大きな鳥にさらわれないよう の商品レビュー
読み終わって、ついつい解説にあるように最初の「形見」を読み返した。何度も読み返したくなる本、というのはこういう本のことを言うのだろう。 最初はわけがわからなくてなかなか進まないのだけれど、気づいたら止められなくなっている、そんな話。SFは得意ではないのだけれど。
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・2月6日に読みはじめ、8日に読み終えました。 ・たいへんおもしろかった! ・終始、なんだかうすいスープのような、何かしらのきれいな上澄みを飲んでるような気分だった。こんなにやわらかく書かれているのにガッチガチのSFなのすごいな。 ・バラバラの短編集のように見えて全体はつながっている、という作品はけっこうあるけど、これはその中でもだいぶ異質だなと思った。個人の名前の規則性が全くなかったりそもそも名がなかったり、文化も生活様式も各作品でガラッと違っていて、どうみてもちがう世界の話なのに、完全に隔離されてそれぞれ発展した人間たちというくくりで同じ地球の話にしてしまうのすごかった。 ・あとクローンが当たり前みたいに出てくるから、別の話で出てきた名前が出てきても、その人が出ていた話と時系列が一緒というわけではなく、名前だけを残している。その時間軸の不確かさも良かった。最後の話が最初の話につながっていると思うんだけど、この時系列の曖昧さがあるからまた新しく創造されたとも読むことができるなあと思った。 ・「運命」が一番好きだな~。上位存在に語られるのって良い。あと今までの話がしっかりとまとまった瞬間だったので、シンプルに話として強かったな。「Interview」の光合成するお兄さんも良かった。 ・最後、母たちが小型の時限爆弾を飲み込んで爆発して一斉に死ぬというなんともコミカルに見える死に方を選んだのも、前の「運命」で人工知能が腹の中に居ることが語られているから、きちんと合理的な方法だったんだなあとわかる。 ・こういうディストピア系を読んで「未来を見てるようだな」とか言うの好きじゃないんだけど、実際少しは思った。特に最近はAIが爆発的に発達してるからなあ。作中の人工知能とはちょっと違うと思うけど、SFは未来を描いているから重ねてしまうんだよなあ。 ・色を変え形を変え温度を変えてずっと愛の話が語られていたな、と読み終わって気づいた。私は愛の話が本当に好きなんですけど、今まで好んで読んできた愛の話とはまったく毛色が違ったな。博愛といえば博愛に見えるんだけど、そういう言葉以前の愛というか、ずいぶん原始的な欲求に従った「愛」だなと思った。 ・あと「恋」が一切出てこない。小学校低学年くらいの子供がふつうに少女漫画や児童文庫の恋愛ものを買っていくのを見て、こんな10にも満たない頃から恋愛の概念を教えられる/知っているのはなんだか怖いなあと普段からすこし思っていたりするのですが、愛はともかく恋については、外部からの情報がないとわからないよな。文明の度合いによるかもだけどね、 ・だいぶおもしろかった。文庫裏あらすじにもあるように、「新しい神話」を読んでる気分だった。
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はっきりとした話が好きなので、ずっともやもやしていた。私の理解力の問題もあるが、話が分からないままどんどん進んでぬるっと終わった。最後に伏線回収があったが驚きはなかった。
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経験したことないような感情をおぼえるすごい本。 なんとか言葉にするなら、自然の脅威とか、宇宙の真理とか大いなるものに触れたときのような気持ちだ。 深い霧のなかを手探りで歩いてるようなぼんやりしたなかで話が進んでいき、たまに世界の核心的なものにちょっとだけ触れられる。 でも短編な...
経験したことないような感情をおぼえるすごい本。 なんとか言葉にするなら、自然の脅威とか、宇宙の真理とか大いなるものに触れたときのような気持ちだ。 深い霧のなかを手探りで歩いてるようなぼんやりしたなかで話が進んでいき、たまに世界の核心的なものにちょっとだけ触れられる。 でも短編なんで、ほんのちょっとわかった気がしたところでポンと放り出されて次の話になってしまう。そしてまた手探り状態で歩くことになる。でも次に触れた世界の核心が、さっき触れたものの別の角度からのものだったりして、少しずつ世界の解像度があがっていく感覚が味わえる。 わからないことをすぐに調べず、自分のなかにとっておいておける人におすすめです。
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読みやすいSFだった。淡々とした語り口がすごい合ってる。 表題作と「みずうみ」「緑の庭」が特に好き。最後まで読むとまた読み返したくなる。
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大好きです。久しぶりに川上弘美さんの本を読みました。まずタイトルに惹かれ、冒頭の一文に惹かれ、一章ずつは好きなものとそうでないものに分かれるけれど最終的に世界観が繋がるスタイルも好きで、読み終えてタイトルに大きな意味はないのにここを選び抜き取ったセンスも好きで、大切な一冊ができて...
大好きです。久しぶりに川上弘美さんの本を読みました。まずタイトルに惹かれ、冒頭の一文に惹かれ、一章ずつは好きなものとそうでないものに分かれるけれど最終的に世界観が繋がるスタイルも好きで、読み終えてタイトルに大きな意味はないのにここを選び抜き取ったセンスも好きで、大切な一冊ができてしまった、と思いました。文体も構成も行間も洗練されていて心地良く丁寧に大切に読みたくなる。この世界に浸っていたくて読み終わるのが寂しくて勿体無くて、読むのに時間がかかった。
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不思議な話、と一言で語るにはもったいないけれど、他の言葉にも置き換えられないような…。 「新しい神話」とあるように、「神話」と呼ぶのがきっとふさわしいです。 分かるような分からないような、さっきも出てきたような…を辿っていくと、はじめに戻ってくる。そう思ってはじめから読むと、繋が...
