さんかく の商品レビュー
「さんかく」というタイトルから何を連想する? 表紙に優しいタッチで描かれた三種類の料理の絵と「さんかく」というひらがなの標題を見ると「三角関係」「おむすび」を連想する。 そのとうり。これは男女の「三角関係」と「おむすび」をはじめとした「食」の小説なのだ。 京町家に暮らすフリ...
「さんかく」というタイトルから何を連想する? 表紙に優しいタッチで描かれた三種類の料理の絵と「さんかく」というひらがなの標題を見ると「三角関係」「おむすび」を連想する。 そのとうり。これは男女の「三角関係」と「おむすび」をはじめとした「食」の小説なのだ。 京町家に暮らすフリーのデザイナー、高村(こうむら)さんは、ある日カフェでバイトをしていた時の後輩、伊東くんに再会する。バイトをしていた頃から高村さんの作る「まかない」が大好きだった伊東君は、度々、高村さんの暮らす町家にお邪魔して手料理をご馳走になったり、高村さんと待ち合わせて、居酒屋で美味しい物を一緒に味わったりするようになる。 ある日、伊東君の住む大阪のアパートの更新の時期になって「京都いいですね」という彼に「この家の二階の部屋空いてるけど」と高村さんは同居を提案してしまう。 そして、伊東君が高村さんの町家に越して来てから、高村さんが用意してくれる夕食を食べ、朝は高村さんが握ってくれた塩むすびを食べ、冷蔵庫に何種類か用意しておいてくれるお惣菜を弁当箱に詰めて出勤する毎日となった。 二人とも男女としてはお互いに興味は無く、そういう意味での「後ろめたさ」はないのだが、伊東君は京大で動物の研究を続ける恋人の華には高村さんのことは内緒にしている。 一方、高村さん(夕香)のほうも、十年来ずるずると不倫をしている東京の本庄さんという相手が一応いるのだが、年上ぶって高級食材ばかりをご馳走してくれる本庄さんよりも伊東くんとの気のおけない食事のほうが楽しかったり、何よりも歳下の伊東くんに慕われていることをまんざらでもなく思っている。 正和(伊東くん)の恋人、華は研究のために死んだ動物の解体をしており、絶滅危惧種の動物の死体が研究室に運ばれてくると夜中でも呼び出されて、血まみれになって解体作業にとりかかる。忙しくてなかなか会えない華に正和が会う時にはコンビニの惣菜やテイクアウトのフライドチキンを持っていく。華と会う時には、いつも油と香辛料と添加物にまみれた食事で済ましてしまうことや華がフライドチキンを食べながら「〇〇筋が綺麗に剥がれた、綺麗な骨格が出てきた」などと話すことを何となく不気味だと思っている。心は間違いなく華にあるのだが、体は滋養のある食事をゆっくり味わえる高村さんとの生活を求めている自分を否定出来ないでいる。 そして、華は正和がいつの間にか自分に内緒で京都に越してきて、胃袋を掴まれた年上女性と暮らしているのとに嫉妬し(当たり前だ)、正和のLINEも無視して、研究に没頭していく。 イケズな私は「そんな獣女子とは早く別れて、素直に高村さんを選びなさい」と思う反面、「フリー」の身で京町家に住んで、年下男性を餌付けて暮らすという「いいとこ取り」生活をしている高村さんにも反感を覚え、最後に高村さんが東京に帰る決心をしたときには「さっさと帰り」と背中を押していたりした。 完全に「どっち」と選べないこともあるのだなあ。異性としての「どっち」ということだけでなく、「恋」か「生活」かの「どっち」。「ときめき」か「安定」かの「どっち」。 キュッと力を入れてむすんでいるが、ふんわり温かいおむすびみたいに、湿度があって優しいが、中庭で棘が光っている京都みたいに、自分の気持ちにスッパリ決断を下す前に心を込めて下ごしらえする料理のように、少し時間のかかる「どっちつかず」の楽しさを味わうことが人生での美味なのだなあと感じた。 高村さんは京都で「いいとこ取り」生活をしていたと先程書いたが、決して、自分に甘いだけの女性ではない。もとはといえば、「ちゃんとした」自分を取り戻すために、京町家で、丁寧な暮らしをするようになったのだ。リノベーションされた綺麗な京町家ではなく、古いだけの黴臭さも雨の日の下水臭さもあり、ネズミの走る音も聞こえ、夏は蒸し風呂で冬は底冷えが半端ない「生活する京都」を選んで生活していた。そんな「黴の匂い」も感じられる中で「ご飯の炊けた匂い」がむくむく勝ってくる感じ。正和の恋人、華が動物の死体解剖した後で「肉食べたい」と言う、若者の「生」と「食」への渇望。写真でただ単に「映える」ような料理ではなく、生きている中で「ギュッと胃袋を掴まれる」瞬間を書くのが上手い人だなあと思った。 立命館大学出身で大学時代を京都で過ごされた千早茜さんのこの小説には京都の街並みや美味しいお店が沢山出てくるが、観光案内的な小説ではなく、青春時代がギュッと詰まった小説だと思った。
