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海をあげる の商品レビュー

4.1

240件のお客様レビュー

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    99

  2. 4つ

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  3. 3つ

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2021/01/14

先日読んだ「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女」の著者、上間陽子さんによるエッセイ。 離婚、娘との暮らし、研究の過程で出会った少女との交流、そして米軍基地の辺野古移設についてなどが、静かな文体で書かれていて、心を打つ。 この本を書店で見かけて、気になって、先に刊行されていた「裸足...

先日読んだ「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女」の著者、上間陽子さんによるエッセイ。 離婚、娘との暮らし、研究の過程で出会った少女との交流、そして米軍基地の辺野古移設についてなどが、静かな文体で書かれていて、心を打つ。 この本を書店で見かけて、気になって、先に刊行されていた「裸足で逃げる」を読んだ。そして、元々気になっていたこの本を手に取った。 2冊に直接的なつながりはないものの、「裸足で逃げる」を先に読んでいたからこそ理解が深まった章もあったので、やはり先に読んで良かったと思う。 上間さんは教育学者として東京での活動を経て、故郷である沖縄に拠点を移した。そこで仕事をしながら、一人娘である風花ちゃんを育てている。 沖縄では自ら選んで、普天間基地の近くに住んでいる。 軍用機の飛ぶ騒音に風花ちゃんは泣く。だけどそれが沖縄の現実なのだと、知るための選択のように映る。 実際上間さんは仕事柄、基地の米兵に傷付けられた経験を持つ沖縄の少女のことも、よく知っているからだ。 問題に関心を持っていても、その程度ではただの傍観者なのだとつくづく気付かされた。 自分の信念をそのまま表に出すことが正解なのかは分からなくても、地道に伝えていけば、それを受け取ってくれる人は必ず現れる。 観光地として沖縄を訪れ、美しい海の恩恵を受けることはしても、その海が汚されることに関心を持つ人はあまりにも少ない。現地の人にとっては、紛れもない日常なのに。 上間さんの、1人の母親として娘が大きくなった時の沖縄について想いを馳せ、そして1人の沖縄県民として青い海が汚されていくことに胸を痛めるその怒りが、静かに伝わってくる。 これは沖縄の問題に限らず、知っていながらも傍観者でいるあらゆる問題についても共通するのだと思った。 伝えようとする声に耳を傾ける人が増えることが、きっと上間さんの希望なのだ。 少しでもいいから、他人事ではなく自分事になって欲しい。 静かに、だけど力強く語りかけるようなこのエッセイが、1人でも多くの人に届いて欲しいと思う。

Posted byブクログ

2021/01/11

人はどのくらい、相手の絶望を聞くことが出来るのだろうか。 そして、自分の絶望を誰かに伝えることが出来るのだろうか。 分かったつもりになるのではなく、死ぬまで向き合いながら対話するしかないのだろう。

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2021/01/02

娘の幸せを願い家族の幸せを願う愛情が、世界よ変われと走る原動力になっている、そんな一冊。世界に無関心な自分は誰の幸せを願うべきかと読み終わったあとで途方に暮れた。「海をあげる」というタイトルの意味は最後に分かる。分かったつもりで終わらせたくない。 2021年の1月1日からこの本...

娘の幸せを願い家族の幸せを願う愛情が、世界よ変われと走る原動力になっている、そんな一冊。世界に無関心な自分は誰の幸せを願うべきかと読み終わったあとで途方に暮れた。「海をあげる」というタイトルの意味は最後に分かる。分かったつもりで終わらせたくない。 2021年の1月1日からこの本を読めたことを幸運に感じる。

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2020/12/31

沖縄では、切実な話題が日常にあふれている。 切実な話題は、切実すぎて口にすることができなくなる。 p.218 ふらっと旅をしにいく私たちは、そこに安易に触れることさえできないでいる。 本当はみんなで考えなきゃいけないことなのに。人が一人で抱えきれるようなものは本来、日常の些細...

