サガレン の商品レビュー
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タイトルが宮澤賢治の言葉だとわかったのは、第二章を読んでからだった。 多くの人が旅した場所。今は観光地ではなく鉄道愛好家の聖地というべきか。 広大な大地と冷涼な気候に育まれた自然。そして自然の恵を受けて暮らした先住民たちによって名付けられた地名。かつての日本の痕跡。様々な時代の文化の痕跡をたどりながらの紀行文。 特に2章は引用が多くて、読み慣れない私には時間がかかった。そうだ、友人の姉が宮澤賢治の研究者だったことを思い出した。まだまだ私は浅瀬しか泳いでいなくて、深みを知らないのだと気付かされた。 参考文献からいくつか拾い読みしてみたいものがみつかった。
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宮沢賢治の銀河鉄道の夜が岩手軽便鉄道と樺太の鉄道がモデルということで、賢治の樺太行きをたどる第二部の旅を興味深く読みました。樺太には日本が敷設した鉄道の基礎が残るものの歴史的に見て、樺太の帰属先はあいまいであることも含めて勉強になりました。賢治は教え子の就職先を頼みに樺太の王子製...
宮沢賢治の銀河鉄道の夜が岩手軽便鉄道と樺太の鉄道がモデルということで、賢治の樺太行きをたどる第二部の旅を興味深く読みました。樺太には日本が敷設した鉄道の基礎が残るものの歴史的に見て、樺太の帰属先はあいまいであることも含めて勉強になりました。賢治は教え子の就職先を頼みに樺太の王子製紙に行くという建前で出かけましたが、妹トシが死後どこに行ったのか、自分の信仰のゆらぎに苦しむ時期とも重なっていたようで、あのカムパネルラとジョバンニの対話を旅の途中で構築していったのかと想像して読むと、一度は乗ってみたい鉄道になりました。
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本屋大賞のノンフィクション本部門の候補作。 一部が、林芙美子の旅路に、二部が宮沢賢治の旅路に、史料と現実の旅の双方から想いを馳せたノンフィクション本という構成だった。不確実性と共に旅をする筆者の寛容な語りがおおい一部にくらべて、二部はすこしだけ読むのが大変だったが、宮沢賢治につい...
本屋大賞のノンフィクション本部門の候補作。 一部が、林芙美子の旅路に、二部が宮沢賢治の旅路に、史料と現実の旅の双方から想いを馳せたノンフィクション本という構成だった。不確実性と共に旅をする筆者の寛容な語りがおおい一部にくらべて、二部はすこしだけ読むのが大変だったが、宮沢賢治についての知識がほぼゼロなせいもあっただろう。宮沢賢治好きな人には楽しいかもしれない。彼/彼女らが残した一字一句が、樺太/サハリンを北上/往復する旅のあしあとのように、その土地その空気、感情を記録するものとして、いまの時代に蘇る。 歴史の中で何度も名前を変え、所有者も変わり、帰属すべき先や文化が漂流した、「境目」の曖昧な土地は、自分の心の中の揺らぎ、生と死の間をも許容する懐の広さを持っているのかなと、そんなことを思った一冊だった。
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樺太/サハリンの歴史的な内容なのかと勝手に思い込んで重たい内容を想像していたら、割とライトな鉄道旅行記だった。 一部も二部も面白く読んだけど、私は二部の宮沢賢治の行程を辿るほうが好きかな。(私自身は賢治には特に思い入れはなく詳しくもない。作品は読んだことがあるものもあるという程度...
樺太/サハリンの歴史的な内容なのかと勝手に思い込んで重たい内容を想像していたら、割とライトな鉄道旅行記だった。 一部も二部も面白く読んだけど、私は二部の宮沢賢治の行程を辿るほうが好きかな。(私自身は賢治には特に思い入れはなく詳しくもない。作品は読んだことがあるものもあるという程度) どうでもいいけど、空の青が濃くてキレイだなーと思った。行ってみたくなる。
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茫茫の平野くだりて サガレンの潮香かぎし女 月蛾の街にはいり来たれり 白き夜を 月蛾歌わず 耳環のみふるえたり ああ 十文字愛憎の底にして 石家荘 沈みゆくなり 大学のとき、所属していた男声合唱団で多田武彦作曲の「草野心平の詩から」を歌った。「石家荘にて」はその1曲目。本屋...