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千早茜さん好きかもしれない。 なんかどこかで同じような話を読んだような…と思ったら、江國香織さんのホリーガーデンの中野くんと似てるんだ、伊東くんが。中野の善良、中野のカインドネス。
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なにか大きな出来事が起こるわけじゃないのに、夢中になって読めた。 表現は美しいし、テキストなのに五感で感じられた。 「生活は健康と仕事の土台」 自分の軸を持って生きてる高村さん、生活を自分の思い通りにしている姿がかっこよくて、時間をかけてそんな女性になっていきたいと思った。
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学生時代によく行っていた地名がちらほら出てきて、帰省したらまずはイノダコーヒーでモーニングしたいなと思いました。京都に帰る新幹線で読みたいな。 私は伊藤さんや華のような何かを専門的に追求することが苦手なので、二人のような人がかっこいいなと率直に思いました。 そんなかっこいい二人...
学生時代によく行っていた地名がちらほら出てきて、帰省したらまずはイノダコーヒーでモーニングしたいなと思いました。京都に帰る新幹線で読みたいな。 私は伊藤さんや華のような何かを専門的に追求することが苦手なので、二人のような人がかっこいいなと率直に思いました。 そんなかっこいい二人でも、恋をして、無邪気に嫉妬したり、どれだけしんどくても化粧を頑張ったり、ダメだとわかっていても不倫したりと、心が掻き乱される描写があり、妙にリアルで、親近感をもてました。 実在する3人の数ヶ月間を見させてもらったような感覚で、面白かったです。カウンターの天ぷら食べに行きたいな。
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食べ物の出てくる物語が好きです。幸い昨今そんな物語に出会うチャンスは沢山あるのですが、、 この本に出てくる料理の描写が外食も手作りも素晴らしくて。 カウンターで天ぷらいいな、とかお寿司食べたいな、誰かと手巻き寿司をお腹がはち切れそうになるまで食べたいなとか 淡白なものを好む登場...
食べ物の出てくる物語が好きです。幸い昨今そんな物語に出会うチャンスは沢山あるのですが、、 この本に出てくる料理の描写が外食も手作りも素晴らしくて。 カウンターで天ぷらいいな、とかお寿司食べたいな、誰かと手巻き寿司をお腹がはち切れそうになるまで食べたいなとか 淡白なものを好む登場人物がいるせいか食欲も静かに刺激されました。 登場人物三人三様の事情や思考回路があって、ひととの深い関わりを避けたい高村さんも、研究のためなら全てを放り出して向かっていっちゃう華ちゃんも、2人の女性のいいとこ取りをしたい伊東くんも、モノローグを読んでみると心を寄せてしまいます。 本の表紙を見たときは寒々とした、心を削がれるようなさんかく関係のお話なのかなと想像して なかなか手が伸びなかったのですが、実際はそれぞれ傷ついて傷つけて、腹が立って とあるものの大人の気遣いと優しさと時間の経過とでなだらかになっていく感じでした。 傷ついた人も新たな一歩を出したくなる本じゃないでしょうか。 季節の旬の食べ物が温度や光の眩しさ、暗さと共に描写されるので夏や冬にもまた読み返したい本です。
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1冊前にハンチバックを読んだからか、心が癒しを欲しており…「千早茜さんなら!」と手に取った本。 だったけど、華は動物をひたすら解体しているし、タイトルの「さんかく」はなるほど!三角関係か〜〜と、意外と爽やかではありませんでした(笑) 伊東くんは、彼女がいながらどうなんだ?! と...