沖縄では、切実な話題が日常にあふれている。 切実な話題は、切実すぎて口にすることができなくなる。 p.218 ふらっと旅をしにいく私たちは、そこに安易に触れることさえできないでいる。 本当はみんなで考えなきゃいけないことなのに。人が一人で抱えきれるようなものは本来、日常の些細な悩みやトラブルくらいで、それ以上のものを抱えて生きるのは、しんどい。しんどいに決まっている。海に土を入れる、土を入れたらそこにいる魚はどうなるか、人の生活は変わるのか。失ったものとこれから失うもの、その喪失をせめて少しでも一緒に受け止めたい。 静かな家でこれを読む私は、その喪失を共有できないままでいる、ただ悲しみだけが残る。

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2020/12/18

〇いつになったら沖縄のきれいな海が帰ってくるの?切実な沖縄人の思い、読者に届け 沖縄とは。 僕らが思い描いていた沖縄とは。 "切実な話題は、切実すぎて口にすることができなくなる。"(p238) たぶん、僕らは、「暖かい」「リゾート」「楽しい」世界だと思っ...

〇いつになったら沖縄のきれいな海が帰ってくるの?切実な沖縄人の思い、読者に届け 沖縄とは。 僕らが思い描いていた沖縄とは。 "切実な話題は、切実すぎて口にすることができなくなる。"(p238) たぶん、僕らは、「暖かい」「リゾート」「楽しい」世界だと思っていた。 しかし、沖縄に住まないとわかりえないこと。 戦争、基地、若年出産、飛行機、埋め立て…etc. 筆者が一定の期待と使命感を持って赴任した沖縄。 そこでは本土に出て思う違和感とはまた違う違和感。 本土で感じる沖縄と日本の距離、沖縄で感じる切実な話題への人々の語らなさ。 筆者の家族模様や体験を軸に、若年出産で悩む女性ほかへの聞き取りで深まる沖縄の現状を、あなたはどう感じますか。 ***** 読了後に筆者の名前を検索したら、優しい顔でほほえむ。 しかし、沖縄に来てからの筆者は、きっといろいろと思い通りにならなくて苦しかったはずだ。 一般的な生活や子育ての苦しみとはまた違う何かである。 本土と沖縄、両方の生活と感情を知っている彼女は、信じるものをその通り表現すべきではない、と悟る。 例えば基地も飛行機も、誰かのどこかのスイッチを押してしまう。 本土や沖縄で否定されようとしていることも、その裏では働いている人やその家族がいる。もちろん、働いている人や家族が悪いわけではない。彼らをそうさせているのは誰なのだろう。 ヒリついた感情が同居する沖縄の、その歴史や現状を知ってしまったら、沖縄の人に知ったふうに簡単に物事を話してはいけないのではないか、と思ってしまうのは、私だけではあるまい。(もちろん、普通の会話はしてもいいわけだが。) 僕たちは沖縄の人たちの苦しみを、正しく受け取ることができるだろうか。 僕にはまだ自信がないけれど、少しずつかみ砕いていきたい。 この本は、本土の人にはわかりえない苦しみを、知ってほしい沖縄の現状を、発散しているのだと思う。

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2020/12/13

社会から疎外され性風俗で生計を立てつつ男性からの暴力に怯える沖縄の少女たちの姿を、彼女たちとのパーソナルな交流と地道な聞き取りにより描いた『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女』で知られる社会学者による初のエッセイ集。 自身の離婚、愛する娘との食事、研究の過程で出会った数々の少女た...

社会から疎外され性風俗で生計を立てつつ男性からの暴力に怯える沖縄の少女たちの姿を、彼女たちとのパーソナルな交流と地道な聞き取りにより描いた『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女』で知られる社会学者による初のエッセイ集。 自身の離婚、愛する娘との食事、研究の過程で出会った数々の少女たちの悲しさ、米軍基地の辺野古移設を阻止するためにハンストする友人などをテーマにしつつ、静かに心を打つ抑制された文体でまとめ上げていく。 本当に大事なものというのは得てして言葉になりにくい。それを当然のことと受け入れつつも、伝わる可能性を信じて静かに語っていくこと。そこから静かな感動が生まれていくという文学表現の素晴らしさを再認識できる素晴らしいエッセイ集。

