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白の闇 の商品レビュー

4.2

40件のお客様レビュー

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2020/07/03

・ジョゼ・サラマーゴ「白の闇」(河 出文庫)の「文庫版訳者あとがき」はカフカの「変身」から始まる。ある朝、目覚めたら甲虫になつてゐた「変身」に 対して、信号待ちの車中で突然目が見えなくなつた「白の闇」、いづれも不条理であらう。しかしその先が違ふ。カフカは短い。これは長 い。しかも...

・ジョゼ・サラマーゴ「白の闇」(河 出文庫)の「文庫版訳者あとがき」はカフカの「変身」から始まる。ある朝、目覚めたら甲虫になつてゐた「変身」に 対して、信号待ちの車中で突然目が見えなくなつた「白の闇」、いづれも不条理であらう。しかしその先が違ふ。カフカは短い。これは長 い。しかも個人の問題ではなく、その集団全員の問題である。集団といふのは、もしかしたら国であるのかもしれない。そんなにも大きな 不条理を扱ふ「白の闇」、カフカとは全く違ふ作品であらう。 ・サラマーゴはノーベル賞作家であるらしいのだが、私はそれを知らなかつた。だから初めて読んだ。読んでゐて思つたのは構成の問題で あつた。起承転結が実に見事であつた。患者発生、隔離、暴力集団支配、解放・省察、この第4部の結を2つに分けて考へることもできよ う。発生と隔離をまとめて解放と省察を分ければ4つになる。いづれにしても起承転結である。この患者は眼病である。いきなり目が見え なくなつた。見えるのは「白の闇」ばかりである。最初の患者は運転席で赤信号を待つてゐた時に発症した。そんな眼病だから病名は書い てない。しかし、これは伝染性があり、まづ先の男を助け(たふりをし)て車を盗んだ男に伝染する。その信号を待つてゐた男は(総合病 院の)眼科に行く。するとその待合室の患者や受付、そして診察した医師や看護師にも伝染する。もちろんその家族にも……といふやうに 次から次へと伝染していく。眼科医は己が症状を院長に電話連絡する。「接触感染症だという証拠はありません。しかし、たんに患者の目 が見えなくなり、私の目が見えなくなつたのではないのです。云々」(48頁)これで集団隔離の措置がとられて患者は「からっぽの精神 病院」(54頁)に収容される。何しろ目の見えない患者である。緊急事態とその事の重大性ゆゑに患者の世話はない。患者自らが自らを 世話する。そこで様々なことが起きるのだが、最も重大なことは暴力集団の登場とその支配である……とまあ、かうして書いてゐたら切り がない。この暴力集団をも乗り越えた時、患者は隔離施設から出ることができた。そこは皆が目の見えなくなつた世界であつた。秩序はな い。あるのは人間のありのままの欲望の世界であらうか。食ひたい物を、といふより今そこで食えるものを食ひ、眠りたいところで眠る。 排泄はどこにでもできる。全員が目が見えなくなつたのかといふと実はさうではない。最初期の患者、眼科医の妻は目が見えてゐたのであ る。これは全員が見えなくなると物語を進められなくなるといふ事情があつたのかもしれない。見える人間がゐればそれを視点に物語がで きる。あるいは別の事情があるのかもしれない。彼女はいはば神の如き超越した存在であり、だからこそ皆の目が見えるやうになると、 「顔を空へ上げると、すべてがまっ白に見えた。わたしの番だわ。」(408頁)となるのかもしれない。最後の一文、「町はまだそこに あった。」(同前)とは、そこに町があつても妻には見えないのか、町は見えたのか、これがはつきりしない。たぶん妻に見えなくなつた のだと思ふが、さうであればこそ事の不条理性が強まる。そしてカミュも「ペスト」の最後で希望をもたらしたが、サラマーゴもまた希望 をもたらしたのである。結局、皆が見えるやうになつた……現在私達の眼前にある新型コロナ肺炎といふ不条理も、最後はこれらの物語の やうに希望で終はることを望むのみ、カフカの「変身」ではなくである。あるいは、もしかしたら、ザムザの家族が、逆説的ながら、眼科 医の妻の役割なのであらうか。「変身」も見方によつてはハッピーエンドであつた。

