あとは切手を、一枚貼るだけ の商品レビュー
文章が大変美しく、湖の底に沈んだような涼しい気持ちになりました。 決して交わらない孤独を抱えた二隻のボートのような、二人の往復書簡
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とても美しい文章でした。 文章は観念的で時間も空間もわからない状況の中の2人でした。 私は往復書簡と言うより心と心の通信と捉えました。
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架空の国の架空の切手を作り続けたドナルド・エヴァンズに倣い、自作の切手を貼った手紙を交わす男女の往復書簡。アンネ・フランク、ライカ犬とパブロフの犬、ニュートリノが水中を走るときに放つチェレンコフ光。二人が語り合うかつて共にあった日の記憶は、やがてその日々が打ち切られるきっかけとな...
架空の国の架空の切手を作り続けたドナルド・エヴァンズに倣い、自作の切手を貼った手紙を交わす男女の往復書簡。アンネ・フランク、ライカ犬とパブロフの犬、ニュートリノが水中を走るときに放つチェレンコフ光。二人が語り合うかつて共にあった日の記憶は、やがてその日々が打ち切られるきっかけとなった残酷な過去へと近づいていく。二人の作家による書簡体小説。 一方が投げたことばのコラージュを、もう一方がときほぐし、新しいコラージュに仕立てなおして送り返す。そんな恋文のなかにアンネがでてくれば小川さんだなと思い、「きみのまぶたにミシン目を入れ、もっと完璧なまぶたを移植してあげたい」と書かれれば堀江さんだなと思って読み進めていくと、終盤に怒涛の勢いで別離のいきさつが明かされる。仕掛けたのは小川さんで、その展開は少々強引だが(けっこう苦しいつじつま合わせがある)、読後の印象は堀江さんの「燃焼のための習作」に近しい。カミオカンデの貯水タンクでボートを相乗りするというなれそめのエピソードが面白かった。ドナルド・エヴァンズというアーティストを知れたのも収穫。
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ジョン・ホプキンスのピアノ曲がよく合う。 時間が過ぎ重なる音が聞こえそうな作品でした。だんだん死を意識することが増える歳になると、現の世界との境が曖昧になりそうなこの感覚がしっくりくる瞬間がある。
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顔をしかめたくなるほど生々しい残酷な描写と、陽だまりの中に包まれるような繊細で温かな描写が混在していた。 読んでいる最中は冷水と適温のお湯を同時に浴びているような気持ちだった。 上手く咀嚼して読み進めることが難しい本だったが、どことなく切ないながらも高揚に満ちた読後感は、流石は...
顔をしかめたくなるほど生々しい残酷な描写と、陽だまりの中に包まれるような繊細で温かな描写が混在していた。 読んでいる最中は冷水と適温のお湯を同時に浴びているような気持ちだった。 上手く咀嚼して読み進めることが難しい本だったが、どことなく切ないながらも高揚に満ちた読後感は、流石はこの2人の作者による作品だな、と思った。
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かつて愛し合い、今は離ればなれになった2人。 まぶたを閉じて生きることに決めた私と 少年時代に両目の光を失ったぼく。 14通の手紙を通して徐々に明らかになる2人の間の起きたこと。 アンネの日記、宇宙光線、切手、 タイプライターと編み物、彼の姪っ子、 パブロフの犬、ボート、老女がくれた1枚の偽物のチケット 渡り鳥、海水浴…‥ 2人にしかわからない、秘密の言葉によって 離ればなれとなった今でも続く愛の文通。 そこまで真相が明らかになるわけでもなくぼんやりとした雰囲気のまま終わるのだけど。 私の独自の解釈。 かつて一緒に生活していた恋人同士だった2人。 海水浴に彼の姪っ子と3人で行き、不慮の事故で姪っ子は亡くなってしまった。 責任を感じた私は、妊娠中だった自分を許せなくて 中絶し、彼と別れてしまう。 その後病気のため人差し指一本しか動かせない生活になる。 彼は何らかの原因で亡くなり、死後の世界で 姪っ子と一緒にいながら、 私と手紙の交換をしている。 たぶん、私も本当に手紙を書いていると言うよりかは 意識の中でやりとりしているのかなあと、思った。 ぼくは少年時代に事故で視力を失ったから、私と過ごした時も視力はなかったわけだよね? すごい世界観と文章力だわ。小川さんも堀江さんも。 アンネと野球ってもう小川さん自身だし。 超偉そうなこと書くけど、 多少小説を読むことに慣れている人じゃないと 読むのはちょっと難易度高いと思う。何様! でもこれぞ正統派文学、みたいな感じだった。 また私とぼくの2人が、たとえこの世じゃなくても 再会できることを信じて。
