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罪の轍 の商品レビュー

4.2

246件のお客様レビュー

  1. 5つ

    94

  2. 4つ

    95

  3. 3つ

    34

  4. 2つ

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2024/05/17

奥田英朗さんによる警察小説の長編大作! 全587頁の圧倒的ボリュームながら、夢中になって読む手が止まらなかった。 『罪の轍』 時代設定は東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年。戦後景気により人々の生活が日進月歩で変わり、昭和オリンピックに湧き上がる人々の熱気と熱量が伝わってく...

奥田英朗さんによる警察小説の長編大作! 全587頁の圧倒的ボリュームながら、夢中になって読む手が止まらなかった。 『罪の轍』 時代設定は東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年。戦後景気により人々の生活が日進月歩で変わり、昭和オリンピックに湧き上がる人々の熱気と熱量が伝わってくる時代。令和の時代でも古さを感じさせないのは、作者の筆力の成せる技だと思う。その時代背景を如実に表現された捜査手法や情景描写が、むしろ逆に新鮮で新たな気付きもあり興味をそそられた。 メインは「警察の犯罪捜査に熱く奮闘する刑事群」対「不遇な境遇で愛情を知らずに育った犯人」だが、在日朝鮮人や、左翼にヤクザ、児童虐待に売春斡旋など、これでもか、これでもかと濃厚な要素が入っている。また就業中の煙草や女性にお茶汲みなど、現代では考え難い違和感要素がそこかしこにある。 それでも消化不良にならず飽きずにどんどん引き込まれるのは、その時代を朧げながら思い描けることに加え、複数の視点を交差させた描き方が巧みだからだと思う。 特に、町井旅館のミキ子視点は、しっかり者で家族思いながら、どこか達観したような目線なので緊迫感の漂う作中で、束の間の静の時間だ。 更に、若手ホープの落合刑事視点は、自分が捜査の一員かと錯覚するほどで、エールを送り続けながら読んだ。 そして何と言っても異彩を放つのが、知的障害も疑われる犯人の宇野寛治。莫迦なのか実は知能犯なのか、追求したくなる人間心理を手の平で転がされているようだった。 登場人物それぞれの設定と人物描写が巧みだからこそ、これだけの視点切替と複数の要素を交錯させても、読み手がのめり込んでしまうのだろう。 たくさんの登場人物の中でも、私はニールこと仁井刑事がすきだなぁ。いや、昔気質の大場刑事も甲乙付け難い。 展開が面白い分、ラストは少し肩透かしを食らった様な気持ちになった。宇野寛治をもう少し人間的に魅力的に描けなかったんだろうか。でもこの余韻こそが作者が読み手に託したリアルなんだろう・・・ きっと犯人の動悸や殺人の意味付けが、納得出来ないものであればあるほど、やるせない気持ちになるという読者心理まで計算された故の結末なんだと思う。 ミステリー要素は控えめで犯人は早々に分かるので、そこを期待される方は要注意。だが、犯罪に関わる様々な人物目線での心理描写が秀悦で、昭和の時代背景も相まって、臨場感と緊迫感溢れる読み応えのある警察小説だった。 そこを楽しみたい方には是非オススメしたい。 『罪の轍』というタイトルも、読後に改めてみると「轍」に込められた作者の強いメッセージ性を感じる。確かにピッタリの言葉だと思った。

Posted byブクログ

2024/04/28

GWはたくさん本を読もう!と思って、図書館で借りてきたうちの一冊。最近軽く読める本、途中で気軽に止められる本ばかりだったから、読みがいがあるのを求めて手に取ってみた。さすが奥田先生、ありがとうございます。夜の8時くらいから、一気に読んで、ほぼ徹夜。 犯人わかってて、罪の全貌もな...