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2020/11/29

webちくまで断片的に読んだことがあったが、襟を正して読む、もとい聞くべき内容だった。沖縄でいろいろかかえた若い女性たち、こどもの頃の自分、そして日々育ってゆく幼い娘の声に耳を傾ける(しかし聞き出せたとてできることはあまりに限られていてもどかしい)著者の無力感や絶望の一端をひしひ...

webちくまで断片的に読んだことがあったが、襟を正して読む、もとい聞くべき内容だった。沖縄でいろいろかかえた若い女性たち、こどもの頃の自分、そして日々育ってゆく幼い娘の声に耳を傾ける(しかし聞き出せたとてできることはあまりに限られていてもどかしい)著者の無力感や絶望の一端をひしひしと感じながら、これを読ませてもらった自分も、海を、沖縄の声を、弱い存在の声にならない声をきちんと受けとり受け止めなければいけない、と思った。

Posted byブクログ

2020/11/13

エッセイと言うものの内容はヘビー。そして最後には考え込んでしまう。そんな中で唯一の救いは娘の風花ちゃんの記述。彼女が大きくなっている時、日本は沖縄はどうなっているんだろう。

Posted byブクログ

2020/11/11

著者を優しい人だと思っていた。繊細で丁寧で気配りのできる人だと。それはそうなのだろうと思う。でも,彼女は優しい人である以上に実は世界に絶望している人だった。 著者は他者の声なき声を声化し,ありのままの姿を描くのに長けている(岸はそれを『「かわいそう」でも,「たくましい」でもない...

著者を優しい人だと思っていた。繊細で丁寧で気配りのできる人だと。それはそうなのだろうと思う。でも,彼女は優しい人である以上に実は世界に絶望している人だった。 著者は他者の声なき声を声化し,ありのままの姿を描くのに長けている(岸はそれを『「かわいそう」でも,「たくましい」でもない』と表現している)。著者のそのような力は本書にも生かされている。彼女自身の声なき声を丁寧に聞き取り,それをありのままに表現している。 著者の表現は胸に響く。最初(『美味しいごはん』)から衝撃がはしる。ここまで書いていいのか,どういう想いでここを書いたのか。本書を読むたびに何度も何度も反芻させられる。涙も出てくる。 でも,著者はそのことに絶望しているように思う。わたしの声は胸に響く,でも,それ以上でも以下でもないのではないか,それを超えるにはどうしたらいいのだろうか。著者はそういったことに思い悩んでいるように私には思える。 本書を読んで心に響いて泣いて,多くの人に本書を紹介したいと思って,沖縄のひいては政治の問題について考えなければならないなど,そういったことが心に浮かぶ人は多いであろう。それはそれでいいことなのだと思う。 でも実はそれこそが著者が絶望していることなのだと私には思える。海をあげられた私たちはその絶望について考えなければならない。

Posted byブクログ

2020/10/31

大きなイベント終わりに、やさしくご褒美のように届いていた一冊。すぐにするすると読んでしまった。号泣した。 滝のように情景や風景や心情が入ってきて、ざーっと読んで、わーっと飲み込まれ、最後の1行に撃ち抜かれた。 このリアリティを生きていない人もいるよな、この悲しみと空っぽさを、...

大きなイベント終わりに、やさしくご褒美のように届いていた一冊。すぐにするすると読んでしまった。号泣した。 滝のように情景や風景や心情が入ってきて、ざーっと読んで、わーっと飲み込まれ、最後の1行に撃ち抜かれた。 このリアリティを生きていない人もいるよな、この悲しみと空っぽさを、わからない人も絶対いるよな、と気持ちが遠くなったりもした。 だからこそ、多くの人の手から手に渡ってほしい本。 みんな、みんな、海をうけとってほしい(私の海も、受け取ってほしい)。 そこにずっと、食という生命をつなぐのに不可欠な要素もあったりして。人のぬくもりのある本だった。 この本を読んだ後で、「うみないび」という言葉を思い出した。 意味をすぐに思い出せなくて、 「うみ」が入っているからか?と思って調べてみたら、 「貴族の姫のことで、後に王女をさした。「び」は複数または敬意の接尾辞。」とのこと。 納得した。読んだら、わかるよ。

Posted byブクログ