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猿の見る夢 の商品レビュー

3.8

25件のお客様レビュー

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2024/06/03

薄井正明、59歳。目下の悩みは社内での生き残り。そんな彼の前に、妻が呼び寄せたという謎の占い師・長峰が現れる。この女が指し示すのは、栄達の道か、それとも破滅の一歩か…。

Posted byブクログ

2024/01/27

主人公の薄井は、銀行から年商2000億円の成長アパレル企業に出向・転籍し、財務担当取締役を務めている59歳。社長のセクハラ問題に乗じて、更に常務、あわよくば社長に就くことを密かに狙っている。10年来の愛人がいるが、会長秘書にも下心を持っており、接近を図る。母親が認知症であるが、介...

主人公の薄井は、銀行から年商2000億円の成長アパレル企業に出向・転籍し、財務担当取締役を務めている59歳。社長のセクハラ問題に乗じて、更に常務、あわよくば社長に就くことを密かに狙っている。10年来の愛人がいるが、会長秘書にも下心を持っており、接近を図る。母親が認知症であるが、介護は実の妹に任せっきり、しかし、母親の住んでいる住居の都内一等地の土地、遺産を手に入れ、長男一家と二世帯住宅を持ちたいと願っている。 そんな薄井の人物像を表す言葉は、例えば、「虫がいい」「せこい」「判断能力がない」「人の心が読めない」「自分が良ければ」という感じの言葉であり、一言で表すとすれば「小物」「ゲス」というのがぴったりかと思う。 そんな薄井が色々な(彼にとっては)試練に見舞われていくというのが、本書の筋書きである。薄井ほど共感できない主人公も珍しいが、それでも、そのゲスっぷりは見事でむしろ爽快で、テンポの良いストーリー展開もあり、面白く読んだ。桐野夏生の作品の中でも、かなり好きな部類に入る。 本作品についての、筆者の桐野夏生のインタビュー記事をウェブで読んだ。インタビューによれば、本作品のテーマは下記の通りである。 【引用】 この作品のテーマは、男の欲望です。すべてを持っていたい男のわがままを書こうと思いました。虫のいいことばかりを考えている主人公の心のうちの秘密、人には絶対に言えないようなことを書いていく作業です。それは誰もが持っているものですが、この年齢の男性には特に多いと思う。 これまで薄井のような初老に差し掛かった男の心理を描いたことはほとんどありませんでしたが、連載された「週刊現代」の読者の共感が得られないのではつまらないので、挑戦的な気持ちでやってみました。 【引用終わり】 実際、私が感じたような「ゲス」な男を描きたかったということなので、まぁ、私は筆者の意図通りに物語を読んだのである。確かに、薄井ほどの虫のよさはないにせよ、自分に都合の良いことを考える心理は「誰もが持っているもの」なのであり、もしかしたら、自分自身の「男のわがまま」を実現しようとする薄井を少し応援しながら読んでいたのかもしれない。

Posted byブクログ

2023/08/27

59歳の主人公・薄井が周囲の女性に翻弄されるところや、薄井の俗物ぶりが面白かった。薄井が憎めないキャラクターであることや、占い師の長峰の存在感も本書の魅力かなと思う。展開がよめないため先が気になるうえ、テンポが良いので、約600ページあってもすぐに読めた。

Posted byブクログ

2023/07/04

スピーディーで面白く読んでしまう。 2013年~2016年にかけての作品だから、 ミロスリーズから始まった数々の作品群を経ての本。 ここまでくると失礼ながら手練れが安心して読めるように思う、 それが心地いい。

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2022/10/12

銀行から衣料品の会社へ出向した薄井。 会長に気に入られてのことだが、当初は三流と言われる出向先だった。 しかし、業績は伸びてきている。 薄井には長く付き合う愛人もいる。 だけど、離婚は望んでおらず、家では奥さんに恐れを抱く。 母親は認知症を患って入院しているが、面倒は妹夫婦に任せ...

銀行から衣料品の会社へ出向した薄井。 会長に気に入られてのことだが、当初は三流と言われる出向先だった。 しかし、業績は伸びてきている。 薄井には長く付き合う愛人もいる。 だけど、離婚は望んでおらず、家では奥さんに恐れを抱く。 母親は認知症を患って入院しているが、面倒は妹夫婦に任せっきり。 いわゆる最低な男。 発言も思考も、全てにおいてイライラを引き立てる。 2022.10.12

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2022/05/26

桐野先生、角が取れて丸くなってない? イヤミスの極北みたいな悪意が著者の持ち味だと思っていたけど、愛人からひたすらセックスの不満をいわれる情けなさとか一瞬気張って会長に楯突くけどすぐ折れて従ってしまう子どもっぽさ、他人への評価をころころ変えてしまう軽薄さ、といった主人公の滑稽味が...