GWはたくさん本を読もう!と思って、図書館で借りてきたうちの一冊。最近軽く読める本、途中で気軽に止められる本ばかりだったから、読みがいがあるのを求めて手に取ってみた。さすが奥田先生、ありがとうございます。夜の8時くらいから、一気に読んで、ほぼ徹夜。 犯人わかってて、罪の全貌もなんとなくわかってて、でもあと半分以上もあるけど、ここからどうなるんだろうって感じで読み進める。 罪の轍、宇野が犯した最初の罪から書かれていて、 自分の犯した罪をどうにかするために次の罪を犯す、 こうやって人は抜け出せなくなるんだ、宇野の罪の轍ができてしまったんだ、と思った。同時に、このときこうしていれば、このときこうだったら、と、一つ一つの出来事が少しでも違っていたら、あんな結末にはならなかったんだろうな、という歯がゆい思いもあり。 宇野くんには共感はできないけど、彼だってそうしたくてそうなったわけではなかったことはすごくわかる。だけどそれを自分で言っちゃいけなくて、大人になったら、誰かのせいにはしてはいけない、自分で踏みとどまり、抜けなければいけなかった。でもそれができるって、それもやっぱり周りの人の助けがあった場合なのかな。一人で、は難しい。 最近読む本は、主人公が辛い大変な境遇にあるけど、周りの人に助けられてよい人生になった、というものが多くて、ここまで堕ちていく作品は久しぶり。でも残念ながら、現実世界は、堕ちていく人の方が多いのではないかと思ってしまう。 GW初日、ちょっと重い作品だったけど、いい読書時間を過ごせた。

Posted byブクログ

2024/02/09
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ザ・昭和のストーリーで、現代とは違う時代背景を楽しんだ。長編でかつストーリーの展開が後半から一気に進んだったので、それまでは読むのに時間がかかった。終盤のストーリー展開はハラハラドキドキだった。もう少しコンパクトな内容の方が個人的には読みやすくて好きなのだが…。

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2024/01/12

分厚い本。犯人は何となく想像がついている。 なのにまだ半分も残っています。 果たしてどんな結末を迎えるのでしょうか… * * * 轍わだち=てつ 「―を踏む」 (先例に従う。また、先人の誤りと同じ誤りをする) 日本で最初といわれる劇場型犯罪をモデルにしただけに、現代の原型と思わ...

分厚い本。犯人は何となく想像がついている。 なのにまだ半分も残っています。 果たしてどんな結末を迎えるのでしょうか… * * * 轍わだち=てつ 「―を踏む」 (先例に従う。また、先人の誤りと同じ誤りをする) 日本で最初といわれる劇場型犯罪をモデルにしただけに、現代の原型と思われる様々な問題も浮かび上がります。 逆探知、報道協定、公開捜査、警察の失態、一億総探偵…。 電話による誹謗中傷はSNS炎上の原型を見ているようでした。 * * * 本書は二回目の東京オリンピック2020を前に書かれたようですが、 オリンピックだけ見れば、〈先例に従〉えなかった、というのは皮肉な結果といえるかもしれません。

Posted byブクログ

2024/03/30
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

現在1:53 明日(日付変わってるので既に今日)が休みでよかったぁε-(´∀`;)ホッ お借りしていた本の返却に地区センターへ、今までに何度か手をとり、その度にこの分厚さに躊躇してきましたが、もうすぐ年末年始休暇だしーって思って思いきって借りて来ちゃいました♪ やめられない、とまらない~「罪の轍」♪•*¨*•.¸¸♬︎ 「リバー」も気になっているんですが、過日読み終えた「第三の時効」(横山秀夫著)にて警察小説の面白さを知ってしまった私σ(o'ω'o)、ずっと読みたかった本書、587Pにもおよぶ大作ですが、こんなの途中で本を閉じて寝るなんて出来るかーぃ(笑) 興奮しまくりでこんな夜中にアドレナリンが全ての毛穴から溢れ出しそうな状態ですが...やっぱとりあえず一旦寝よう。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ コホン(´ρ`*) 皆様メリークリスマスです♪ 改めて本書の感想ですよね。 昭和38年に実際におこった「吉展ちゃん誘拐殺人事件」をモチーフに描かれるド直球の警察物です。 最近ドハマり中の天久鷹央シリーズのように濃いキャラ設定がされている訳ではなく、圧倒的にリアルに描かれています。 東京オリンピックの開催を翌年に控え、新幹線の建設を含め東京はまさに都市へと変貌を遂げようとしている中ではありますが、地方へはまだその波は届いていません。 そんな時代背景の中で本作の大筋は①礼文島で漁師の手伝いをし暮らす宇野寛治②警視庁捜査一課強行犯係の落合昌夫、2人の視点で進んでいきます。 礼文島で窃盗事件を起こし東京へと逃亡する宇野、南千住で起きた強盗殺人事件の捜査をする落合。 子供たちから得た北国訛りの男の情報を元に宇野を探す落合。 その後起こる誘拐事件。 移動や電話等、リアルな時代描写と緻密な心理描写。 宇野を確保し、事件は一気に解決へと向かうのかと思いきや、進まない取り調べ。 2件の殺人を疑わない刑事達の執念と宇野の逃亡劇。 こんなの途中で読むのをやめられますか? 刑事たちの執念の捜査×容疑者の壮絶な孤独――。犯罪小説の最高峰、ここに誕生! 東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年。浅草で男児誘拐事件が発生し、日本中を恐怖と怒りの渦に叩き込んだ。事件を担当する捜査一課の落合昌夫は、子供達から「莫迦」と呼ばれる北国訛りの男の噂を聞く――。世間から置き去りにされた人間の孤独を、緊迫感あふれる描写と圧倒的リアリティで描く社会派ミステリの真髄。 内容(「BOOK」データベースより) 昭和三十八年。北海道礼文島で暮らす漁師手伝いの青年、宇野寛治は、窃盗事件の捜査から逃れるために身ひとつで東京に向かう。東京に行きさえすれば、明るい未来が待っていると信じていたのだ。一方、警視庁捜査一課強行班係に所属する刑事・落合昌夫は、南千住で起きた強盗殺人事件の捜査中に、子供たちから「莫迦」と呼ばれていた北国訛りの青年の噂を聞きつける―。オリンピック開催に沸く世間に取り残された孤独な魂の彷徨を、緻密な心理描写と圧倒的なリアリティーで描く傑作ミステリ。 著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より) 奥田/英朗 1959(昭和34)年、岐阜県生れ。プランナー、コピーライター、構成作家などを経験したのちに、1997(平成9)年『ウランバーナの森』で作家としてデビュー。2002年『邪魔』で大藪春彦賞を、2004年『空中ブランコ』で直木賞を受賞する。2007年『家日和』で柴田錬三郎賞を、2009年『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