茫茫の平野くだりて サガレンの潮香かぎし女 月蛾の街にはいり来たれり 白き夜を 月蛾歌わず 耳環のみふるえたり ああ 十文字愛憎の底にして 石家荘 沈みゆくなり 大学のとき、所属していた男声合唱団で多田武彦作曲の「草野心平の詩から」を歌った。「石家荘にて」はその1曲目。本屋の棚で「サガレン」のタイトルが目に飛び込んできた。手に取ってみると、宮沢賢治の樺太旅行を辿る旅とある。関川夏央さんの「汽車旅放浪記」にあった樺太の白い雲の記述を思い出し、購入。 第一部は、鉄オタ旅行記。林芙美子や白秋の引用も有り、「鉄」でも歴史、文学系。 第二部が、妹トシを亡くした後の賢治の心情を辿る旅。「春と修羅」の「青森挽歌」「宗谷挽歌」「オホーツク挽歌」自体が旅をする賢治の詩。土地や植物や博物の解説をしながら賢治の旅を再現する文章には賢治の詩に同調する感覚がある。トシの死をどう解釈すべきか煩悶する賢治の心情を深く分け入っていく処は一級の評論だと思う。 (引用)「とくに賢治という人は、ひとりの農民として土に根差して生きようとする意志の一方で、どうしても一か所にとどまることのできないものを持っていたように思う。」 旅行記としても、評論としても良質だが、「以前にも書いたように、大瀧詠一氏の名曲「さらばシベリア鉄道」を愛唱歌としている私は、トナカイにあこがれている」というような一文があったり、硬くなり過ぎてもいないのも、とても良い。 どうでもいいこと。 第一部に日露戦争後の明治末にロシアパンのブームがあったという。バンド「たま」の「ロシアのパン」を思い出したけど、知久寿焼さんは、そんな昔のこと知ってたんだろうか。
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【あらすじ】 かつて、この国には“国境線観光”があった。 樺太/サハリン、旧名サガレン。何度も国境線が引き直された境界の島だ。大日本帝国時代には、陸の“国境線“を観に、北原白秋や林芙美子らも訪れた。また、宮沢賢治は妹トシが死んだ翌年、その魂を求めてサガレンを訪れ、名詩を残している。他にもチェーホフや斎藤茂吉など、この地を旅した者は多い。いったい何が彼らを惹きつけたのか? 多くの日本人に忘れられた島。その記憶は、鉄路が刻んでいた。賢治の行程をたどりつつ、昭和史の縮図をゆく。文学、歴史、鉄道、そして作家の業。すべてを盛り込んだ新たな紀行作品! ・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ 皆さんは、傷心旅行と言えば北か南、どちらに向かうイメージがあるでしょうか。私は北です。北海道に縁があるため行きやすいという理由もあるのですが、やはり寒くて荒凉とした原野と海が、傷ついた心にはちょうどいいと感じるからだと思います。悲しい気持ちを癒すには、同じく悲しみを含んだもので包み込んでもらうのが一番。楽しいことで無理やり隠すことはできないのだと思います。 この本は大きく2部に分かれていますが、後半の「妹トシを亡くした宮沢賢治が旅した樺太」の話が特にグッときました。賢治もまた気持ちの拠り所を求めて北の果てに旅立ったのだと思うと、何となく共感を持てました。
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『死の棘』で知られる作家、島尾敏雄の妻である島尾ミホの精神変調の原因を探った傑作ノンフィクション『狂うひと』が大変素晴らしかったので、新作ということで迷わず手に取ったのだが、正直なところ本作は少し拍子抜けしたところがあった。 本作は紀行ノンフィクション作品であり、舞台はサハリン...