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2020/05/06
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※このレビューにはネタバレを含みます

 ある日突然失明して目の前がまるで「ミルク色の海」のように真っ白になる病が、爆発的に人から人へ伝染していく。原因は不明。国の政策により隔離された失明者と感染者(今でいう、いわゆる濃厚接触者だ)が過ごす精神病院で生まれる自治、暴力による支配。  この物語は、目が見える人間には本当は何も見えておらず、目が見えなくなって初めて本当に見えるようになる話だと思う。自分も周りも失明した世界では、名前や肩書などは何の意味も持たない。全員が男か女か、ただの二択である。 そんな中で人間は失明している状況に、そしていつ治るのか分からない恐怖に慄き狂っていく。緊急事態が起こった時に現れる人間の本性の中には卑劣なものもたくさんあって目を覆いたくなる場面もあるが、衛生状態も悪く食糧も十分でない環境、しかも失明していつも通りに体を動かすこともできない状態で、果たして正気を保っていられるだろうか。そうだからといってあんなに惨いことをするのは絶対に許せないし擁護はしないが、みんなただただ生きるのに必死で、人間をああも狂わせるこの病こそが異常、とも思う(これは戦争についても言えるのかもしれない)。  そんな苛烈な環境において、失明した医者の夫と一緒に精神病院へ入った「医者の妻」がただ一人本当は目が見えているがそれを偽っている、という設定がミソである。それを公表した方が良いのか、公表したらどうなるんだろうか…と思い悩みながら失明者を装うところにハラハラする。唯一目が見える者として、生き残るために徒党を組んだグループでメンバー全員の目となって奮闘する姿は強い。雨に打たれてどろどろの身体を洗う場面は美しかった。  ただ私にはどうしても、最後まで「医者の妻」だけが感染せず失明しない理由が読み解けなかった。教会の天井画にヒントがある気がしたが、分からず。あと本作は「医者の妻」、「最初に失明した男の妻」、「サングラスの女」、とにかく「女」がキーパーソンだと思うのだが、これにも意味がある気がする。

Posted byブクログ

2020/04/30

目の前が真っ白になって失明してしまう”ミルク色の海”。思ってたより感染力が強くてびっくり!社会的秩序が崩壊するなか、一人だけ目が見える女性が夫と仲間たちを守るために奮闘。隔離施設での中盤が地獄のような展開だったけど、希望の見える終わり方で良かった。

Posted byブクログ

2020/04/29

みんな失明してしまったら、こんな世界になるのかと震撼する。著者の想像力がすごい。そしてとても読みやすく、著者と共に翻訳者も素晴らしいと思う。読んでいて、色や匂いも感じられるほど具体的に想像できて、ぐいぐい引き込まれる。

Posted byブクログ

2020/04/12

ある1人の男性が突然失明した。それも目の前が真っ暗でなく、真っ白になる失明に。伝染性の失明は瞬く間に国中へ飛び火していき、政府が恐ろしい隔離政策をとっていき…という、ディストピアものにしてパンデミックもの。新型コロナ大流行の時期に復刊されたのは何ともすごいタイミングだと思う。 ...

ある1人の男性が突然失明した。それも目の前が真っ暗でなく、真っ白になる失明に。伝染性の失明は瞬く間に国中へ飛び火していき、政府が恐ろしい隔離政策をとっていき…という、ディストピアものにしてパンデミックもの。新型コロナ大流行の時期に復刊されたのは何ともすごいタイミングだと思う。 ヒトの集団が一番恐ろしいのは理性や秩序を失った時というけれど、この作品はそこからさらに「視力」をも奪っているのがダメ押し。感染者たちが隔離施設に入れられての日々は筆舌に尽くしがたい壮絶さと、残酷さを感じる。 同書の文体にはある特徴があって、まるで自分が失明したかのような解釈で読み進められるのが見事。