Posted byブクログ

2023/11/20

小さな頃に継父に虐待され脳機能に障害を負った寛治。冒頭から何ともやり切れない境遇に心が痛い。空き巣から殺人事件、誘拐事件と話が展開していく。警察の捜査から犯人逮捕、自白まで目まぐるしく場面が動いてハラハラドキドキ読んだ。警察と犯人の攻防、どう決着つくのか想像つかなくて没頭して読ん...

小さな頃に継父に虐待され脳機能に障害を負った寛治。冒頭から何ともやり切れない境遇に心が痛い。空き巣から殺人事件、誘拐事件と話が展開していく。警察の捜査から犯人逮捕、自白まで目まぐるしく場面が動いてハラハラドキドキ読んだ。警察と犯人の攻防、どう決着つくのか想像つかなくて没頭して読んだ。迫力ある警察小説だった。とても苦しく切ない話だった。

Posted byブクログ

2023/11/02

久しぶりに奥田英朗さんの長編小説をがっつり読みたい! ということで 「罪の轍」  特に派手な展開があるわけではないのだけど、ページをめくる手が止まらない。 刑事達の捜査をしていく描写がすごくて、私も一緒に「ハッ!!」としたり 取り調べ室の 刑事vs犯人の攻防にドキドキしたり。 ...

久しぶりに奥田英朗さんの長編小説をがっつり読みたい! ということで 「罪の轍」  特に派手な展開があるわけではないのだけど、ページをめくる手が止まらない。 刑事達の捜査をしていく描写がすごくて、私も一緒に「ハッ!!」としたり 取り調べ室の 刑事vs犯人の攻防にドキドキしたり。 読者も犯人が誰かを分からないまま読んでいくので、おそらくこの男だろうけど…違うのか?   あまりに悲惨な生い立ちに同情し、犯人じゃなかったらいいな…などと思ったりもした。 罪の轍…読み進めながら なぜこの題名なのかも考えてしまった。 犯人の生い立ちが この犯罪へと繋がってしまった。 この不遇な生い立ちを轍で表しているのかな? 刑事達の、犯人を探しだし自供に持っていく地道な捜査を、轍で表しているのかな?  とか。 逮捕された後の犯人の心情は描かれてなくて これも読後余韻と共に考えてしまう。 とにかく読み応えがあり、とても良い読書時間でした。

Posted byブクログ

2023/10/07

正直こんなに素晴らしい小説とは、思わなかった。久しぶりの推理小説というか警察小説でしたが、最後の追い込みは、スリリングで手に汗を握りました。犯人の目星はついていたけれど、自白までの道のりが、長いけどワクワクする展開でした。最後までだれる事なく読了できました。

Posted byブクログ

2023/10/02

昭和30年代の 時代背景と 現在の違いにあらためて 驚愕。 自分が生まれる少し前。 飛行機も、新幹線も、電話も、まだ一般の人々全てが使えるものではなくて。 インターネットもないから、 全てがアナログで。 方言ひとつ調べるのに、 地方から学生か集まる大学に聞くなんて。 そし...