桐野先生、角が取れて丸くなってない? イヤミスの極北みたいな悪意が著者の持ち味だと思っていたけど、愛人からひたすらセックスの不満をいわれる情けなさとか一瞬気張って会長に楯突くけどすぐ折れて従ってしまう子どもっぽさ、他人への評価をころころ変えてしまう軽薄さ、といった主人公の滑稽味が強く押し出されている印象。この滑稽さは単に主人公が初老の男性だということだけが理由でなく、著者が意識的に企てたものだと思う。 一番好きだったのは、目をかけていた長男が実は主人公と住む二世帯住宅を嫌がっていたというシーン。最も信を寄せていた息子に裏切られるのざまあ!最もまともな人間から叱られるのざまあ!という黒い爽快感がある。

Posted byブクログ

2022/03/15
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

女が居ないと生きていけない男ってすごくキツいなと思わせる話だった。60代で美しい女性から目を向けられる程の男性とはどのようなものなのかを読み終わるまで必死に頭の中で想像したが結局それらしき男性像がイメージ出来なかった。(俳優に例えるとどんな容姿だろうなどと考えていた)

Posted byブクログ

2022/02/07

02月-05。3.0点。 銀行から出向し、アパレルの取締役の主人公。銀行時代からの愛人がいる。会社でセクハラ問題、実母の死去、いろんな問題が起き。。 主人公の矮小さ、小狡さの描写が上手い。心情描写が。 ドタバタ感が大きいが、占い師の存在が上手かった。

Posted byブクログ

2022/01/30

3.9 男て言う生き物を猿と言い切ってしまう怖い話。主人公の変わり身の早さはむしろコメディ。全て失ってもまだ猿は夢を見る。女の方がしたたかでかしこい。フィクションとは、思えず笑えない。

Posted byブクログ

2021/07/27

 単行本としては2016年刊行。2013年から翌年にかけて「週刊現代」に連載されたようだ。たぶんこの週刊誌のメインの読者層は中年から初老ぐらいの男性なんじゃないかと想像している。  この長編小説の主人公は59歳、会社役員なので地位がそこそこあり、色欲もなおお盛んなのか、妻子ある身...

 単行本としては2016年刊行。2013年から翌年にかけて「週刊現代」に連載されたようだ。たぶんこの週刊誌のメインの読者層は中年から初老ぐらいの男性なんじゃないかと想像している。  この長編小説の主人公は59歳、会社役員なので地位がそこそこあり、色欲もなおお盛んなのか、妻子ある身で愛人もいる。しかもその愛人が最近彼に批判的な態度を見せることもあって、社内の別の女性に欲情し始めている。  これまで私が読んできた桐野夏生さんの小説では、心理が細やかに描写される女性主人公に対して、男性の登場人物はむしろ神話的にデフォルメされていて、無邪気ながら醜悪な欲望を持った素朴な怪物として存在していた。しかし唐突に50代男性を主人公とした本作では、彼の日常的な意識の変遷がごくリアルに描かれているので驚いた。会社内の出世をめぐるバランス闘争の模様なども活写されている。  いつもはとりわけ女性の貶められたジェンダー問題を巡る苦しみを多く描き続けてきたこの作家が、びっくりするような視点の変更を見せている。相変わらずどうしようもないだらしなさで、アホな動物的欲望に突き動かされる男性なのだが、主人公として日常生活の光景や心的機微を描出されているため、単なる批判の対象として終わるわけではない存在の様相を映し出している。  本作で神話的な、ミステリアスな存在として登場するのは「占い師」のおばさんである。この人は何なのか、最後まではっきりとはしないが、人の秘密や運命を見通すオカルトな眼力を駆使し、主人公の男性の周囲に居る妻や愛人を次々と取り込んでいき、ウィルスの広がりのように不気味な影で眼前を覆ってゆく点、今回、この作家の野放図で獰猛な想像力はこの人物の姿で表出されたのか、と理解した。

Posted byブクログ