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時々、はっとするような残酷さが顔を出す。 最後の方は結構飛ばし読みしてしまった 2020.11.3 110
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同じ空気を感じる…と思ってた作家さんおふたりの共著。 読んでいると周りから音が消えていくほど、シーンとしていました。 恋愛関係にある男女の往復書簡かなと思いながら読み進めていくと、段々と気になる所が増えていきました。 女性はまぶたを閉じて生きているしどうやら身体も動かなくなっているみたいですし、男性は視力を失っているようです。男性が手紙を読んでもらっているという姪も彼岸の人っぽい。そのふたりが手紙のやりとりを何故出来るのか。 でもこんなこと考えるの野暮だな、と思うほどお互いを想う気持ちが素敵だなと思いました。引用する話題が多岐にわたるのも好きです。 遠く離れていても、直接やり取りできなくとも、どこか深いところで繋がっている。それは密やかだけれどとても強いものだと思いました。
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読書* 読了。 あとは切手を、一枚貼るだけ 小川洋子 堀江敏幸 わー… わーー… これは、わたしなどの語彙力で感想などを書ける作品ではありません。 読みながらの、この感じ。 読んですぐの、この感じ。 どんな感じやねん! と思われようと。 血中微かに湧くエネルギーめい...
読書* 読了。 あとは切手を、一枚貼るだけ 小川洋子 堀江敏幸 わー… わーー… これは、わたしなどの語彙力で感想などを書ける作品ではありません。 読みながらの、この感じ。 読んですぐの、この感じ。 どんな感じやねん! と思われようと。 血中微かに湧くエネルギーめいたものの僅かな熱、それがゆっくり速くとくとくと体内を巡り放たれずまた吸収される瞬間の手ごたえ、空耳かと思うほど小さな空気の振動がもたらす音。 体内に小さな変化が起こり始めた頃にやってくる、物語の結末、めいたもの。 14通の手紙で構成されているのです。 女性の手紙を小川洋子さんが、男性の手紙を堀江敏幸さんが書かれています。 どういうコンセプトの作品なのか、どういう紙面に掲載されていたのか、共著なのか、連作なのか、作品以外の知識は今のところ仕入れておりません。 小川洋子さんのターンでは、わりと映像が具体的にイメージ出来るんです。背景との距離感とかそういうの。 堀江敏幸さんのターンになると、さっき具体的に観た筈の背景が、ぐにゃっとぼやけるんです。 これは最初とても手こずったんです。 描写は非常に美しいのに、具体的な内容が滲むし、ぼやぁっとしてきて。 最初は作家さんの特徴だと疑わないほどで、巧みでしたね。読み終えて、今、涙がこぼれるほどの巧みさです。 女性からの手紙に男性が返事を書いているという設定なんですけど、あたりまえだけれど、同じ場面を回想しても認識している事実や視界に捉えた映像に違いがあるので、互いに回想をなぞっても、事実が曖昧になるのです。表面的には。 事実、曖昧、真実、時間、空間… 手紙という手法を使ったこと 手紙が時空を越えるということ 切手を貼る意図 閉じ込めるということ 絶対的な距離 14通目に入った時にある作品を思い出しました。 山崎ナオコーラさんの「美しい距離」。 わたしなりの解釈ですが 2人が生きている人同士なのか、そうでないのか、片方だけがそうなのか、そういうのはハッキリしなくて良いんです。 きっと、どちらでも問題ないから。 伝えたい、言葉にしたい、届けたい。 あなたに知って欲しい。 あなたに触れて欲しい。 あなたを抱えたい。 誰の目にも触れず隠れて過ごすその深さを。 これ以上ない優しい文章でもって紡いだ作品だと思います。 最後まで読んで良かった。 これはおすすめ。
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ラストのやりとりで「うわあーー!!」となったけど、それまではあんまりよくわからなくて「頑張って」読み進めた。あとびっくりするほどグロい描写がある。パブロフの犬衝撃だった。いつか纏まった時間が手に入ったら読み返してもう一度飲み込みたい。
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