昭和30年代の 時代背景と 現在の違いにあらためて 驚愕。 自分が生まれる少し前。 飛行機も、新幹線も、電話も、まだ一般の人々全てが使えるものではなくて。 インターネットもないから、 全てがアナログで。 方言ひとつ調べるのに、 地方から学生か集まる大学に聞くなんて。 そして、貧しい人々がいて、 富める人がいて、 その連鎖で社会が出来上がっていた。 今は、どうだろう? 差別はないか? 貧乏人の負の連鎖はないか? 家族が家族を見放すようなことはないか? 人との繋がりや 安心を求める気持ちは 今も昔も変わらない。 だからこそ、 己の立場や思想を守ろうとするがために、 争ったり、裏切ったりする。 莫迦の寛治が、空き巣を平気で繰り返し、逃げ、人を殺めてしまう。 義父からの虐待による、心と身体の傷のせいで、障害があるにせよ、彼がしたことは許されることではない。 史実をもとにした フィクションだからこそ より深く考えさせられる。 長編ながら一気読みさせる奥田英朗の 力量に脱帽。 ドラマを見ているような錯覚に陥り、読んでいて疲れない。ただ、ひたすら 読み続けてしまった。 読後は 大作の映画を見終わったような感覚。 いろいろ考えさせられる。 でも、今の自分とは 時代背景も違えば、身近な設定でもない。 ただ、誘拐された子供の親の気持ちになったり、寛治の気持ちになったり、 苦しさも感じつつ、 変わらぬ人の暗部も垣間見つつ、 現代の恵まれた社会において どんな課題がつきつけられているのか、 模索している。 とにかく奥田英朗の力を見せつけられた1冊。

Posted byブクログ

2023/09/26

とても 読み応えのある作品だった。 真っ先に思い浮かんだのは昭和38年に日本で実際に起きた 吉展ちゃん誘拐事件だ。作者のインタビューを見ていたら、その事件に大きく影響されたと言っていたので納得した。作者が好む 昭和38年という設定。オリンピックを目前にして 日本中が沸き立つ。私も...

とても 読み応えのある作品だった。 真っ先に思い浮かんだのは昭和38年に日本で実際に起きた 吉展ちゃん誘拐事件だ。作者のインタビューを見ていたら、その事件に大きく影響されたと言っていたので納得した。作者が好む 昭和38年という設定。オリンピックを目前にして 日本中が沸き立つ。私も幼い頃に経験している。夏休みのラジオ体操の時は三波春夫さんのオリンピック音頭をみんなで踊った。それぞれの家庭に三種の神器が揃いつつあって生活が飛躍的に便利になったのを肌で感じた。でも インターネットもパソコンも 携帯電話も防犯カメラもない時代。 新幹線の開通は翌年からで、固定電話を持っている家庭もまだ少なかった。 この小説はそんな時代に起きた大犯罪。刑事たちが容疑者を何度も取りこぼすたびに、携帯電話があれば‥防犯カメラがあれば‥ と何度も思った。 警察と容疑者の間で繰り広げられる展開は、臨場感と緊迫感を帯び、ページをめくる手が止まらなくなる。 一筋縄ではいかない容疑者。私も今までたくさんの小説の中で犯罪者を見てきたが、 こんな容疑者は初めてだ。動揺も緊張もしないし 反抗的でもない。「やつは怪物なのか?」と刑事たちを混乱させる。 取り調べに対してのらりくらりとかわす容疑者と、根気よく寄り添う大場刑事。その姿は、かつて日本に実際にいた伝説の刑事、平塚八兵衛氏を想起させる。 ホシを完落ちさせるために「北風と太陽」の太陽になる大場刑事。容疑者と大場刑事の間に芽生えたものが芽吹いた時、この本を読んでいて良かった、と心から思った。 装丁の写真が実にいい。暗闇の中に微かに浮かぶ 二人の刑事。その手元の小さな 明かりが、犯罪の真実を照らしているようだ。

Posted byブクログ