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2020/03/29

ミルク色の海が感染していく。 意図が少しわかりにくかった 独特の描写で、まるで自分も盲目になってしまったかのような錯覚に陥る

Posted byブクログ

2020/03/17
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 初読みの作家さんです突然人々が失明した世界に肉食の動く植物が闊歩する世界を描いたSF「トリウッドの日」が購入を決めたときに頭にありました。あとはこの素敵な表紙ですね。綺麗ですよね。  そんな割と軽い気持ちで読む始めた本書。途中からは今回のコロナウイルスの事とこの物語の内容が重なっていました。  絶対的な非常時に人はどうなるのか? どういう行動をとるのか?  失明した人々と感染が予想される人々は政府に集められて、今は無人となっている精神病院へ隔離されるのですが……。  その中にただ一人目、目が見えているのに見えていないと装い夫に付き添ってきた眼科医の妻の目に映る世界がすさまじい。    数人だった人々が増えるにつれて、不衛生な環境になり、こんな閉じられた場所で、少ない患者のなかで弱者と強者が生まれてくる。強者のグループは食料を自分たちで管理して、他の人々から貴金属や金銭を奪い、挙句、女性たちを自分たちの性的な欲望を満たすために連れ込んで強姦する。暴力が狭い世界を支配していく描写がおぞましくて、恐ろしい。  読んでいて、人とはこんなに簡単に堕ちていくものなのだろうかと思いながら、見えないことは欲望を見ないことになるわけだから、そうなることもありえるのかもしれないとも思ったのですが。  食事、排せつ、着替え、目が見えないということは本当に不衛生な状況に置かれるわけで、政府は彼らと閉じ込めて食料の配給をするだけなのですが、それも指導者たちにも患者が出たり、彼らを監視している兵士たちに患者が出てしまったことで、余計に追い詰められてしまう。  淡々と描かれる、暴力と死。抗うすべのない人々。真っ暗な闇ではなく、白の闇に閉じ込められている事実。  その中で一人だけ見ることを許された医師の妻の目に本当に映し出されいるのは何なのだろうと考えてしまった。見えないことが救いになることもあるのだと思う彼女の辛さがとても苦しい。  結局、強者のグールプは破綻を迎え、隔離されていた場所は火がついて、眼科医とその妻たちは彼らの家へと向かうのですが、その先に待っていたのはさらに悲惨な景色。  まさにすさまじい一冊でした。なのに、読み始めたら、読む手を止めることができませんでした。(なので、他の本が遅れているんですと言い訳をしてみる)  作者のサラマーゴはこの作品でノーベル文学賞を受賞するに至ったそうです。(今回はそんなことは関係のない本当にジャケ買いですよ)  読みやすくはないです、登場人物に名前はなく、会話に「 」はついていない。ですが、それを除いて全身に語り掛けてくる圧倒的な力がありました。他の作品も読みたいと思いますが、翻訳されているのか気になります。  そして、一番思ったことを一つだけ、私たちは本当にその目に真実を映しているのだろうか。見たいものだけを見ているのだけではないか、本当は彼らと同じような闇の中にいるのではないだろうかと思ったことを書き添えておきます。

Posted byブクログ

2020/03/15

ページをひらいたとき、文字の多さに怯んだが、途切れない緊張感にひきずりこまれてページをめくるのが止められなくなった。 見えること、見えないこと、見えない人の中で生きること、見えないままで死ぬこと。 ミルク色に崩壊した世界のなかで、「人間として」生きることを考えさせられる一冊。

Posted byブクログ

2020/03/15

ご時世のせいか、パンデミックものという紹介をされていることが多いように思うが、パニックSFと言われた方が近いんじゃないだろうか。人間が欲望を剥き出しにして行く姿はけっこうな迫力。続編があるらしいが、邦訳あるのかな~、後で調べてみよう。

Posted byブクログ

2020/03/13

パンデミックものというよりもむしろ、『蠅の王』と似たものを感じる。途中の、隔離された状況での人間の悪が露になる醜悪がつらい。しかし忘れ難い。

Posted byブクログ