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さいはての家 の商品レビュー

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42件のお客様レビュー

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2020/02/08

郊外に位置する古い借家。そこに行きつく様々な境遇の人の暮らしを鋭く、けれど美しく描く短編集。やっぱり彩瀬さんの短編が好きだ。少しずつ、前後のお話との関わりが垣間見えるような連作が、いろいろ想像する余地を与えてくれる。 駆け落ち、逃亡、雲隠れなど、帯に書いてあるような事情を抱えた住...

郊外に位置する古い借家。そこに行きつく様々な境遇の人の暮らしを鋭く、けれど美しく描く短編集。やっぱり彩瀬さんの短編が好きだ。少しずつ、前後のお話との関わりが垣間見えるような連作が、いろいろ想像する余地を与えてくれる。 駆け落ち、逃亡、雲隠れなど、帯に書いてあるような事情を抱えた住民たちが短い間身を潜めるための仮家。古いが、きちんと庭もあり、その庭は介護施設と面している。必ず介護施設から聞こえる午後の合唱が登場し、借家の住人はそのしゃがれた歌声について言及する。世界から隠れるように逃げてきた住人たちが持つ、外界とのわずかな関わりの一つとして描かれている。 最後まで読んで感じたのは、この家にたどり着く人々は「正しさ」から逃げてきた者たちなのではないかということ。正しい男女の関係、正しい選択をする女性、正しい大黒柱としての父親。世の中が定義する正しさに押しつぶされそうで、どうにかそのしがらみから脱出して自分を守るためのシェルターなのではないか。そう思うと、「正しい」とはいったい何を示すのだろう。どうして私たちが正しいと定義するものは本当に正しいと言えるのか。正しさから逃げることは、果たして必ずどんな場合でも恥じるべきことなのか? 最後の短編「かざあな」で登場する大家さんの言葉は、彩瀬さんから読者に向けての救済のように感じる。逃げることも、ときには必要である。何より逃げるには勇気やそれまでに至る決断力が必要だし、楽な選択をしているとは限らない。許されないとわかりながら、それでも逃げなければ自分がどうにかなってしまうのならば、それは最善の選択なのだ。

Posted byブクログ

2020/01/28
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

田舎の町にある、庭付きの古い古い貸家。 大家が壊してしまおうと思うとふらりと入居希望者がやってくる。 それぞれに何かから逃れるためにこの家を選ぶ。 隣にある老人施設とのゆるいつながり。天井裏に残された前居住者の持ち物。時々現れる何かの気配。 つかの間の安息。ぼんやりとした居心地の良さ。逃げている切迫感は少しずる薄れ、家になじんでいく彼ら。 けれどそんな時間は長くは続かない。彼らはまたどこかへと逃げていく。どこへ行くのか。その後どうなったのか。わからないまま古い家はまた次の誰かを住まわせる。 彩瀬まるは物語を描きすぎない。 ほのぼのとしたままごとのような、やさしく温かい時間を少しだけ見せて、そしてぷつりと閉じてしまう。 どこか知らないところに放り出されたような心細さ。迷子の私に語り掛ける。次はあなたが逃げてくる? 行ってみたい。いつか、誰かと。ひっそりと逃げて行きたい。そんな気になる。

Posted byブクログ