不思議な話、と一言で語るにはもったいないけれど、他の言葉にも置き換えられないような…。 「新しい神話」とあるように、「神話」と呼ぶのがきっとふさわしいです。 分かるような分からないような、さっきも出てきたような…を辿っていくと、はじめに戻ってくる。そう思ってはじめから読むと、繋がっているはずなのに別物に思える不思議。 ざっくり内容をおさえたうえでもう一度読んでみたい気もしますが、何度読んでも分からない気もします。でも、神話は分からないところがあって当たり前だろうから。 「ノア」「マリア」など、キリスト教を感じさせる言葉も出てきてその繋がりも気になります。他の言葉もそうなのかな。
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読めば読むほど世界が広がっていくのが心地良かったです。 かと言って、各章の物語が薄いということはなく、次第に明らかになる世界観が好きです。
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どうしたらこんな世界が頭の中に広がるのだろう。どうしたら、と言っているけど、なんとなくこうなんじゃないか、ってことは想像している。それは、たくましい想像力をフル回転させながら、考えることから逃げないこと、だと思う。にしても、人を愛し、慈しみ、憎み、人ってなんだ、ってことを苦しみな...
どうしたらこんな世界が頭の中に広がるのだろう。どうしたら、と言っているけど、なんとなくこうなんじゃないか、ってことは想像している。それは、たくましい想像力をフル回転させながら、考えることから逃げないこと、だと思う。にしても、人を愛し、慈しみ、憎み、人ってなんだ、ってことを苦しみながら考え抜いていかないと、こんな世界は描けない。すごい。 過去とも未来とも夢ともつかぬ物語からこの本は始まる。時を変え、場所を変え、だんだんただならぬ気持ちになりながら読んでいく。終盤の「運命」と「なぜなの、わたしのかみさま」は一気読みだった。 私が子どもだったころの時代と、今は全然ちがう。あらゆる場面でそんなことを思う。違いを受け入れなければ、時代の流れなんだから、としがみつこうともするけれど、この世はどっかでまちがった方向に進んでるのではないか、と思うこともある。ちょっとぞっとしながら。きっと、同じように歴史は繰り返されつつも、少しずつずれていってるんじゃないだろうか。そんなことを考えると、この本がつながってくる。小説の醍醐味ってだけでは終わらない。。現実に訴えかけてくる。 こわいけど、こわさを受け止められれば、希望が見いだせる、川上さんの世界。最高。
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遠い未来、幾度ものカタストロフを経た後に壊滅的な状況に陥ったその後の人類を描くSF小説。約400ページ、13篇からなる連作形式で、読み進むに連れて作品世界の人類の置かれた環境や社会・歴史が徐々に明らかになる仕組みとなっている。各編は同じ登場人物が登場して対になるような強い結びつき...
遠い未来、幾度ものカタストロフを経た後に壊滅的な状況に陥ったその後の人類を描くSF小説。約400ページ、13篇からなる連作形式で、読み進むに連れて作品世界の人類の置かれた環境や社会・歴史が徐々に明らかになる仕組みとなっている。各編は同じ登場人物が登場して対になるような強い結びつきをもつものもあれば、他とはあまり交わりのないエピソードもある。作品の舞台となる期間は明確には不明だが、相当に長い年月にわたる。タイトルは作中の一篇からとられており、意味深にみえるがとくに作品の秘密を示唆するわけではない。 作品内の人類の歴史からすればディストピア小説に該当する作品かもしれないが、作者の穏やかな筆致と作品の設定もあって、暗く虚無的な作風とは一線を画している。そこでの人びとの暮らしは原初的であるとともに先進的な技術も折衷して存在し、緩やかに管理されながらも独裁的ではない。人々は決して不幸には見えず、そこにあるのは見ようによってはある種のユートピアにさえ見える。そんな破滅後の人類の社会を、多くは子どもたちや流れ者、管理者などの視点から少しずつ描き込みつつ、変異個体と呼ばれる超能力者やクリーチャーともいうべき存在が淡い色調で描かれる作品世界に変化を与えている。 もともとは解説の岸本佐知子氏が編者となったアンソロジー『変愛小説集 日本作家編』のために書かれた作品とのことで、そこに収められた「形見」を発展させて完成したものが本作にあたる。ただし、きっかけになった「形見」が第一話に配されていることは単に初めに書かれたエピソードだからではなく、通読した後に作者の意図を知らされる。各篇で幻想的なものと、世界観を説明することに重点が置かれた作品が混交している。なかでも最終の二篇にあたる「運命」と「なぜなの、あたしのかみさま」は作品を理解するうえでもっとも重要な物語で、解説にもある通り冒頭に立ち返りたくなる。それだけに情報が不十分な初読時には辻褄が合わずやや混乱するかもしれない。 破滅後の人類の社会を対象に寓話を物語るような穏やかな語り口で綴るという一見ミスマッチな取り合わせなのだが、バランスよく配合されていて違和感がない。同時に壮大なSF作品に期待されるような仕掛けも用意されていて、サスペンス的な楽しさもある。長い旅を終えたような読後感とともに、懐かしさと寂しさの交じり合った感情を抱いた。
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