん、文学にも手をつけていきたい。
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SF読むと認識が拡張された気がします。日々理解できる範囲が狭かったと。宇宙人との対話が言語でなく色彩だったなどなど。なぜ発話だけがコミュニケーションだと思っていたのか、そういう気づきが面白いです。
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地球外生命体を、異物ではなく他者として捉える感覚が新鮮で、繊細な描写が美しかった。 「わたしのスペースヒーローについて」 オリンピック選手を見ていて苦しくなることがある。その感じを思い出した。 国中からの過剰な期待とプレッシャーと、掌を返すような極端な反応。 国のお金が注ぎ込ま...
地球外生命体を、異物ではなく他者として捉える感覚が新鮮で、繊細な描写が美しかった。 「わたしのスペースヒーローについて」 オリンピック選手を見ていて苦しくなることがある。その感じを思い出した。 国中からの過剰な期待とプレッシャーと、掌を返すような極端な反応。 国のお金が注ぎ込まれていようが、努力による成果は本人の所有物だと思うので、 自分のためにそれを使おうとしたジェギョンは 私にはとても正しい姿に見えた。
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『はちどり』のキム・ボラ監督の次作原作ということで。 やわらかい感性で描かれた、あたたかいSF集。 「スペクトラム」どんな風に撮るのかすごく楽しみだけど、「館内紛失」も似合う気がした。 それにしても、韓国、層が厚すぎる……
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80~90年代にたくさん生産されたようなちょっと懐かしい感じ、それから時代的なものじゃなく感覚的にもノスタルジックなSF短編集だった。比較対象が少ないのであれですがテッド・チャンほどの精密さ、精巧さはないけど人の温かみが感じられる手触りも柔らかくて触り心地の良い、内容的にもわかり...
80~90年代にたくさん生産されたようなちょっと懐かしい感じ、それから時代的なものじゃなく感覚的にもノスタルジックなSF短編集だった。比較対象が少ないのであれですがテッド・チャンほどの精密さ、精巧さはないけど人の温かみが感じられる手触りも柔らかくて触り心地の良い、内容的にもわかりやすい作品たちだった。表題作よりも『スペクトラム』が一番好みだったんですが何気なく帯観たら『はちどり』のキム・ボラ監督で映画化って書いてあってエッ観たいじゃんそれは…となりました。ルイのデザインをどうするのだろう。 『スペクトラム』はとにかく最後の1ページに胸をぎゅっと掴まれる。ルイが残した数々の美しい記録たちのなかに紛れ込んだ彼の一言はどうしようもなく、切なくてそして嬉しい。 そして表紙が可愛い。
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SFというジャンルが持つ孤独さってどんなところからくるんだろう。 遺伝子操作、ファーストコンタクト、深宇宙… 新しい技術で世界が拡がれば拡がるほど、喜びの一方でまた新しい孤独がうまれ、またそれを乗り越えていく。 いやあ孤独だねえ、くしゃみしてしまうな。
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弱者やマイノリティといったテーマを、SFという舞台に見事に落とし込んだ小説。人のこころの揺らぎや哀しみがとても繊細に捉えられているうえ、温かい筆致のおかげで重たく哀しいテーマもすんなりと読める。理不尽だらけの近未来は果たして私たちの未来なのか、変えられる未来なのか。
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この本と作家の方を知ることができて、読むことができて幸運です。 どのお話も、まなざしがとても優しい、そしてすごく面白かったです。 自分が特に好きなのは、 巡礼者たちはなぜ帰らない スペクトラム 共生仮説 館内紛失 中でも館内紛失は、主人公にとても共感して、読んでてたまらなかっ...
この本と作家の方を知ることができて、読むことができて幸運です。 どのお話も、まなざしがとても優しい、そしてすごく面白かったです。 自分が特に好きなのは、 巡礼者たちはなぜ帰らない スペクトラム 共生仮説 館内紛失 中でも館内紛失は、主人公にとても共感して、読んでてたまらなかったです。 もっとこのキム・チョヨプさんの作品や、その他の韓国女性作家さんの作品を読んでみたいと思いました。
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サイエンスノンフィクションだと思って手に取ったら、純粋にSF作品だった。今時のSF作品をぜんぜん知らないこともあって、とっても楽しく読めた短編集だ。当然だけど最新の科学技術を背景とした物語で、人(それも魂)をデータ化してアーカイブするなんて、昔にはなかった設定だよね。なかで「感情...
サイエンスノンフィクションだと思って手に取ったら、純粋にSF作品だった。今時のSF作品をぜんぜん知らないこともあって、とっても楽しく読めた短編集だ。当然だけど最新の科学技術を背景とした物語で、人(それも魂)をデータ化してアーカイブするなんて、昔にはなかった設定だよね。なかで「感情の物性」がお気に入り。どうやら作者は、人の感情と物質とのつながりや関係性を扱うのが好みみたいだ。この作品が初の上梓らしく、これからが楽しみだ。
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