『死の棘』で知られる作家、島尾敏雄の妻である島尾ミホの精神変調の原因を探った傑作ノンフィクション『狂うひと』が大変素晴らしかったので、新作ということで迷わず手に取ったのだが、正直なところ本作は少し拍子抜けしたところがあった。 本作は紀行ノンフィクション作品であり、舞台はサハリン。聞き慣れぬサガレンとはサハリンの旧名である。本作は二部構成となっており、第1部では鉄道マニアとしての顔も持つ著者が実際に乗車し、サハリンを旅する鉄道紀行記となっている。こちらはライトに読み進められる読み物としては楽しい。 続く第二部が本書のメインであり、サガレンと呼ばれていた当時に現地を訪問していた宮沢賢治の作品を丹念にたどりつつ、彼がどのような思いでサガレンの地を踏んでいたのかを読解していく。ただ、あまりにも細部に踏み込みすぎているせいで、よほど宮沢賢治に思い入れがある人でないと、正直楽しみにくいな、というのが実感。 とはいえ、私自身も北海道出身でありながら、全くサハリンがどのようなところなのかは知らず、遠くて実は近いサハリンという地を知るルポルタージュとしては楽しめた。
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第一部は、著者と、同行した編集者 ”柘植青年” とのやりとりが、なんだか『阿房列車』の百閒先生と”ヒマラヤ山系君”とのようでもあり。柘植青年、なかなかいい味を出しておるな。旅に際し、著者がやたら用意がいいのも可笑しく。 第二部は宮沢賢治をたどる旅で、読んで、宮沢賢治のどうにもさ...
第一部は、著者と、同行した編集者 ”柘植青年” とのやりとりが、なんだか『阿房列車』の百閒先生と”ヒマラヤ山系君”とのようでもあり。柘植青年、なかなかいい味を出しておるな。旅に際し、著者がやたら用意がいいのも可笑しく。 第二部は宮沢賢治をたどる旅で、読んで、宮沢賢治のどうにもさびしく暗い心持ちが、なんだか納得出来るような気がしてきた。
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梯さんの他のご著書を読んだ身としては、第二部が素晴らしいとは思うのだが、私自身、あまりにも宮澤賢治が苦手すぎて、ザーッと読んだ感じになってしまった。何度も近づこうとするのだが、なかなか…梯さんのお書きになったものを読んでも、まだダメだ。悲しい。 ということで、第一部の方が圧倒的に...
梯さんの他のご著書を読んだ身としては、第二部が素晴らしいとは思うのだが、私自身、あまりにも宮澤賢治が苦手すぎて、ザーッと読んだ感じになってしまった。何度も近づこうとするのだが、なかなか…梯さんのお書きになったものを読んでも、まだダメだ。悲しい。 ということで、第一部の方が圧倒的に楽しく読めた。行ってみたいとか、興味があったというわけではないサハリンだが、風景や列車の様子、現地の方との交流など、臨場感たっぷりで、旅に出られない寂しさが慰められた。 たまたまなのだが、紀行文をわりと最近読んでいて、実際出かけられなくても気持ちがその土地に飛んでいけて本当にうれしい。
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(借.新宿区立図書館) 前半はサハリン鉄道紀行。後半は宮沢賢治の詩をもとにサハリン南部を旅しながら賢治の心象を考える文学紀行。前半は面白いのだが、そこまでの賢治ファンではないのでちょっと後半はついていけない部分も。 関連して、以前に読んだ『僕の見た「大日本帝国」』をもう一度引っ張...
(借.新宿区立図書館) 前半はサハリン鉄道紀行。後半は宮沢賢治の詩をもとにサハリン南部を旅しながら賢治の心象を考える文学紀行。前半は面白いのだが、そこまでの賢治ファンではないのでちょっと後半はついていけない部分も。 関連して、以前に読んだ『僕の見た「大日本帝国」』をもう一度引っ張り出しサハリン関係だけざっと読む。意外に量的には少ない。ただ、こちらは人が出てくる。鉄道でなくバイク旅ということもあるのだろう。案内人もいないし。2005年の本だがサハリンを知るためには同時にこちらも読むべきか。しかしなぜ梯氏はこちらを参考文献にも載せていないのだろう。知らないということはないだろうし。
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