1冊前にハンチバックを読んだからか、心が癒しを欲しており…「千早茜さんなら!」と手に取った本。 だったけど、華は動物をひたすら解体しているし、タイトルの「さんかく」はなるほど!三角関係か〜〜と、意外と爽やかではありませんでした(笑) 伊東くんは、彼女がいながらどうなんだ?! というような煮え切らない人物だったけど、千早さん文章力と、とてもおいしそうな料理の描写でスルスルと読めてしまった。 高村さん、京都ぽいね。
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何かが始まるのかも、何かが変わるのかも、大きな出来事が起こるのかも そんな気持ちで読み進める 食、ひいては生活を丁寧に描きながら、周りにある心情を描写する 大きな事件は起きなかった 起承転結がばちっと決まるような、そんな大事はなかった でもたしかに変わったことはあって 始ま...
何かが始まるのかも、何かが変わるのかも、大きな出来事が起こるのかも そんな気持ちで読み進める 食、ひいては生活を丁寧に描きながら、周りにある心情を描写する 大きな事件は起きなかった 起承転結がばちっと決まるような、そんな大事はなかった でもたしかに変わったことはあって 始まったことも終わったこともある 生活ってこうだよな 人生ってこうだよな 登場人物たちに特別優しくもなく、厳しくもない 慈しみは感じる そんな本だった
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丁寧な料理を学びたくなりました。 京都の町屋で暮らす高村さんの生活と作る料理が、文章から目に浮かぶようです。 評価の別れる本のようですが、私は噛み締めるように各章を読みました。 3人の視点で順番に描かれている三角関係。 最後は高村さんの視点を読みたかったです。 高村さんはきっ...
丁寧な料理を学びたくなりました。 京都の町屋で暮らす高村さんの生活と作る料理が、文章から目に浮かぶようです。 評価の別れる本のようですが、私は噛み締めるように各章を読みました。 3人の視点で順番に描かれている三角関係。 最後は高村さんの視点を読みたかったです。 高村さんはきっと1人で生きることに飽きてしまって、ペットを飼うように伊東くんを同居に誘ってしまったのだと思いました。 千早茜さんの作品を読むことにはまってしまっています。 I know the difference between making food for someone and myself. Sharing delicious food is one of the shapes of happiness.
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みんなずるくて「この人好き!」となれないのが残念だった。 高村さんと正和は同性同士だったら一緒にいられたのかと思うと性別がもどかしい。 一方で、高村さんも華も没頭できる仕事があって、どちらも譲れない自分の芯を持っていてカッコよかった。 出てくる料理がどれも美味しそうで、料理を楽し...
みんなずるくて「この人好き!」となれないのが残念だった。 高村さんと正和は同性同士だったら一緒にいられたのかと思うと性別がもどかしい。 一方で、高村さんも華も没頭できる仕事があって、どちらも譲れない自分の芯を持っていてカッコよかった。 出てくる料理がどれも美味しそうで、料理を楽しみに読み進めた所がある。
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関係性を決めることを求められるから迷いが生じ戸惑ってしまうんだろうなぁ。男女というだけでそこに恋愛感情があるとは限らないと思う。私の友達は同性よりも異性の方が話しやすいという理由でぽつんと一人女子が混じっていただけなのに変な噂がたてられてなんだか可哀想だった。
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